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英雄伝説~光と闇の軌跡~(FC篇)

作者:sorano
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第53話

まちに待った学園祭の開始時間になると、劇が始まる時間になるまでプリネはリフィアやエヴリーヌと共に学園を廻って楽しみ、エステルはヨシュアとクロ―ゼと共に学園を廻って今までの旅で出会った人――ナイアル、メイベルとリラ、警備に来ている遊撃士のカルナに挨拶し、

フィリップと護衛の数名の私服を着ている親衛隊員を連れたデュナン公爵がいるのを見て苦笑した後、たまたま出会ったアルバ教授を社会科教室に案内した後、マーシア孤児院の子供達と出会った。



~ジェニス王立学園・正面玄関~



「あっ、姉ちゃんたち!」

クラムの声に気付いたエステル達は孤児院の子供達に近づいた。

「みんな……。来てくれたのね!」

クラム達を見てクロ―ゼは嬉しそうに答えた。

「ママ!」

「おっと。相変わらず甘えん坊ね、ミントちゃん。」

エステルの姿を見て抱きついたミントを受け止めたエステルはミントの頭を撫でながら言った。

「えへへ……だってミント、ママに早く会いたかったもん。」

頭を撫でられて嬉しいミントは可愛らしい笑顔で答えた。

「あの………ご主人様は……?」

そこにエステル達の中にプリネの姿が確認できなかったツーヤが尋ねた。

「プリネは今、他の人達と廻っているわ。プリネに何か用?」

「はい。………その”パートナー”の件がどうなったか気になって……」

「あ、そのことね。………ミントちゃん、ツーヤちゃん。」

「はい。」

「ママ?」

真剣な表情になったエステルにツーヤは緊張し背筋を伸ばし、ミントは首を傾げた。

「”パートナー”の件だけど……プリネ共々喜んで引き受けるわ。」

「本当!?わーい!」

「あの、本当にご主人様は私の”パートナー”になってくれるって言ったんでしょうか?」

エステルの了承の言葉にミントは喜び、ツーヤは期待する目で確認した。

「うん。プリネも『私なんかでよければ、喜んでなります。』だって。」

「そうですか………よかった………」



「ふふ……。テレサ先生と一緒に来たの?」

一方ヨシュアといっしょにクラム達の相手をしていたクロ―ゼは微笑みながら尋ねた。

「うん、そこで他の人と話をしてたけど……。あ、来た来た♪」

クラムは笑顔で後ろに向いた。そしてテレサがエステル達のところに近付いた。

「ふふ、こんにちは。」

「あ、テレサ先生!」

「先生……こんにちは。」

「今日は招待してくれて本当にありがとうね。子供たちと一緒に楽しませてもらってますよ。」

テレサは笑顔でエステル達に学園祭に招待してもらったお礼を言った。そこにクラムとマリィが期待した目でクロ―ゼに尋ねた。

「なあ、クローゼ姉ちゃん。姉ちゃんが出る劇っていつぐらいに始まるのさ?」

「あたしたち、すっごく楽しみにしてるんだから♪」

「そうね……。まだ、ちょっとかかるかな。ちなみに、私だけじゃなくてエステルさんたちも出演するのよ?」

「ほんと?わあ、すっごく楽しみ~!」

「ヨシュアちゃん、どんな役で出るのー?」

「えっと……何て言ったらいいのか……」

ポーリィの質問にヨシュアは言葉を濁した。



「あはは……。見てのお楽しみってね♪それより院長先生。まだ、マノリアにいるの?」

「はい、宿の方のご好意で格安で泊めて頂いています。ですが……」

「???」

閉口するテレサにエステルは首を傾げた。

「………………………………ねえ、みんな。劇の衣装、見たくない?綺麗なドレスとか騎士装束がいっぱいあるよ。」

「綺麗なドレス!?」

「騎士しょーぞく!?」

事情を大体察したヨシュアは子供達に提案し、クラムやマリィが誰よりも早く期待した目で反応した。

「ふふ……。興味があるみたいだね。それじゃあ特別に劇の前に見せてあげるよ。」

「やったぁ!」

「ポーリィもいくー。」

「ママ、ミントも行っていい?」

「うん。行っておいで。」

「わーい!ツーヤちゃんも行こう!」

「うん、ミントちゃん。」

(舞台の控え室にいるからあとからゆっくり来てよ。)

