魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第2章:埋もれし過去の産物
第36話「命からがら」
前書き
力は緋雪、堅さはU-Dが上となっています。
二人がぶつかりあったら...まぁ、某DBのような戦闘音が鳴り響くでしょう。
守りたかった。助けたかった。救いたかった。
...そんな、後悔ばかり僕は背負ってきている。
あの日、あの時、手遅れだと実感してから、ずっとそう思っている。
民はもう、僕の味方ではなくなっていた。
彼女の“お守り”を作るのに協力してくれた者達も、全てが敵に回った。
協力してくれるのは、既に他国の者である聖王と覇王だけ。
―――それでも、僕は彼女を救いたい。
それが僕の贖罪だから。幼馴染としての僕の誓いだから。
....人一人をちゃんと導けずに“導王”だなんて笑っちゃうよね。
なにが“導きの王”なんだか...。
民に見捨てられ、人一人も導けない。...そんなの、導王な訳がない。
....ああ、攻めてきたか...。それに.....。
―――....さぁ、今日もあの子を助けに行こうか。
=out side=
―――ッギィイイイン!!
「......え....?」
甲高い弾かれるような音が鳴る。
振り下ろされた大剣に目を瞑っていた司は恐る恐る目を開け、それを確認した。
「...誰....?」
目を見開いた。
見知らぬ青年がその大剣を蹴りで逸らしていたのだ。
「志導..君.....?」
「......。」
その雰囲気、防護服のどれもが、司の知っている優輝にそっくりだった。
「(...ううん、志導君はこんなに大きくない。...だけど、“優輝君”にそっくり...。)」
さっきまで見ていた優輝とは姿が違うが、かつての記憶の中にある“優輝”とは容姿がそっくりな事に、司は驚く。
そうこうしている内に、彼は剣を素手で弾き、流れるような動きで緋雪を弾き飛ばす。
「....逃げろ、天巫女よ。」
「えっ....?」
「...あいつは...シュネーは僕が相手をする。早く逃げるんだ!」
“天巫女”“シュネー”という単語に聞き覚えのない司だったが、指示に従った方がいいと判断し、逃げようとする。
「....なに?なんなの?ムートの偽物?ふざけないでよ、どうしてそんなのが出てくるの。」
「........。」
弾き飛ばされた緋雪が戻ってきて、そう呟く。
それに対し、彼は無言で佇む。
「...態勢を立て直せ。僕でも今のシュネーには勝てない。...所詮、偽物だからな。」
「え、偽物だって自覚を....。」
「行け!」
驚く司の足元に金色に輝く三角の魔法陣が展開される。
...彼の転移魔法だ。
「待っ――――」
「....頼んだぞ。きっと、“僕”なら....。」
言葉を言い切れずに、司は転移してしまった。
「.....さて。」
転移した司を見送り、彼は緋雪と向き合った。
「ねぇ、死ぬ覚悟はできた?腕も足も首も、全部ぐちゃぐちゃにへし折られて、地獄のような痛みに叫ぶ覚悟は出来た!?」
「...生憎、そうなる前に僕は消えるさ。」
何かの琴線に触れたのか、緋雪はさっきまでより攻撃的になっている。
そんな緋雪の言葉を受けて、彼は飄々としていた。
「...シュネー、君の偽物は“彼女”を目覚めさせる“鍵”だった。...なら、“彼”の偽物でもある僕は“彼”の“鍵”だろうね。」
「...うるさい。もうその姿で、その声で...ムートとして....喋るなっ!!」
魔力を爆発させ、緋雪はレーヴァテインを振う。
「どこまで行けるか分からないけど、布石は打たせてもらうよ、シュネー!!」
そう言って彼は拳を構え、緋雪へと立ち向かっていった。
―――今ここに、狂気に堕ちた雪と、仮初めの導きの王がぶつかり合った。
「...っ、ぐ.....!」
