ソードアート・オンライン〜Another story〜
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マザーズ・ロザリオ編
第232話 オリジナル・ソードスキル
前書き
~一言~
遅くなっちゃってすみません……。他の作品ばかり目を向けていたら、執筆速度が圧倒的ににぶっちゃってしまいました……。もう少し早くに投稿できるつもりだったんですが………… 涙
でも、お、遅くなってしまいまいしたが、何とか投稿する事が出来ました! それは良かったです。
このお話は、最強姉妹決定戦? のみになっちゃいました。地の文? 説明文?? を沢山かきすぎたせいか、1万字超えちゃって……、申し訳ないです! ストーリー的には進んでないのです!!
姉妹の戦いなので、細かに書こうとして、やりすぎちゃいました……。でも、暖かい目で見て頂ければ、幸いです。
最後に、この小説を読んでくださってありがとうございます! これからも、がんばります!
じーくw
『そんなもんあのコ達と一合撃ちあったら、バリバリ充分入るって』
これは、リズに言われた言葉だ。
そもそもそれ以前にも、この相手、絶剣と剣聖、その2人については 幾度となく、強いと聞いていたし、先の戦いででも 大柄なプレイヤーたちを圧倒していた。更には、その2人の内の1人、絶剣に至っては、自分たちの中でも間違いなく最強とも言っていい男《キリト》をも下した、と言う事実だってある。
その愛くるしいさがある第一印象は兎も角、強いと言う理由は幾つあげてもキリがないだろう。
そして、それは間違いではなかった、とアスナとレイナの2人は実感していた。撃ち合ったのは、たったの一撃のみ。完璧な弾きで 2人の剣閃、その交差する瞬間を、完璧に捉えられた。息つく暇もなく、間を詰められ、反撃され、あわや即死か? と思える様な一撃を喰らいかけたが……、何とか後方へと退避する事が出来た。
――強い。
2人の脳裏にほぼ、同時に浮かんだのが、その二文字だった。
そして、たった数度の攻防だったと言うのに、決闘前は静寂に包まれていた場が、一斉に沸く。――それ程濃密な一撃だったからだろう。
戦いを見守っていたリズ達も思わず息を飲む。
「流石は、アスナとレイね……。あの2人にも、まだまだ負けてない……。むぅー、やりおるのぉ」
中々に渋い声で 初撃をみて唸るリズ。
その隣では、軽くため息を吐きつつ。
「……今のが、私達なら、あっという間に終わってますね~……。あの時、ちょっと加減してくれたのかなぁ……、ピナはどう思う……?」
「きゅるぅ……」
そうツッコミを入れるのが、シリカだった。以前戦った時よりも遥かに反応速度が早く、そして一撃の重さもより感じられるのだ。
それは絶剣と剣聖、2人と戦った事があるシリカだからこそ、感じる事が出来たのだろう。
シリカの頭上では、小竜ピナも、まるで頷いているかの様に、ピコピコ、と頭を上下していた。
「アスナさん、レイナさん、頑張ってーっ!!」
リーファは、純粋に只管応援をしていた。
よくパーティーを組む事が多いのだが、月例大会ともなれば、2人とは、それなりに競い合う仲でもある。自分が負けてしまったから、やっぱり仇を取って欲しい、ともそれなりに感じるのだろう。
「………………」
あの決闘から視線を決して反らせる事なく、見つめているのは、リュウキだ。
つい先程まで、笑みを浮かべていたのだが、アスナとレイナが、改めて距離をとった辺りから、表情がまた変わった様だった。
「……この戦い、どう見る? リュウキ」
そんな彼の隣にいて、戦況を見守っていたのは キリト。
熱の入る戦いだと言う事は、キリト自身も間違いなく感じている様だった。まだ、初撃目であり、序盤も序盤 挨拶がわりの一発、なのだが、リュウキの意見を リュウキが視て 感じた事を聞いてみたかった様だった。
