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英雄伝説~光と闇の軌跡~(FC篇)

作者:sorano
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外伝~白き翼と闇王~前篇

~ジェニス王立学園・講堂・控室~



学園祭終了後、片づけを終えた後プリネは用事があると言って、急いで講堂から出て、エステルとヨシュアは控室でクロ―ゼと共にジルやハンスに労われていた。

「いや~、ほんとお疲れ!監督の私が言うのも何だけど、最高の舞台だったわよっ!」

「最初、男女が逆ということで笑われてしまったけれど……。みんな、劇が進むに連れて真剣に見てくれて本当によかった。」

クロ―ゼは笑顔で観客達の様子を語った。

「うん、そうだね。あんな恰好した甲斐があったよ。もう2度としたくないけど……」

「はは、そんなこと言うなよ。写真部の連中が劇のシーンを何枚か撮っていたけど……。お前さんの写真がどれだけ売れるか楽しみだぜ。」

「ハア、勘弁してよ……」

女装から解放されて安堵の溜息を吐いたヨシュアだったが、ハンスの言葉に顔を顰めて疲れた溜息を吐いた。

「エステルたちの写真もすっごく売れると思うわよ。男子はもちろん下級生の女の子あたりにもね。『お姉さま』なーんて呼ばれちゃったりして♪」

「もう、ジルったら……………………………………」

からかうような口調で語るジルにエステルは苦笑した後、ある事を思い出し黙った。



「あれ……。どうしたの、エステル?」

エステルの様子に首を傾げたヨシュアは尋ねた。

「あ、うん。ほら、劇の最後で公爵さんが邪魔した事を思い出しちゃって……」

「あ………」

エステルの言葉にクロ―ゼは気不味そうな表情で声を上げた。

「あの時はビックリしたね。……本当にどうなるかと思ったよ。」

「私も劇が滅茶苦茶になって、本気で心配したけどエステルを助けた男性が間に入ってくれてから、プリネが真っ先にカバーしてくれて本当にあの時は助かったわ。」

エステルの言葉で思い出したヨシュアは頷き、ジルは劇の事を思い出し、安堵の溜息を吐いた。

「結局、誰だったんだろうな?エステルを助けた男性。……なんかどっかで見た事がある気がするんだよな……?」

「エステル、名前は聞いた?」

ハンスはリウイの事を思い出して首を傾げ、ヨシュアは尋ねた。

「うん。リウイって名乗っていたよ。」

「え………!?」

「嘘!?」

「マジかよ……!?」

「……………」

エステルの口からリウイの名を聞き、ただ一人リウイを知っていて、黙っていたクロ―ゼを除いてヨシュア達は驚いた。



「ど、どうしたの!?」

ヨシュア達の様子にエステルは慌てて聞き返した。

「エステル………エステルがいっしょに戦った男性だけど………学園祭に観に来ていたのが信じられない人でみんな驚いたんだ。エステルはその人の名を聞いて、何も思わなかったのかい?」

「う、うん。な~んか、どっかで聞いた事はある名前なのよね……」

ヨシュアの質問にエステルは首を傾げながら答えた。

「……その名を名乗る事を許されているのは世界で唯一人。………異世界の王にして、”闇夜の眷属”を束ねる王………前メンフィル皇帝、リウイ・マーシルン陛下唯一人です、エステルさん。」

「あ、あ、あんですって~!?」

クロ―ゼの説明にエステルは信じられない表情で叫んだ。

「道理でどっかで見た事あると思ったぜ……社会科を履修しているし、もちろんメンフィルの重要人物の事は全て覚えたのに、なんですぐにわからなかったんだ俺は……!」

「しょうがないんじゃない?だって、あんた教科書に載っていたリウイ皇帝陛下の顔に落書きしていたじゃない。」

「うぐ!それは……!」

ジルの言葉にハンスは後ずさった。そしてクローゼは驚いた表情でハンスに尋ねた。

「まあ………どうしてそのような事を?」

「いや、まあ………なんというか……ほら、メンフィル皇帝の周りって側室や大将軍、闇の聖女と女性だらけでしかも全員美人じゃねえか。しかも、高齢のアリシア女王より年上って言われているのに俺達のちょっと上程度にしか見えない上、イケメンだし。ある意味男の敵だろ?嫉妬心でついやっちまったんだよな……ヨシュアなら、俺の気持ち、わかってくれるよな!?」

「ごめん。全然わからない。」

ハンスに同意を求められたヨシュアは笑顔で否定した。

「この裏切り者め~………」

「はいはい。」

ヨシュアの答えを聞いたハンスは恨みごとを呟きながら、ヨシュアを睨んだ。睨まれたヨシュアは相手にしなかった。



「…………………」

「エステルさん、どうしたんですか?」

リウイの正体を知り呆けているエステルを不思議に思ったクロ―ゼが話しかけた。

「ふえっ!?な、何かな!?」

「エステルさん、リウイ皇帝陛下の事を知ってからずっと呆けていましたけど、どうかしたんですか?」

「う、うん。ちょっとね……(なんだろう?初対面だったはずなのに、どっかで見た事あるのよね……それにあの人といっしょに戦った時、黒髪の女の人と金髪の女の人があのリウイって人と肩を並べて戦っている後ろ姿が一瞬見えたのはなんだろう……?)」

