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遊戯王GX 〜漆黒の竜使い〜

作者:ざびー
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episode7 ー

 先日のデュエルから、明日香先輩は別人格になったかのように人が変わってしまった。意を決して話しかけてみても、素気無くあしらわれてしまう。 しかし、白の結社に勧誘してくることだけしてこなかった。 今の先輩は、冷たい氷のよう。
 ソファに寝転びながら物思いにふけっていると顔に毛布が掛けられる。

「あら、華蓮。 こんなとこで、寝てると風邪ひくわよ」
「……葵先輩」

 ルームメイトかつ、先輩である葵さんが私に気をきかしてくれたらしい。
 明日香先輩の変貌は、私のメンタルに大きな影響を与えたらしくここ数日はぼんやりとしている。
 うじうじとしている私を見かねたのか、落ち着いた口調で語りかけてくる。

「ねぇ、あなたはいつまでそうしているつもり……?」
「…………」
「別にいいじゃない。 知り合って半年も満たない人が怪しげな宗教に入ろうが、性格が一変しようが。 あなたには、関係なにことにいつまでそうしてるつもりかしら?」


 毛布から顔を出し見上げると、腕を組んで見下ろす葵さんがいた。 口調は穏やかだが、微かな怒気を感じる。 なんて返事をしようかと戸惑っていると葵さんの表情に影が差した。

「そう。 そんなに明日香がよかったのね……」
「べ、別にそーゆーことじゃないです。 けど、ちょっとショックだったというか。 先輩には、色々とわからないことを教えてもらったので」
「そう……」

 ただそう呟いた葵さんは私を見ていた。

「なら……そんなこと気にならないくらい、いいことしましょ?」
「へ…………?」


 妖しい笑みを浮かべて。


 ◇◆◇


 先輩に半ば強引に連れてこられたのは、本校舎のデュエルコート。 時間も遅いためか、私達以外には、誰もいない。

「いいことって……デュエルでしたか」
「あら、デュエリストなんだから当たり前でしょ。 それとも他のことを期待していたのかしら?」
「そ、そんなわけっ」


 口元に手を当て、コロコロと笑う。 からかわれたのだとわかり、急に顔が熱くなる。
 いつの間に取っていったのか、デュエル・アカデミア専用の決闘盤と私のデッキケースを投げて寄越すと、葵さんは構えた。

「さ、構えなさい! 私がそのうじうじした根性叩き直してあげるわ」
「っ……わ、わかりました」


 ケースからカードの束を取り出し、ディスクにセット。腕に装着し、準備が完了する。 互いに一定の距離を取り、構える。


決闘 (デュエル)!』

 [葵]LP4000
  VS
 [花村 華蓮]LP4000

「先行は、私がもらうわね」

 宣言とともにデッキから5枚手札に加えた手札を見て、思わず絶句する。

「……レッドアイズ!? なんで……!」
「あら……? どうしたのかしら?」

 戸惑う私とは対象的に、彼女は含みのある笑みを口元に浮かべる。 てっきり学校で使っている〈プチリュウ〉かと思っていた矢先に、これだ。 すぐに中止を求めようとするがしかし、それも拒否される。

「貴女は、いつもとデッキが違うからと言ってデュエルを止めるのかしら? それとも、私への手加減? それなら、私は構わないわ。 それにここには他の誰もいない。 そして、目の前には同じ決闘者。 デュエルを申し込まれたなら、受けるのが道理でしょう? 」

 それとも負けるのが怖いかしら? フフッと挑発的に笑う。

「くっ……そこまで言うなら、やります!」
「そう、それでいいのよ華蓮」

 改めて決闘盤を構えて、相手を見据える。
 葵 先輩盤ニコリと微笑むと、デッキから優雅にドローした。

「ドロー。 〈天使の施し〉を発動するわ。 三枚引いて、二枚捨てる。 さらに〈儀式の準備〉を発動。 今捨てた〈高等儀式術〉とデッキから〈竜姫神 サフィラ〉を手札に加えるわ。 〈高等儀式術〉を発動。 デッキから〈逆転の女神〉を墓地に送り、サフィラを儀式召喚!」
「……速いっ!」

