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遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
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―もう一回―

「レイ、大丈夫か?」

「うん。もうすっかり!」

 幾度となくお世話になったアカデミアの保健室。そこで今回の騒動に巻き込まれたレイを見舞いに来ていたが、ベッドに座る彼女はどうやら平気なようで。

「良かった……明日香には感謝しないとな」

「……うん、そうだね」

 迷惑をかけてしまったことの申し訳なさか、レイは明日香の名を聞くと少し顔を伏せってしまう。十代によって大元の原因であるミスターTは消滅したが、あの神出鬼没さにはまるで油断は出来ず、レイまで巻き込んでしまったことに奥歯を噛み締める。

「ごめんなレイ。巻き込んじゃって……」

「ううん! わ……ボクが弱かったのがいけないんだ。それにほら、元気になったんだから大丈夫だよ!」

 無理やりに笑顔を作っていることが丸わかりだったが、レイはそれでも太陽のような笑みを向けてくれ、さらにその言葉は続いていく。大事な話があるのだと。

「ボク……新しい恋を探すって決めたんだ。遊矢様がいつまでも想いに応えてくれないから、ボクの方からフッちゃう!」

 つーん、と顔をどこかそっぽに向けるレイ。そして目元をゴシゴシと擦った後、再びこちらの方に向き直った。

「そうか……フラれちゃったか、俺」

「えへへ、ごめんね」

 突然の話で驚いてはいるが、いつか話さなくてはならなかったことだ――レイにとっても……俺にとっても。

「これからは何て呼べばいいのかな。遊矢……お兄ちゃん?」

「それで頼む」

 名実ともに妹分となった彼女に微笑みかけ、しばし他愛のない話題で談笑していると――何せ長い時間が経ったようでも、俺はアカデミアで目覚めてからまだ数日だ――レイが思いだしたように、あ、と声を出した。

「どうした?」

「今日、確かエドが来てるって話だったから。遊矢さ……お兄ちゃん、用があるんでしょ?」

 プロデュエリスト、エド・フェニックス。一応はアカデミアの生徒である彼だったが、当然のことながらあまり学園にはいない。ただし俺は彼に用があった――異世界でのことを、謝らなくては……謝って済まされることではないが、そうでもしないと始まらない。異世界で俺のせいで被害を被った、翔に明日香には謝ったが……あとはエドに亮だ。

「ありがとうレイ。ちょっと行ってくる」

「うん」

 そうして俺は、勝手知ったる保健室から出て行った。彼女が消え入りそうな声で語った、さようなら――という言葉を聞こえないフリをしながら。


「……どうしてこうなった」

 ……そんなレイとの別れから数分後、俺は空の上にいた。正確には飛翔するヘリコプターの中だが、急展開すぎて俺の脳内の処理がついて行けなかった。

「慌てるな。どっしり構えていろ、見苦しい!」

 隣の席で貧乏揺すりを激しくしながら、同乗者こと万丈目は語る。そもそもこうなったのも、元はと言えば……誰のせいだっただろうか。エドに会いにヘリポートに行った俺が見たものは、エドに土下座するクロノス教諭であり――プロデュエリスト志望の万丈目に、プロリーグを見せてあげたいということらしい――そこに居合わせた俺を見たエドは、『そこの黒崎遊矢が同行すること』を条件としたのだ。

 どちらにせよエドと話をつけたいだけの俺は、万丈目にクロノス教諭の為にもその条件を了承……したはいいのだが、当のエドはさっさと別のヘリコプターに乗り込んでしまい、話すどころかとりつく島もない。

 そうしてしばし、空の旅を楽しむこともなく過ごした俺たちは、あるビルへと降り立っていた。やはりエドの姿はどこにもなく、何とかエドのスポンサーをしている千里眼グループのビルということが分かり、万丈目は居心地が悪そうにしていた。……万丈目グループとはライバル企業同士というのだから、そのリアクションも万丈目にとって無理はないことだろう。

「失礼します」

「……はい?」

 そうして意図も分からずヘリポートに立ち尽くしていた俺たちに、ある一人の女性が話しかけてきていた。その女性は確かエドの側に控えていた女性であり、その手にはスーツケースが二つほど担がれている。

「あなた方にはこれから、私の助手としてエドの為に働いて貰うことになります」

「何!? オレ様がどうしてエドなんぞのために――」

「……プロの世界を知るには、それが最も手っ取り早いと思いますが」

「っ……」

 女性の一方的な言葉に反論した言葉を万丈目が言い終わる前に、さらに続いた女性の台詞に万丈目はただ押し黙ってしまう。エドのマネージャーと思わしき女性は、そんな万丈目の様子を満足げに眺めて微笑んだ後、今度はこちらの方に向き直った。

「黒崎遊矢様。あなたとエド様の間に何があったかは存じません。ですが、エド様に用があるなら近い場所にいた方がいいのでは?」

「……分かった」

「では、こちらのスーツにお着替えください」

 ――こうしてマネージャーの女性に丸め込まれた俺たちは、しばしエドのマネージャーの助手として働くこととなった。確かにエドの側近となることと同義だったが、人気のプロデュエリストたるエドのマネージャーは、忙しくエドと話す余裕もなく――正直、プロデュエリストというのを舐めていたのかもしれない。

