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英雄伝説~光と闇の軌跡~(FC篇)

作者:sorano
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第56話

普通でないレイヴンのメンバー達を倒しつつ、最上階に向かったエステル達は最上階へ続く階段の上から、人の話し声が聞こえたので階段で耳を澄ました。



~バレンヌ灯台・最上階~



「ふふふ……。君たち、良くやってくれた。これで連中に罪をかぶせれば全ては万事解決というわけだね。」

声の主はなんとダルモアの秘書のギルバートであり、黒装束の男達を黒い笑みでほめた。

「我らの仕事ぶり、満足していただけたかな?」

「ああ、素晴らしい手際だ。念のため確認しておくが……証拠が残る事はないだろうね?」

「ふふ、安心するがいい。たとえ正気を取り戻しても我々の事は一切覚えていない。」

「そこに寝ている灯台守も朝まで目を醒まさないはずだ。」

ギルバートの疑問に黒装束の男達は自信を持って答えた。

「それを聞いて安心したよ。これで、あの院長も孤児院再建を諦めるはず……。放火を含めた一連の事件もあのクズどもの仕業にできる。まさに一石二鳥……いや、院長共をイーリュンのお人好し共が引き取ってくれるからこっちの財産は一切減らない……一石三鳥だな。」

「喜んでもらって何よりだ。」

「しかし、あんな孤児院を潰して何の得があるのやら……。理解に苦しむところではあるな。」

男の一人はギルバートの狙いに首を傾げた。それを見て、気分が良かったギルバートはさらに黒い笑みで答えた。

「ふふ、まあいい。君たちには特別に教えてやろう。市長は、あの土地一帯を高級別荘地にするつもりなのさ。」

「ほう……?」

風光明媚(ふうこうめいび)な海道沿いでルーアン市からも遠くない。別荘地としてはこれ以上はない立地条件だ。そこに豪勢な屋敷を建てて国内外の富豪に売りつける……。それが市長の計画というわけさ。」

「ほう、なかなか豪勢な話だ。しかしどうして孤児院を潰す必要があるのだ?」

ダルモアの考えに黒装束の男は頷いた後、ダルモアの考えを聞いても解けなかった事を尋ねた。男の疑問にギルバートは冷笑して答えた。

「はは、考えてもみたまえ。豪勢さが売りの別荘地の中にあんな薄汚れた建物があってみろ?おまけに、ガキどもの騒ぐ声が近くから聞こえてきた日には……」

「なるほどな……。別荘地としての価値半減か。しかし、危ない橋を渡るくらいなら買い上げた方がいいのではないか?」

ギルバートの答えに納得した男だったが、まだ疑問が残ったので尋ねた。その疑問にギルバートは鼻をならして答えた。

「はっ、あのガンコな女が夫の残した土地を売るものか。だが、連中が不在のスキに焼け落ちた建物を撤去して別荘を建ててしまえばこちらのものさ。フフ、再建費用もないとすれば泣き寝入りするしかないだろうよ……」



