予言
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
1部分:第一章
第一章
予言
奥野実は悩んでいた、その悩みは本から来ていた。
「もう駄目なんだよ」
クラスで自分の机に座り込み頭を抱えていた。
「もう。終わりなんだよ」
「何がだよ」
「何が終わりなんだよ」
「世界がだよ」
こう皆に答えるのである。
「世界が終わるんだよ」
「あんた何言ってんのよ」
彼のこの言葉を聞いた皆の中で一人出て来た。小柄でおかっぱの目が少し細い以外はまあ可愛いと言ってもいい女の子である。
「何で世界が終わるのよ」
「宇宙人が来てだよ」
「宇宙人!?」
女の子は彼の宇宙人という言葉を聞いて眉を顰めさせた。
「何で宇宙人が世界に来るのよ」
「上林、知らないのかよ」
実はここで彼女の名前を呼んだ。彼女の名前は上林泰子という。実のクラスメイトである。クラスではまとめ役の一人として知られている女の子だ。
「古代マヤの予言であるんだよ」
「古代マヤの?」
「そうだよ。そこではっきり書かれてるんだよ」
こう力説する実だった。
「世界はもうすぐ滅亡するってな」
「宇宙人が攻めて来て?」
「そうだよ。奴等はもう来ているんだ」
挙句にはこんなことを言い出してきた。
「もうすぐそこに。だから世界は」
「滅亡するって言いたいのね」
「そうだよ。終わりなんだよ」
また滅亡を口にするのだった。
「世界はな。もうこれで」
「何かわからないけれど滅亡するっていうのはわかったわ」
「わかったか、もう終わりなんだよ」
「ええ。それにしてもまた何でこんなこと言うのよ」
「この本だよ」
泰子に応えて机の中からある本を出して来た。見ればそれは予言に関するものである。古代マヤの三千年の予言と題する本である。
「この本に書いてあるんだよ。世界は滅亡するってな」
「予言になのね」
「読んでみるか?」
「ええ」
とりあえず彼の言葉を受けて頷いた。
「読んでみるわ」
「ここに書いてある予言は外れたことがないんだよ」
実は真っ青な顔で力説してきた。
「それこそな。全然な」
「それはまた凄いわね」
「だからなんだよ」
また言う実だった。
「世界は終わるんだよ」
「わかったから。読めばいいのよね」
「ああ、そうだ」
必死な声だった。
「読んでくれ。わかったな」
「わかったから。借りるわよ」
「ああ、読めばわかるからな」
こうして泰子もその予言の本を読むことになった。だが学校では読まず家に帰って読むことにした。晩御飯の後片付けの後でお茶を飲みながらゆっくり読もうとすると。その横から彼女の兄の賢治が言ってきたのだった。
「おい、また変な本読んでるな」
「友達から借りたのよ」
こう兄に返す。見れば彼は漫画の週刊雑誌を読もうとしているところだった。その横にはポテトチップとコーラをスタンバイさせている。
「読めばわかるとか言って」
「読めばって。そういえばよ」
「どうしたの?」
「その作家の本俺結構持ってるぜ」
こう言って来た兄だった。
「結構な」
「持ってるの」
「ああ、ちょっと待ってろよ」
次に彼はこう言ってその場から消えた。そうして暫くして数冊の本を持って来た。見ればそれは。
「この作家だろ?」
「ええ、そうだけれど」
作家名は木林勉という。何かしらおどろおどろしいタイトルの本ばかりだ。しかもどれもこれもが予言の本だからかなりのものだ。
「こいつな、馬鹿なんだぜ」
「馬鹿って?」
「読めばわかるよ」
妹に対して言う兄だった。
「馬鹿じゃなきゃ電波だな」
「電波なの」
「とにかくここにある本全部読めばわかるからな。斜め読みでもいいからな」
「斜め読みでもいいの」
「ああ。どっちにしろ中身もあまりないからな」
少なくともファンの物言いではなかった。見れば持っているその本はどれもかなり乱れている。どうやら大事に扱うというつもりもないらしい。
「読んでみなって」
「わかったわ。それじゃあ」
兄の言葉に従い実際にその本を全部読んでみた。その間彼女は笑い転げることしきりだった。夜遅くまで腹筋を鍛えた後で学校に行った。そして昨日と同じく落ち込んでいる実のところに行ったのだった。
ページ上へ戻る