「.....つまんない。」
彼の腹から夥しい量の血が溢れる。
彼の腹が緋雪によって貫かれた結果だ。
「つまんない、つまんない!つまんない!!つまんない!!!」
「.......。」
彼は緋雪と戦い、そして負けた。
その時間、約5分。
...闇の欠片としてなら、緋雪相手によく持った方なのだろう。
「....はは...落ち着けよシュネー...。」
「っ...なに?まだ喋るの?いい加減黙れよ偽物。」
「冷たいなぁ...。...ま、そう言ってられるのも時間の問題だよ。」
腹を貫かれ、既に消滅が決定していても彼は喋り続ける。
「....布石は打った。これで“鍵”は開かれる....。」
「....なにを.....。」
「....偽物としてじゃなく、既に死んだ“ムート・メークリヒカイト”として言っておくよ。」
消えゆく体を顧みず、彼は言う。
「....今度こそ、助けてやるよ、シュネー....!」
...そう言って、彼は消えてしまった。
「......嘘つき。そんなの、もうできる訳ないのに。」
残った緋雪はそう呟く。
「“お兄ちゃん”ならそれができると思ってるの?あの人はムートと似ているだけの別人なのに。...もう死んだんでしょう!?これ以上、私に希望を持たせないでよ!!」
泣き叫ぶように、嘆くように緋雪は叫ぶ。
...もう、救われないと分かっているかのように。
「...どの道、ムートがいない世界なんていらない。壊すのには変わりないよ。さっきの人間には逃げられたけど...もう三人、見つけちゃったもんね。」
そう言って緋雪はとある方向へ飛んで行った。
一方、織崎神夜とアミティエ・フローリアン、キリエ・フローリアンのグループでは...。
「....通信が、途絶えた...?」
『ああ。司から来ていた通信が全て途絶えた。寸前までは恐らく闇の欠片に乗っ取られたであろう緋雪が映っていた。おそらく....。』
「っ.....。」
クロノからの通信に神夜は歯噛みする。
まさか、司が倒されるとは思っていなかったのだろう。
『そちらも警戒してくれ。今回の事件、予想以上に状況が厳しい。』
「分かった。」
そう言って神夜は通信を切る。
「...くそ...!」
「神夜さん...。」
悔しがる彼を、アミタが心配するような声で彼の名を呼ぶ。
...尤も、ここまで彼女が彼を心配するのはひとえに“魅了”の所為なのだが。
「(なんだよこれ...!原作と大違いじゃないか!BOAはなかったし、GODであるはずの今もユーリは強い、闇の欠片で変な奴は現れる、なぜか本物を乗っ取る力もあるとか相違点が多すぎる!...くそっ、どうなってんだ...!?)」
彼は原作と違う事に焦る。
...なお、“変な奴”とは妖の事である。乗っ取るのも緋雪限定の事である。
「(おまけに未来から転生者とその家族?は来るし、そのうち二人程知っている容姿をしてたし、おまけにヴィヴィオが志導優輝の養子!?原作はどうなってるんだよ!)」
想定していた通りにならず、頭を掻き毟る神夜。
...当然だが、彼ら転生者がいる時点で“原作”というものは存在しない。
そして余談だが、元々この世界に“原作”となる物語は存在しない。
「っ...誰か...来る!」
〈主、この魔力と圧力は....!〉
「っ....!?」
彼らは何かが接近してくるのを感知した。
そして、その方向を見ると...。
「....あはっ♪」
「っ....!?二人共、散r」
―――ドォオオオオン!!
緋雪が彼らに手を向け、それを握る瞬間だった。
“破壊の瞳”によって、彼らの集まっていた場所が爆発する。
「ぐっ....!」
「きゃぁあっ!?」
「っ....やったわねー...!」
三人とも爆発に吹き飛ばされ、キリエがすかさず反撃に移る。
“ヴァリアント・ザッパー”と呼ばれる可変銃器を大剣に変え、斬りかかる。
―――キンッ!
