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英雄伝説~光と闇の軌跡~(FC篇)

作者:sorano
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第51話

~ジェニス王立学園・講堂内舞台~



「うーん、これが舞台衣装か。騎士っていうから鎧でも着るのかと思ってたけど。」

「さすがに甲冑だと演技に支障をきたすからね。現在の、王室親衛隊の制服をアレンジする方向で行ったのよ。」

赤を基調とした芝居用の騎士服を着たエステルは自分が着る服のあちこちを見て呟き、ジルが説明した。

「ふーん、そうなんだ。クローゼさんはショートだし、ハマリ役って感じがするけど。」

「ふふ、ありがとうございます。エステルさんもとても良く似合ってますよ。」

「えへへ、そうかな?ところで……。なんで色違いになってるの?」

エステルはクロ―ゼの着る騎士服が蒼を基調とした服である事に気付いて尋ねた。

「私が演じるのは平民の『蒼騎士オスカー』。エステルさんが演じるのは貴族の『紅騎士ユリウス』。それぞれの勢力のイメージカラーなんです。」

「は~、なるほど。それじゃ、ヨシュアは……」

クロ―ゼの説明に納得したエステルが言いかけた所ハンスの声が舞台わきからした。

「2人の騎士の身を案ずる王家の『白の姫セシリア』だ。ささ姫、どうぞこちらへ。」

「ちょ、ちょっと待った。……まだ心の準備が……」

ヨシュアは抵抗する言葉を言ったがハンスに無理やりエステル達の前に出された。



「………………………………」

舞台に引き出されたヨシュアは腰まで届くウィッグを被り、白を基調としたドレスを着、頭にはティアラを着け、容姿も合わせて美しい深窓の姫君のように見えた。

「………………………………」

「………………………………」

「………………………………」

「………………………………」

エステル達はヨシュアの姿に言葉を失くした。

「頼むから何か言って……。このまま放置されるのはちょっとツライものがある……」

言葉を失くし黙っているエステル達にヨシュアは居心地が悪く思い、言った。

「いやぁ、何て言うか……。ぜんっぜん違和感ないわね♪」

「びっくりしました。はぁ、すっごく綺麗です……」

「ええ………正妃様や側室の方々のドレス姿と並んでも見劣りしない姿ですよ……」

「うんうん、自信持っていいぞ。事情を知らずにあんたを見たら、俺、ナンパしちゃいそうだもん♪」

ヨシュアの姫の姿にエステルとハンスは褒め称え、クロ―ゼとプリネは見惚れていた。

「正直な感想、ありがとう。ぜんぜん嬉しくないけど……」

エステル達の褒め称える感想にヨシュアは溜息を吐いた。



「ムフフ……。まさに私の狙い通り……。この配役なら、各方面からウケを取れること間違いなしね……。プリネさんの衣装はもう少しだけ待ってね。今、急いで作らせているから。」