「それが理由ですか……」

その時静かな怒りの少女の声がした。

「「「!!」」」

その声に驚いたギルバート達が声のした方向に向くと、そこには武器を構え、怒りの表情のエステル達がいた。

「き、君たちは……!?」

エステル達を見てギルバートは慌てた。

「そんな……つまらない事のために……先生たちを傷つけて……思い出の場所を灰にして……。あの子たちの笑顔を奪って……」

クロ―ゼは顔を伏せ身体中を震わせながら言った。

「ど、どうしてここが判った!?それより……あのクズどもは何をしてたんだ!」

「残念でした~。みんなオネンネしてる最中よ。しっかし、まさか市長が一連の事件の黒幕だったとはね。しかも、どこかで見たような連中も絡んでいるみたいだし……」

焦って尋ねたギルバートの疑問にエステルはしたり顔で答え、黒装束の男達を見て言った。

「ほう……。娘、我々を知っているのか?」

「そこの赤毛の遊撃士とは少しばかり面識はあるが……」

「ハッ、何が面識だ。ちょろちょろ逃げ回った挙句、魔獣までけしかけて来やがって。だが、これでようやくてめえらの尻尾を掴めるぜ。」

黒装束達の言葉にアガットは鼻をならし、いつでも攻撃できる態勢になった。

「き、君たち!そいつらは全員皆殺しにしろ!か、顔を見られたからには生かしておくわけにはいかない!」

「先輩……本当に残念です……」

黒装束の男達に見苦しい態度で命令するギルバートの姿にクロ―ゼは呟いた。

「まあ、クライアントの要望とあらば仕方あるまい。」

「相手をしてもらおうか。」

ギルバートの命令に黒装束の男達は溜息をついた後、両手についている短剣らしき刃物が爪のようについている手甲を構えた。

「ふん、望むところだっての!」

「たとえ雇われてやったのでもあなた方の罪は消えません……」

「『重剣』の威力……たっぷりと味わいやがれ!」

「来ます……!」

「行っくよ~!」

(行くわよ!)

「参ります……!」

そしてエステル達と黒装束の男達の戦いが始まった!



黒装束達は強化されたレイヴン達と比べると身体能力は高くなかったが、そこそこの腕前のためエステル達は手間取った。

「はっ!」

「フッ……」

エステルの攻撃を黒装束の男は無駄のない動きで回避した。

「こちらの番だ……!」

「!」

黒装束の男が武器を構え襲ってくるのを見てエステルが防御の態勢に入った時

(光よ、かの者を守護する楯となれ!防護の光盾!)

すかさずパズモが魔術を使ってエステルに光の膜を覆わせた。光の膜は黒装束の男の攻撃を跳ね返した!

「何!?」

跳ね返った衝撃で両手をあげられた黒装束の男は驚いた。

「そこだ……朧!」

「ぐっ!?」

隙を逃さず狙ったヨシュアのクラフトに男は呻いた。そこをさらに次の魔術の詠唱を終えたパズモが魔術を放った!

(……光よ、集え!光霞!)

「ぐわぁっ!?」

パズモの魔術を喰らってしまった男は悲鳴をあげた。

「超・ねこ、パ~ンチ!」

「ぐはっ!?」

そこにペルルの攻撃が当たり、男はペルルの攻撃を受けて後退した。そこに詠唱を終えたエステルの魔術が男に襲いかかった!

「……大地の力よ、我が仇名す者の力を我の元に……!地脈の吸収!!」

エステルが放った地の魔術は男の足元から木の根が生えて、男の体中に巻き付いた。

「な、なんだこれは……!くそ、放せ……!」

巻きついた木の根に男は驚き木の根を振り払おうともがいたが、木の根はピクリとも動かずそして木の根全てが光った!

「ぐわああああ……!ち、力が……!」

木の根に男の力が吸い取られ、吸い取られた男はその場で膝をついて立ち上がらなくなり、役目を終えた木の根は光の玉となってエステルの身体に入り、今までの戦いで傷ついたエステルの傷を癒した。

「へ~……攻撃と同時に回復もできるなんて、これは使えるわね……!さて、あっちは終わったかな……?」

新しく使った魔術の効果にエステルは両方の拳を見た後、握りしめて勝利の喜びを噛みしめた後残りの一人と戦っているアガット、クロ―ゼ、マーリオンを見た。



「おらっ!」

「くっ……」

アガットの豪快でありながら狙いが正確な攻撃に黒装束の男は必死に避けていた。

「せいっ!」

「……っつ!?」

そこにクロ―ゼのレイピアによる突きの攻撃が男の脇腹を掠った。

「くっ……調子に乗るなっ!」

一端後ろに跳んで後退した男は武器を構え、突進して来た。

「させません……!水よ……行け……!」

「ぐわぁっ!?」

しかし、マーリオンが放った水の魔術――連続水弾をまともに受けてしまったため、のけ反ってしまい動きが止まった。

「……水流よ、吹きあがれ!……ブルーインパクト!」

「なぁっ!?」

そこにクロ―ゼのアーツが放たれ、アーツによって起こされた水流が男の足元から吹きあがって、男を宙に舞わせた。

「出でよ……荒ぶる水……!溺水……!」

「なっ……!ガハッ!?」

さらにマーリオンが放った魔術は宙に舞っている男の真上から滝のような大量の水が発生し、男を地面に叩きつけた!

