非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜
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第6話『邂逅』
前書き
邂逅とは、すなわち出会いのこと。さて誰が出るのでしょうか?
莉奈side
「もう~」
「どうした莉奈?」
私が溜め息をつくと、晴登が心配そうに訊いてくる。
私をここまで落ち込ませる存在は1つしかない。
「テストよテスト」
「あ、あぁ~」
そう。今日だけで起こった『テスト』と『テスト返し』。私はその結果に対して、とてもブルーな気持ちになっている。
だってクラス23位、学年94位だよ!? ほぼ下位じゃん…。私頑張った方なんだよ!……いつもよりはだけど。それでもこの順位ってことは、きっとこの学校は賢い人が多いんだ! 私は悪くない!
「俺はクラス15位、全体61位だったよ」
「うわ、ど真ん中じゃん」
「言うな。気にしてるんだから」
相変わらずと言うか、晴登は普通な点数と順位を取っていた。もはや狙っているのではないかと思うけど、ピタリと平均である。
「それにしても、あの暁って人すごいな」
「パーフェクトってね…」
クラスの出席番号1番の暁君。彼は今回のテストでオール満点を取ったのだ。そんなことはマンガの中でしか起こらないと思ってたけど、ホントすごいと思う。
「そいつや大地と比べたら俺たちって…」
「もう言わないで」
晴登が口走ろうとしたところを私がすぐさま止める。
既に大地と私たちで天と地ほどの差があるのはわかる。それでも言ってしまうと、自分が惨めに思えてしまうというものだ。
「それより、大地は何で居ないの?」
「家の用事で早く帰らなきゃだとさ」
もうテストの話をしたくない私は、大地の話題にシフトさせる。
私たちは今下校中。だが、いつもなら横にいるはずの大地が居ないのだ。それを疑問に思って晴登に問うと、そう返された。
「2人で帰るのって久しぶりだね」
「あ…嫌なこと思い出した」
「え、何それ?」
私と帰る時に嫌な事でもあったと言わんばかりの晴登に、私は語気を強めて訊いた。何も変な事とかしたこと無い筈だけど…。
「ほら入学式の朝の……お前との賭けみたいなやつ」
「あーあれね。楽しいから良いじゃん」
あの時の賭けのことね。私が嫌とか、そんなのじゃなかったから、ちょっぴり安心したかな。
確か1回目では大地が出てきて、2回目は知らない女の子が出てきたんだっけ?
「楽しくねぇよ。災難だったよ」
「知らない女子にぶつかりそうになったから?」
「え!? あ、いや、そうだからだけど…」
「ホントは何か期待したのかな~? コミュ障のくせに」
「は!? お前ちょっと黙ってろ!」
私が茶化すように言うと、頬を赤らめながら反論してくる晴登。いじり甲斐がありますな~。
「あの女の子誰だったんだろ。多分うちの学校だよね?」
「歳も近そうだったしな」
話題はいつの間にか『入学式の朝に晴登にぶつかりそうになった女の子について』に切り替わっていた。
・・・あれ?
「何であの子、あの時間帯に居たんだろ」
私はあのシーンで疑問に思うことを呟いた。
まず、あの子は私たちと同い年…たぶん。
普通だったらあの場所を通るのは日城中の生徒。よってあの子は日城中の生徒……きっと。
だが入学式の為、あの時間帯に生徒は居ないはず。
これらをまとめると、1つの結論が導かれる。
「え…? あぁ…確かに。てことはもしかしてさ・・・」
「「あの子も時間を間違えたのか」」
私と同じ考えになったのだろう晴登と口に出して導き出された結論を言ってみると、失礼ながらも笑いが込み上げてきた。
「ま、まさか俺たちと同じ人が居たなんて…」
「じゃあ、あの時のあの子は帰り道だったんだよね?」
「まぁそうだろうな。向こうから来てたし」
「私たちよりも先に学校に着いて・・・ふふっ」
ダメだ。笑いが止まらない。
これをもしあの子に見られ、「何で笑っているの?」と訊かれたら、何と答えれば良いのだろうか。
「ふぅ…疲れた」
「さすがに不謹慎すぎたかな」
名前も知らない少女を嘲笑うというのは、不謹慎かつ可哀想と思った私たちは笑いを止める。
「明日学校で探してみるか?」
「お、コミュ障のくせに勇気がありますね~? やっぱり何か期待してらっしゃいますか~?」
「な、馬鹿! 違ぇよ!」
「怪しいですね~?」
…私って何時からこんな性格になったのだろうか。
これではただのオバサンではないか。少し自重せねば。
「ほら、家まであと少しだから余計なこと言うなよ」
「はいはーい」
「…ん?」
ドガッ!