「?」

言葉を濁すエステルにクロ―ゼは首を傾げた。そしてエステルは慌てて話題を変えた。

「そ、それにしても、さすがはメンフィル帝国の元、王様よね~。剣の腕も凄かったけど、こう……なんていうか、纏っている雰囲気が桁違いに凄かったわ……あの威張った公爵さんとは全然違うわ。……今考えるとまさに王様!って感じがしたもの。」

「2対1という普通なら不利な状況なのに、加えて相手が王室親衛隊員達だったのに余裕であしらっていたのを見て、あの時はマジで驚いたぜ……」

エステルとハンスはリウイの事に関してそれぞれ感想を言った。

「………リウイ皇帝陛下の武は”大陸最強”とまで称されるほどの強さだそうですから、いくら王室親衛隊といえども、敵わないでしょう。」

「た、大陸最強~!?それって誰も勝てないって事じゃない!あれ?(ねえねえ、ヨシュア。)」

リウイの評価にエステルは驚いた後、ヨシュアに小声で話しかけた。

(何?エステル。)

(さっきの男性がもしかしてプリネのお父さんだったのかな?)

(もしかしなくてもそうだよ。ついでに君が憧れている”闇の聖女”さんの夫でもあるよ。)

エステルの鈍感さにヨシュアは呆れた後、答えた。

(聖女様の………でも、凄く若く見えたわよね?あたし達のちょっと上程度にしか見えなかったし。それに確か、リフィアのお祖父ちゃんなのよね?全然、そうは見えなかったわ……)

(そうだね。あれほどの腕を持っている人が直に教えたら誰だって強くなるだろうね。プリネがいい例だよ。)

(そうね………)

エステルは年齢に合わない強さのプリネの事を思って、ヨシュアの言葉に頷いた。



「……それにしても、今回の件が問題にならないといいんだがな。」

「へ?それってどういう事??」

ハンスの言葉にエステルは首を傾げた。

「酔っていたとはいえ、リベールの王族が親衛隊に命じて、メンフィル皇帝に剣を向けさせた事って大問題だと思うんだが……」

「あ~……そっか。あの時、リウイ皇帝陛下が舞台に現れた時点で剣を引いて、観客達やリウイ皇帝陛下に謝れば大丈夫だったと思うんだけど、そのまま戦闘に突入しちゃったもんねぇ……」

「………………」

意味がわかっていないエステルにハンスは説明した。ハンスの説明にジルは横目で不安そうな表情をしているクローゼを一瞬見た後、気不味そうな表情で答えた。

「最悪の予想だけど………良くて、同盟が解消………悪くて、今回の件が原因でメンフィルと戦争になる可能性も出て来てるよね…………」

「そ、そんな!?」

ヨシュアの予想にエステルは悲痛な表情で声を上げた。

「あくまで予想だよ、エステル。リウイ皇帝陛下はアリシア女王陛下のような人格者であるらしいから、今回の件ぐらいでそこまで発展しないと思うよ?」

「で、でも…………」

ヨシュアに諭されたエステルだったが、まだ不安そうな表情をした。そしてずっと黙って聞いていたクロ―ゼが決意を持った表情で口を開いた。

「あの……私、少し席を外します。だから、ちょっとだけ待ってて下さい!」

「あ、クローゼ!」

呼び止めるエステルの声を背中に受け、クローゼは急いで講堂を出て、頼もしい友人を呼んだ。



「ジーク!」

「ピューイ!」

クローゼに呼ばれたジークは空から飛んできて、クローゼの肩に止まった。

「………プリネさんを探して貰えるかしら?校舎内のどこかにいると思うから。」

「ピュイ!」

クローゼの言葉を理解したジークは飛び立ち、クローゼ自身もプリネやリウイを走って探し始めた。そしてしばらく探すと、フィリップや親衛隊員達に何度も頭を下げられ、それを優しく諭しているペテレーネとティアを見つけた。

(あの方はもしや………ペテレーネ様!?それに横にいるのはティア様……!よかった、まだリウイ陛下は去っていないようですね……)

リウイの側室であるペテレーネを見つけ驚いたクロ―ゼだったが、常にリウイの傍にいるペテレーネを見て、リウイはまだ学園を去っていないと思い、安堵の溜息を吐いた。そしてフィリップと気絶したデュナンを背負った親衛隊員達がペテレーネとティアに何度も頭を下げた後、学園から去って行き、それを見送ったペテレーネとティアはどこかに向かって歩き出した。

(………もしかして、リウイ陛下の所かしら?あの方向は確か……旧校舎ですね……)

物陰に隠れてペテレーネとティアが歩いて行った方向を見送ったクローゼは2人の行き先を推測した。そこにジークが再びやって来てクローゼの肩に止まった。

「ピューイ!」

「ジーク!プリネさんを見つけたの?」

「ピュイ。」

クローゼの言葉に答えるようにジークは飛び上がり、案内をするようにゆっくり飛んで進み始めた。

「……どうやらプリネさんも旧校舎にいるようですね………………………(迷っていてはいけない……よし!)」

もしリウイがプリネといっしょにいた時、自分の正体がバレてしまう事を恐れて迷っていたクローゼだったが、迷いを振り切り、ジークを追いかけた……… 
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