魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~
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StrikerS編
110話:『星々(れきし)』(中編)
前書き
大変、大変お待たせしました!申し訳ありませんッ!!
二ヵ月もほったらかしで、更新できずに本当に申し訳ありません!
内容はめっちゃ長くなったんですが、何分引き出すのに時間がかかってしまいまして…
言い訳ができるなら、この二ヵ月色々なことが…なんて、どうでもいいですよね。すいません、はい。
とにかく、最新110話です。
「見放したんじゃない…? じゃあ、なんでお前は力を失って、俺の下に来た!? 俺がお前の力を―――」
「奪ったんでもない、試されていたんだよ。俺は―――〝俺達〟は」
〝俺達〟―――その言葉に、男は言葉を失う。その〝俺達〟の意味を理解した故に。
「バカな……それは―――〝俺も含まれている〟というのか!?」
「……そうだ」
「何の為に…俺とお前は―――」
「〝俺はお前だ〟と、そう言ったのはお前だろ?」
思ってもいなかった返しに、再び言葉を失う男。『違う』とは言わせないとばかりに、自分の言葉を返されたのだから、仕方ないのかもしれないのだが。
「だとしても、何の為に!? 何故〝あの人達〟は俺達を…!」
「………」
「俺は、俺はッ! お前を、超えなければいけないんだ!」
「ッ!」
剣を振りかざし、迫る男。しかし男が繰り出す剣撃を、易々と躱し、防ぎ、いなす。
その攻撃と攻撃の間の隙、そこを狙い掌底や拳を突き出し、着々とダメージを与えていく。
数歩後退する男に、更に一歩踏み込む。男の肩を掴み、小さく飛び上る。
男は叫ぶ。誰かに届ける訳でもない、ただ認められない事実をぶち壊し…超えていく為に、叫ぶ。
星々は瞬き、輝きは増していく。
少しずつ離れているそれらは、しかし強い繋がりを感じさせてくれる。
『この宇宙に、友達になれねぇ奴なんかいねぇ! それが誰とも知れない奴でも、たとえ敵だった奴でもな!』
その声を聞き振り返ると、古風なリーゼントと黒い学ランを来た青年が立っていた。
青年は胸を叩き、拳を向ける。俺はどんな仮面ライダーとも友達になる男だと。
『それが異世界だろうと、どんなにイレギュラーな奴だろうとな!』
「…それは、嬉しいです」
『友達(ダチ)は色んなものをくれる。それは全部、お互いを成長させてくれるんだ!』
まったくその通りだと思う。たくさんの人達と手を繋ぎ合い、強く、確かな絆を紡いできた人だ。その言葉は、しっかりと重みを持っている。
『お前なら…〝あいつら〟とも、友達(ダチ)になれる筈だぜ!』
「それは……」
流石に難しい、そう思ってしまったが、それを払拭するかのように、青年が乱暴に頭を撫でてきた。
『確かに、大変なことだよな。もしかしたら、自分の気持ちが裏切られるかもしれない』
だけど、たとえ裏切られたとしても、相手に歩み寄る一歩を忘れてはいけない。
どれだけ小さかろうと、たとえ1センチにも満たないものだろうと、その一歩は…とてつもなく大きな一歩になる。
『絆は、不可能を超える力になる! 限界をぶち壊す力に!』
絆を紡げ。限界なんて、自分の手でぶち壊してやれ!
「はいッ!」
青年―――否、もう彼は先程の青年ではなかった。
古風なリーゼントはそのままに、背丈は伸び、学ランはきちっとしたスーツに変わっていた。
彼の言葉に、大きな返事を返す。それを聞いた青年は、ニカッと笑い手を差し伸べてきた。
その手を握り、組み替える。離してから数回拳を打ち付け合う。
これでお前とも友達(ダチ)だな、そう言うと彼は光となり、赤い宝石へと消えていく。〝炎〟は灯り、星は輝く。
強く輝く一つの星を中心に、いくつもの星々が輝く。他の星々より強く輝くそれらは、まるで互いの〝絆〟を主張するかのよう。
前を向き、一歩踏み出す。大きく、自分の信じる道を進む一歩を。
―――踏み出せ、Giant Stepを!