 華やかなことばかりではない。特にその裏側ともなれば、どうにも分刻みのスケジュールで動くこととなり、実際にプロとしてデュエルする時間の方が少ない程だ。そんな目が回るような事態に、気が付けばすっかり夜となって……いや、夜も更けていた。

「お疲れ様です。では、また明日」

 マネージャーの女性に当面の宿泊施設たる、古い倉庫のような場所に連れてこられ――そこでもエドが所有するカードの整理、という仕事があったが――何とか休みを貰えたらしい。万丈目と二人してソファーに倒れ込み、そのまま意識を失いそうになってしまう。

「……腹が減った」

 だが万丈目のそんな一言で、何とか意識を取り戻した。言われてみれば食事を取っておらず、意識すれば腹も減ってくるもので。

「行くぞ遊矢。安い早い美味い店くらいあるだろう」

「お前、本当に金持ちか?」

 随分と俗っぽい万丈目のリクエストに応えながら、俺たちは私服に着替えて外へと繰り出していく。エドを後援する千里眼グループのお膝元の町だけあって、深夜でもまだ大分活気は残っている。久方ぶりに見るアカデミア以外の街の様子に、懐かしげに見ていると――千里眼グループのデュエルスタジアムが、まだ光を放っていることに気づく。

「ふん……外のレベルを覗いてやるとするか」

 それには万丈目も気づいた上に興味を惹かれたらしく、そのデュエルスタジアムの方へと二人は歩む方向を変える。……しかしデュエルスタジアムに行くより以前、俺はある場所に気づくこととなった。

「おい、万丈目。……あれは」

 それは目立たない路地裏だった。常人ならば夜には立ち寄るまい、と思わせる雰囲気の場所だったが……よく目を凝らせると、ソリッドビジョン用の電流が通っている。気になってしばし近づいてみると――そこには。

「エドだと?」

 怪訝そうな声で万丈目が呟いた通り、路地裏の向こうではエド・フェニックスが、誰とも知らない男とデュエルしていた。それもどうやら行われているのはハンデ戦のようであり、フィールドはエドの絶対的な不利な状況で。

「秘密の特訓、ってことか……」

「遊矢。今日の晩飯は弁当に変更だ」

 俺たち以上のハードスケジュールをこなしておいて、さらに特訓を重ねるエドの姿に、万丈目は何を思ったのかきびすを返して弁当屋に入っていく。そこで適当に二人前の弁当を買うと、俺たちの宿泊施設へと戻ろうとしていた。

「エドも馬鹿な奴だ。あんな雑魚と百回だの千回だのデュエルするより、遊矢、お前と万回デュエルする方がいいに決まっている」

「……ああ、そうだな」

 未来のライバルたるこの万丈目サンダーに塩を送るとは、エドめ後悔するがいい――と不遜にも語る万丈目とともに、俺たちは宿泊施設へと戻っていく。弁当を机の上に、デュエルディスクを腕に、すばやくどちらも設置すると、お互いにデュエルの準備を完了させる。

「行くぞ遊矢!」

「ああ――」

『デュエル!』

遊矢LP4000
万丈目LP4000

「オレの先攻!」

 デュエルディスクは万丈目を先攻とし、あちらから五枚の手札を眺めていた。ああ見えても万丈目はあらゆるデッキを使いこなす、変幻自在のデュエリスト――まさか先のタッグデュエル大会のアレではないだろうが、どんなデッキで来るか予想もつかない。

「オレはモンスターをセット。さらに二枚カード伏せ、ターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

 万丈目の初手は先攻一ターン目としてはスタンダードな、セットモンスターとリバースカードを二枚伏せてのターンエンド。アレだけでは万丈目がどんなデッキか、予測をつけることは適わない。

「手札のこのカードは、攻撃力を下げることで妥協召喚出来る! 来い、《ドドドウォリアー》!」

 ならば、と召喚されるはレベル6の上級機械戦士。攻撃力を1800にすることで妥協召喚することができ、さらにリクルーターやサーチャーの効果を無効にすることが出来る。万丈目のセットモンスターなら、《仮面竜》のようなモンスターの可能性が高い……!

「バトル! 《ドドドウォリアー》でセットモンスターに攻撃! ドドドアックス!」

 《ドドドウォリアー》がその背に負っていた斧を手に持ち替え、軽々とセットモンスターに向かって振り抜ける。表側表示になったそのモンスターの正体は――

『ひぇぇぇぇー!』

「……《おジャマ・イエロー》?」

 ……てっきりリクルーターだと思っていた俺の予想は外れ、珍妙な悲鳴とともに《おジャマ・イエロー》は砕け散っていく。《ドドドウォリアー》によって効果を無効にするまでもないが、代わりに万丈目が伏せたリバースカードが発動する。

「オレはリバースカード《おジャマーブル》を発動! 破壊されたおジャマモンスターをデッキに戻すことで、カードを二枚ドローして一枚捨てる!」

 発動されるは、おジャマモンスターが破壊されることを条件とした、サポート罠カード《おジャマーブル》。破壊した《おジャマ・イエロー》はデッキに、デッキから万丈目はカードを二枚ドローし、その後手札を一枚捨てるという一連の流れが素早く行われた。

「さらに捨てたカードは《おジャマジック》! このカードは墓地に送られた時、デッキからおジャマ三兄弟を手札に加える!」

 ……いや。その一連の流れは、まだ終わっていなかったらしく。さらに墓地に送られることで効果を発揮する、魔法カード《おジャマジック》の効果によって、万丈目の手札におジャマ三兄弟が手札に加えられる。

「……俺もカードを二枚伏せ、ターンエンド」

「オレのターン、ドロー!」

 手札交換とサーチを素早くこなす、その敵ながら見事な手管に舌を巻きながら、こちらも二枚のカードをセットし待ち構える。手札におジャマ三兄弟がいる以上、どのようにしてか攻め込んでくるに違いはない……!