「そこだぁ!ドラグナーエッジ!!」

「ぐはっ!?」

そして止めに放ったアガットのクラフトが男を吹き飛ばし、吹き飛ばされた男は立ち上がらなくなった。

「そ、そんな馬鹿な……」

黒装束の男達がやられた事にギルバートは愕然とした。

「市長秘書ギルバード。及び、そこの黒坊主ども。遊撃士協会規約に基づき、てめえらを逮捕、拘束する。あきらめて投降しやがれ。」

「ううう……」

アガットの宣告にギルバートは呻きながら後ずさった。

「なかなかやるな……。真っ向からの勝負ではやはり遊撃士は手強い。まさか、”闇夜の眷属”をも仲間にしているとは……」

「ああ、隊長の忠告通り油断すべきではなかったか。」

エステル達に負けた黒装束の男達はなんとか立ち上がって、冷静に言った。

「隊長……。ひょっとして空賊と交渉していた赤い仮面をかぶった人ですか?」

「その事も知っているとは……」

「さすがギルドの犬ども。なかなか鼻が利くようだな……」

ヨシュアの言葉に男達は驚き、口元に笑みを浮かべた。

「負けたくせにな~に余裕かましてんのよ!いいから武器を置いてとっとと降伏しなさいよね!」

「フ、それはできんな。」

エステルの叫びに男は冷笑し、ギルバートに近付き、銃を構えた。

「なっ!?」

「な、なんのつもりよ!?」

男の行動にギルバートは信じられない表情をし、エステルは驚いて近付こうとしたが

「動くな。それ以上近寄ればこいつの頭が吹き飛ぶぞ。」

銃をギルバートの頭に突きつけながら脅迫した。

「き、君たち!?や、雇い主に向かってどういうつもりだ!?」

銃を頭に突きつけられたギルバートは焦って喚いた。



「勘違いするな、若造。我々の雇い主は市長であって貴様ではない。」

「市長にしたところで同じこと。利害が一致していたから協力していたに過ぎん……」

「お前がここで死のうが我々は痛くも痒くもない。」

「ひ、ひいいいい……。撃つな、撃たないでくれ!」

本気の様子の男達を見て、ギルバートは命乞いをした。

「コラ、いいかげんにしろや。そんな下手な芝居打って逃げられると思って……」



バン!



男達の行動をその場を逃れる芝居と思ったアガットは気にもせず近付こうとしたその時、男の銃が火を吹いてギルバートの片足を撃ちぬいた。

「ぎゃあああっ……。あ、足が……僕の足がああ!!」

片足を撃ち抜かれ、撃たれた所から血が流れ出たギルバートは撃たれた足を庇って悲鳴を上げた。

「せ、先輩!?」

「チッ……」

「どうやら本気みたいですね。」

男の行動にエステル達は驚いた。

「これでも納得しないなら……。こちらの灯台守の頭を撃ち抜いてもいいのだが?」

そしてもう一人の男が、眠っている灯台守の老人の頭に銃を突きつけた。

「や、やめなさいよ!その人は関係ないでしょ!」

男の行動にエステルは思わず、叫んだ。

「ならば、しばらくの間離れていてもらおうか……。そうだな……階段の近くまで下がれ。」

「フン、仕方ねえな……」

男達の要求にアガットは舌打ちをして、エステル達と共に階段の近くまで下がった。

「ふふ、いいだろう。」

「それでは、さらばだ。」

そして男達は灯台の修理用の出口から撤退した。

「待ちなさいってーの!」

「逃がすか、オラあッ!」

男達が出口から出ると当時にエステル達は男達が逃げた出口に向かって駆けて、出口を出た。しかし出口を出た時、男達の姿はなく、ワイヤ―ロープのフックが灯台の手すりに引っ掛かっていた。



