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頑張れフェレット

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1部分:第一章


第一章

                     頑張れフェレット
「では行って来ます」
「それじゃあね」
 西森桜と西森洋介は共働きの夫婦である。毎朝一緒に仕事に出る。そしてその時に家の中にいる彼等に挨拶をするのを忘れたことはない。
 彼等とはフェレットのことだ。フェレットは二匹いて銀色の毛のフェレットをブライアント、金色の毛のフェレットをトレーパーという。共に同じ歳で一緒に飼った。
 まだ子供のいない二人にとってはまさに子供のような存在だ。いつも可愛がっている。その彼等に出掛ける時に挨拶をするのが日課なのである。
「いってらっしゃい」
「気をつけてね」
 ブライアントとトレーパーも彼等に挨拶をする。しかしフェレットの言葉なので彼等にはわからない。スーツ姿の夫に対して桜はドアのところで言っていた。
「あの、洋介さん」
「どうしたの?桜ちゃん」
 茶色の髪の前のところをさらりと右手の指で払いながら妻に答える。涼しげな顔の美男子だ。職業は高校の国語の先生だ。
 桜は英語の先生だ。目はアーモンド型でやや吊り上っている。口は少し尖っている感じだが適度な大きさでにこりとした感じだ。黒い髪を長く伸ばしていて前髪を右から左に流している。とにかくその黒い髪をかなり伸ばしているのが目立っていた。
 その二人が扉を閉めようとしたところで話をはじめたのだ。
「二匹の餌ですけれど」
「もうあるじゃない」
 こう妻に返した。
「この前の日曜に買ってるよ、とっくに」
「それとは別にです」
 桜は真面目な声で夫に返した。
「御馳走を買ってあげたいのですが」
「御馳走を?」
「はい」
 こう夫に述べるのだった。
「スーパーでとてもいいフェレットの御飯を見つけましたので」
「じゃあ今晩は彼等にそれをあげるんだね」
「そのつもりです。駄目でしょうか」
「いいと思うよ」
 にこりと優しい感じで妻に笑って答えるのだった。
「それでね。いいんじゃないかな」
「そうですか」
 夫のその言葉を聞いて笑顔になる遥だった。
「それなら今日は」
「そうだね。ブライアントもトレーパーも御馳走だよ」
「そうですね。ではブライアント、トレーパー」
 丁寧な感じで二匹にも顔を向ける。
「今日は楽しみにしておいて下さいね」
「それまで留守番頼むよ」
 洋介も彼等に声をかけた。
「じゃあ。そういうことでね」
「行って来ます」
 こうして二人は家を後にした。扉の鍵が閉められる音が聞こえてから。ブライアントとトレーパーはお互いの顔を見合わせて言い合うのだった。
「聞いたな、兄弟」
「ああ、聞いたよ」
 すぐにこう言い合うのだった。
「今晩は御馳走らしいな」
「御馳走?何だろうな」
 トレーパーは相方の言葉にまずは笑みになる。あまりにも笑うので口の中の牙が見えてさえいる。そしてそれはブライアントも同じであった。
「鶏かな?それとも魚かな」
「僕達何でも食べられるけれどな」
「けれど何だろうな」
 実はこの二匹には好き嫌いはなかったりする。その分飼いやすくはある。
「それが問題だけれどな」
「まあ何はともあれ」
 トレーパーは言うのだった。
「今晩は楽しみだな」
「ああ、そうだな」
 そしてブライアントも頷く。
「御主人達が帰ったその時がな」
「待ち遠しいな」
 そんなことを言いながらとりあえず居間に戻った。そうして日課の睡眠に入ろうとしていた。
 ところがだ。ここで白い絨毯の床の上に。あるものを見つけたのだった。
「おい兄弟」
「どうしたよ」
「あれ見ろ、あれ」
 まずはトレーパーがブライアントに言ってきた。
 
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