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剣士さんとドラクエⅧ

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16話 卵

・・・・

 ようやく船旅が終わり、船を降りようとしたところで僕はゼシカさんに呼び止められた。凛とした彼女は決意を決めたように僕らに近寄ってくる。ちょっと眉を釣り上げた彼女が怖い。だけど隣のトウカは訳知り顔で微笑んでいた。

「あたし、リーザスの塔ではあんたたちに間違って攻撃しちゃったこと、謝りに来たの」
「え」
「……?」

 あのことを謝りに?……ちょっと僕、あまりの迫力に後退りしちゃったんだけど、それは悪かったな……。

「トウカには謝ったけど……あんたたちにはまだだったから」
「……」
「早とちりして、さーせんっした!」
「えっ」
「えっ」

 えっ、なんで先に謝ってもらってたはずのトウカも驚いているの?こうじゃなかったの?彼女らしい……男気あふれる……いっそ清々しい……。僕、結構混乱してるな……。

「お、おう……勇ましい謝罪なこって」
「トウカへのは……トウカがあまりにも兄さんに似てたから照れちゃって……我ながらあたしらしい謝罪じゃなかったわ」
「お、おう?」
「似てたんだ……」
「ええ、その態度がね」

 態度が。なるほど……。トウカみたいなお兄さんってことはそれは紳士だったんだろう。女の人にトウカは実に紳士だから。あの、イケメン風なトウカがゼシカさんのお兄さんに似ている……。なんてことだ。これ以上は言わない。考えないでおく。……イケメン、か。

「それでね、あたし、考えたんだけど……あんたたちとあたしは目的が一緒でしょ?ドルマゲスを倒すってところ」
「そうだね……」
「だから、あたし……出来ればあんたたちと一緒に旅がしたいの」
「お……そうきたか」

 なにが「そうきたか」だよ、トウカ。何をゼシカさんに吹き込んだんだ。確かに、女性ひとり旅なんて考えるだけで危険そうだけど……僕らのしている旅も到底安全なものじゃない。普通に考えて……断ったほうが……いや、彼女なら断ったら一人で旅をしかねない。むしろそうされたほうが気が気じゃないだろうな……。これは受けるしか無いのかな……?

「ええ、あたし……トウカに力を過信してはいけないと言われたわ。確かにあたし一人じゃ、あんなに強かった兄さんを殺したドルマゲスを倒すことは出来ないと思うの」
「だから……仲間に?」
「そうよ。これでもあたしは魔法使いの卵。メラは……見たわよね?他にも魔法は使えるし、武器をとって戦うことも出来るわ。足手まといにはならないつもりよ」
「……。トウカ」
「いいと思うよ」

 結局僕は名ばかりのリーダーって訳だ。最終的になるようにはならなくて、トウカに聞く。勿論僕も、理性では分かっているつもりだ。だけど、肯定してほしいことだってあるよね?トウカはまさにそんな存在だ。予想通り、間髪入れずに返事が帰ってきた。もとよりトウカは、勧誘するつもりだったのかもしれない。

 それに、ゼシカさんの魔法は本当に心強い。僕だって攻撃魔法は使えるけど……正直、さっきのオセアーノンには大して効いてなかったし、やっぱり専門外なんだ。僕はなんだかんだ言っても物理攻撃がメインだしね。最近僧侶に転職しかねない勢いで回復魔法ばっかり使ってるけどさ……。交互に使うほど器用でもないから……。

・・・・
 
「ゼシカ・アルバートが仲間に加わりました、陛下」
「うむ、目的は兄を殺され、ドルマゲスに仇討ち、じゃったか?」
「はい」
「……それは辛かったじゃろう。わしらは誰一人死んではいないからの……姿は変わろうとも」

 慈しむような、憐れむような目で陛下はゼシカを見られた訳じゃない。陛下はゼシカを可哀想だと思っているはずだけど、それをおくびにも出さずにひとつふたつと頷かれた。

「もう知っているかもしれないがの。わしや姫はドルマゲスによって姿を変えられ、城はトロデーン城は茨の呪いで閉ざされ、民は生きたまま茨に変えられたのじゃ。無事だったのはそこにおるエルトとトウカ・モノトリアだけじゃ。仲間となったからには、志を同じくする者として励むのじゃぞ」
「……あたしは臣下じゃないわよ」