「ん………」
見入っていたリュウキは、視線は変えずにキリトの問いに答える。
それは、ただの一言。――そして、最大級の賛辞の言葉。
「……凄いな」
そして、観客達よりも、強く感じていたのはアスナとレイナの2人である。直に接しているから、当然といえばそうだろう。
言うならば、《想像以上》と言う言葉が最も当てはまるだろう。
これは、アスナの思考である。
「(強い。……キリトくんが負けた、っていうのは本当みたいね。―――それに、私とレイの同時の突きを完全に見切るなんて……)」
笑顔を向けている絶剣事ユウキと優雅な微笑みを向けている剣聖事ランを見て、どうにか笑み返す事が出来ている―――が、内心では冷や汗が滝のように流れていた。そのせいもあって、レイナの様子を伺う事も出来ない。
『アスナとレイナの戦闘スタイルは殆ど一緒だな……。まるで戦ってる最中、分身した? って思った程だよ。……中でも2人が合わさった突きが一番怖いよ』
それは、一緒に戦っていたキリトの感想である。
そう、キリトが畏怖する程の突き。(正直、2人はそう褒められてもあまり嬉しくない)
その軌道と言うのは、高速で近づく小さな点でしかないのだ。レイナと共に1人を狙って攻撃を放った故に、鋭角だから 完全な点、とは言えないがそれでも、気休め程度にしか見えない。
なのにも関わらず、基本セオリーである回避、足を使ったステップ防御ではなく、レイピアの交差する瞬間を、点と点が結ぶ僅かな狭間を、正確に弾いてのけた。
ここまでくれば、ランのあまりの正確な剣技に絶句してしまうだろう。
だが、ランだけではない。
あの一瞬、ランがいつの間にか入る刹那、ユウキが1歩程退避したのが確かに見えたのだ。それは、回避する為にした行動ではなく、ランのスペースを確保する為だと言う事が瞬時に理解する事が出来た。
殆ど一瞬で、そこまで感じとり、相手の可愛らしい容姿に緩んでしまっていた自分自身に、まさにばしゃり、と冷水を浴びせられた気分になる。
「(……でも、たった一合交えただけで、諦めては剣士の名が廃る――……っ!)」
その時、不意に、アスナの耳の奥にこだまする声があり。
――私が剣士でいられたのは、あの世界でだけだった………。
それは、アスナ自身の声だった。
その声に、耳を貸してしまった為に、アスナは、身体を震わせるのだった。
そして、同時。
次のこれは、レイナの思考である。
レイナもアスナ同様に、2人の強さには脱帽ものだった。リズに言われた『妹は気合が入ってるのに』と言うのは、まず間違いなくリュウキに激励をしてもらった、と言う面が大きいだろう。
つまり、戦いの場に置いては、正直不純だったとレイナは自分でも思い、気を改め直していた。
こちらも、アスナ同様に キリトが負けた事も、この可愛らしい容姿のせいで気が緩んだり、手心のせいか、と言う勘繰りが無かったわけではない。そもそも 女の子相手に大人気もなく 全身全霊、全力全開で攻めるキリトの姿は……、正直、そこまで見たいとは思わない。自分自身であれば決して手を抜いて欲しくはないのだが……、こればかりは仕方がないだろう。
それが、リュウキであれば……尚更みたくない。
でも、それは先程の攻防で一瞬で濡れ衣だと吹き飛んだ。
姉と自分自身のコンビ攻撃は、間違いなく当たった、と錯覚する程 確実にユウキの胸元を捉えていた筈だった。だが、本当にいつ 割り込んだのか判らない。いつの間にか 目の前に現れた、と言う感覚に近い。ユウキの前に立つランの姿。凛とした姿勢から繰り出される剣閃の鋭さを間近で見た経験、それは、あのSAO時代を含めて、生涯 数える程しかお目にかかった事が無い、と断言できる。
「(――この感覚、何だか久しぶり、だね。それに、何処となくリュウキくんに、似てるかも………)」
神出鬼没、と言う意味では、元祖といえるのが、リュウキだ。
――あれ? いつの間に現れたの?
