Ｂｌｕｅ　Ｒｏｓｅ

「その走り方はない」
「それで、ですね」
「一度お姉さんに話せ、いいな」
「わかりました」
　走った後でそうした話をしたのだった、そして。
　その授業の後でだった。優花にだった。
　龍馬が来てだ、彼に尋ねた。二人はもう着替え終えてクラスにいてそのうえで話をしていた。
　龍馬は優花にだ、先生の仇名を出して尋ねた。
「角刈りと何の話してたんだ？」
「いや、走り方でね」
「御前のか」
「うん、そのことで話してたんだ」
「走り方でか」
「僕の走り方が女の子のそれだって言われたんだ」
「またそうした話か」
　龍馬は優花の話を聞いてやれやれといった顔で返した。
「角刈りまで言うなんてな」
「先生かなり心配してたよ」
「角刈りはそうだろうな」
　部活でもいい先生として知られているのだ、厳しい時は厳しいが公平で思いやりのある確かな先生としてだ。
「ちょっとしたことで俺達にも言うんだよ」
「何かおかしなことはないかって」
「ああ、いつもだからな」
　それでというのだ。
「御前にも言ったんだな」
「走り方が女の子のものだって」
「それっておかしいことか？」
「みたいだよ、身体の構造から走り方って変わるらしいから」
「癖だろ」
「僕もそう思うけれどね」
　優花は龍馬にいぶかしむ顔で返した。
「やっぱり、けれどね」
「角刈りはそう言うんだな」
「僕の走り方は癖じゃなくて」
「身体の仕組みからだってね」
「それでか」
「女の子のそれだってね」
「全く、角刈りはな」
　今度はこんなことを言った龍馬だった。
「心配性なんだよ」
「凄くいい人だけれどね」
「それが裏返ってな」
　その形でというのだ。
「心配性なんだよ」
「そういうことなんだね」
「そんなの気のせい、いや」
「いや？」
「それだけ角刈りが生徒のことを気にかけてるってことか」
「部活でもそうなんだね」
「第一に言うのは怪我をするな、なんだよ」　
　部活をしている時にというのだ。
「身体に無理をかけ過ぎない、準備体操と整理体操は絶対にしろってな」
「そうして怪我をするなっていうんだね」
「それで用具を出したり収めたりするのも率先してだ」
「自分で出し入れするんだ」
「生徒の悩みとかにも絶対に相談に乗ってくれる」
「本当にいい先生なんだね」
「意地悪とか絶対にしないしな」　
　そうしたこととも無縁だというのだ。
「あの人はな」
「それで僕のこともなんだ」
「気にかけてるんだな」
「教え子だから」
「そうした人だ」
「そうなんだね、けれど」
　優花はここでは少し俯いて言った。
「また言われたよ」
「角刈りにもか」
「うん、女の子みたいだってね」
「それが困るか」
「そんなにかな」
「正直に言っていいか」　
　龍馬は正面を見て優花に言った。