「オレは魔法カード《おジャマ・ゲットライド!》を発動! 手札の雑魚どもを全て墓地に送ることで、デッキからユニオンモンスターを三体、特殊召喚する!」

 X、Y、Z。万丈目の使う三体のユニオンモンスターが、手札のおジャマ三兄弟と引き換えに現れる。《おジャマ・ゲットライド!》によるデメリットとしては、特殊召喚したユニオンモンスターは攻撃も効果の発動も不可能だが――そのデメリットに、果たして何か意味があるだろうか。

「合体! 《XYZ-ドラゴン・キャノン》!」

 三体のモンスターは万丈目の号令の下、一斉に合体を果たして一体の合体ロボットとなる。さらにその二対の大砲は、すぐさま《ドドドウォリアー》に向けられた。

「《XYZ-ドラゴン・キャノン》の効果発動! 手札を一枚捨てることで、相手のカードを破壊する!」

「《ドドドウォリアー》……!」

 大砲の集中放火を受けて《ドドドウォリアー》は破壊されてしまい、あっさりとこちらのフィールドはがら空きとなった。さらに恐ろしいところは、《XYZ-ドラゴン・キャノン》の効果はターンに一度などという制限はない。もちろん手札コストがある以上、無限に効果を発動することは出来ないが、こちらのリバースカードも破壊するか万丈目は思索する。

「……オレは《V-タイガー・ジェット》を召喚する」

 まだまだデュエルは序盤も序盤。リバースカードの破壊よりも手札コストを優先したのか、万丈目はリバースカードを破壊することなく、新たなモンスターを召喚する。

「さらに伏せてあった《ゲットライド!》を発動! 墓地の《W-ウィング・カタパルト》を、《V-タイガー・ジェット》に装備!」

 先の《XYZ-ドラゴン・キャノン》の効果により、布石は既に墓地に送られていたらしく。さらに伏せられていた本家本元の《ゲットライド!》が発動され、さらにVWのユニオンもフィールドに特殊召喚される。さらにユニオンによる装備だけではなく、合体へと繋がっていく……

「合体! 《VW-タイガー・カタパルト》!」

 《おジャマ・ゲットライド》から始まったコンボに、二体の融合モンスターが即座にフィールドに揃う。さらなる融合が可能ではあるが、万丈目はまだそれを命じることはなく。

「バトル! まずは《VW-ウィング・カタパルト》で、ダイレクトアタック!」

「リバースカード、オープン! 《ガード・ブロック》! 戦闘ダメージを0にし、カードを一枚ドロー!」

 まず攻撃してきたのは《VW-ウィング・カタパルト》。そのミサイルによる一撃は、俺の前に現れたカードの束によって防がれる。さらにそのカードの束のうち、一枚のカードが俺の手札に加えられた。

「ならば《XYZ-ドラゴン・キャノン》で攻撃だ! ハイパー・デストラクション!」

「ならもう一枚のリバースカード、《くず鉄のかかし》を発動する!」

 息も吐かせぬ連撃が放たれたものの、何とかこちらもリバースカードで防ぎきる。《XYZ-ドラゴン・キャノン》の攻撃は、発動された《くず鉄のかかし》に直撃したことで無効にされ、《くず鉄のかかし》は自身の効果により再びセットされる。……念のためと伏せていた二枚の伏せカードだったが、本当にどちらも使わされるとは。

「ええい、小賢しい……メイン2、オレは二体のモンスターを合体し、《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》を融合召喚する!」

 融合召喚とは言えども先の二種と同様、もちろん《融合》の魔法カードを発動することはなく。合体済みだった二体のモンスターがさらに合体し、最も強力な一体――《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》へと昇華される。

「VWXYZの効果を発動! そのかかしには消えてもらうぞ!」

 VWXYZの効果は融合素材の効果の正当進化。ノーコストで相手のカードを除外する効果であり、伏せてあった《くず鉄のかかし》は、その効果により除外される。

「オレはこれでターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 僅か一ターンでのVWXYZの融合召喚により、すっかりと俺のフィールドはがら空きとなった。だが万丈目もそれを代償に、フィールドは《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》のみ。確かに大型モンスターではあるが、ここは攻め込める。

「俺は《チューニング・サポーター》を召喚し、魔法カード《機械複製術》を発動! デッキからさらに二体、《チューニング・サポーター》を特殊召喚する!」

「……シンクロ召喚か!」

 攻撃力500以下の機械族モンスターを増殖させる、通常魔法カード《機械複製術》の効果により、召喚された《チューニング・サポーター》はすぐさま三体に増殖する。確かにシンクロ素材となった時に効果を発揮するモンスターであり、万丈目がそう感づいた意味も理解できる……が。