――あれ? いつの間に倒しちゃったの?
――あれ? さっきまで、ここにいたのに……。
と、こちらも挙げだしたら、正直きりが無いし、思い出すのも正直………と、言える程だった。
何度だって経験している。……何度だって辛いと思った。それらの積み重ねもあってか、ランの神出鬼没な動きに驚きはしたものの、しっかりと見据え、落ち着く事が出来たのだ。(それでも、アスナ同様、互いにアイコンタクト、それを確認しあうまでには至らないようだったが)
因みに、想いが伝わり、リュウキと一緒になる事が出来て、それとなく訊いた。(直ぐにいなくなってしまうカラクリ? を)
リュウキは、少々気恥ずかしそうにしていたが、答えてくれたんだ。
『……オレ観察には慣れてるから。あの時期は状況も状況だったし 死角から、死角へ、と。それが癖になってしまっていたよ。 攻略会議でも 意識してたと思う。だから、レイナにはそう感じたんだろう。……それに、オレは他人の視線にも少なからず気づく。逸らせる様にもしていたから』
と、回答があった。
熱心に見ればみる程、逸らせやすくなるらしく、それは、あのSAO時代の最悪のギルドの幹部も使っていたスキル、システム外スキルでもあった視線誘導に通じる物だった。リュウキを必死に追いかけていたレイナだからこそ、余計に強く掛かりやすくなった、との事だった。
レイナは、深く息を吸い、呼吸を整える。
「(凄い、けど――、私だって リュウキくんと一緒に、これまでも、……これからも、ずっと戦ってきたんだから。これくらいの驚きなんて、何でも………っっ)」
ずっと、一緒にいる。そのつもりだった。今はそうとしか考えれてなかった。
だからこそ、レイナも 同じく、不意に耳の奥にこだまする声があったのかもしれない。
――隼人君を苦しめるくらいなら……っ、私のせいで隼人君を苦しめる結果になる位なら……。
心の中に刻まれた傷と、想う気持ちの強さ。その狭間でレイナは揺らいでしまった。
アスナと同じタイミングで。
互いが、其々抱える懊悩。それは決して他人に治してもらえる物ではない。それが、例え姉妹であっても――愛する人であっても。
自分で、立ち直らなければならない事であり、乗り越えなければならない事なのだ。
そして、何よりも 今は関係ない。戦う相手を眼前に、迷いを抱えたまま戦ったとしても、決して身体は動いてくれ無いだろう。相手にも失礼だ。
何とか、2人ともが、噛み締め 懸命に意識からノイズを振り落とす。
せめて、この戦いの最中だけは……。
――剣士でいられるように。
――最愛の人の傍にいられるように。
心を強く持とうと意識をした事と、強大な相手を前にした事で、アスナとレイナの精神は、極限にまで、研ぎ澄ます事が出来た。
その気迫は、相手側にも十分過ぎる程伝わったのだろう。
笑顔を向けていたユウキは、一瞬口が開き……、そして 引き締めて、剣を握る手に力が入ったのだろう。その紫水晶の剣が僅かに揺らいだ。
ランも、同様に感じ取ったのだろう。ユウキの剣よりも明らかに長く煌く白刃。構える角度をゆっくりと変えた。
――ピン、と張り詰める空気。
そして、その空気を正確に感じ取った者がいた。
「……入ったな」
それは、小さく消え入りそうな程感じる言葉だったが、僅かに聞き取る事が出来たリーファは、『何が?』と訊こうとした瞬間。
目の前では、再び激戦が幕を開け用としていた。
大地を力強く蹴り、4人同時に飛び出していたのだ。