 〈竜姫神 サフィラ〉☆6
 ATK/2500


 流れるような動作で儀式魔法とモンスターを揃えて魅せる。 緊張が高まる中、空から光の柱が伸び、葵さんの声に導かれるように美しいサファイアの竜姫が目の前に降り立つ。いきなりの儀式召喚に驚いていると、葵さんは「当然でしょう」と言わんばかりに微笑んだ。

「ふふ、これくらい貴女でも出来るでしょう? カードを三枚伏せて、エンドフェイズ。 サフィラの効果の効果により、二枚引いて一枚捨てる。 さ、貴女のターンよ」


 [葵]
 LP4000
 手札3枚
 魔法・罠:伏せ三枚
 場
 〈竜姫神 サフィラ〉


「私のターン、ドロー!」

 デッキからカードを一枚加え、六枚となった手札を見て、ほくそ笑む。この初手ならサフィラ程度難なく処理出来る。いざ始めようとした矢先、葵さんが待ったをかけた。

「私はーー」
「待って!」
「……はい?」


 首を傾げる私を他所に、葵さんのフィールドに伏せられていた二枚のカードが表になった。

「焦らないで。貴女のスタンバイフェイズに〈ダストシュート〉と〈マインド・クラッシュ〉を発動するわ」
「い゛っ!?」


 リバースカードの発動と共に、私の手札が葵さんへと晒される。 彼女の目的は、十中八九、ピーピングとハンデス。 最初から私の行動を制限しにくるつもりだ。
 晒した手札を見ながら、彼女は不敵に笑った。


「あら、〈紅玉〉と〈黒竜〉が揃ってるなんて流石ね。 まぁ、それは通せないから……私は〈真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)〉をデッキへと戻させる。 さらに、〈マイクラ〉の効果で、〈伝説の黒石(レジェンド・オブ・ブラック)〉を宣言し、手札にあればそれを捨てさせる」
「……確かに〈黒石〉はあります」


 泣く泣く手札の〈黒石〉を捨てる。 これでは新たに〈レッドアイズ〉が呼べなくなってしまう。 しかし、いきなり二枚のハンデスを食らってへこたれてはいられない。 すぐさま思考を切り替え、打開策を考える。 だが……

「くっ……」
「ふふ、無理よね。 貴女の手札に〈死者蘇生〉はあるけど、私も貴女も碌なモンスターが墓地にいない。 〈黒石〉を出せば、〈レッドアイズ〉を出せるけど、私のサフィラは超えられない。 さぁて、どうするのかしらね」


 葵さんの言葉を聞きながら、手札の〈死者蘇生〉を握り締める。 今はまだこれを使う時ではない。

「私は〈矮星竜 プラネター〉を守備表示で召喚します。 さらに、カードを二枚伏せてエンドフェイズに移行します。 通常召喚したプラネターのエフェクトをーー」
「手札から〈朱光の宣告者(バーミリオン・デクレアラー)〉の効果を発動。 このカードと〈センジュゴッド〉を捨てて、プラネターの効果を無効にするわ」
「ーーーっ!?」

 《儀式》デッキとばかり思っていたため、予期せぬところからの妨害に驚愕する。

 小さな翼竜は、朱色の威光の前に封じられ、破壊される。 これでは、〈レッドアイズ〉を手札に加えられない。 そして、悪い事は連鎖する。

「手札から光属性モンスターが捨てられたことによって、エンドフェイズに私のサフィラの効果が発動するわ。 さ、貴女の最後の手札を捨てて頂戴」
「そんなっ……!」


 サフィラの放つ光弾に弾かれたカードが墓地へと送られる。 最後の手札はもちろん、〈死者蘇生〉。 これで蘇生手段をも失い、手札が早くも尽きてしまう。

 恐々としながら、彼女のデッキを推測する。

 〈ダスト・シュート〉と〈マインドクラッシュ〉のコンボでピーピングとハンデスを行い、相手の動きを制限し、公開された情報から相手の手を読み、〈宣告者〉で反撃の尽くを封じる。
 さらにサフィラの永続的な手札交換と墓地回収能力で〈宣告者〉の効果発動のための手札コストを補い、交換発動のためのトリガーは〈宣告者〉の交換によって満たす。 恐ろしく、それでいて強力なタクティクスだ。 現に私はその術中に嵌り、反撃が出来ないでいる。

