ナイチンゲール
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第三章
「何度行ってもいい勉強になるね」
「そうですか」
「うん、だからまたね」
「あの国にですね」
「行くよ」
こう言うのだった。
「学びにね」
「フィールドワークですね」
「その為に」
「何度でもですね」
「行かれるんですね」
「そうするよ、ただね」
ここでだ、教授は少し苦笑いになって学生達にこう言った。
「覚悟することがあるよ」
「怖い妖精が出るとか?」
「幽霊ですか?」
「いや、そういうのは見たら面白いけれど」
面白い、即ち怖くはないというのだ。
「また違うものだよ」
「違うっていいますと」
「っていいますと」
「アイルランドには何かあるんですか?」
「イギリスもそうだけれど」
前置きしてからのことだった、それは。
「食べものがね」
「ああ、アイルランドもですか」
「食べものは合わないんですか」
「僕達には」
「いつも行ったら痩せるんだ」
ジョークで説明する教授だった。
「アイルランドやイギリスに行けば」
「食べものが合わなくて」
「それであまり食べなくて」
「だからですか」
「そちらは覚悟するんだ」
食べることについてはというのだ。
「わかったね」
「はい、期待しないでおきます」
「そのことは」
「イギリスも有名ですけれどアイルランドもですか」
「覚悟しないとなんですね」
「景色は奇麗なんだけれどね」
食べることについてはというのだ、こう話してだった。
そしてだ、教授は暫く日本で学んでだった。そのうえで。
再びアイルランド、そのアルスターの村に行く機会を得た。それで学生達を日本に残してその国に来ると。
村の者達は彼にだ、残念な顔で言った。
「前に来られた時に貴方と応対したオコンネル爺さんですが」
「村の長老でしたが」
「先月です」
「肺炎で亡くなりました」
「そうですか、かなりご高齢でしたからね」
その話を聞いてだ、教授はまずは瞑目した。
「それで、ですね」
「はい、残念ですが」
「そうなりました」
「それで、ですが」
村の者達は教授に話しった。
「爺さんが亡くなった夜です」
「その夜にです」
「ナイチンゲールが啼きました」
「あの鳥が」
「それでは」
その話を聞いてだ、教授は言った。
「この村の言い伝えは」
「本当のことでした」
「この村で生まれ育ち長く生きてきた者が死ねば」
「その夜にナイチンゲールが啼く」
「まさにその通りでしたか」
「そうでしたか、まさに」
教授も言うのだった。
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