「違うな。俺は《チューニング・サポーター》三体で、オーバーレイ・ネットワークを構築!」

「エクシーズだとぉ!?」

 フィールドにはレベル1のモンスターが三体。よってつい先日新たに手に入れた、俺自身のナンバーズの召喚の条件が揃う。《チューニング・サポーター》三体が重なっていき、そして――

「集いし鉄血が闘志となりて、震える魂にて突き進む! エクシーズ召喚! 《No.54 反骨の闘士ライオンハート》!」

 雄々しいたてがみを震わせながら、身体中に痛々しくも機械を埋め込んだ反骨の闘士。かつてのコロッセオにおける拳闘士のような、そんな風貌をした自分自身のナンバーズ。

「驚くのはまだ早いぞ万丈目……バトルだ、ライオンハートでVWXYZに攻撃!」

「何をする気だ……!?」

 ライオンハートの攻撃力は僅か100。もちろんVWXYZに適う数値ではないが、わざわざエクシーズ召喚までしたのだ、それだけの筈もない。VWXYZがその大砲から砲弾を放つと、ライオンハートはその身に無造作に巻きつけたマントで、放たれた砲弾を万丈目へと跳ね返してみせた。

「ライオンハートは戦闘では破壊されず、オーバーレイ・ユニットを一つ取り除くことで、受ける戦闘ダメージを全て相手に与える! バーニング・クロスカウンター!」

「なっ……おっおい馬鹿、こっちくうぉぉぉぉ!」

万丈目LP4000→1100

 跳ね返された砲弾から万丈目が逃走しようとする前に、意志を持ったように飛翔する砲弾が着弾する。《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》を通り過ぎ、万丈目に直接与えられたそれは黒煙をあげていた。

「ごほっごほっ……だがVWXYZは無事、次のターンで除外してくれる!」

「次のターンがあればな。メイン2、モンスターが通常召喚に成功したターン、このカードは特殊召喚出来る。来い、《ワンショット・ブースター》!」

 確かに万丈目の言った通り、ライオンハートだけではモンスターを破壊することは適わない。しかして新たに召喚された《ワンショット・ブースター》は、その弱点を補うことの出来るカードだった。

「《ワンショット・ブースター》の効果を発動。戦闘で破壊されなかったモンスターを、このカードをリリースすることで破壊できる! 蹴散らせ、《ワンショット・ブースター》!》」

 黄色のボディを持った機械から、ブースターを伴ったミサイルが発射される。それは寸分違わずVWXYZへと直撃し、ミサイルから本体への誘爆で木っ端みじんとなりて粉砕された。

「俺はこれでターン終了」

「おのれ……オレのターン、ドロー!」

 ライオンハートと《ワンショット・ブースター》により、万丈目のライフに大きくダメージを与えながら、強大なモンスター《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》を破壊することに成功する。ただもちろん、万丈目がこの程度で終わるような訳もなく――

「オレは《トワイライトゾーン》を発動! 墓地からレベル2以下の通常モンスターを、三体特殊召喚出来る!」

 墓地から三体のモンスターを一度に特殊召喚する、という驚異的な効果を持つ《トワイライトゾーン》だが、その効果の恩恵を得られるのはレベル2の通常モンスターのみ。万丈目の墓地に眠る、レベル2のモンスターといえば……もはや言うまでもなく。

『おジャマ三き』

「通常魔法《馬の骨の対価》! 通常モンスターをリリースすることで、カードを二枚ドロー出来る!」

『うわぁぁぁぁ』

 ……蘇生されたかと思えば、《馬の骨の対価》によって《おジャマ・グリーン》が墓地に送られてしまい、三兄弟が一瞬にして瓦解する。しかして、そんな様子を万丈目は気にもかけず、通常モンスターをコストに二枚ドローする魔法カード《馬の骨の対価》により、ドローしたカードを見てニヤリと笑い。

「オレは永続魔法《異次元格納庫》を発動! このカードの発動時、デッキから三体のユニオンモンスターを除外する!」

 万丈目のフィールドに、戦闘機が発進するような格納庫が配置されるが……その格納庫の内部は、まるで窺うことは出来ない。本当に異次元に繋がっているようなソレに、発動するより以前から警戒してしまう。

「さらに《V-タイガー・ジェット》を召喚し、《異次元格納庫》の効果を発動! このカードの効果で除外したモンスターに指定されたモンスターが召喚された時、そのモンスターを除外ゾーンから特殊召喚する! 除外ゾーンから現れろ、《W-ウィング・カタパルト》!」

「なるほどな……」

 まさしくその効果は《異次元格納庫》。今まさに万丈目のフィールドで起きたことから察するに、まずは三体のユニオンモンスターを除外し、その後に対応したモンスター――《W-ウィング・カタパルト》ならば、そのモンスターをユニオンできる《V-タイガー・ジェット》――が、除外ゾーンから特殊召喚される。永続魔法という特性上、恐らくは破壊されれば効果を失うのだろうが……今、《異次元格納庫》を止める手段はこちらにはない。

「そして《融合識別》を発動! このターン融合召喚する時のみ、《おジャマ・ブラック》の名称を《XYZ-ドラゴン・キャノン》として扱う!」

 《融合識別》――融合召喚のサポートカードであり、十代の使う《ヒーロー・マスク》のような、融合時のみであるが名前を変更するカード。つまり融合召喚する時のみ、《おジャマ・ブラック》は《XYZ-ドラゴン・キャノン》として扱うこととなり――万丈目のフィールドには、再び融合召喚をする条件が揃う。