「おおおぉぉぉぉぉ!」
ガツンッ! と、大きな音が響く。
「ガッ…!?」
苦痛による声が漏れる。
小さく飛んだところから繰り出されたのは―――頭突き。
頭部と頭部がぶつかり合い、その反動で両者が離れる。だがこんな攻撃を予期していなかった所為か、ぶつけられた男はよろけて数歩後退する。
追い立てる男、後退した男の肩を掴み、膝蹴りを二度男の腹部に食らわせる。
攻撃を受けた男は、痛みを引きずりながら呻き後退する。そこへ更に前蹴りを、男の腹部へ放つ。
カブトムシのような姿から、白く宇宙服のような姿に変わった男。スペースシャトルのような頭部を人撫ですると、右手を後ろに引く。
友との絆を信じ、不可能を超え、一直線に進み続ける〝漢〟の姿……
―――宇宙の戦士〝フォーゼ〟だった。
「ぐ、このぉ…!」
よろよろと立ち上がる男、そこへ走り出すフォーゼとなった男。立ち上がった男も拳を構え、迎え撃とうとする。
交錯する両者の拳、だが相手の拳を潜り抜けながら突き出した男の拳が、オレンジ色のエフェクトを纏う。
そして相手の腹部に到達する前に、そのエフェクトは同色のロケットへと変貌を遂げる。
「なッ…!?」
「ライダー……」
オレンジ色のロケットは、エンジン部分から火を噴く。
「ロケットパァァァンチッ!」
「があぁぁぁぁ!!」
推進力を力に変えて、男を吹き飛ばす。くの字のように飛んでいく男、地面…もとい水面を削りながら転がる。
腹部を抑えつつ、上半身を起こす。相当なダメージがあるのか、起き上がるのがかなり遅い。
「お前ぇ…何故そこまで…!」
「………」
「試されてる…? なら〝あの人達〟は、お前を選んだとでも言うのか!」
そんなこと、認められるか…認めてたまるか!
叫び、銃を構える男。放たれた弾丸は正確に彼を襲い、火花を散らす。
「〝俺〟は〝お前〟を超えなきゃならないんだ…そうじゃなきゃ、〝ここ〟にいる意味がない!」
「〝ここ〟にいる、意味…」
「〝俺〟は―――〝お前〟でなければならないんだ!」
銃を剣に変え、相手に向かって行く男。対する男は、迎え撃つ構えをとる。
一度握った拳を少し開き、腕を振って手首を小さくスナップさせる。
背中を向け、気だるそうに立つ男。見上げる先には数々の星が瞬いている。
しばらくそれらの星々を見つめていたと思ったら、男は口を開いた。
それは、小さな地球(ほし)の話。
悲しみは繰り返され、信じてた未来が崩れ去っていく。そんな話。
戦い勝つことと、誰かを護ること。誰かを信じること、誰かを疑うこと。正反対の事柄によるジレンマは、終わることはない。
戦うことでわかる過酷な運命、護ることで気づく人の嫌な部分。そういったものは見えるのに、真実は…未来(さき)は見えないまま。
『………』
「………」
苦しくて、悲しい物語。それは『現実』という題名の物語だ。
人が生きていくのに、誰しもが直面するもの。それはお前でも変わらない。前へ走り続けるというなら、乗り越えなくてはいけない。
それでも、行くのか…?
