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マイアミの雪

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第一章

                マイアミの雪
 ペドロ=デストラーデは恋人のファナ=ロドリゲスの言葉にまずは呆れた。
 そしてだ、恋人の褐色で丸く黒い目が大きい卵型の顔を見てさらに言った。縮れた黒髪は伸ばして後ろで束ねていて背は一六〇位で胸が大きい。唇は厚い。
「ここ何処だよ」
「マイアミよ」
 ファナはファナでペドロの二メートル近い身体と顔を見ている、黒髪はかなり短く刈っていて薄い褐色の肌に黒く澄んだ感じの目だ。唇はファナよりは薄く横に大きい。鼻の形がしっかりしている、その彼に言った言葉だ。
「フロリダのね」
「そこで雪か」
「ええ、雪みたいけれど」
「マイアミに雪なんてあるか」
 ペドロは即座に言った。
「常夏だぞ、ここは」
「まさにね」
「夏に雪があるか」
 ペドロはまた言った。
「どうしてそんなことを言うんだ」
「見たいからよ」
 あっさりと返したファナだった。
「私がね」
「また我が儘なこと言うな」
「それで無理なの?」
 あらためて問うたファナだった。
「それで」
「だからここ何処なんだよ」
 また言ったペドロだった。
「マイアミなんだぞ」
「暑いからっていうのね」
「ここで雪なんか降ったらな」
 それこそとだ、ペドロはまた言った。
「異常気象だろ」
「まあそれはね」
「ここはその暑さで成り立ってる場所なんだぞ」
「ビーチでね」
「それで観光産業があってな」
 まさにそのうえでというのだ。
「成り立ってる街なんだぞ」
「合衆国でも有数のね」
「しかも俺だってな」
 自分のこともだ、ペドロはファナに言った。
「アイスクリーム屋やってるな」
「観光客の人もよく来てくれるわね」
「親父の代からのな、それでどうしてなんだよ」
「雪が降るかっていうと」
「アイスクリーム雪の中で食うか?」
 寒い場所で冷たいものを口にしたいかというのだ。
「あったかい部屋の中ならともかくな」
「そんなもの好きもいないわね」
「そうだよ、暑い時には冷たいものを食うんだよ」
 それが人間の心理だというのだ。
「雪なんかあるか、そんなに雪を見たいんならな」
「マイアミから出てっていうのね」
「旅行に行け、シアトル辺りだったら寒いからな」
 アメリカの北西部の端にある街だ、北西部の中心都市と言っていい。同じアメリカにあっても南東部の端にあるマイアミとはかなり離れている。
「雪だって降るさ」
「だからなのね」
「そこに行け、金溜めてな」
「マイアミじゃ諦めろっていうのね」
「ここに雪なんてあるかよ」
 ペドロは言い切った。
「何があってもな」
「それでも見たいって言えば?」
「俺は気は長い方だけれどな」
 それでもと言うのだ。 
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