「《XYZ-ドラゴン・キャノン》となった《おジャマ・ブラック》と、《VW-タイガー・カタパルト》で合体! 再び現れるがいい、《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》!」

 先のターン《ワンショット・ブースター》が破壊した、【VWXYZ】の切り札たる超大型モンスター。その難解な召喚条件をものともせず、あっさりと万丈目は新たな二体目を融合召喚してみせる。

「言った筈だ、次のターンで除外してみせるとな! VWXYZ、その忌々しい新参者を除外だ!」

 いかに戦闘破壊耐性があろうと除外には対応出来ず、ライオンハートはVWXYZに万丈目の宣言通り、その効果によりフィールドから除外されてしまう。よってこちらのフィールドは、今度こそリバースカードもなしにがら空きになってしまい。

「さあ、今度こそダメージを受けてもらうぞ! VWXYZでダイレクトアタック! VWXYZ-アルティメット・デストラクション!」

「ぐあっ!」

遊矢LP4000→1000

 守られるものもなくVWXYZの一撃は直撃し、あっさりと万丈目のライフを下回る。VWXYZの高い攻撃力を利用したライオンハートの効果を使った次のターンに、まさかその高い攻撃力の直接攻撃を受けることになろうとは。

「フフン。オレはターンを終了する」

「俺のターン、ドロー!」

 こちらのフィールドにはまさしく何もなし、ライフポイントは残り1000ポイント。対する万丈目のフィールドには、あの《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》に、守備表示の《おジャマ・イエロー》。そして永続魔法《異次元格納庫》……まだその効果により、除外されているユニオンモンスターがいるため、出来れば破壊しておきたいところだが。

「魔法カード《狂った召喚歯車》を発動! 墓地の攻撃力1500以下のモンスターと、その同名モンスター二体を特殊召喚出来る! 蘇れ、《チューニング・サポーター》!」

 《機械複製術》によって特殊召喚された後、エクシーズ素材となっていた《チューニング・サポーター》だが、そのライオンハートが除外されてしまったため、三体全て墓地に送られていた。その《チューニング・サポーター》を対象として発動した魔法カード《狂った召喚歯車》により、再び三体まとめてフィールドに揃う。もちろん、ここまで強力な効果にデメリットがない訳もなく。

「相手は自分のモンスターと同じ種族・レベルのモンスターを、二体デッキから特殊召喚出来る。VWXYZはともかく、おジャマは……」

「いるか!」

 ……【VWXYZ】のメインデッキに最上級機械族が投入されている訳もなく、まだ可能性があったおジャマモンスターの方を聞いたものの、怒った顔の万丈目に即座に否定された。確かに残り二体こと《おジャマ・グリーン》に《おジャマ・ブラック》は既に墓地であり、どうやらデメリット無しで召喚を可能にしたようだ。

「なら続けて《音響戦士ドラムス》を召喚する!」

 チューナーを司る機械戦士群の一員たる《音響戦士ドラムス》に、万丈目の顔に少しばかり緊張が走る。今度はエクシーズ召喚ではなく、《チューニング・サポーター》が得手とする召喚方法だ。

「俺はレベル2の《音響戦士ドラムス》に、レベル2とした《チューニング・サポーター》二体に、レベル1のままの《チューニング・サポーター》でチューニング!」

 シンクロ素材となる際のレベル変動効果を活かし、《チューニング・サポーター》は変幻自在のシンクロ召喚を可能とする。よって最終的なレベルは7となり、光の輪が《チューニング・サポーター》たちを取り囲んでいく。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

 シンクロ召喚されるはラッキーカード。《パワー・ツール・ドラゴン》がその鋼鉄の装甲から吠え、竜のいななきがフィールドを震わせる。

「《チューニング・サポーター》がシンクロ素材になった時、カードを一枚ドロー出来る。よって三枚ドロー! ……さらにこのカードが通常のドロー以外で手札に加わった時、このカードは特殊召喚出来る! 《スカウティング・ウォリアー》!」

 《チューニング・サポーター》がシンクロ素材となった際の効果により、カードを合計三枚ドローすると、さらに機械戦士が手札から特殊召喚される。《スカウティング・ウォリアー》は、通常のドロー以外で手札に加わった時、自身を特殊召喚する術を持っているからだ。さらにその効果を活かすべく、新たな魔法カードを発動する。

「さらに《アイアンコール》を発動! フィールドに機械族モンスターがいる時、墓地からレベル4以下の機械族を特殊召喚する! 蘇れ、《音響戦士ドラムス》!」

 《パワー・ツール・ドラゴン》のシンクロ素材となった《音響戦士ドラムス》が、あっという間に《アイアンコール》によってフィールドに舞い戻る。《パワー・ツール・ドラゴン》の存在により条件を満たし、再び《音響戦士ドラムス》は《スカウティング・ウォリアー》とシンクロ召喚の体勢を取っていく。

「集いし事象から、重力の闘士が推参する。光差す道となれ! シンクロ召喚! 《グラヴィティ・ウォリアー》!」

 《音響戦士ドラムス》のレベルは2、《スカウティング・ウォリアー》のレベルは4。その合計レベルに応えるように、重力の闘士《グラヴィティ・ウォリアー》がシンクロ召喚される。大地に降り立った鋼鉄の獣は、倒すべき相手を見定めるようにその眼光を鋭くした。