「さ、今は貴女のエンドフェイズよ」
「くっ……ターンエンドです」

 当然何もする事は出来ずに、ターンが移る。

 [花村 華蓮]
 LP4000
 手札0枚
 魔法・罠:伏せ二枚
 場:無し



「私のターン、ドロー。 まぁ、特にすることはないわね。 バトルに入り、サフィラで直接攻撃」

「〈ガード・ブロック〉で防ぎます!」

「ま、そうくるわよね」


ピーピングにより、手札バレしてるため攻撃を防がれても平然とした様子だ。
〈ガード・ブロック〉の効果でデッキから一枚引く。 正直心もとないがないよりマシか。


「私はこれでターンエンド。 サフィラの効果は発動条件を満たさないため、発動はしないわ。 さ、貴女のターンよ」


[葵]
LP4000
手札二枚
魔法・罠:伏せ一枚

〈竜姫神 サフィラ〉


「私のターン、ドロー! よし、伏せておいた〈紅玉の宝札〉をリバース! 手札の〈真紅眼の黒竜〉を墓地に送り、二枚ドロー! さらに追加エフェクトにより〈真紅眼の黒炎竜〉をデッキから墓地に送ります。 さらにマジック〈銀龍の咆哮〉を発動! 蘇れ、レッドアイズ!!」

〈真紅眼の黒炎竜〉☆7
ATK/2400


床に亀裂が入り、激しく燃え盛る火焔と共に私のフィールドに漆黒のドラゴンが舞い降りる。 その勇姿を前にし、少しだが心が落ち着く。

「ふふ、凄いわね。 けど、私のモンスターには届かない」
「なら、とどかせるまでです! 手札の〈黒鋼竜〉のエフェクトを発動! 〈黒炎竜〉に自信を装備し、攻守を600ポイントアップさせる!」

〈真紅眼の黒炎竜〉
ATK/2400→3000

鋼と黒焔の二重武装。 私のドラゴンの攻撃力が青眼に並ぶ。

「〈黒炎竜〉を再度召喚し、バトルです! 〈黒炎竜〉で〈サフィラ〉を攻撃! ブラック・メタルフレア!」
「……くっ。 私は墓地から〈祝祷の聖歌〉を除外することで破壊を無効にするわ!」

[葵]LP4000→3500

叛逆の一打は、サフィラを守護する結界に阻まれる。 いつの間に〈聖歌〉が墓地に置かれていたかはわからないが、しかし心当たりならある。

「〈施し〉の時か、〈サフィラ〉の効果の時ですか……」
「ふふ、さぁ……?」


葵さんは意味ありげに微笑み、言葉を濁す。 終始柔和な笑みを浮かべているため、相手の表情から次の手が読めない。 下手なポーカーフェイスより厄介だ。

「倒せなかったけど、せめてライフを減らさせます。 〈黒炎竜〉のエフェクト発動! 〈黒炎竜〉の元々の攻撃力……2400のダメージを与える!」
「手札から〈ハネワタ〉を捨て、効果発動。 効果ダメージを0にするわ」

黒炎竜の火炎弾は、ハネワタにまるっと呑み込まれ防がれてしまう。 そして、その奥では残念だったわね、と葵さんが笑っていた。
天使族かつサフィラの効果のトリガーにも使えるのでもしやと思っていたが……。こうも打つ手打つ手を防がれるとやり辛い。

「私はカードを一枚伏せてエンドです」
「なら、私はサフィラの効果を発動させてもらうわ。 手札を二枚引き、一枚捨てる」


[花村 華蓮]
LP4000
手札0枚
魔法・罠:伏せ一枚
〈黒鋼竜〉

〈真紅眼の黒炎竜〉



攻撃力こそサフィラを上回ったものの、サフィラを倒せず、さらに手札まで稼がれてしまい、依然苦しい状況は続いている。 そんな私の心境を見透かしたように目の前にいる葵さんはため息をはいた。


