八神家の養父切嗣
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四十六話:終末の訪れ
近くによればその威容が明らかになる。数百人の航空魔導士が辺りを取り囲んでいるというのにまるで牛に群がる蠅のようにしか感じられない。一体これだけの兵器を“何”を滅ぼすために作られたのか考えたくもないが、相手もゆりかごもまともではないことだけは確かだろう。
「とにかく地上に行く前にガジェットを止めて! ここで私達が頑張らんと地上の皆が危ない!」
まるで世界の終末に登場する蝗の大群のように群がるガジェット。それらの駆除の指揮を空の上で取りながらはやては冷たい汗を流す。こうして水際で何とか防げているうちは良い。だが、この防衛戦が破られてしまえばガジェットはまさしく蝗のように全ての命を喰い尽していくだろう。
ガジェットそのものはスカリエッティが作り出した物でありロストロギアではない。必ず有限であるはずだ。だというのに相手は大判振る舞いで放出してくる。つまりはそれだけ前からこの状況を見越して準備を進めていたことに他ならない。出だしの時点でこちらは不利に立たされているのだ。
「このままじゃいくらやってもキリがねえ……はやて!」
「そうやね、突入して中から止めんとどうしようもない。やけど……」
あの空に浮かぶ要塞にどうやって侵入するのだ?
ヴィータの声に答えながらはやてはどうしようもなく人間の小ささを思い知る。要塞である以上は相手に侵入を許すはずもない。穴を空けようにも相手はロストロギア。生半可な攻撃ではかすり傷一つ付かない。
恐らくは製造されてから千年は経っているというのに汚れ一つ付いていない外装からゆりかごの強度を察することはできる。内部に入ればどうにかできる。だが、その内部に入る道が見つからない。八方塞がりだ。そう思ったところで小さな歓声が聞こえてくる。
【八神二佐! ゆりかご内部につながる侵入経路を発見しました!】
「なんやて…?」
通信に驚いて確認してみると確かに人が入り込むのに適した入り口が開いていた。このままでは打つ手なしの状態だったので素直に喜ばしいことだ。しかし、同時にはやては余りにも都合の良い出来事に訝しんでいた。それはなのはも同じだったのかガジェットを撃ち抜く手を止めてはやての傍に飛んでくる。
「はやてちゃん、どうしようか?」
「このままやったらこっちはジリ貧や。中に乗り込む以外に道はないんやけど……」
「偶然じゃない。明らかにこっちを誘っているよね」
余りにも怪しいのだ。古代ベルカ以前より無敵を誇る戦艦が簡単に敵に入れるような構造をしているわけもない。十中八九で罠だろう。こちらが中に入ってくるのを待ち侘びているとしか思えない。中に入れば今まで以上に恐ろしい何かが待ち構えている可能性がある。安易に飛び込むのは余りにもリスクが高い行為だろう。しかしながら。
「どのみちあたし達は中に入って止めねーと勝ちはねぇんだ」
「そうだよね。ゆりかごを止めるには中の駆動炉を破壊するか、聖王……ヴィヴィオを止めないといけない」
「入らんかったら負け、入ったら罠。やったら罠を食い破る方に賭けるしかないわな」
どのみちこのままでは消耗戦となり勝ち目はない。どれだけ怪しく危険なに臭いがしようとも自分達はゆりかご内部に侵入を試みる以外に道はない。実によくできた罠だ。その存在に気付いたとしても避ける術が存在しないのだ。これを考えた人間は理由が何であれ悪辣で辛辣な人間に違いない。
「なのはちゃん、ヴィータ。……行けるな?」
「当ったりめーだ! はやてからの命令なら地獄の底でも行ってやるよ!」
「私もどこでも行っていいよ」
「二人共……」
下手をすれば死んでしまうかもしれないような場所へ突入させるというのに笑いかけてくる二人に声を詰まらせるはやて。親友というだけで命を懸けてくれるなのは。家族として騎士としてその全てを奉げるヴィータ。感謝の言葉を幾ら伝えたところで足りないと断言できる程に恩がある。だから、はやては礼を言うでもなくただ命じる。