「―――そうでもしないと、叶えられない理想(ゆめ)があるから」
走り続ける、突き進み続ける。その理想(ゆめ)の為、未舗装の険しい道を進み続ける。
その意思を…決意を感じてか、男は肩を落とし下を向いた。
理想(ゆめ)か…。小さく呟かれた言葉に、思わず難しい表情を浮かべる。
『なら…進め、自分の道を』
「……はいッ!」
小さく笑うと、彼は光へと変わりベルトへ消える。バックルの白い部分に、新しい〝炎〟が光る。
新たに光る一つの星。周りに二つの大きな星と、無数の小さな星々。それらの星々が描くのは、彼らが追った理想の―――〝夢〟の軌跡。
自らの理想を胸に、自分達はどこへ行くのだろう?
横一閃に振り抜かれようとしている剣を、刃のない部分を狙って右手で受け止め、逆に左拳を振り抜く。
その一撃に呻き一瞬止まったところに、右拳が襲い掛かる。
男はそれを受けつつも、剣を咄嗟に逆手に持ち替え、一歩引きながらも振り抜き、斬りつける。
「ぐっ…」と小さく呻くが、それでも尚左足を振り上げ、相手の腹部を蹴り上げる。
「この…ッ!」
「くッ…!」
蹴りの衝撃に少し怯むが、それでも体勢を立て直す。両者共に拳を構え、思い切り振りかぶって突き出す。
二つの拳は交錯し、互いの頬にぶつかる。両者の呻き声が漏れ、二人の間に距離が生まれる。
突如として変化した姿。白を基調としたものから黒へ、胸部には銀のプロテクターに黄色の大きな複眼。体の所々に赤いラインが走っている。
逃れられない戦いも、過酷の運命も自ら背負い、戦い抜いた戦士……
―――救世主、ファイズ
「ファイズまで…ッ!」
殴った右手を軽く振り、構えなおす男に悪態をつく。
「何故お前ばかり…ッ」
「なんで〝お前〟は、そこまでして…」
男の問いに、「そこまで、だと…?」と声を上げる。
「〝俺〟の存在理由……〝お前〟となり、世界を破壊することが、俺が〝生み出された意味〟が、そうさせるんだ!」
お前を捉えた奴らはお前のデータを元に、この世界の技術を応用し〝俺〟を作り上げた。
〝俺〟は〝お前〟となり、世界を破壊する。その為だけに作られた俺は、それ以外できることはない。
「〝俺〟という存在が生き残るには、〝お前〟を超えなければ―――」
ならないんだ! そう叫ぶように言うと、再び剣を構え走り出す。
対しそれを見た男は、両手を後ろへ回す。
そこには炎の柱が二本。それを掴むと、シャンッという澄んだ鈴の音が心の中まで響いた。
大きく見える背中、その奥には光る星々。
腕を組んでいたその男性は、振り返りこちらを見つめてくる。相変わらずボンヤリした顔だが、彼が誰なのかはわかる。
『嫌なことや、不幸なことはいつだって起きるもんだ。しょうがないよね、現実ってやつはさ』
でもそれをそのまま「嫌だ」と言い続けるか、「不幸だ」と嘆き続けるか。
『君はどうかな?』
「…戦う、と思います。そんな現実、受け入れたくないですから」
『そうかそうか』
でもそれは、とても大変なことだ。嫌だからと言って、簡単に変わる物じゃない。すごく辛い出来事が起きるかも……
『だけどその出来事が、君に経験をくれる。それがあれば、これから辛くならないようにできる筈だ』
辛いことなんて、これから先たくさんあるだろう。一人じゃどうしようもない時だって、いつか必ず来る。
でも、落ち込む奴は強く成長できる。下を向いて止まった奴は、きっと前を向いて走り出せる。