今回は、先程の様に 2対1の図に持っていったりはしていない。其々が、其々の相手をするマンツーマン。
――この相手、両方共に、片時も目を離してはならない。
それは、アスナもレイナも痛感した様だった。
そして、 《絶剣のユウキ》《剣聖のラン》
2人も同時に大地を蹴り、ユウキはアスナを、ランはレイナを。其々が受けて立つ構えだった。
2人の上段攻撃を、アスナとレイナの2人は、全身全霊で切り払いのけた。
その衝突は、凄まじい火花を生み、更に衝撃波、轟音となって周囲に弾けとんだ。あまりの音響に、耳を両手で思わず閉じ、凄まじい衝撃波が生む砂埃で 目を瞑ってしまう程だった。 それは、彼が……リュウキが、口にしていた『入った』と言う言葉の意味を知った瞬間でもあった。
そう、それはアスナとレイナ、2人が一切の雑念を捨てて、極限まで集中させた領域に入ったと言う意味だ。
その領域に入った2人は、ALO屈指、いや SAO時代を含めても屈指の実力者だと言えるまさに《双・閃光》姿。
あの時代を知る者にとっては、2人の姿は、其々の色を持つ妖精の姿ではなく、白と赤の色のユニフォームを纏った姿。凛々しく優雅、美しい……そして 何よりも強い。
あの時の姿に重なって見えた程だった。
そこから先の攻防は 最早実況をする暇もない程のものだ。
相手にするのは、たった1日で数々の偉業を訊き、更に僅か数日で何10人も倒してのけたと言う偉業を成した者達。
《絶剣》と《剣聖》
超高速の剣戟、それは見てから反応しては最早手遅れ、だと言える程の速さだった。視界全体で捉えた相手の全身の動きから次の攻撃方向を予測し、受け、また避ける。それだけならまだ良い。超高速の動きは、連携にも現れてきている。ユウキとランの高速の動きによるスイッチ。それは いつ行われたのかが、傍目から判らない程の高速、そして 完璧な連携だった。
――ダメージを与えられる量が、激減する理由は 2人の完璧な連携によるものである。
それが判明するのに、初見で時間は一切かからなかった。
突進攻撃をする際、ユウキが一瞬の目配せで ランが理解し、ユウキの踏み台になる様に強く蹴り、ランの筋力がユウキの速度に加わり、直線上ではあるものの、恐ろしいまでの速度となったり。
ユウキの背後に隠れる様に移動したラン。左か、右か、そのどちら側でくるのか? 二者一択と思われていたのだが、瞬時にユウキがその迷いを察知したのか、殆ど一瞬で跳躍し まさかの意識の外からの攻撃、正面突破だったり。
様々なバリエーションがあるが、最も恐ろしいと思えるのは、その全てが恐ろしく精密且つ早いと言う所だろう。
だが、それは アスナとレイナ、閃光姉妹も決して負けてはいない。
アスナの心理的隙間をレイナが埋め、その逆も然りでその超連携についていったのだ。
そして、純粋な速度、ユウキのスピードは 確かにキリト以上かもしれない。
そんな中で、ユウキ以上に何処か引っかかっていたのは、ランの自分達を《見る目》だった。感じられる違和感の正体。それは、『全て見透かされている?』 と思える程の眼力だった。
その感覚、身に覚えがある筈だ。
《視る力》に長けている者と、長く共に戦い続けてきたからだ。
攻撃を何度も受け、避ける、を繰り返す内に、クリーンヒットこそ 許さなかったが、それでも掠める程度の攻撃は、4人友が、受け続けている。その中で、圧倒的にヒット数が多いのがランだった。
ユウキとランの渾名。ユウキが《絶剣》でランが《剣聖》。