「ぐはっ!?」
「きゃっ!?」
「えっ!?」
さて。今の一瞬で何が起こったのか少し説明しよう。
まず、晴登が曲がり角を曲がろうとした。すると、女の子とぶつかった。その女の子をよく見れば、何ということでしょう。入学式の朝にぶつかった美少女だったのです。
まぁあの時は寸止めで済んだけど、今回はぶつかっちゃいましたとさ。
「いって~・・・って、あ! あの時の…」
「うぅ・・・!?……あっ!」
「「大丈夫ですか!?」」
わぁ見事にハモった。初対面で(正確には2回目)でここまで息が合うとは、何か疑ってしまいそうだ。
「あ、えっと、すいません! では・・・!」
「ちょっと待って! ねぇ、あなた同じ学年だよね? そこで少し話さない?」
「え…?」
「(え? 莉奈、お前…)」
「(しーっ! 折角だから仲良くなっとこうよ? 晴登もその方が嬉しいでしょ?)」
「(な…!)」
「どう…かな?」
「…わかりました。良いですよ」
あの時のように足早で去ろうとした彼女を私は引き留めた。その行動には、その子どころか晴登まで驚いていたけど…。
でもそんな晴登を無理矢理納得させたし、彼女からも了解を得たので、近くの公園に寄って、3人で話すことにした。
「戸部 優菜ちゃん、12歳。通うのは日城中学校」
「綺麗に予想通りだったな」
「え、予想…?」
私たちが今話している女の子の名前は戸部 優菜ちゃん。私たちと同年代である。
名前以外が的中したので晴登がそう口走ると、自分のことが予想されてるということで優菜ちゃんは驚いていた。
「晴登ったら、最初に会った時から『誰だ?誰だ?』ってずっと言ってたのよ」
「は!? 俺そんなこと言ったか!?」
「似たようなこと言ってたじゃん」
「それでも盛ってないか!?」
「2人は仲が良いんですね」
「え? まぁ幼馴染みだしな」
「そうね。昔からだもんね」
優菜ちゃんが言ったことは間違っていない。「喧嘩するほど仲が良い」とはよく言ったものだし、私と晴登はこれくらいの軽口は日常茶飯事だ。仲が良いからこそである。
「優菜ちゃんは何組なの? 1組以外だよね? これからも話したいし、知っておきたいな」
私がそう言って訊くと、優菜ちゃんは快く答えてくれた。
「2組ですよ。私もお話したいです」
「だったらもう敬語は止めようよ? 私たちは同級生なんだし」
「!」
私がそう提案すると、優菜ちゃんがちょっと驚いたような顔をする。敬語以外話せないとか? …さすがにないか。
でもさっきから優菜ちゃんの話し方はやけに丁寧だった。だからやっぱり私たちだけにでも気軽に話し掛けて欲しいかな…なんて。
「…いえ、私はこの方が慣れているので。今すぐにはちょっと…」
「ならしょうがないかな!」
優菜ちゃんの答えに私は満面の笑みで返す。
今は無理でも、今後慣れていけば大丈夫だろう。
……全然人に慣れない人は隣に居るけど。
「晴登もちょっと話せば?」
晴登だ。さっきから私とは話しているが、優菜ちゃんとは関わりを持とうとしてない気がする。
初対面の人が苦手、いわゆる人見知りだけど、なかなかどうして克服できない。
せっかく女子と話せる機会は多いんだから話せば良いのにね。思春期とかいうやつ?