そんな奴なら、どんな困難も乗り越えられる。一人では無理でも、仲間と一緒なら必ず。
『乗り越えるのが難しいなら、一回下がってみるのもいいかも。だけど、自分の心に負けることだけはするなよ』
だからこそ身体だけじゃない、心も鍛えておかなければならない。
力だけでは足りない、優しさを、思いやりを。間違った道を進まない為の、正しく鍛えられた心が必要なんだ。
『負けるなよ、自分自身に』
「―――はい!」
その返事を聞いた男性は、小さく笑みを浮かべる。
そして敬礼のようなポーズをし、「シュッ」と言った。彼独特の挨拶のようなものだ。
男性が光に変わり、赤い宝石に消える。〝炎〟が灯ると同時に、空間(そら)に星が灯る。
人の強さの元となる〝心〟の強さ、星々の光がそれを主張する。
他の誰でもない、自分自身の生き方で。自分にしかできないことを、見つけ出せ。心が響いた鼓動を信じて、進み続けよう。
―――それが、君の響き。
手に取ったのは、赤い撥。動きが止まる度に、鈴の澄んだ音が響く。
そこへ迫る白刃をその撥で受け止める。と同時に、男の体が紫炎に包まれる。
炎の熱気に驚き、一瞬気が逸らされた。その隙を逃さず、赤い撥で剣を弾き、相手の腹部を蹴る。
数歩下がったところへ、太鼓を叩くように撥をぶつけた。
「ぐッ―――このぉ!」
また数歩下がった男は、反撃とばかりに剣を振るう。だが対する男は振り下ろされる剣を撥で受け流し、もう一方の撥で再び腹部を打ち付ける。
その衝撃に苦悶の表情を浮かべる、が今回は耐えきりすぐさま反撃に一撃、剣を斬りつける。
思わぬ反撃に男も後退、そこへ更に追い討ちの剣撃が迫る。
交差させた撥でそれを受け止め、鍔迫り合いのような形に変わる。受け止めた剣の衝撃によって、男を包み込んでいた紫炎が飛び散る。
そこにいたのは、先程までの近代的な鎧ではなく…
先程の紫炎と同じ、光沢を放つ紫色の肉体。両腕と顔面の隈取は赤く染まり、胸部には襷状の装飾が、頭部には二本の角が、それぞれ銀色に輝いている。
自らを鍛え抜き、炎と音を駆使し、人々を迫りくる妖怪から密かに守ってきた〝鬼〟と呼ばれる者達の一人……
―――音撃戦士〝響鬼〟の姿が、そこにあった。
「〝俺〟を超える…それがお前の目的か?」
「そうだ、そうしなくては、俺は〝俺〟でいられなくなる!」
それなのに、試されていたというのか? 〝あの人達〟は〝お前〟を選び、力を与えていると。
ならば、認められなかった〝俺〟はどうなる? お前の中にずっと閉じ込められるのか? それともお前の中からも消えるのか?
「認められるか…認めてなるものか!」
その鬼気迫るような発言を聞いて、理解した。
〝こいつ〟にも譲れないものがあるのだと、だから戦い、生き残らなければならないのだと。
双方が力を籠め、ほぼ同時に互いを押し出す。と同時に、剣を持つ男は剣を振り上げる。
三度繰り出される白刃、それを潜るように避けると、男は撥を捨て手を突き出す。
伸ばした手は、臨んだ未来を掴めるか。伸ばされた手を、掴むことができるのか。
それを知っているのは、果たして自分か? それとも―――
『助けてって、守ってって、誰かが君に手を伸ばして来たら……君はいったい、どうするかな?』
見ないフリをして、そこを通り過ぎる? それとも後ずさりして、そこから逃げ出す?