その互いにつけられた渾名の由来、それが何処かしっくりくる気がしたのだ。
絶剣の名の由来は、《絶対無敵の剣》《空前絶後の剣》と予想されている。
だが、それは ユウキだけでなくランも同じ事で、恐らく互いに当てはまる事だ。
だが、2人が同じ名は正直無いだろう。だからこそ《ラン》に剣聖の渾名が当てられた事にも意味が有る。
そして、その理由、ランに《剣聖》の名がつけられたのか、それが何処か判った気がした。それは、ユウキの持つ圧倒的な速度ではなく、恐ろしいまでの《正確な剣》と、剣の全てを知り尽くしている、と思われる程の《剣の技》にあったと予想出来た。
……全て見通している様な目。
それらを総称して、《剣聖》。剣術に於ける聖域、と名をつけられた、と思えたのだ。
少なくとも、相対しているアスナとレイナは、納得した。
ここまで感じた段階で、正直な所 勝てる気は戦う前と同様にしなくなる、と言うものだが、それでもどうに、アスナとレイナがついていけるのは、《経験》と言う理由が1番だった。
ALOより以前、SAO時代で培った膨大な戦闘経験のおかげだった。一瞬の判断・選択のミスが命を落とす結果になる極限の世界だったからこそ、得られた経験値が大きかった。
そして、もう1つ要因があった。
ユウキにしろ、ランにしろ、攻撃の選択が、素直すぎるのだ。
見透かしてると思える目のランにしてもそうだが、全て見て攻撃をするのであれば、その上でフェイントを多様するなり、時間差を作るなりして、織り交ぜられれば、もうお手上げだと言えるが、回避とスイッチは驚嘆なものの、攻撃に関しては本当に無い。ゆえに素直だと感じた。
だからこそ、アスナとレイナは1つの解、想像の範囲内ではあるが、ある解にたどり着く。それは。
――もしかしたら、対プレイヤー戦闘の経験は、あまり無いのかもしれない。
と言う事だった。
アルゴリズムの変化、イレギュラー性が出てきている。
それは、あの旧アインクラッドの上層で起こった出来事であり、ここ ALOではまだお目にかかった事はない。
そもそも、フロアボスや邪神モンスター等 敵のステータスが信じられない程跳ね上がっているから、する必要が無いのかもしれないが、それでも アトランダムな攻撃をしてくる相手との戦闘経験があれば、対プレイヤーにも役立てるが、この世界、ALOではそれを経験する事が出来ないのだ。
だからこそ……。
『そこに、付け入る隙がある。そこに、勝機が見える……!』
一瞬でも、意表を突く事が出来たら、と2人は同時に感じた。
4人は、殆ど 互いのパートナーと肩を並べて戦い続けていて、あと数cm 剣先がブレると味方に直撃しかねない程の距離で戦っている。レイナは一瞬。本当に一瞬だけ、アスナに目を向け、剣を握っていない、空いた方の手を握り、素早く持ち上げた。傍から見れば、剣を振る反動で上がった、程度にしか感じないだろう。
だが、アスナは そのメッセージを確実に感じ取った。……互いが、同じ方法を、手段を取ろうとしている事も認識したのだ。
その刹那、鍔迫り合いをしていたアスナとユウキを置いて、レイナはバックステップで、2人から離れた。
この選択は、2人を驚かせるには十分過ぎる選択だった。
殆ど互角の攻防を続けているのは、其々が1対1で戦っているからだ。連携技も、其々がカバーし合って返しているからこそ、受けきれるのだ。なのに、後ろに下がったのには、どういう意味がある? と。
