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真田十勇士

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巻ノ三十四 十勇士その七

「それも思わなかったが」
「全て、でしたな」
「やられたわ」
「殿、これからですが」
 家康に最後に言ったのは井伊だった。
「どうされますか」
「真田家のことか」
「はい、今後は」
「もう何も出来ぬ」
 家康は難しい顔で井伊に答えた。
「言った通りな」
「やはりそうですか」
「羽柴家と和す、即ちな」
「真田家ともですな」
「そうじゃ、これ以上は戦えぬ」
「そうなりますな」
「あの家は置くしかない」
 信濃の全てを手に入れることは出来ないというのだ。
「そうしようぞ」
「わかりました」
「さすれば」
 四天王は主のその言葉に頷いた。
「では、です」
「あの家は置き」
「そして、ですな」
「羽柴家と和し」
「後は政に専念しますか」
「そうしよう、しかし一つわかった」
 ここでだ、家康は言った。
「当家は策がない」
「策がですか」
「それがないですか」
「そうじゃ、それがわかった」
 こう言うのだった。
「何もな」
「策、ですか」
「それが」
「うむ、本多正信がおるが」
 こう言うとだ、不意にだった。
 四天王は四人共だ、眉を顰めさせた。そのうえで主に言った。
「殿、あの者は」
「決してです」
「重く用いてはなりませぬ」
「何があろうとも」
「皆そう言うのう」
 家康は四天王の言葉に難しい顔で返した。
「御主達も他の者も」
「あの様な者武士ではありませぬ」
「人を陥れることばかり企み」
「あの様な腹黒い者はいませぬ」
「卑怯未練の極みです」
 それが本多正信だというのだ。
「あの様な者はです」
「近くに寄せてはなりませぬ」
「ましてやあの者の倅はです」
「父親以上の腹黒さ」
 彼の息子の正純の話もするのだった。
「決して近寄せず」
「家から出すべきです」
「あの輩は天下の奸賊」
「間違いなくそうした者ですぞ」
「そう言うがじゃ」
 それでもとだ、家康は言うのだった。
「当家には策がない」
「それがですか」
「ないからですか」
「そうじゃ、当家は戦上手の者が揃っていてじゃ」
 今自身と話している四天王を筆頭としてとだ、家康は言った。実際に徳川家は彼にしてもそうであるが武辺者が揃っている。
「政も出来る、しかしな」
「策はですか」
「それがですか」
「ない、戦と政の将帥はおっても」
 それでもというのだ。 
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