エステル達に小声で耳打ちしたヨシュアは子供達を講堂に連れて行った。



「ふふ、ヨシュアさんは本当に気が利く子ですね。ちょっと、子供たちの前では言いづらいことだったので……」

「それじゃ、ひょっとして……」

テレサが閉口していた意味がようやくわかったエステルは尋ねた。

「ええ、秘書の方が提案されたイーリュンの信徒の方々が経営する孤児院にお世話になる事に決心がつきました。これ以上、マノリアの方々に迷惑をかけられませんから。今日の学園祭が終わったらあの子たちにも打ち明けます。」

「そう……ですか……。寂しくなるけど……仕方ありませんよね……」

テレサの決心にクロ―ゼは暗い顔をして俯いた。

「ふふ、そんな顔をしないで。ロレントとはいっても飛行船を使えばすぐの距離です。それに私、ロレントに行ったら子供達の事はイーリュンの信徒の方々に任せて、仕事を捜そうと思っています。ミラを貯めて、いつかきっと孤児院を再建できるように……」

「院長先生……」

「………………………………」

寂しそうな笑顔で話すテレサにエステルとクロ―ゼはかける言葉がなく、黙っていた。

「そういえば、エステルさん。あなたとプリネさん、ミントとツーヤの事……決心してくれたようですね。」

「は、はい!あたしなんかがミントちゃんのママになれるか正直不安ですけど……頑張ってあの子を育てます!それとプリネはメンフィル帝国の大貴族の人ですから、プリネの傍にいるツーヤちゃんは輝かしい未来があると思いますから、安心して下さい!」

「そうですか……ありがとう、エステルさん。プリネさんにも後で改めてお願いしに行くと伝えておいて下さい。さてと……。あの子たちの後を追いますか。ヨシュアさん1人に任せておくわけにはいきませんからね。」

そしてエステル達は講堂の楽屋に向かったが、子供達だけがいてヨシュアはポーリィの銀髪の青年を見たという発言を聞くと、目を丸くした後出て行った事を聞き、心配になったエステルは子供達の事はテレサに任せ、クロ―ゼと共にヨシュアを探した。