その選択は、ランがユウキとアスナの均衡状態の間に入って、その横からアスナを仕留める事ができる絶対の好機を与える事になるだろう。それは卑怯でも何でもない。タッグ戦なのだから。
その一瞬の心理の隙間――アスナは意表を突く攻勢に打って出た。
密着状態。剣と剣の鍔迫り合いで、出せる手段を考えても無かったユウキ。そのもう1つの隙間に、アスナは文字通り手を伸ばした。
剣と剣に集中していた為、ガラ空きだったボディ。鎧に覆われてない部分をアスナは左拳で打ち抜いたのだ。
それは、体術スキルの1つである《拳術》のスキル《閃打》
スキルの熟練度をリュウキの様にあげていない事と、拳専用の武器を装備していない為、HP的な威力は殆どないが、通常技では有り得ないスタン効果が発生する。
そして、同時に身体を突き抜かれた様な衝撃も感じている事だろう。
二重の驚きは、如何に絶剣の異名を持つユウキであっても隠せられないらしく、目を丸くさせて驚いていた。素直だからこそ、顔にも出やすい。
そして、そんなおてんばな子を見守る為に、傍で佇むのは剣聖であるランだ。
ユウキが拳術スキルで押し返された事は想定外だったらしく、ランも驚いていたが、そこは反応し、援護をする構えだったのだが――。
「やぁっ!」
「!!」
裂帛の気合の声と共に、繰り出されるのは、後ろに下がった事で《溜め》を作る事が出来たレイナの一撃。後ろ足に力を込め、力強く大地を蹴り、その勢いのままに放つ《蹴術》スキル、《弦月》。
援護に入ろうとした、ランのガラ空きのボディーを貫く勢いで放つ矢の様な蹴り技。これも、熟練度と専用装備、補正の効くブーツやレギンスを装備していない為、ダメージは見込めないが、アスナの《拳術》同様に、システム的なスタン効果、そして 受けた当人が驚く、と言うスタン効果が相乗効果で効くのだ。
レイナが、ランを押し戻し且つ、止める事に成功。
その千載一遇の勝機に、アスナが放つ。
「(レイ、ナイス!! いける――ッ!!)」
渾身の連携、完全に意表を突いた連携を無駄にしない為に、アスナは躊躇なく、ソードスキル《カドラプル・ペイン》四連擊を発動させた。
眩く煌く淡い水色の閃光。
水妖精族が放つエフェクトと共に放たれる閃光と共に、システムの見えざる手に後押しされて、まさに閃光――稲妻の様に宙を裂いた。
この時、アスナは勿論、視線だけ向けていたレイナも、直撃を確信した。
なぜなら、相手は体勢を崩している上に、距離的にももはや回避不可能だ。先程のランの鮮やかな弾きも、レイナの一撃のおかげで、離す事が出来ている為、こちらも距離的に不可能。
絶剣と剣聖、どちらか1人を離脱させる事ができれば、楽に、とは決していかないと思えるが、勝機は格段にあがるだろう。
それらが頭に過ぎった時、目の前にいる絶剣のユウキ……、その顔を見て、アスナは、戦いの序盤。ファーストコンタクト時に、受けた戦慄が再び走った。
ユウキは、その愛くるしいとも思えていた目を、更に大きく開ける。そこには拳術を受けた時の様な驚きは一切ない。その闇妖精族独特の色である、赤紫色の瞳は、ただただアスナの放つレイピアの先端に焦点を合わせていた。
「(――っっ!! あの距離で、お姉ちゃんのソードスキルを、受けられる筈が―――)」
それは、僅かに離れているレイナでさえ、その眼光が捕らえているのが、アスナのレイピアだと理解できる程だった。
そして 出来るわけが無い、とレイナは思っていた。思いたかったのだが、アスナは違う。
――カドラプル・ペインが見えてる!? 見えるの!?