「グラヴィティ・ウォリアーがシンクロ召喚に成功した時、相手モンスターの数×300ポイント攻撃力がアップする! パワー・グラヴィテーション!」

 万丈目のフィールドのモンスターは、《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》に《おジャマ・イエロー》の二体。よって攻撃力は600ポイントアップするが、これではまだ《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》の攻撃力には届かない。

「パワー・ツール・ドラゴンの効果を発動! デッキから三枚の装備カードを裏側で見せ、相手が選んだカードを手札に加える! パワー・サーチ!」

「……右のカードだ」

 だが、まだこちらには《パワー・ツール・ドラゴン》の効果が残っている。デッキから選ばれた三枚の装備魔法は、万丈目に選択されたカードのみ手札に加えられ、そして《パワー・ツール・ドラゴン》に装備された。

「装備魔法《デーモンの斧》を《パワー・ツール・ドラゴン》に装備し、バトル!」

 《デーモンの斧》が装備された《パワー・ツール・ドラゴン》の攻撃力は3300――僅か300程度ではあるが、何とか《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》の攻撃力を抜く。万丈目のフィールドにはリバースカードもなく、《パワー・ツール・ドラゴン》は一気にその距離を詰めた。

「《パワー・ツール・ドラゴン》で《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》に攻撃! クラフティ・ブレイク!」

「おのれ……!」

万丈目LP1100→800

 二体目の《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》の撃破。《パワー・ツール・ドラゴン》の右腕がそのボディを削り取り、誘爆が万丈目のライフポイントを少しだけ削る。

「さらに《グラヴィティ・ウォリアー》で《おジャマ・イエロー》に攻撃!」

 相手が守備表示ということもあって、特に何ということもなくこちらの戦闘は終了する。《グラヴィティ・ウォリアー》が《おジャマ・イエロー》を戦闘破壊したことで、万丈目のフィールドは《異次元格納庫》のみとなるが、これ以上ダイレクトアタックをするモンスターはいない。

「……カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「オレのターン、ドロー!」

 こちらのフィールドには、《デーモンの斧》を装備した《パワー・ツール・ドラゴン》に《グラヴィティ・ウォリアー》、リバースカードが一枚。ターン終了時ということもあって、明らかにこちらが有利な状況であったが……

「オレは魔法カード《アームズ・ホール》を発動。デッキトップを墓地に送り、装備魔法カードを手札に加える。……そして《貪欲な壺》を発動し、二枚ドローする!」

 通常召喚を封じる事により、装備魔法カードを手札に加えるサーチカード《アームズ・ホール》。その効果によって装備魔法を加えながらも、おジャマ三兄弟を初めとするモンスターをデッキに戻し、万丈目は《貪欲な壺》によりカードを二枚ドローする。

「ふん……オレは《予想GUY》を発動! デッキから《X-ヘッド・キャノン》を特殊召喚!」

 《アームズ・ホール》のデメリットである通常召喚封じをものともせず、デッキから通常モンスターを特殊召喚する魔法カード《予想GUY》により、再び《X-ヘッド・キャノン》がフィールドに現れ――永続魔法《異次元格納庫》の効果が発動する。

「《X-ヘッド・キャノン》が召喚されたことにより、二体のユニオンモンスターを特殊召喚! そして合体せよ、《XYZ-ドラゴン・キャノン》!」

 《異次元格納庫》により除外ゾーンに格納されていた、フィールドに現れた《X-ヘッド・キャノン》の名が記されたモンスター二種が、除外ゾーンから特殊召喚される。すぐさま合体の素材となり、二体目の《XYZ-ドラゴン・キャノン》が融合召喚される。

「《XYZ-ドラゴン・キャノン》の効果! 手札を一枚捨て、《パワー・ツール・ドラゴン》を破壊する!」

「……だが《パワー・ツール・ドラゴン》は、装備魔法を墓地に送ることで破壊を免れる! イクイップ・アーマード!」

 装備されていた《デーモンの斧》を代償に、《XYZ-ドラゴン・キャノン》の破壊効果から免れることに成功するも、攻撃力はフィールドのモンスターの中で最低に落ち込んでしまう。自身の効果で攻撃力が上昇した《グラヴィティ・ウォリアー》も、万丈目の《XYZ-ドラゴン・キャノン》には僅かながら及ばない。

「そして墓地に送ったカードは《おジャマジック》! 手札におジャマ三兄弟を手札に加え、《手札断殺》を発動! 手札を交換させてもらう」

「お互いにな」

 さらに《貪欲な壺》によりデッキに戻したおジャマ三兄弟を、このデュエル二枚目の《おジャマジック》により再度手札に加えられ、またもや《手札断殺》により墓地に送られる。こちらも二枚のカードを墓地に送り、二枚のカードをドローしながら、万丈目の次なる手について思索する。

「さらに装備魔法《次元破壊砲-S・T・U》を発動! このカードを装備することで、墓地の《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》を、効果を無効にする代わり、貫通効果を付与して特殊召喚する! 蘇れ、VWXYZ!」

 恐らくは《アームズ・ホール》で手札に加えられていた、VWXYZの専用サポートカード《次元破壊砲-S・T・U》。スーパーサンダーユニットの名を冠したソレは、効果を無効にする代わりに貫通効果を付与し、またもや《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》を万丈目のフィールドに蘇らせた。