~ジェニス王立学園・旧校舎~



「おかしいな……。確かに気配があったはずなのに……。……でも、まさか……」

旧校舎の屋上でヨシュアは立ち尽くし、独り言を呟いていた。

「ヨシュア~っ!」

そこにヨシュアを見つけたエステルとクロ―ゼが走って近付いた。

「エステル、クローゼ……」

「もう、あんまり心配かけないでよね!銀髪男を追いかけたっていうからビックリしちゃったじゃない。」

「あれ……。何で知ってるんだい?」

「ポーリィちゃんが教えてくれたんです。あの子も見ていたらしく……」

首を傾げているヨシュアにクロ―ゼが理由を答えた。

「そうか、鋭い子だな……。それらしい後姿を見かけてここまで追ってきたんだけど……。どうやら撒かれたみたいだ。」

「まあ……」

「ヨシュアを撒くなんて、そいつ、タダ者じゃないわね。いったい何者なんだろ?」

「……わからない。ただ、孤児院放火の犯人じゃなさそうな気がする。あくまで、僕のカンだけどね。」

「そっか……。それにしても……どうして1人で行動するかな?」

「本当にそうですよ。私たちに伝言するなりしてくれればいいのに……」

「ごめん。心配かけたみたいだね。」

2人に軽く責められたヨシュアは謝罪した。

「べ、別に心配してないってば。あくまでチームワークの大切さを指摘しているだけであって……」

素直に謝罪したヨシュアにエステルは照れながら答えた。

「うふふ、ウソばっかり。さっきは、あんなに慌てていたじゃないですか?」

「そ、そんな事ないってば。そういうクローゼだって真剣な顔してたクセにさ~。」

「そ、それは……」

「はは……。2人ともありがとう。」

2人の会話を聞き、ヨシュアは苦笑してお礼を言った。その時、校内アナウンスが流れた。



「……連絡します。劇の出演者とスタッフは講堂で準備を始めてください。繰り返します。劇の出演者とスタッフは講堂で準備を始めてください。」



「そっか……。もうそんな時間なんだ。」

「はい、衣装の準備をしたらすぐに開演になると思います。」

「よーし、それじゃあいよいよ出陣ってわけね!あ、銀髪男の方はどうしよう?」

「そうだね……。カルナさんに伝えて注意してもらうしかなさそうだ」

その後エステル達はカルナに銀髪の青年の情報を伝えた後、講堂に向かった。

~ジェニス王立学園・中庭~



「……連絡します。劇の出演者とスタッフは講堂で準備を始めてください。繰り返します。劇の出演者とスタッフは講堂で準備を始めてください。」



「………どうやら、時間のようです。お姉様方。」

一方中庭でリフィアやエヴリーヌといっしょに軽くお茶をしながらおしゃべりしていたプリネは放送を聞き、緊張した。

「うむ!悔いのないよう、精一杯頑張ってくるがよい!」

「頑張ってね、プリネ。応援してるよ。」

「フフ、2人ともありがとうございます。では……行ってきます!」

リフィアの応援の言葉に微笑んだプリネは講堂に向かった。

「………お兄ちゃん達、来なかったね。」

「うむ。………仕方ないと言えば仕方ないが、リウイやペテレーネにはぜひ観て貰いたかったのだがな……」

プリネの走って行く後ろ姿を見送り呟いたエヴリーヌの言葉にリフィアは残念そうな表情で溜息を吐き頷いた。



「………誰が来ないと言った。」

「あ………」

「その声は……!」

大好きな人物の声が自分達の背後から聞こえ、期待した目をしたエヴリーヌとリフィアが振り向くとリウイとティア、髪を下し眼鏡をかけたペテレーネがいた。

「久しいな。2人とも。」

「お2人ともお元気そうで何よりです。」

「フフ、プリネさんが出てる劇には私も興味があったのでこちらに来させていただきました。まさか、お父様とペテレーネ様もいらっしゃるとは思いませんでしたが……」

リウイとペテレーネは相変わらずの2人に口元に笑みを浮かべ、ティアはなぜリウイ達といっしょにいるかの理由を説明した。

「お兄ちゃん!」

「おお、リウイ!それにティア殿も!………ん?ペテレーネ、お前目が悪かったか?髪型もいつもと違うようだが……」

リウイ達の登場に喜びの声を上げたリフィアはいつもと違う姿のペテレーネに気付き首を傾げて尋ねた。

「あ、これは……その……変装です。」

「変装?なぜ、そんな事をする。」

「………無暗な混乱を起こさせないために一応念のためにさせた。………ペテレーネは日曜学校や新聞等で顔が割れているからな。」

「む?それを言ったら、リウイ。お前やティア殿もそうではないのか?」

リウイの説明にリフィアは不思議に思い、尋ねた。

「俺やティアは騒がれても対処できるが、ペテレーネには難しいだろうからな……」

「あう……すみません、リウイ様……」

「………別にいい。お前はこちらの世界に来るまで、公の場で皇族として出た事がなかったのだから仕方ない。ゆっくりでいいから慣れていけ。」

「リウイ様……」

自分を気遣うリウイの優しさにペテレーネは顔を赤くした。

「フフ、お2人とも相変わらず仲がよくていいですね。それよりお父様。そろそろ向かいませんか?劇ももうすぐ開演するようですし。」

「そうだな。……一番後ろから観るぞ。その方が騒がれる可能性も少ないしな。」

ティアの言葉に頷いたリウイはペテレーネやリフィア達を連れて講堂に向かった。



~ジェニス王立学園・講堂~



衣装に着替えたエステルは舞台脇からそっと観客達の様子を見た。

「うっわ~……。めちゃめちゃ人がいる~。あう~、何だか緊張してきた。」

「大丈夫ですよ、エステルさん。あれだけ練習したんですから。」

「ええ、いつも通りやれば失敗はありません。」

用意されてある椅子が観客達によってほぼ全て埋まっているのを確認し、緊張しているエステルに同じように衣装に着替えたクロ―ゼやプリネが元気づけた。

「2人の言う通りだよ。それに劇が始まったら他のことは気にならなくなるさ。君って、1つの事にしか集中できないタイプだからね。」

「むっ、言ってくれるじゃない。でもまあ、そのカッコじゃ何言われても腹は立たないけど♪」

「う………」

エステルはセシリア姫の衣装を着ているヨシュアを見て笑って答えた。まだ割りきれていないヨシュアはエステルのからかう言葉に珍しく反撃できなかった。

「はいはい。痴話ゲンカはそのくらいで。……今年の学園祭は大盛況よ。公爵だの市長だのお偉いさんがいるみたいだけど私たちが臆することはないわ。練習通りにやればいいとのこと。」

「俺たち自身の手でここまで盛り上げてきた学園祭だ……。最後まで、根性入れて花を咲かせてやるとしようぜ!」

「「「「「「「「「「お~!!!!!!」」」」」」」」」」

ジルとハンスの言葉にエステル達は手を天井に上げて乗った。そしていよいよ劇『白き花のマドリガル』が開演した………! 
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