横の方から現れた男性は、こちらに向かって歩きながらそう問うた。
旅人のようなエスニックスタイルの格好に、長い木の枝の先に男性用パンツを干しているという、なんとも奇抜な男性だった。
その格好に、思わず笑みを浮かべてしまうが、改めて彼の問いに答えることにした。
「出来得る限り、その手を掴むために…伸ばすと思います。それがどれだけ難しいことでも…例えその人が本当に救えない状況にあったとしても」
『……そう…』
でも難しいことをしようとすると、きっとそれが空回りしてしまう。
人ができることなんて、いつでもどこでも、目の前で起こってるたった一つの出来事だけ。だから俺は、助けていいのは自分の手が直接届く範囲までなんじゃないかって思う。
「…そうかも、しれません。でも…それでも俺は、後悔したくないから」
これから先、どんなに偉い人になっても強い人になっても、大人になったとしても。
どんな人でも、過去に置いてきた悔しさには…絶対に勝てない筈だから。
『……それはとっても、大変なことだよ? それでも―――』
「それでも、です。その為にこの力があるし…その為に俺は、仲間と一緒に進んでいくんです」
その言葉に、彼は『そっか…』と小さく返す。そして少し俯いたまま、前を素通りして少し先まで進む。
このまま去るのだろうか、とも思った瞬間、彼は振り向いてこう言った。
『―――いいね、そういうの』
笑みを浮かべている彼の横には、こちらを指差す右腕が浮かんでいるように見えた。
頑張ってね、応援してる。
そう言うと彼は隣にいる腕と共に、光へと変わる。ベルトの赤い宝石まで移動し、中へと消える。新たな〝炎〟が灯り、その存在を主張する。
同時に新たな星が光り、星の群れを作る。強く光る星が円を描くように配置され、己の願い―――〝欲望〟の紋章を形作る。
強く光るその星に、ゆっくりと手を伸ばす。そしてその星を手に収めるように、ギュッと手を握りしめる。
目の前で消し去られそうな光があるなら、この手で守りたい。そう決めたなら、もう逃げ出せる場所はない。迫る脅威と悪意に、向き合い戦う。
その決意があれば、きっとその手は届くだろう―――助けを求め伸ばす、誰かの手に。
突き出した手は、見事に相手の腹部に命中した。
「うぐ…」という呻き声と共に、数歩後退。そこへ赤く染まっていたのが、黄色に変化した腕を勢いよく振るう。
瞬間、その腕に付いていた鋭い爪が展開され、男の装甲を抉る。そしてバツ字を描くように両手に展開された爪を振るい、更にダメージを与える。
その体は鮮やかな紫から、赤・黄・緑の三色に分かれ、それぞれ動物や昆虫の意匠となる。
それは他人(ひと)の欲望を見ながら、大きすぎる救世主願望を乗り越え、守るべき空間(せかい)を獲得した男の姿……
―――欲望の王〝オーズ〟
「ぐッ…」
黄色い爪に傷つけられた胸を抑え、呻きながら後退する。
ダメージを受けつつも踏みとどまり、剣を抜く。振りかぶる姿を見て、防御の為に爪を構える。
「〝お前〟はどうする!? もし〝俺〟に勝った後、奴らと渡り合えると思っているのか!? 強大な力を前に、どう抵抗するというんだ!?」
「………」
一合、二合…と、剣と両手の爪が打ち合わされる。
金属音の中で叫ばれる問いに、しばらく沈黙を貫く。が、互いの武器がぶつかり両者が弾かれた瞬間に、口を開いた。
「……確かに、俺一人だけじゃ無理だろう。あの強大な力に、一人で立ち向かうのは―――」
「あぁ、到底無理な話だろうさ!」
再び、金属音が響く。鍔迫り合いの形で、両者の顔が眼前に迫る。
「だからこそ〝お前〟は奴らの手に落ち…!」
「大切なものを傷つけた」
「それが分かっていながら、何故戦う!? 敵わないと知って、何故―――」
「だからこそ、仲間達が―――あいつらがいるんだッ!」
そう叫んだ瞬間、弾かれる両者。再び斬り結ぶために、二人は動き出す。
敵わないと知って、できないと言われて。それで足を止めるか? そこで想いを諦めるか?
―――そんなことで、諦めてたまるか!
