悪意の風
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5部分:第五章
第五章
「少なくとも細菌攻撃は危険なことがわかった」
「我々にとってもですね」
「それは確かですね」
「そうだ。これはすべきではない」
このこともわかった。それからだった。独裁者は言うのだった。
「科学兵器も核兵器もだ」
「それは論外ですね」
「持てば国際社会から批判を受けるのは必定です」
部下達はそうした兵器については青い顔になって述べた。
「私としては賛成できません、そういった兵器を持つことは」
「私もです」
「あの愚劣な世襲制の共産主義国家の様になります」
「流石にあれがどうかと思いますが」
「わかっている。そうした兵器は持つべきではない」
その通りだとだ。独裁者も言う。
「断じてな。だからだ」
「そうした兵器は最初から持つべきではない」
「そういうことですね」
「ならあの国を併合することは不可能だ」
これが独裁者の出した結論だった。
「あの国は軍事力も高いからな」
「だからですね」
「最早併合は」
「不可能だ」
またこう言う独裁者だった。そしてこの事実からだ。
独裁者は結論を出した。その結論がこれだった。
「なら併合は諦める」
「ではどうされますか、今後は」
「一体」
「我が国の国力をさらに充実させる」
侵略を捨てて国富に専念するというのだ。
「無論軍の強化は続けるがな」
「国を富ましますか」
「今以上に」
「産業、上昇が見込めるものは何でも拡大させる」
まずは産業政策からだった。
「教育もだ。貧しい子供でも誰でも教育を受けさせるのだ」
「国家が援助してもですか」
「そのうえで」
「その通りだ。農業も農具や農薬を他国より採り入れよう」
そして農業技術を上昇させそれにより収穫高を上げるというのだ。
「そして福祉も充実させ他国との貿易を増加させる」
「とにかく国富ですか」
「それに専念しますか」
「若しかするとあの国を併合するよりも豊かになるかも知れない」
独裁者は一つの未来を述べた。
「ならばだ。いいな」
「はい、では」
「政策の変換に移りましょう」
「あの風には参った」
独裁者はにこりとせず細菌を流してきたあの風のことを思い出した。
「だがそれでもだ。あの風を受けてだ」
「政策が変わりましたね」
「今より」
「そうだ。変わった」
独裁者は部下達に応える。
「ではだ。これからはだ」
「内政に専念しましょう」
「国家の為に」
「そういうことだ。ではだ」
ここまで話してだ。独裁者は早速仕事にかかった。
書類が次から次に来る。それにサインをしながらだ。また部下達に問うた。今度の問いは。
「私は独裁者だが」
「だが、ですか」
「それでもだというのですか」
「だが独裁者でもよき独裁者でありたい」
こう言ったのである。
「国民の為にな」
「だからこそあの世襲制の共産主義国家はですか」
「否定されますか」
「ああなっては終わりだ」
独裁者はその国のことは全否定した。頭から。
そしてその国を反面教師にしてだ。こう言ったのである。
「私は自分の子供達に後は継がせない」
「そのこともですね」
「定められているのですね」
「私自身でな」
己への戒めでだ。世襲は禁じているというのだ。
そうしたことも決めてだ。それでだった。
彼は政策方針を転換して国富に専念した。その結果長い時間がかかったが彼の国は豊かになった。そして彼が死んでからだ。
国では民主化が起こり豊かな民主主義国家となった。独裁者は確かに独裁者だが国を豊かにした人物として国民から英雄として尊敬される様になった。そうなるまでにはこうしたことがあったことは知られていない。彼が風により方針を転換させたことは。
悪意の風 完
2012・4・24
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