「脱出用のワイヤーロープ!?」

「な、なんて用意周到なやつらなの!?」

手すりにフックが引っ掛かっているワイヤーロープを見て、ヨシュアとエステルは驚いた。

「………………………………。……秘書野郎とバカどもの面倒は任せたぞ。」

「えっ……?」

「俺はこのまま連中を追う!お前らは、今回の事件をジャンに報告して指示を仰げ!」

エステル達にそう言い残したアガットはワイヤーロープで降りて行った。

「ボクはルーアンに行ってリフィア達に伝えて先回りしてもらうから、プリネにすぐ戻って来る事を伝えておいてね!」

「あ、ペルル!」

ペルルは夜闇の空へ飛び上がり、エステル達に伝えた後ルーアンに向かって飛んで行った。



そしてエステル達は奪われた寄付金を取り戻した後、ギルバートやレイヴン達を拘束してマノリアの風車小屋に連れて行った。



~メ―ヴェ海道・夜~



黒装束達が逃亡して少しした頃、そこにはペテレーネを先にホテルに帰らせて、コリンズと色々な話をして帰りが遅くなったリウイがルーアンのホテルへの帰路についていた。

「予想以上に話が長引いてしまったな……しかし、”闇夜の眷属”の子供達の留学……か。種族間の壁を取り払う策の一つとしては使えるかもしれん。……プリネが世話になった礼もあるし、考えておくか。……ん?」

考え事をしながら独り言を呟いていたリウイだったが、空から自分に近づいて来る気配がしたので、空を見上げると、そこにはペルルがリウイに近付いて来た。

「あ――!見覚えのある後ろ姿だと思ったけど、プリネのお父さんだ!ルーアンのホテルに帰ったんじゃないの?」

「……プリネの使い魔か。学園長と少し話をしていてな。今帰るところだ。それで何の用だ。」

「うん、あのね……!」

そしてペルルは孤児院の放火事件や黒装束の男達について説明し、リフィア達に先回りしてもらうために逃亡している黒装束の男達を抜いて、ルーアンに知らせるために飛んでいたが、その途中で見覚えのある人影を見たので話しかけた事を言った。

「……なるほど。それでその黒装束とやらの特徴はどんなのものだ?」

「えっと……確か……」

ペルルはリウイに黒装束達の特徴を思い出しながら説明した。

「……………………」

「えっと、どうしたんですか?」

黒装束の特徴を聞き、考え込んでいるリウイを不思議に思ってペルルは尋ねた。

「少し気になる事ができた。報告御苦労。お前はプリネの元に戻れ。」

「え……でもリフィア達にまだ言ってないし……」

「あいつらの場合、やりすぎて殺してしまう可能性がある。そいつらには少々用があるしな……俺自らが追おう。だから安心しろ。」

「う、うん。じゃあ、お願いします!」

リウイの答えに戸惑いながら頷いたペルルは再び空へ飛び上がり、主であるプリネの元へ飛んで行った。ペルルが飛び上がるのを見送った後、リウイ懐からメンフィル帝国が開発した導力技術と魔術、魔導技術によってできた小型の通信機に魔力を流し込んだ後、ある人物と通信をした。



「俺だ。聞こえるか、ファーミシルス。」

「いかがなさいましたか、リウイ様。確か本日はペテレーネやティア様と共にルーアンに一泊するとの事でしたが……」

「ああ。リフィア達の報告にあった例の情報部とやらが動いた。」

「ああ……最近大使館の周りやロレント市民に我々の事をコソコソと嗅ぎまわっているネズミ共ですか。相手は一応同盟国のため様子見をしていましたが、一体どんな動きをしたのですか?」

通信機からは黒装束達を嘲笑するようなファーミシルスの声がした。

「実はな………」

そしてリウイはファーミシルスにペルルから聞いた事を説明した。

「……なるほど。今回の件を利用すればリベールのネズミ共の目的がわかりますね。」

「ああ。何の罪もない一般市民達が住む住居を放火したり、直接襲った者達だ。これなら向こうから何か言われても大義名分が立つ上、遠慮なく拷問して奴らの狙いがわかるかもしれん。俺は今から奴らを追う。今から来れるか?」

「はっ。こちらでリウイ様が持たれている通信機の現在地がわかりますので今から参ります。」

「ああ。」

そしてリウイは通信機を懐に仕舞った後、気配を感じたので近くの木の影に身を潜めた。少しすると逃げて行く黒装束の男達とそれを追うアガットが通り過ぎた。

「今の男の胸についていた紋章は遊撃士協会の………まあいい。気付かれない程度に追うか。」

姿を現したリウイはアガットの服についていた紋章を思い出し少しの間考えていたが、優先すべき事のために考えるのをやめ、気配を消してアガットの後を追った…… 
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