「えっ...?」
「うふふ...よっわーい。そんなんじゃ、人も殺せない...よっ!」
しかしその攻撃は、杖形態のシャルによっていとも容易く防がれ、吹き飛ばされた。
「頑張って避けてね!あはははは!」
〈“Rot regen”〉
赤色の魔力弾が、彼らの上空に大量に展開され、降り注ぐ。
「ぐっ...!?ぁあっ!?」
「っぁああああああ!?」
「神夜君!?お姉ちゃん!?」
防ごうと、相殺しようと試みた神夜とアミタが魔力弾の雨にやられる。
唯一、先程吹き飛ばされて射程圏外だったキリエが、二人を心配して叫び声を上げる。
「..あはっ、なーんだ。機械なんだ。残念。これじゃあ、血を吸えないや。」
魔力弾の雨に晒されたアミタの右腕が吹き飛ばされる。
そこから見える機械の部品に、緋雪は落胆した。
「血...だと?」
「あれー?今更気づいたの?私は吸血鬼、この世界の全てを壊す吸血鬼なの!お前たち人間が招いた必然の結果なんだよこれは!!」
そのあまりの防御力のおかげか、大したダメージを負っていない神夜は緋雪にそう言われて顔を顰める。
彼は緋雪は乗っ取られていると思っているのだ。それで単純な怒りを抱いている。
「やめろ!正気に戻るんだ!」
「あははは!あははは...は?」
「お前だってこんな事は本当は望んでいないだろ!」
神夜から放たれた言葉に緋雪は嗤いを止める。
「なに?もしかして闇の欠片に乗っ取られてるとでも思ってるの?バカみたい!これは私の本心!乗っ取られたんじゃない、思い出したんだよ!人間は!この世界は!もう、壊すべきなんだって!」
両手を広げ、高らかに緋雪はそう言う。
「っ...!嘘だ!お前はそんな奴じゃない!」
「...ふふ..あはは...あははははははは!」
それでも違うという神夜に、緋雪は笑いだす。
「バカみたい!バカみたい!!バカみたい!!!目の前の事をただ認めようとしないなんて、ホンットバカみたい!!」
笑い、嗤い、哂う。嘲るように緋雪は神夜にそう言う。
「...お前みたいな偽善者がいたからムートは死んだんだ!!そんな奴が“正気に戻れ”?ふざけるな!ふざけるな!!全部お前らが招いた自業自得だよ!!自分がやった事を棚に上げて言う事がそれ!?これなら真っ当な悪者の方が万倍もマシだよ!!」
「っ....!」
突然緋雪は捲くし立てるように怒りを露わにする。
「ああそうだよ!こんなのただの八つ当たりだよ!でもね、もうムートが死んだ時にいたようなクズみたいな偽善者なんて消えてなくなって欲しいんだよ!」
―――だからさ、死ねよ。クズ。
「がっ....!?」
瞬間、彼女は神夜を殴りつけていた。
「お前さぁ、一定以上の威力じゃないと何も効かないんだって?じゃあ、ちょっとストレス発散に付き合ってもらうよ!!」
「っ....!?」
そう言って緋雪はレーヴァテインを展開して振りかぶる。
「ぐっ...!」
「あはっ!まともに受けようって言うの?いいよ、やってみなよ!!」
―――ギィイイイン!!
「っ!?ぐぁああああっ!?」
レーヴァテインを神夜はアロンダイトで受けようとするが、その上から吹き飛ばされる。
「ほら、ほら、ほら、ほら、ほらぁ!!」
「がっ、ぐっ、ぎっ、ぐぁっ...!?」
吹き飛ばされ、回り込まれ、また吹き飛ばされる。
「...一度死ねば?」
〈“Zerstörung”〉
瞬間、神夜は爆発した。
体の防御力を無視したような、体内からの爆発。
一瞬にして死んだ神夜は自分が殺された事すら自覚できなかった。
「神夜..さん....?」
「嘘....!?」
一瞬にして神夜が殺された事に、アミタとキリエは信じられないような顔をする。
「くっ...!よくも....!」
「よくも神夜君を...!!」
二人は自身に残るダメージを顧みず、怒りに任せて突撃する。
「ぁああああっ!!」
「はぁああああっ!!」
一見、怒りに任せただけの愚直な攻撃だろうが、そこは姉妹。
きっちりと連携を取って緋雪に攻撃する。
「へぇ...なかなかにやるじゃん。でもぉ...。」
―――後方注意...ね?
「「―――っ!?」」
後ろから突然飛んできた魔力弾を、咄嗟に二人は回避する。
「甘いあまーい果実に釣られて、罠に引っかかって惨めな最期を遂げるのはだぁれ?」
〈“Obst falle”〉
甘い果実に接近してしまった二人は罠に包囲されてしまう。
「...お姉ちゃん、腕は....。」
「...片腕だけならいけますよ。」
先程の魔力弾の事もあってか、怒りを鎮めて冷静に対処しようとするアミタとキリエ。
背中合わせになり、包囲して迫ってくる魔力弾にどう対処しようか考える。
「一発一発が弱い砲撃魔法並の威力です。気を付けてください。」
「あはは、安心しなよ。さっきのよりは威力は低いよ。さっきのよりは...だけどね!」
「「っ....!」」
緋雪の言葉と共に、勢いよく魔力弾は迫ってくる。
それを二人で連携して対処する。
アミタが残った片腕で魔力弾を放ち、勢いが弱まった所をキリエが切り裂く。
二人の連携でこそ凌げているが、徐々に押されていく。
「っ、ぁあっ!?」
「キリエ!」
ついに対処しきれず、キリエは魔力弾を喰らってしまう。
片方がダメージを受けた事により、魔力弾は対処しきれなくなり...。
―――ザンッ!!