そう、確信してしまったのだ。
そして、そのコンマ数秒後に、起こりえないと思っていた事が、現実に起こる。
ユウキの右手が閃いた、と思った直後、剣をまるで回転砥石に当てた時の様な、硬質な擦過音が4つ、立て続けに響いたのだ。アスナの四連擊スキル、《カドラプル・ペイン》は、上下左右に正確にはじかれ、一撃たりとも、命中することはなかった。
アスナの目には、そして レイナの目には、ユウキの黒い剣が描いた薄墨のような残像だけが映っていた。
その一瞬を―――今度は絶剣のユウキが狙う。
見逃す筈がない。ソードスキルは、大ダメージを見込める優秀なスキルではあるが、それを使う最大のリスクは、遅延時間にあった。
そのシステムを完全無視をしてやってのけるのは、この世界では1人しか知らず、そして、もう1つである、無理矢理硬直を解除して、別スキルに繋げてしまう様な事ができるのは、これまた2人しか知らない。
アスナは、拳術スキルとソードスキルを連携させたが、それは 遅延時間が全く無く、威力も最も少ない単発技だったからこそ、である 以前の《黄金の剣の大冒険》時のボス戦で披露してもらった様な。
『拳術⇒ソードスキル⇒拳術⇒ソードスキル……………合計19連撃!!』
『ソードスキル⇒ソードスキル⇒ソードスキル…………合計15連撃!! ダメだ! 負けた!!』
等と言う無茶な事は出来る訳もない。それはその筈、それは システム外スキルなのだから。試そうと、何度か練習をした事もあったが、独特なシステムの流れ……と言うか、電気信号の流れ? を完全に見通せる様な真似が出来ないと、連続で繋げる様な事は出来ない。……だからこそ、ソードスキルに繋げてしまえば、そこから先はもう回避手段も、攻撃手段もないのだ。
様々な思考が頭の中で高速に回るが、相手の攻撃も早かった。
ぎゅんっ と、引き戻された剣が、青紫色、闇妖精族独特の色を纏う。――即ち、ソードスキル発動の合図。
「っ!!!」
それを察知し、拳術より威力とスタンが長い分、僅かではあるが、遅延が発生する縛りから解放されたレイナが、矢の様に動いた。
完全な無防備で放たれるあの攻撃。それを受けてしまえば、かなりHPが奪われてしまう事は想像し易いのだ。だからこそ、自分のソードスキルで相殺、若しくは時間を稼ぐ為に、向かおうとしたのだが。
「はぁっ!!」
「っっ!?」
また、だった。
意識していた筈だった。片時とも目を、必ず視界の何処かでは、意識の何処かではとどめておこうとしていた筈だった。
なのに、姉のアスナと絶剣のユウキの方に、意識を傾けかけたその隙間。まるで、影から影へ移動するかの様に、影妖精族が得意とする幻術魔法を使っているかの様に、意識の外から、剣聖が飛び出してきたのだ。
咄嗟に、足を踏ん張り、ブレーキをかけると同時に、その剣聖、ランの剣を受け止めようとするのだが……、ランの剣も、赤茶色の輝きを放っていた。
即ち、ソードスキルの合図だ。
アスナも、レイナも 共に狙われている。2人共、まさに王手の一撃を受けようとしていた。
その後、アスナの方――……ユウキのソードスキルが発動。
「はああぁぁぁっ!!」
この試合で初めてであろう凛とした気合を発するユウキ。
硬直されている状態のアスナだが、仮に、自由に動けていたとしても、恐ろしいまでの速度で繰り出される直突きは、回避する事が出来なかっただろう。 アスナの左肩から斜め右したへと息もつかせぬ五連撃が放たれる。
そして、踏ん張って、止まり、ランの一撃を何とか あのユウキがした様に 弾く、若しくは少しでも回避しようと目を見開いていたレイナだったのだが、その、ランは また視界から消えてしまっていた。
いや、今度はしっかりと目で追いかけた。
力強く大地を蹴り、跳躍したいたのだ。頭上から振り下ろされるソードスキル。それは、発動の当初は、赤茶色を纏っている剣だった筈なのに――まるで、燃えているかの様に、茶色の部分を赤が飲み込み、更に頭上からくる事で、まるで燃えているかの様な感覚に見舞われた。……そう、この層、この小島にも降り注いでいる《太陽》の様な色を感じ取れたのだ。
「はああぁぁぁっ!!」
戦いの最中でも、何処か気品さと優雅さを併せ持っていたランだったが、その印象は全て、この凛とした気合の声。いや、裂帛、と表現していい気合を訊き、その印象は消失した。燃える様な剣技は、剣を盾にする様に構えた隙間を穿ち続ける高速の突き。
弾こうにも、あまりにも早すぎる為、剣で受ける事が出来ない。左肩口から右回りに円を描く様に、突きを放たれ続け、その数が5を過ぎた所で、レイナは防御姿勢をやめた。
アスナもレイナも、殆ど同じ、同時だった。
急速に減少し続けるHPゲージを見て、そして 最早回避する事は不可能と思える神速の技。
――それは、現存するどの片手直剣スキルにも当てはまらない技。
即ち、《オリジナル・ソードスキル》を見て、覚悟を決めた。
無駄に逃げ動作をして、背中を斬られるくらいなら、僅かな可能性に賭けた方がいい。いや、逃げるなんて、剣士としてのプライドが許さなかった。
――このまま……。
全ての意志、力をアスナとレイナは、其々 レイピアに込める。
――このまま、やられるものか!!