 ……今陛下、さらっと私の本名晒されなかった?えっ、ちょっと。隠しているつもりはなかったけど……えっ。おおっぴらに私が旅をしているとは思われたくないから、苗字は極力隠しているつもりだったし、権力だって……トラペッタで使いかけたけど、えっ。

 ゼシカさんならいいけど誰かに聞かれてたら面倒くさいじゃないか……一応名目上は修行の旅だけど……下手に名前がバレたら……面倒だろ……。ここは、外だけど、誰かに聞かれるはずはないけどさ……。

 いざという時に動きにくくなるのは陛下や姫どころか自分すら守れなくなる。……いや、陛下にもご考えがあってのこと。疑いは不敬だ。私はトロデーン王家の全てを肯定するモノトリアだ。

「……取り敢えず自己紹介でもいたしましょう」
「そうじゃったの。わしはトロデじゃ。そこにおる、白馬に変えられてしもうたのは娘のミーティアじゃ」

 姫様は足をそろえて小さくいななかれた。喋れないのは……お辛いだろうなぁ。彼女は立場があろうとも、同い年の女の子なのに。前世なら、未成年なのに。私もだって?私は別に辛くないからいいんだ。喋れるし、姿も人間だし。それ以上何を望むんだい?

「知ってると思うけど、僕はエルトだよ」
「同じくあっしはヤンガスでがす」
「……ボクはトウカ・モノトリア」
「改めて、ゼシカ・アルバートよ。ねぇ、さっきから気になってたんだけどさ、トウカのモノトリアって」

 え、やっぱり聞いちゃう?私じゃなくて義父上と義母上と、ご先祖様がすごいことが露見するだけなんだけど。ご先祖様がすごかったから、今のモノトリアがあるわけだし、血を引いているのは偶然の産物で、何もすごくないんだけど、聞いちゃうの?聞いても得しないよ?聞かれたからには答えるけどさ……。

 それに、ゼシカさんには言ったはずだけど、私はモノトリアだけど魔法が使えない、最悪の欠陥持ちだからゼシカさんの糧になるような話なんて出来ないよ?無駄に魔法の情報を知っているけど、文字通り無駄だし。

 まあ、聞かれたものは仕方がない。聞かれて、名乗った上で自己紹介をしない訳にはいかない。私のプライドをかけて、誤魔化すことは出来ない。誤魔化すということは、私がゼシカさんを信頼していないってことだから。私は、ゼシカさんを信頼しているんだ。ドルマゲスへの憎しみと言う意味で、だけど。よし、じゃあ……何時もの自己紹介をしよう。威圧感がにじみ出ているあれを。

 モノトリア伝統、小っ恥ずかしい厨二台詞をな!!

「……、……トロデーンの貴族、モノトリア。王家を守る騎士。自らの『命』よりも『王家』を守り抜く。そんな古代人の末裔の、モノトリア家……長子は、私」
「……」

 あれ、反応がない。モノトリアの概要を話したつもりだったけど、間違ったかな。彼女はもしかして、家の方じゃなくて、私のほうが知りたいのかもしれない。じゃあ、こっちはちょっと口調を柔らかくした、いつものをやろう。これはこれで、なんだか自傷的なんだけども。

 繰り返すけど、さっきのは私の意思じゃなくて伝統なんだから……私が好き好んでやった訳じゃないんだから……。こっちはあれだ、自作の。ただ、やっぱりある程度はモノトリア伝統の形式で。……厨二っぽい。

「私は、魔法が使えない異端児。代わりに剣を鍛え上げた。剣以外にも武を重んじる一族として修練した。……そんなに落胆した顔しないでよ……代わりにボク、剣は使えるんだから」
「落胆なんかしてないわ」
「……おう。優しいね」
「あなた、解釈を間違っているわ。あたしは伝説の剣士を目前にして感動しているのよ」
「……おう?」

 私、伝説の剣士になった覚えはないんだけどな……?あ、もしかして、何代も何代も前なんだけど、「トウカ=モノトリア」という強い剣士がいたっていうのは知っている。その方のことかな。そうだろうな。

 あ、私も「トウカ=モノトリア」だけど……うん。彼と違って私は公式では「トウカ・モノトリア」。陛下はご存知だろうけど、実子扱いされているんだよなあ……。表記の違い、ね。 
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