瞬く星達、初めの頃と比べると随分きらびやかになったそこに、一人の男性がいた。
どことなく冴えない雰囲気を纏う彼は、空に輝くいくつもの星を、少し古びた望遠鏡で覗いていた。
それはまるで、彼らの歴史を見ているよう。
『ねぇ…君はヒーローって、好き?』
レンズから目を外し、それでも星を見上げて彼は聞いてきた。
それは勿論、と即答する。ずっと憧れて、追いかけていたのだから。
「勿論、あなたも」
『はは…それは嬉しいな』
ぼくはドジばっかしてたから、カッコ悪かったかもしれないけど。
そんな言葉に強く反論した。そんな馬鹿な、と。あなたも他の人達と同じように、輝かしい戦歴を残した〝英雄〟だ。
「それに…そんなのを理由にして、戦わないなんて…あなたじゃないでしょ?」
『ははは、確かに』
ぼくは大切な人達との記憶を守るために、戦えた。その先にある夢を、願った日々を信じていたから。
砂時計の砂みたいに、時間は過ぎていく。それを変える為には、砂時計ごとひっくり返すほどの変革が必要になる。
『ぼくは変われた、かけがえのない仲間達と…戦いの中で出会った人達のおかげで』
変わることを恐れないで、それは未来の自分を見失うことに繋がるから。
そう言ってこちらに振り返る青年、その表情は―――笑顔だった。
『でもそれはよく知ってるのかな、君は?』
「………」
『―――負けないでね』
すると彼の周りに、五つの光が。それらが一瞬輝いたかと思ったら、そこには五人の人が―――否、人ならざるもの達が立っていた。
『最初っから最後まで、クライマックスに行けよ!』
『いつでもどこでも、クールにね?』
『お前の強さは泣けるでぇ、俺が保証したる!』
『どんどんやっつけちゃえ!』
『私の力も使ってよいぞ、光栄に思え』
それぞれが思い思いの一言を残していく。全然別の事を言ってるけど、その全てが背中を押してくれる声援で、とても励みになる。
「―――はいッ!」
その声援を受けて、一息するとそう返した。六人の様子が面白かった所為か、少し笑みを浮かべた。
六人はそれを見届けると、安心したのか同じように柔らかい雰囲気に変わった。
そう思えた瞬間、六人は一つの光に。赤い宝石に吸い込まれると、バックルと夜空に新たな〝炎〟を輝かせた。
七つ―――否、九つのひときわ輝く星は、円を基調とした紋章を描く。それは彼らの築いた時間の積み重ね―――それはまさしく〝思い出〟の証。
先程の声援を胸に秘め、前を見据える。
さっき言った通り、確かにあの人達は自分にとっての〝英雄〟だ。だが、あの人達に負けないぐらいの絆が、仲間達がいる。
―――負けない。仲間達となら、負ける気がしない。
「「はあああぁぁぁぁぁッ!!」」
響く金属音、しかしそれは剣と爪との衝突ではなく、剣と剣との衝突だった。
刀身が赤く、少し珍しい形をした剣。そしてそれを持つ彼の姿は、またもや変化していた。
三色に分かれていた色合いは、胸部と肩の装甲が赤く、手甲や足甲は銀色へ。
鳥をイメージした仮面は、大きな赤い複眼を持つものへと変わっていた。
臆病で弱くとも、他人を不幸から救う為、全ての時間を護る為、戦った人の姿。
―――時の運行を守りし者、電王。
「仲間と言っても、エース級魔導士が数人とその他大勢。そんな戦力で勝てるとでも!?」
「あいつらをなめてると、痛い目みるぞッ!」
「イラつく言い方だ…ッ!」
剣と剣を打ち付け合いながら、そんな会話のやり取り。
確かにあの三人は素晴らしいだろう、協力できれば相当な戦力になるだろう。
「だがお前も味わっただろう、あの強大な力を!」
「……あいつのこと、か」
「そうだ! あれはいくらお前達でも敵う筈がない、それ程の力だ!」
全てを破壊する為に作られた〝代物〟だ。魔導の力も、世界の秩序も…理をも、その全てを破壊しうる。
そんな力を目の前に、戦えるとでも? 人間の力だけで、乗り越えられると?