「あの局面から、巻き返したのは褒めてあげる。 けど、少し期待し過ぎたかしら……?」
「えっ」

こちらを見据える葵さんと目が合い、どきりとする。
私を見つめる視線は、冷ややかなもので闘志とか熱意とかそんなものを全く感じさせない、絶対零度の視線だった。

果たして、彼女はこんな目をする人だったのだろうか……

先ほどから言動の違和感を感じていると、紡がれる葵さんの言葉に動揺する。

「ーーあなたは確かに強い。 けど、まだ足りない……斎王様(・・・)の手足となり得るには、足りないっ!」
「なっ……⁉︎」


葵さんの口から敬称で呼ばれたのは、このアカデミアで次々と信者を増やしている〈光の結社〉の教祖。 明日香 先輩をあんな風にした大元の原因。

「なん……で、まさか」

最悪の結末が脳裏をよぎる。 しかし、それを訊ねようとするも掠れた声しか出ない。

「えぇ、そのまさかよ。 私は、あなたが此処に来る前からあちら側の人間だったのよ。 ついでに言うなら、あなたが〈レンカ〉だって知っていたし、私とルームメイトになるのだって、斎王様がお導きになった運命よ」


うっとりとした瞳で宙を見つめている葵さんはさっそく別人のよう。 上向いていた視線を再び私へと向ける妖しく笑みを浮かべた。

「さて、私のターンだったわね。 ドロー。 二枚目の〈高等儀式術〉を発動。 デッキから星6の〈逆転の女神〉を墓地に送る。 さぁ、華蓮、刮目しなさい! これこそ斎王様から戴いた我がチカラッ! 降臨せよ、〈神光の宣告者(パーフェクト・デクレアラー)〉!!」

〈神光の宣告者〉☆6
ATK1800

フィールドの中央。 紅、翠、紫の威光が一つとなり、神々しい光が灯る。 本来、慈愛に満ちた温かいはずのそれは、何故か全身が寒気立つ感覚に襲われる。
言い表せない悪寒に苛まれている中、神の威光を浴びた葵さんが攻勢に打って出る


「通常魔法〈闇の量産工場〉を発動し、墓地から二体の〈逆転の女神〉を手札に戻す。 そして、戦闘よ! 〈サフィラ〉で〈黒炎竜〉を攻撃!」
「なっ……⁉︎ 攻撃力が下なのにっ」

だが、私の考えは見事に打ち砕かれる。


「手札から〈オネスト〉の効果を発動させて貰うわ! 〈黒炎竜〉の攻撃力を私の〈サフィラ〉に加える! 」
「そんなっ……!」


〈竜姫神 サフィラ〉
ATK2500→5500

[花村 華蓮]LP4000→1500

サフィラを纏う光が膨大し、その攻撃力は破壊神〈オベリスク〉を易々と超える。 私のドラゴンが霞むほどに強い光を湛えたサフィラは、錫杖を一振りし、私のモンスターを消し飛ばす。

「さぁ、これで終わりね。 〈神光〉で華蓮に攻撃!」
「ただでは、終わらせないッ! リバース発ど……なっ!?」


発動させてようとした瞬間に、それは粉々に砕け散る。 上を見上げれば、宣告者が煌々と光輝いていた。

「〈神光の宣告者〉の効果発動……手札から天使族を捨てることにより、魔法・罠、モンスター効果の発動を無効にし、破壊する。 残念、だったわね」
「ぅ、そ……」


絶望する私を他所に、上空では宣告者が純白の光を手のひらに集めていた。 その光景は、まるで愚かな叛逆者を裁こうとする神のように見えた。

「今の貴女は、斎王様の加護を受けるほどの器の持ち主ではない。 安心して、散りなさいっ!! 」
「っ!?……きゃ、ァァァァァァァァ!」


視界を覆うほどの純白の光が放たれ、軽々と吹き飛ばされる。 背中から鈍い痛みを感じながら、それも何処か遠くのようなことに感じていき、目の前がホワイトアウトした。





 
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