「機動六課部隊長として命ずる。ゆりかごに乗り込み進行を止めること」
ゆりかごの停止の任をまかせることを命じ。
「重ねて命ずる。全ての力を出し切って戦うこと」
さらに地上の人々の為にその命を懸けて敵と戦い抜くことを命じ。
「最後に、必ず―――生きて帰ってくること」
最後に決して死んではならないと自身の本当の気持ちを告げる。
二人はその言葉に再び笑い、はやてに向かい敬礼する。
「スターズ1、高町なのは承りました」
「スターズ2、八神ヴィータ承った」
「ええか? 地獄の釜の蓋をぶち抜いてでも帰ってくるんやで」
「なのはの得意分野だな」
「ヴィータちゃんもでしょ?」
お互いにからかうように声を掛け合い少し気を落ち着けた後に表情を引き締める。そして、振り返ることもなく真っすぐにゆりかごに向かい飛び立っていく。一人残ったはやてはその様子を何かを耐えるように見つめた後、首都防衛隊の指揮に戻るのだった。
【さあ、次代を担うにふさわしい者かどうか。私が見極めてあげよう】
二人の先に待ち受ける存在が何なのかを知らぬままに。
ノーヴェの嵐のような猛打。掠りでもすれば体ごと持っていかれるのではないかという重い拳。それらを掻い潜りながらエリオは最短最速で敵を射抜く刺突を繰り返す。だが、相手も戦闘機人の能力をフルに活用した動体視力による先読みで避け続ける。息詰まる一進一退の攻防が続いていく。
「くっそ、ちょこまか動きやがってチビが!」
「この人強い…!」
当たらない攻撃にイライラを吐き出すノーヴェに冷静に相手の強さを計るエリオ。対照的な反応ではあるが現在の戦況においてはさして差を及ぼすものではない。それを示すように両者の頭部目がけてオレンジの弾丸と桃色の弾丸が飛んでくる。そしてお互いにぶつかり合い消滅する。
「へへ、お互いに考えることは一緒っスか」
「くっ、相手も同じじゃ……」
ぶつかり合う前衛の後ろから相手の心臓を狙い続ける二人の狙撃手。ウェンディは本当に戦闘かと疑いたくなるようなへらへらとした笑みを浮かべ。対するティアナはウェンディを抜かなければこちらの攻撃は通らないと分かり苦虫を噛み潰したような表情をする。
「フリード! エリオ君をフォローするよ!」
「キュクルーッ!」
しかしながらフォワードには空から竜を用いて攻撃を仕掛けるキャロとフリードが居る。竜としての能力を存分に生かした攻撃、火炎を吐きノーヴェとウェンディを吹き飛ばそうと狙いを定める。だが、相手もそれを許すような弱い者ではない。
「邪魔はさせません、ツインブレイズ!」
「っ!? フリード、避けて!」
横薙ぎに赤い双剣が一振りされる。それを宙で身を翻すことで躱すフリード。そのことに対しても何も思わないのか攻撃者であるディードは無表情である。そして、まるで曲芸のように宙を飛ぶガジェットに飛び移っていく。彼女の姿に空の上といえど安全圏ではないとキャロは冷や汗を流しながら再認識する。
三対三で戦力としては拮抗している。戦術としてはどちらも相手を一気に破り去るカードは持ち合わせている。しかし簡単には使わない。最高のタイミングで切ってこそ切り札とはその効果を発揮するものなのだから。そして、もう一つこの戦況を動かす大きなポイントがある。四人同士で敵と遭遇したにもかかわらずどちらも一人を抜いて戦っている理由でもある。
「スバル! 目を覚ましなさいッ!!」
「…………」
三人とは少し離れた場所にて宙に無数の道が創り出されている。その上を二人の少女が互いの拳をぶつけ合いながら疾走していく。空を彩るそれは一種の美しさと物悲しさを見る者に与える。それも当然だろう。二人は“人間として”生まれた時から過ごしてきた姉妹なのだから。
「どうして…! 何も答えないのよーッ!」
「標的を行動不能にした後回収……」
「スバルッ!!」
どちらも急にチームに入ったようなものなので高度な連携は取れない。そのため三人の邪魔にならないように個人で自由に戦闘をさせた結果、丁度姉妹で争うことになったのだ。だからと言って二人が弱いというわけではない。