「―――確かに、難しいだろうな」
俺はあいつらを信じてる。あいつらと一緒なら、と。
だけどそれだけじゃ足りないかもしれない。直に戦ったから、そのことはわかっているつもりだ。
「だけどッ!」
その言葉と同時に、鍔迫り合いのように二振りの剣がぶつかり合う。
そして……
「―――〝お前〟となら、戦える!」
「………は…?」
一瞬、何を言われたかわからなくなった。
戦える、と言ったことに驚いたのではない。〝お前〟―――つまり自分と一緒に、と確かに言った。
「〝俺〟と〝お前〟、二人なら…戦える筈だ!」
「……何を…言って…?」
急なことに、男は数歩下がった。その足取りはまるで、酒に酔っているかのような千鳥足だった。
そんな男に更に言葉を続ける、〝お前〟は〝俺〟の中にいる〝ユニゾンデバイス〟である筈。だったら、力を合わせることができる筈だ。
「―――〝俺〟と〝お前〟が…〝ユニゾン〟したら」
「ッ、黙れ!」
その一言を、男は剣を振りかざし遮った。
次の言葉が発せられる前に命を狩ろうと迫る白刃、だがそれをうまく食い止め、止めることなく言葉を紡ぐ。
「〝お前〟と共に戦えたら、きっと…!」
「黙れ! そんな事はあり得ない、〝俺〟が〝お前〟とユニゾンすればどうなるか…わかっているのか!?」
「前と今とでは状況が違う! 以前みたいな一方的な〝支配〟じゃない、〝俺〟と〝お前〟が手を取り共に戦う―――〝共闘〟だ!」
双方自らの想いを譲るつもりはない。片や自らを確立した存在へとする為、片やもう一つの存在を認め共に戦う為。
まるで水と油のような双方の想いは、二振りの剣に乗せられ繰り出される。
「…無理だ、無駄な努力だそれは! この戦いは〝お前〟と〝俺〟のどちらかが消える戦いだ! それは決して変わらない!」
「否、必ず別の道がある筈さ! 〝俺達〟が共に戦える道が!」
「そんなもの、何処にもありはしない!」
再び鍔迫り合いのようになり、お互いの仮面が眼前に迫る。否、既に衝突し少し鈍い音を立てた。
男は言う、これは決められた結末だ。どちらかの精神でしか、この力は使えない、と。
強い拒絶、激しい反論。しかし彼は決意を持って返す―――そうだとしても、と。
「―――俺は〝破壊者〟だ。そんな勝手な規定、俺が破壊して…〝塗り替えて〟やる!」
その言葉と共に、彼は相手の剣を宙へと打ち上げた。
衝撃で数歩下がる男。すぐに前を見据えるが、目の前の彼は既に次の行動を起こしていた。
「おおぉぉぉぉぉ!」
赤い稲妻のような線を纏い、両足による乱舞が繰り出される。
男はそれを両腕でいなしながら防いでいたが、全ては防ぎきれず途中で頭部へと蹴りを受けてしまう。
そこから先は、嵐のような連続蹴りが続いた。
そんな中、男は思う。〝お前〟にわかってもらうには、どうすればいいのだろう、と。
頑なに拒む〝お前〟が信じるには、何が足りないのだろうか、と。
その答えは、白銀のマフラーをなびかせるこの風が知っている。そんな確信めいた何かが、彼の中にはあった。
『―――男の仕事の八割は決断だ、そっから先はおまけみたいな物だ』
数多の星々が輝き、世界を照らす。そんな中右側から帽子を被った青年が現れ、円を描くように歩き始める。
『これは俺の大切な人から学んだ言葉だ』
『―――でも、僕らは罪を犯した』
ソフト帽を手で押さえながら歩く青年、その反対側から別の青年が逆さまの状態で現れた。
緑色のノースリーブのパーカー、長袖のボーダー。少しぼさぼさの髪はクリップで止められた、何処か個性的な身なり。その手には分厚い本が。