「さらに《XYZ-ドラゴン・キャノン》の効果をもう一度発動! 《グラヴィティ・ウォリアー》を蹴散らせ!」

「《グラヴィティ・ウォリアー》!」

 恐らくは最後に手札に残ったおジャマ三兄弟のうち一人をコストに発動された、《XYZ-ドラゴン・キャノン》の効果で《グラヴィティ・ウォリアー》は破壊されてしまう。これでこちらのフィールドに残るのは、装備魔法が破壊された《パワー・ツール・ドラゴン》のみ。

「バトル! 《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》で、《パワー・ツール・ドラゴン》に攻撃! VWXYZ-アルティメット・デストラクション!」

「ぐうっ……!」

遊矢LP1000→300

 頼みの《パワー・ツール・ドラゴン》も適わず、スーパーサンダーユニットを装備した《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》の効果に破壊され、爆炎がこちらのライフを削る。そして煙が晴れたそこには、待ち構える《XYZ-ドラゴン・キャノン》の姿。

「トドメだ! 《XYZ-ドラゴン・キャノン》で、貴様にダイレクトアタックだ! ハイパー・デストラクション!」
「手札から《速攻のかかし》を捨て、バトルを無効にする!」

 零距離で放たれた《XYZ-ドラゴン・キャノン》の砲撃は、手札から巨大化した《速攻のかかし》が阻んでくれた。爆風には襲われたもののダメージはなく、何とか万丈目の猛攻を凌ぎきることに成功する。

「やはり持っていたか……メイン2。オレは永続魔法《地盤沈下》を発動する」

 どうやら万丈目はこちらが《速攻のかかし》を持っていたことは読んでいたらしく、故に《XYZ-ドラゴン・キャノン》の破壊効果をあえて使わず、《パワー・ツール・ドラゴン》との戦闘ダメージを狙っていたようだ。さらに《XYZ-ドラゴン・キャノン》でダイレクトアタックすることで、こちらの手札から《速攻のかかし》を墓地に送らせ、さらに次なる一手に繋げるために。

「永続魔法《地盤沈下》がある限り、指定したモンスターゾーンは使用出来ない。つまり遊矢、貴様のモンスターゾーンを二カ所封じる! ……カードを一枚伏せ、ターン終了だ」

「俺のターン……ドロー――」

 万丈目の発動した永続魔法《地盤沈下》により、こちらのモンスターゾーンは二カ所封じられた。残るはリバースカードが一枚のみ、という状況の中、逆転の一手を呼び込むためにカードをドローした――

「――リバースカード、オープン! 《おジャマトリオ》!」

「やっぱりか……!」

 ――瞬間。万丈目がリバースカードを発動するとともに、俺のフィールドに三体のモンスターが強制的に特殊召喚される。万丈目の代名詞とも言えるモンスター――おジャマ三兄弟たちだ。

『あ、どうぞ。お構いなく』

『えぇえぇ、お邪魔してるだけですから』

『むしろお邪魔しないと(使命感)』

 ……十代や万丈目とは違って、俺はあまり精霊の存在を感じることが出来ない。大体はおぼろげに分かる程度の筈だが、このおジャマ三兄弟たちの声はしっかりと聞こえる……気がする。

「さぁ、どうする!」

 ――などと言ってはいられない。永続魔法《地盤沈下》で二カ所封じられ、残るモンスターゾーンに《おジャマトリオ》が特殊召喚された今、俺は自由にモンスターすら召喚出来ない状況なのだから。とはいえこのままでは、次なる万丈目のターンにて、貫通効果を得た《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》の攻撃により、守備貫通分のダメージを与えられて敗北する。

 さらには《おジャマトリオ》が破壊された時、破壊されたプレイヤーに300ポイントのダメージを与える効果――狙い澄ましたように、こちらの残りライフは300ポイントだ――により、《おジャマトリオ》を破壊することも出来ない。さらに言うなら、次のターンで《XYZ-ドラゴン・キャノン》の効果により、《おジャマトリオ》が破壊されてもこちらの負けだ。

 モンスターを召喚せずに《おジャマトリオ》を破壊せず、このターン中に万丈目のライフを0にする。そのためには――

「俺は魔法カード《蜘蛛の糸》を発動! 相手が前のターンに発動したカードを奪い、手札に加える。俺は《貪欲な壺》を選択して発動!」

 こちらのデュエルディスクから伸びた《蜘蛛の糸》が、万丈目が発動していた《貪欲な壺》を奪い取り、こちらにもその恩恵を与えてくれた。先の条件を満たしてデュエルに勝利するには、《おジャマトリオ》の抜け道を利用する他ない……!