お互いに近接戦闘の破壊力においてはこの中ではトップクラス。故に二人の体がぶつかり合う度に振動が大気を揺るがし轟音が響く。仮にスバルが他の戦闘機人と連携を取っていたとしてもギンガが相手をしていたであろう。それほどに今のスバルは壊すことに特化している。
「この感じ……いつものスバルじゃない。操られているのね、スバル?」
「…………」
ギンガからの問いかけに何も答えないスバル。その反応にギンガは妹は操られているに違いないと確信する。姉として妹を傷つけるのは許容できない。魔力攻撃で気絶させて連れて帰るのが一番だと判断し母の形見であるナックルを軽く撫でる。まるで自分に妹を守る力をくださいと天国の母に祈るように。
「いいわ。スバルがどんなになってもお姉ちゃんが何度でも助けてあげるから!」
家族として、姉として、決して譲れない戦いがある。それを自覚し雄叫びを上げるギンガをスバルは相も変わらぬ金色の瞳で黙って見つめ続けるのだった。
「ギンガさん大丈夫かな?」
「キュルー」
「うん、信じるしかないよね」
遠方に見える悲しい姉妹の戦いを見やりながらキャロはフリードと話す。今の自分達では援護にも入れず、入ったとしても足手まといになるだけ。それが分かっているもののやはり心配なのは変わらない。二人の無事を心の中で祈り自分の戦場に目を戻す。
相も変わらず片方が仕掛ければもう片方がそれを潰すという一進一退の攻防が続く。だが、フォワード陣に焦りはない。そもそも彼らの役目は時間稼ぎと相手の体力を少しでも削ること。このままの状況を続けてもフォワード達の目的は達せられるのだ。
(このまましっかり粘ればいけるわ。ちびっ子達、ここが踏ん張り時よ!)
(了解です!)
(任せてください!)
ウェンディと壮絶な撃ち合いを行いながら念話を飛ばすティアナ。その声の力強さにエリオとキャロは自身の勝利を確信し攻めの手を上げる。だが、それは時として油断となり慢心となる。突如として緑色の閃光がティアナの背後に複数現れる。
「なっ―――!?」
無数のレーザー光線に撃たれ爆炎の中に消えるティアナ。その攻撃の正体がオットーのISであるレイストームだと以前の経験から即座に判断したエリオは思わずティアナの方を振り返ってしまう。
「ティアナさんッ!」
「よそ見してるんじゃ―――ねえッ!!」
「ぐあぁッ!?」
その隙をノーヴェは逃さない。鉄柱ですら軽々しく砕く強烈な蹴りをエリオの脇腹に叩きこむ。容赦なく突かれた隙に為す術などなくエリオはボールのように吹き飛んでいき壁にのめり込んでようやく止まる。
「フリード! 早く二人の援護に行こ―――ッ!」
「残念だけど、そうはいかせないっスよ」
仲間の危機にすぐに援護に向かおうとするキャロとフリードだったがいつの間にか桃色の魔法弾に周囲を取り囲まれていた。ティアナとの戦闘から自由になったウェンディが今度はキャロに狙いをつけ囲いを作ったのだ。その囲いはキャロ一人ならば抜け出せるが巨大化したフリードでは隙間は小さすぎる。
「協力感謝します、ウェンディ姉様」
「きゃああッ!!」
どうすればいいのかと思わず完全に停止してしまうキャロとフリード。時間にして3秒程度。しかし、それだけの時間停止していれば狙ってくださいと言っているのと何ら変わらない。器用に魔力弾の隙間を潜り抜けてきたディードの振り下ろすような斬撃をフリードはもろに喰らってしまう。落下と同時にウェンディの魔力弾が襲い掛かり追い打ちをかける。
「今ので決まったスかね?」
「……いえ、敵性反応は依然として存在しています」
「まじっスか。今のは結構上手くいったと思ったんスけどねー」
「関係ねえ、何度でもぶっ潰す」
それぞれの渾身の一撃を入れたにも関わらずまだフォワードがやられていないことに若干驚くウェンディ。だが、ノーヴェの言うように、また倒せば良いだろうと判断し再び笑みを浮かべて武装を構える。
その反対側では攻撃を受けた三人が息を潜めて静かに回復を行っていた。全員が軽くはないダメージを負ったもののこの程度で動けなくなるような軟弱者は一人もいない。諦めることなどなく虎視眈々と反撃の機会を狙っていた。
(こちらティアナ。二人共生きてるわよね?)