アスナとレイナは、同じく2人の5発目の攻撃を受けた所で、玉砕覚悟、と言っていい攻勢に打って出た。
それは、以前 アスナとキリトの家で。森の家で話していた2人が其々編み出したソードスキル。唯一編み出す事が出来た、アスナとレイナの《オリジナル・ソードスキル》。
アスナのOSS五連撃《スターリィ・ティアー》
レイナのOSS四連擊《イノセント・レニィ》
それは、其々が編み出した必殺技のぶつかり合いだった。
《紫と青》《赤と銀》
其々の色を持つ閃光が、眩しく交錯する。
アスナもレイナも、今度こそ剣による攻撃を、与える事が出来た。2人ともが、攻撃を受けつつも、渾身のソードスキルで返したのだ。
アスナは、受けた数は更に五連撃。今度は右肩から左下に向けて、丁度エックスを描く様に。
レイナは、四連擊を受け続けて、その前の五連撃と合わさり、ダメージエフェクトで描かれた円が完全に閉じられた。
そして、互いに残るHPはもう数ドットのみ。方や、相手側はイエローに突入しているものの、差は歴然。初めて絶剣と剣聖から合わせて10割のダメージ。圧倒的な新記録達成! と言うダメージを奪う事が出来たアスナとレイナだったが、最早そんな事は考えてなかった。
2人共が――驚愕する事になったのだから。
アスナは、エックスを描いた傷を、丁度完全に胸元につけられ。
レイナは、円を描いた傷を、胸元につけられ。
これで終わり――だと思っていたのに、其々の剣には、まだ輝きが残っていた、いや 放ち続けているのだ。……まるで。
――最も輝ける瞬間はこれからだ。
と言わんばかりに。
そう――、2人のソードスキルはまだ終わっていない。それを見て、頭が冴えたのだろうか、アスナもレイナも 今まで自分達が受けた高速の攻撃、その数を数える事が出来たのだ。
アスナは――合計で十連撃。
レイナは――合計で九連擊。
これだけでも十分。いや、驚愕するスキルだったが――、昨日の記憶、声が耳元に届く。
『なんとびっくり! 11連撃ですよーっ!』
『剣聖の方は10連撃のオリジナルソードスキルでした』
そう――これは、この果たし合い、辻決闘が始まった一番最初に、演舞として披露したスキル。キリトとの戦いの際にも、突進攻撃で決着がついた、と話していたから、その時にすら、出さなかったALO内でも、最強と思われるオリジナルソードスキル。
『これが――絶剣の』
『これが――剣聖の』
『『オリジナル・ソードスキル!?』』
最後の一撃は、もうまもなく放たれる事だろう。
アスナとレイナの2人は、その輝きを目の当たりにしながら、ある種の感動に包まれていた。
そう、出せるものは出しきった。やりきったのだ。そして更に、まだ実戦では放っていないと言われている技、オリジナル・ソードスキルまでまで出してくれているのだ。途轍もない威力、スピード、そして何より――その輝きにも負けない程の美しさを纏った剣技。
だからこそ――アスナもレイナも思った。
――これほどの剣技に敗れるのなら――、悔いはない。
そして、その後――、巨大な閃光と衝撃音が空中と大地に撒き起こり、この空間に、紫と赤の色の大きな波紋を作ったのだった。
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