そんな彼は先程の帽子の青年と同じように、円を描くように周りを歩き始めた。
『僕は自ら考えることをせず、ただ〝流されるまま生きてきた〟…』
『俺は言いつけを守らずに〝自分勝手な判断をして〟、大切な人を犠牲にしちまった』
これらが自分達の罪だ、と述べる二人。本を持っていた青年も、いつの間にか普通の状態に。
丁度正面まで歩き、合流するとこちらをチラリと見やり、銃を向けるようにこちらを指差してきた。
『『さぁ、お前(きみ)の罪はどうだ(い)?』』
罪、と聞かれ考える。しかし、そんなものはもう既に決まっていた。
「―――仲間を、裏切った…」
『うん』
敵の手に落ち、仲間達を不安にさせた。
「―――大切な奴らを、傷つけた…ッ」
『おう』
あいつらに刃を向けて、襲い掛かった。
「―――あいつらを、守れなかった…!」
あいつらの大切な命を、多くの命を守れなかった。
「これら全部は俺の罪だ、わかってる…わかってるんだ。でも…」
『でも?』
「逃げたくない、諦めたくないんだ。助けられなかった命も、傷つけてしまった事実も。全部全部背負い続ける…」
拳を握り、力強く語る。この人達とは全く違った、重みも違う罪。だけどそれらをポイッと捨てられる筈もない。
全部背負うと決めた、たとえ偽善と言われようとも、無駄だと言われようとも。
『……いい覚悟だ』
ふと、少しの間があった後笑みを浮かべて言う青年。
それだけの覚悟があれば戦える、そう言うと再び帽子を押さえ、またも口を開いた。
『だけど忘れるな、お前はアイツらに信頼されているってことを』
『そして忘れないで欲しい。信じるということは、とても難しいことだってことを』
誰かに信じてもらう為には、まずは自ら誰かを信じることから始めないといけない。
それを聞いて、分かっていると返す。
『忘れんなよ、人間なんて完璧じゃねぇんだ』
『「Nobody's Perfect」…互いに支え合って生きていくのが、人生というゲームだよ』
「……はいッ!」
負けるなよ、と。諦めないで、と。
それぞれ彼ららしいエールを受け取り、返事を返す。すると二人は一つの光となり、バックルへと入り込む。熱き〝炎〟が新たに灯る。
いくつもの光、その中でひと際輝く隣り合った二つの星。共に支え、頼り、戦い抜いた〝信頼〟の星。
頬を撫でる柔らかな風、心まで包み込んでくれそうな暖かさを力に変え、一歩踏み出す。
―――進め、共に歩む為に、戦う為に。
「だああぁぁぁぁぁ!!」
銀色のマフラーをなびかせる風を力に変え、振り上げた足を繰り出す。
回し蹴り、踵回し蹴り。二種類の連続蹴りは肩や腹、顔へと命中。相手を一気に怯ませ、最後の一撃で大きく吹き飛ばした。
体の色は中央から左右がそれぞれ紫、緑の一色に変わり、複眼は楕円形の赤いものへ。
頭部には特徴的な角、風によってひらひらとなびく白銀のマフラー。
小さな街のヒーローとして立ち上がり、人々を魔の手から守り抜いた戦士。
―――街の涙を拭う二色のハンカチ、W(ダブル)。
後書き
とまぁこんな感じで。
時間かけた分、文字数も多くなり…久しぶりに一万文字越えです。
でもここ最近は凄いですね。
一号にアマゾンズ、コナンにhoneyworks、遊戯王の映画も公開されて…色々大変です(笑)
次回は110,5話になります。またまたオリキャラの戦い…になりそうです。
誤字脱字などのご報告、内容のご感想など、お待ちしております。
ではまた次回お会いしましょう、さいなら~(^ ^)ノシ
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