「え!? えっと、今回のテストはどうだったんですか…?」
「うわ…」
晴登の“デリカシーが無い”とまでは言わないが、そんな感じな質問に私は苦笑いが漏れる。その質問はズケズケ訊くもんじゃないよ…。
私だったら「まぁまぁでした」と言って誤魔化すだろう。なんと惨めだろうか…。
「テスト、ですか…」
あぁ、この反応は悪かったということだろうか。だったら私の仲間だね。これからもよろしくね・・・
「学年で2位、ですけど…」
「「へ!?」」
莉奈ちゃんは渋るように言った。まぁ確かに渋りたくなる内容だけれども、まさかの全体2位!? つまり大地の上にいるもう1人だ。そんなに頭良かったんだこの子…。
「でも1位は取れませんでした。こんなことは初めてです」
「う、うん…」
これはきっとアレだ。強者なりの悩みというやつだ。弱者では到底理解ができないというあの・・・。
しかもこの子の言葉から察するに、恐らく小学校では1位が当たり前だったのだろう。羨ましいけど少し怖いかも。
「莉奈ちゃん達のクラスの男子が1位らしいですね。噂だと満点だとか。私はあと2点だったのに…」
「2点!? じゃあ満点の教科もあるってこと!?」
「はい。算数と理科です」
この回答を聞けば、誰もが「じゃああなたは理系なんですね」と思うだろう。だがしかし、この子は国語と社会も99点ということでとても良いのだ。こういうのオールマイティーとか言うのかな。
「お2人は?」
「え!? あ、いや……」
「その…普通かな」
ほら。私も晴登もこんな回答だ。人に胸を張って言えるような点数じゃないから…。
まぁこの人がそういう人を蔑む人じゃなくて、本当に良かった。うん、助かった。
「普通か…なんか良いですよね」
「良いって、何が?」
急に優菜ちゃんが真面目な顔になって言うものだから、私は気になって聞き返す。
「こんなこと言うとアレですけど、私って昔から何でもできたんです」
ぐっ、何か自慢に聞こえてくる…。でも何かを話そうとしてくれてるから、ちゃんと聞こう。
「おかげで周りから敬遠され、友達と呼べる人が少なかったんです。中学校に入れば変わると思っていましたけど、テストのせいでもう既に、皆の私を見る目が変わってしまいました。もし私が普通だったら皆と関わりやすいかなって…。だから・・・」
「それは違う」
優菜ちゃんの言葉を遮り、急に晴登が口を挟む。ど、どうしたんだいきなり。
「違う。皆はきっと君のことを敬遠してはいなかった。君と話すのが恥ずかしかったんだ」
「恥ずかしい、って…?」
恥ずかしいってアンタのことじゃん、とツッコみたくなったが、何か真面目なので私は口を開かず黙っておく。
「君を例えると『高嶺の花』だ。だから誰だろうと、君に話し掛けるのに勇気が必要だったんだ」
「そんなことって…」
「あるんだ。わからないかもしれないけど。でも確かに、皆が君を特別視していたと言っても間違いではないかもしれない。だけど嫌われてた訳じゃないと思うんだ」
晴登が自分なりの言葉で、優菜ちゃんに伝え続ける。でも筋は通っていた。
「だって俺は、君のことを嫌いとは思わない。むしろ凄いなって思う。皆そんな感じだと思うよ、俺は」
「……」
晴登の言葉を真剣に聞き、黙って考え込む優菜ちゃん。何か感じることがあるのかな…。
「俺はそういう“見る側”しか経験したことのない普通の人間だからさ。何て言うか、君の見えないものが見えるんだ」
「……」
少し晴登が困惑してきたように見える。たぶん言葉が思い付かない上に、まずこんな言葉を人に伝えるという羞恥が今になって込み上げてきたのだろう。
少しフォローしてあげるか。
「つまりさ、私たちが友達になるよ! どうかな…?」
「……!」
途端に希望が見えたと言わんばかりの表情をこちらに向ける優菜ちゃん。
やっぱり、この子はホントに友達が欲しかったんだ。
「……ひ」
「え?」
優菜ちゃんは急に頭を下げ何かを呟いたようだが、小さくて聞き取れず、たまらず聞き返す。
「ぜひ・・・ぜひ、お願いします!!」ズイッ
「わっ!?」
しかしその刹那、優菜ちゃんの顔は私の目の前に飛んできた。キラキラとした表情を浮かべ懇願してくるその姿は、友達に作るということに必死なんだと分かる。
だけど急に近づいてくるもんだから、私は驚いてベンチの上から落ちそうになったけどね…。
でもこれで私たちは友達だ。だが嫌な気持ちは1つもない。だって日城中学校で作った初めての友達なんだもん!
だからこれからずっとずっと、仲良くしていきたい!
そんな意味を込めて、私は手を差し出しながら彼女に言った。
「これからよろしくね、優菜ちゃん!」
「こちらこそ、莉奈ちゃん!」
彼女は澄みきった満面の笑顔で私の手を握り返した。
後書き
今回は優菜ちゃんのお話でした。
そろそろ登場させとかないと、と思っていたので。
所々は自分で「お、ここの文良いな!」とか「このシーンはこんな感じか?」と思いながら書いていますが、分かったことが1つ。難しい(苦笑い)。
状況を文章だけで伝えるというのは難しいです。思いの外簡単じゃないんです。自分の場合は語彙力も文才も欠けてるので必死ですが…。
まぁそんなこんなで完成したこの話。次くらいにでも進展が欲しいところですが……行事が思い付かない(泣)。
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