「―――大丈夫か!?」
魔力弾が当たりそうになった瞬間、魔力弾が切り裂かれる。
現れたのは死んだはずの神夜。
「...面倒。12回も殺さないといけないなんて。」
「っ...緋雪、お前を...止めてみせる!」
「はっ!やってみなよ!何回だって殺してあげる!!」
神夜はFateのヘラクレスの宝具“十二の試練”により、12回殺されないと死なない。
おまけに、死因となった攻撃には耐性が付き、効きにくくなるという効果もある。
だからこそ神夜は生き返り、緋雪に立ち向かった。
「....これで三回目。」
「...っごふ、はぁっ、はぁっ、はぁっ....。」
爆殺、斬殺、圧殺。それが神夜の三つの死因。
結果は明らかだった。神夜はアミタとキリエとも連携を取り、緋雪と戦ったが、二人は気絶、彼は計三回も殺された。
「あーあ、飽きちゃったな。もう、こうなったら....。」
先にアミタとキリエを殺そうと、照準を変える。
「させ、るか....!」
「邪魔。」
「ごっ....!?」
邪魔をしようとした神夜は緋雪に殴られ、吹き飛ばされる。
「じゃあ、殺すね。やっちゃえ、シャルラッハロート!」
〈“Lævateinn”〉
今までのレーヴァテインよりも激しく燃え盛り、その大剣を振りかぶる。
そして―――
「―――“ 満ちる極光”!!!」
緋雪を多数の魔法陣が包囲し、極光に包まれた。
「司....?」
「逃げるよ!」
魔法を放った人物...司はすぐに神夜達三人の下へ駆け寄り、転移魔法を使う。
「...ぁあああああああああああ!!!」
「っ...!(あの大剣の魔力で防がれた...!?)」
緋雪は先程の魔法を大剣に込めていた魔力で防ぎ、爆発させ、相殺したようだ。
そして、緋雪は雄叫びと共に魔力を爆発させ、司に気付く。
「っ...!またお前....!」
「...転移っ!!!」
相手にしていられない。
司はそう分かっていたので、転移魔法で遠くに逃げた。
「......っ。」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ...。」
「き、キリエ...無事ですか...?」
「...これが、無事に見える....?」
転移先にて、崩れ落ちるように二人は体勢を崩す。
気絶していたアミタ達も、転移の衝撃で目を覚ました。
幸い、転移先はどこかのビルの屋上だったため、四肢を投げ出して休めた。
「危機..一髪....!」
司は、優輝の闇の欠片に転移させられた場所から、神夜達の所まで駆けつけたのだ。
「(...助けれて...よかった...!)」
なお、助けに行く際に緋雪に対する恐怖と、もう不幸に..死なせたくないという想いの葛藤もあり、助けれた事に司は安堵していた。
「クロノ君、聞こえる!?」
『司か!?無事だったんだな!』
「なんとかね...。織崎君達のグループが緋雪ちゃんと交戦、緋雪ちゃんは完全に暴走しているような感じで、三人がかりでも全然倒せそうになかった。多分、私が咄嗟に転移魔法で助けに入らなかったら志導君みたいに...。」
司は早速クロノと連絡を取り、状況を伝える。
『っ...彼は!彼はどうなったんだ!?』
「...海に、落とされた....。」
『っ.....くそ...!』
「今すぐ探索に出ている人達を撤退させて。多分、今の緋雪ちゃんはU-Dに匹敵するかもしれない。」
『....分かった。こちらから伝えておく。』
そこまで話して通信を切る。
「とにかく、私達もアースラに...。」
〈マスター!魔力反応です!これは...!〉
「「「「っ....!」」」」
シュラインの警告に、四人は魔力反応があった方向を見る。そこには...。
「....私....?」
「闇の欠片か...!?」
そこには、薄水色を基調とした服に、肩などに白い布の装飾があり、その上に透けた薄レモン色の衣を羽織った司が佇んでいた。
見た目も雰囲気もまるで聖女のように神聖で、攻撃するのが躊躇われるほどだ。
「....私はただの断片。貴女を構成する要素の一つでしかありません。」
「え....?」
澄んだ、透き通るような声で司にそう言う司の闇の欠片。
「...少し、他の方々には眠っていてもらいましょうか。」
「っ、何を...!」
“何をする”と言う間もなく、司を除く三人は気絶してしまった。
「皆!?」
「安心してください。ただ眠ってもらっただけ。むしろ自然治癒能力も高めています。」
「........。」
闇の欠片はそう言うが、司は警戒心を緩めない。