「はい、ありがとうございます。」

「それじゃあ、みんな、一致団結して最高の舞台にするわよ~っ!!!」

「おーっ!」

「「はいっ!」」

「うーっす!」

「しくしく……」

ジルの場を盛り上げる言葉に一人悲しんでいるヨシュアを除いて、エステル達は拳を空にあげて乗った。

そして練習が終わった夜、エステルとプリネ、ヨシュアはそれぞれ女子寮と男子寮に泊まることになった。



~ジェニス王立学園・女子寮の一室~



「では……、エステルさん、プリネさん。申し訳ないんですが……ベッドを2人で使ってもらう事になるのですがよろしいでしょうか?」

「はい、私は大丈夫です。」

「ベッドも広いし2人がいっしょに寝るには十分よ!それに一度プリネと一緒のベッドで寝ておしゃべりしたいと思ってたし。」

「フフ、私もです。」

エステルはプリネを見て言い、プリネはエステルに微笑んで答えた。

「でも、クローゼさんとジルさんって同じ部屋なんだ。道理で仲がいいわけね。」

「ふふ……。学園に入って以来の仲です。」

エステルの言葉にクロ―ゼは微笑みながら答えた。

「ルームメイトにして腐れ縁ってところかしらね。ところで、エステルさん、プリネさん。1つ提案があるんだけど……」

「なに?」

「なんでしょう?」

ジルの言葉にエステルとプリネは首を傾げた。

「私のことは、ジルって呼び捨てにしてくれるかな?さん付けされるとなんだかムズ痒いのよね~。代わりに私も、エステルやプリネって呼び捨てにさせてもらうから。」

「あはは……。うん、そうさせてもらうわ。」

「う~ん……私はこの口調が癖になっていますから難しいと思いますが、努力はしてみますね。」

「でしたら、私のこともどうか呼び捨てにしてください。その方が自然な気がしますし……」

そこにクロ―ゼも自分の事を呼び捨てにするように2人に言った。

「そう?だったら遠慮なく……。ジル、クローゼ。しばらくの間プリネ共々、よろしくね♪」

「はい、こちらこそ。」

「まあ、女所帯だし気軽に過ごしてもいいわよ。建物の中にいる限りは男子の目も気にしなくていいし。」

「だからと言って、だらしないのは感心しないけど。」

ジルの言葉にクロ―ゼは苦笑しながら答えた。



「はあ~、これだからいい子ちゃんは困るのよね。カマトトぶっちゃってもう。」

「あ、ひどい。そんな事を言う子にはお菓子焼いてもあげないから。」

「あ、うそうそ。クローゼ様。私が悪うございましたです。」

「だーめ、反省しなさい。」

「「………………………………」」

ジルとクロ―ゼが楽しそうに会話しているのをエステルとプリネはその様子を黙って見ていた。

「あら……?」

「どうしたの、エステル、プリネ?まじまじと見詰めたりして……」

「あはは、いやあ~……。なんだかうらやましいなって。」

「ええ、なんだかお二人が眩しく感じます。」

「うらやましい?」

エステルとプリネが自分達を羨ましがっているのがわからず、ジルは首を傾げた。

「あたしもロレントに仲のいい友達はいるけど……。せいぜい、お互いの家にお泊りするだけだったのよね。こんな風に、気の合う友達と一緒に暮らせていいなって思って。」

「ええ。私なんか今までの遊び相手は家族であるお姉様達しかいませんでしたし、赤の他人とこのような協同生活をした事がないんです。」

「……クローゼ、どう思う?」

「どうって言われても……。プリネさんはともかくエステルさんに羨ましがられるのはちょっと納得いかないような……」

「へ?」

ジルとクロ―ゼの言葉の意味がわからず、エステルは首を傾げた。



「もしかして……」

「プリネはわかったようね。そんで肝心の本人はあ、やっぱり?何言ってやがるんだこのアマは、って感じよね。」

「な、なんで!?」

「あんたねぇ……。自分が、誰と一緒に旅をしてるのかわかってる?自宅では、一つ屋根の下で暮らしていたんでしょーが。」

何もわかっていなく驚いているエステルにジルは首を横に振って、溜息を吐いた。

「え……それって。もしかしてヨシュアの話?」

「もしかしなくてもそうですよ。」

「あんな上玉の男の子といつも一緒にいるくせに女所帯を羨ましがるとは……。もったいないオバケが出るわよ?」

「も~、何言ってるかなぁ。ヨシュアはあたしの兄弟みたいなものだってば。何年もの間、家族同然に暮らしてきたんだから。」

ジルの言葉にエステルは溜息を吐いた後、平然と答えた。しかしジルは目を妖しく光らせて尋ねた。

「ほほう、家族同然ね……。あんたがそのつもりでもヨシュア君の方はどうかしら?」

「え。」

「あの年頃の男の子って抑えが利かないって言うし。まして、あんたみたいな健康美あふれた子が傍にいたら色々とつらかったりして……加えてプリネみたいな自分よりちょっとお姉さんで清楚な雰囲気を持っている子が傍にいたらさらにつらいんじゃないかしら……?スタイルも私達とは比べ物にならないくらいいいし。」

ジルはプリネに近付いて突然プリネの胸を揉んだ。

「キャッ!?」

「ジ、ジル!?」

ジルの行動にプリネは驚き、即座に胸の部分を両手で隠し、クロ―ゼも驚いた。

「う~む、やはり胸も結構あるわね……腰も細い上容姿も抜群。女として完璧で妬ましいわね~……」

「あ、あはは………私の容姿はお母様譲りですから、そんな事を言われても……」

「…………………………」

「もう、ジル!ごめんなさい、エステルさん、プリネさん。ジルってば、興が乗ると人をからかう悪癖があるんです。」

ジルの行動に固まったクロ―ゼだったがすぐに立ち直って、恥ずかしがっているプリネと口を開けて固まっているエステルに謝罪した。



「ぶーぶー。悪癖ってなんだよー。」

「何か文句でも?」

「や、滅相もないっす。」

クロ―ゼの言葉に口を膨らませて反論したジルだったが、クロ―ゼに睨まれたので反論するのをやめた。

「あ、あはは……。も~、ビックリさせないでよ。そんな、まさかねぇ。ヨシュアが……だなんて。そ、それにプリネはプリネのお父さん達から信頼されてあたし達が預かって余計な虫が寄って来ないようにしている事ぐらい、ヨシュアだってわ、わかっているはずだし。」

(エステルさん、それだと丸っきり意識している事を2人に知らせているようなものですよ……)

立ち直ったエステルだったが、意識している事を隠せない表情で呟き、プリネはエステルの表情と言動に苦笑した。

「意識してる、意識してる。」

「ジル!」

「おっと、忘れてたわ。寝る前に日報を先生に提出しなきゃ。それじゃ、おやすみ。先に寝ちゃってていいわよ。」

場を掻き乱しまくったジルはクロ―ゼの追及を逃れるためにそそくさと部屋を出て行った。



「まったくもう……。そうだ、エステルさん、プリネさん。私のでよかったらパジャマを貸しますけど……」

「ありがとうございます。お言葉に甘えて一着お願いします。」

「………………………………」

「エステルさん、どうしました?」

「ふえっ!?」

呆然と立っているエステルを不思議に思ったクロ―ゼが声をかけ、エステルは慌ててクロ―ゼに振り向いた。

「あ、ああ、パジャマね。うん、何でもいいから貸して。」

こうして思わぬ形でエステル、ヨシュア、プリネの学園生活がスタートした……… 
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