「俺は《スターレベル・シャッフル》を発動! 自分フィールドのモンスターをリリースし、同じレベルのモンスターを墓地から特殊召喚する!」

「チッ……!」

 こちらの狙いを察したのか、万丈目は隠す気もなく舌打ちを鳴らす。発動された魔法カードは《スターレベル・シャッフル》――同じレベルのモンスターを、墓地とフィールドで入れ替える魔法カード。本来ならば、モンスターとチューナーを交換したり、妥協召喚したモンスターを墓地の最上級モンスターと交換したり、といった俺もよく使うカードだが――今回は、そのリリースというところが役に立つ。

 確かに《おジャマトリオ》は破壊された時、プレイヤーに300ポイントのダメージを与えるが、あくまでそれは破壊された時。今回のようにリリースされた時には適応されず、《おジャマトリオ》のレベルは2――つまり。

「俺は《おジャマトークン》をリリースし、墓地から《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する!」

 《おジャマトリオ》によって生み出されたトークン一体と引き換えに、万丈目の《手札断殺》によって墓地に送られていた、マイフェイバリットカードが特殊召喚される。同じくレベル2のモンスターとして、《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》の前に立ちはだかった。

「さらに魔法カード《アームズ・ホール》。デッキトップを墓地に送ることで、装備魔法を手札に加える。俺は《団結の力》を選択!」

 こちらも同じく装備魔法をサーチする魔法カード《アームズ・ホール》により、装備魔法《団結の力》が手札に加えられる。どうせ通常召喚をするモンスターゾーンもなく、これでこちらの攻撃準備が確定する――

「《スピード・ウォリアー》に装備魔法《団結の力》に《ヘル・ガントレット》を装備し、バトル!」

 そして発動されて《スピード・ウォリアー》に装備されるは、今し方サーチされた装備魔法《団結の力》に、同じく装備魔法《ヘル・ガントレット》。残り二体の《おジャマトークン》の力を借り、攻撃力を2400ポイントアップさせ、一躍《スピード・ウォリアー》は攻撃力のトップに躍り出た。

「《スピード・ウォリアー》で《XYZ-ドラゴン・キャノン》に攻撃! ソニック・エッジ!」

 《団結の力》を得た《スピード・ウォリアー》の攻撃力は3300――特殊召喚のために効果の発動は出来ないが、それでもVWXYZたちの砲撃をものともせず、《XYZ-ドラゴン・キャノン》に回し蹴りを叩き込んだ。

万丈目LP800→300

「……っだが、オレのライフとモンスターはまだ残っている!」

「削りきる! 《スピード・ウォリアー》に装備した《ヘル・ガントレット》を装備!」

 《団結の力》とともに装備されていた、装備魔法《ヘル・ガントレット》。まだ万丈目のフィールドに残る《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》を標的に定め、《スピード・ウォリアー》の腕部に禍々しいガントレットが輝いていく。

「《ヘル・ガントレット》は、装備モンスターの直接攻撃を封じる代わりに、モンスター一体をリリースする度に連続攻撃を可能とする! 《おジャマトークン》をリリース!」

 またもや《おジャマトークン》はリリースされていき、リリースに連動した《ヘル・ガントレット》の輝きとともに、《スピード・ウォリアー》は再び動き出していく。狙うは《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》ただ一体。

「だが《おジャマトークン》をリリースしたことで、貴様の攻撃力は――」

 万丈目の宣言した通りに。《ヘル・ガントレット》の効果でリリースした分、《団結の力》の攻撃力上昇率は下がり、《スピード・ウォリアー》の攻撃力は《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》に及ばない。しかして万丈目は、俺のフィールドに残ったあるものを見つけ――

「リバースカード、オープン! 《リミット・リバース》! 蘇れ、《音響戦士ドラムス》!」

 ――こちらのフィールドに、一枚だけ残っていたリバースカード。それは墓地からモンスターを蘇生させる、罠カード《リミット・リバース》であり、《音響戦士ドラムス》が再びフィールドに蘇る。よって《団結の力》は元の上昇値を取り戻し、《スピード・ウォリアー》の攻撃力は3300。

 そして《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》の攻撃力は3000であり、万丈目のライフポイントは残り300――

「《スピード・ウォリアー》で《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》に攻撃! ソニック・エッジ!」

「ぐああああっ!」

万丈目LP300→0

 《スピード・ウォリアー》の二回目の攻撃が炸裂し、《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》の撃破とともにデュエルは終結する。こちらのフィールドにいたモンスターも消えていき、VWXYZの爆発に巻き込まれた万丈目が立ち上がった……かと思えば、すぐさま周りの空間に向けて怒鳴り散らしていた。

「ええーいうるさい! 貴様らがいいように利用されるからだろうが! ……遊矢、もう一回だ!」

 恐らくは精霊たちと口論しながらも、万丈目は素早く自身のデッキをシャッフルしつつ、融合モンスターはエクストラデッキへと戻していく。さらに念入りにもう一度シャッフルすると、デュエルディスクをこちらに向けて。

「……もう一回?」

「そうだ、エド如きに努力で負けてなるものか! ……この世界では、負けても死ぬことなどないのだからな」

 素っ頓狂な表情で聞き返してしまった俺に、万丈目は懇切丁寧に理由を説明し……照れくさそうにそっぽを向くと、小さい声で最後の言葉を付け加えた。

「そうか……」

 ……言われてみれば当然のことで、こちらの世界では、一度のデュエルの敗北などどうにもならない。一度の敗北が命に直結するあちらの世界とは違い、こちらの世界では――自分が勝つまでデュエル出来るのだから。

 当たり前のことだった筈なのに、まるで目から鱗が落ちたような気分の下、こちらも万丈目に習ってすぐさまデュエルの準備を整えた。

「そう、だな……だが万丈目、次も勝たせてもらう!」

「分かればいい……が、勝つのはこのオレ! 万丈目サンダーだ!」

『デュエル!』
 
 

 
後書き
最近考えたこと:波動竜騎士(笑) 
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