「....私は、天巫女として生まれた貴女の偽物。」
「天...巫女....?」
「そうです。祈りの力を高め、極めた可能性の一つ。」
「(天巫女...そう言えば、志導君の闇の欠片も言っていた...。)」
聞き覚えのない“天巫女”と言う単語に首を傾げる司。
「...今の貴女には関係ない話でしたね。」
「.....それで、私達をどうするつもり?」
どの道、自身の偽物には変わりないと断定し、闇の欠片を睨む司。
「そうですね。強いて言うのなら...餞別です。」
「え....?」
そう言うやいなや、祈りの体勢に入る闇の欠片。
「天に祈りを捧げる巫女の願いを叶えたまえ...汝らの心に巣食う闇を祓い、護りし加護を....天に輝き、天を駆ける願いよ!今ここに顕現せよ!」
―――“Wish come true”
瞬間、司達を光が包み込む。
〈これは....!〉
「暖かい....。」
シュラインは何かに気付いたような声を上げ、司はその光に暖かさを感じる。
...しかし...。
「...っ、えっ!?」
司と神夜だけは、光が弾かれるように消えてしまった。
「っ....やはり、断片風情では本体の心は救えませんね...。“彼”に期待しましょう。」
「えっ、えっ?どういうこと...?」
顔を顰める闇の欠片。しかし、すぐにとある方向を見て真剣な顔になる。
「...彼にも効かないのが些か気になりますが、時間がありません。今の祈りの術式を、貴女に託しておきます。」
「ちょ、ちょっと、説明してよ..!」
闇の欠片はまた祈りの体勢になり、何かの文字の羅列が闇の欠片を周りを回る。
そして、それが司へと移り、その文字の羅列は司へと吸い込まれていった。
「....では、御武運を。」
「ま、待っt―――」
言い切る間もなく、闇の欠片の祈りによって司達は転移した。
神夜の首元にあるペンダントも光に包まれていたのに、誰も気づかないまま...。
―――...なるほど、状況は理解しました。このような事になっていようとは...。
「....行きましたね。」
一人残った司の闇の欠片は、そう呟く。
そして、次の瞬間。
「....ご...ふ........。」
胸から突きでる手、溢れる血。...そう、貫かれたのだ。
「....ふふっ、偽物だけど、美味しそうなの見っけ♪」
「...ぐ...もう、来ましたか....。」
「お前、あいつの偽物みたいだね。でも、本物よりも美味しそうだなぁ...。」
にぎにぎと、体の中で手を動かす緋雪。
「....貴女を..救う事は、祈りを極めた...私にも不可能.....。」
「あは、何言ってるの?私を救う?そんなの不可能に決まってるじゃん。何を今更。」
ケラケラと、嘲るように緋雪はそう言う。
そう、狂気に堕ちた緋雪を救うなど、もう不可能なのだ。
「....そう、ですね...。貴女を救う..事ができるのは、ただ、一人....だ..け.....。」
「.........ふん。」
緋雪は司の闇の欠片から手を抜き、それについた血を舐める。
吸血鬼にとってその血は美味いらしいのだが、緋雪は不機嫌だった。
「ムートはもういないんだよ。その“ただ一人”はもういないんだよ。それこそ今更だよ、偽物風情が。」
消えてゆく闇の欠片に、緋雪はそう吐き捨てる。
「....あーあ、また逃げられちゃった。...もう、さっさと結界を破壊した方がいいかな?」
そう言いながら緋雪は漂う。
「...あ!そうだ、せっかくだからU-Dも食べちゃえ。あの力が手に入ったらもっと楽しく壊せそう♪制御なんてしなくても私はいいもん。」
クスクスと笑いながら緋雪はそう言う。
「でもー、さすがに一対一で真正面から戦うのはきついかなー?どうせ人間共も止めに来るんだろうし。」
そこまで言って、緋雪はある存在に目を付ける。
「そうだ!“アレ”を従えれば....♪」
そう言って、緋雪は勢いよく飛んで行った。
―――...狂気の復讐は、止まらない....。
後書き
Rot regen…赤と雨のドイツ語。文字通り赤色の魔力弾の雨を降らせる。
Obst falle…果物と罠のドイツ語。フランのクランベリートラップの上位互換。
緋雪が緋雪らしからぬ性格をしているのは仕様です。もう彼女は止まれませんから。
あ、ちなみに司の闇の欠片が“祈りの力を極めた”と言ってますが、それは闇の欠片としての範囲です。司本人ならもっと高い効果が出せます。
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