(こちらエリオ。まだまだ戦えます)
(こちらキャロ。フリードもいけます!)
(オッケー、さっきは不意を突かれたけど敵が四人だと分かればやりようはあるわ)
全身に走る痛みを押し隠しながら三人は連絡を取り合う。先程は突如現れた四人目に不覚を取って負けたが、居ると分かれば作戦はいくらでも立てられる。まだ戦況は決まっていない。自分達は倒れてなどいない。ならば逆転することは不可能ではない。そう、思った時であった。
「……来て。地雷王、ガリュー」
地面に現れる無数の不規則な魔法陣。それは召喚魔法陣。ルーテシアが操る虫達がその姿を現そうとしていることに他ならない。見上げるほどの巨体の虫達がフォワード陣を取り囲むように数えるのを諦めてしまうほどに現れる。
「この数……尋常じゃない…!」
「私の魔力量全部使ってもこの半分ぐらいが限界なのに……」
驚愕するエリオとキャロをよそに虫達を従える幼き召喚士ルーテシアが地に降り立つ。そしてガリューも続くように彼女の隣に現れる。先程まで均衡していた数と戦力はこれで一気に戦闘機人側に傾いた。遂に彼女達は切り札を切ったのである。突如として何倍にも増えた敵に先程まであったフォワード陣の余裕と計算は脆くも崩れ去ってしまった。
「これは…ちょっと……やばいかも」
額に走る冷たい汗を拭いながらティアナは引きつった声で呟くのだった。
後書き
『アイリスマスターエレメントガールズ』
あなたのプロデュースでアイリスフィールに人間性が宿る!
土「別に私を選んでくれなくても気にしませんから……気にしませんから……」
水「私を選ばないの? そう、なら消えなさい……ふん」
火「乱暴な人は嫌いよ。だから私を選ぶなら……優しくしてね?」
風「風のアイリスフィールが最優だ、とアイリちゃんは言うのであった」
さらに特殊な育て方をすると特別な進化をすることもあるぞ!
黒「私を愛さないの? ねえ、どうして? どうして? 見捨てられるぐらいなら……殺すわ」
プ「魔法少女プリズマ☆アイリちゃんをよろしくね!」
師「聞いて聞いて! ゼッちゃんっていう可愛い弟子ができたの!」
さあ、好みのアイリスフィールを選んで今すぐプロデューサーになろう!
切嗣「火のアイリが一番本来の性格に近いか? しかし……土のアイリの見捨てられなさは異常だ。それに水のアイリは一見冷酷そうに見えるがこれはツンデレのツン期だ。僕の目に狂いはない。これは選んであげないと後で部屋の隅でいじけているのが目に見える。そして風のアイリだ。一言で言えばあざとい、とにかくあざとい。だが……悪くない。寧ろこの無邪気さは本来のアイリを思わせる。この中で選べと言うのか……くっ! そもそも僕には……アイリを選ぶなんて資格はない……だから―――あとはまかせたぞ士郎!!」
士郎「なんでさ」
いや……何か色々と混ざってホントすいません。FGOイベントの四大元素アイリを見た瞬間にピンとこのタイトルが思いついて気づいたら書いてました。夜中のテンションって怖い。
おまけ
切嗣「士郎……確かに僕は後は任せると言ったね。でも、だからと言って四人とも選ぶのはどうかと思うよ」
士郎「俺はみんなを幸せにしたかっただけなんだ!」
おしまい
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