笑顔の戦士と絶望に抗う戦士
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3話
「それじゃあ、みゆきも此処から出る方法は分からないわけか」
悟飯は、みゆきから此処に来るまでの経緯を聞いていた。
「うん。本棚が光ったと思ったら、急に引っ張り込まれたんだよ」
「そうか……しかし、妖精に絵本の国、ねぇ」
「……信じられないかな?」
悟飯の呟きを聞き、みゆきは不安そうに悟飯を見つめる。
「うん?いや、信じていないわけじゃないさ。ただ、妖精が存在していたなんて知らなくてね……宇宙人になら会ったことあるけど」
「え!?宇宙人さんに会ったことあるの!?」
悟飯の言葉にみゆきは驚愕し、物凄くキラキラした眼で悟飯を見ている。
「ははッ……まぁ、この話は後にして、今は此処から出る事を考えよう」
みゆきの様子に苦笑しながらも、悟飯は話を進めた。みゆきは「はっぷっぷー」と言って不満そうに口を尖らせていたが……
「この本棚から出てきたんだよね?」
「うん。あれ、この本……確か」
みゆきは自分が出てきた本棚の前まで来て、並べられている本を見る。そして、何かに気づいたらしく自分のカバンの中を漁りだし、みゆきは一冊の本を取り出した。
「それは?」
「この本からキャンディーが出てきたの。そして、見て?」
みゆきは悟飯に本を見せ、次に本棚の本を指差す。
「……同じ、か」
キャンディーが出てきた本と、此処の本棚にある本は柄や表紙の作りが全く同じだった。
「うん。多分、メルヘンランドの本はみんな同じ作りなんじゃないかな?」
そう言って、何となく自身が持っている本を棚に挿した……すると
「これは……」
「ま、また光った!?」
本を挿した瞬間、本棚がピンク色に発光したのだ。しかも、今回はそれだけでは無かった。
「クルー」
「!!何だ!?」
「キャンディー!?」
突然響いた声に悟飯は身構えたが、みゆきの言葉を聞いて警戒を解く。
「キャンディーって、さっきの話の?」
「うん。絵本の国の妖精さん」
「プリキュア〜どこクル〜!?」
「「ぷりきゅあ?」」
聞き慣れない単語に首をかしげるが、今はそれどころでは無い。
「キャンディー!どこ!?」
みゆきは、本棚の奥から聴こえてくる声の主を探す為に、がむしゃらに本を動かす。すると、
「きゃあ!」
「!?みゆき!!」
みゆきが本棚の中に引っ張られる事に気づいた悟飯は、彼女を引っ張り上げる為に手を掴む、が
「何!?」
予想外に引っ張り込む力が強く、彼女共々光の中に吸い込まれてしまった。
「ここは……」
「ここって……商店街の本屋さん?」
2人が転移した場所は、虹ヶ丘市にある商店街の本屋だった。
「(綺麗な街だな。まだ人造人間達の被害を受けていない街なのか?)」
そういえば、みゆきは中学校に通っていると言っていたな、と悟飯は思い出す。
学校。つまり教育機関が未だ機能しているという事だ。そして、街を見る限り、人もかなり賑わっている。
だからこそ、悟飯は疑問を覚えた。
「(幾ら、人造人間の被害を受けていないとはいえ、存在は知っているはずだ。なのに、みんな普通すぎる)」
人造人間達が現れて6年、悟飯は人造人間達と戦い続けてきた。その過程で色々な街に行った。
人造人間達の被害を受けた街、被害を受けていない街。
違いはあれど、共通している部分もある。
それは、人造人間達に対する恐怖。
被害を受けた街の人達は、人造人間の圧倒的強さに恐怖し、生き延びた人達もまた、いつ襲われるか分からない現状に怯えている。
被害を受けていない街の人達もそうだ。いつ自分達が住む街が、人造人間達に襲われるか分からない。
人間達は程度の差はあれど、常に不安と恐怖が見え隠れしていた。
しかし、みゆきもそうだが、街の人達にそう言った感情は見受けられなかった。
まるで、人造人間の存在を”知らない”かの様に
「……みゆき。ちょっと聞きたい事があ「あ!キャンディー!!」
「クル?」
悟飯の言葉を遮り、キャンディーを見つけたみゆきはキャンディーに駆け寄った。
「見つけたよ。キャンディー」
「(……あれが妖精か。気とは違う別の力を感じる)」
悟飯はキャンディーを見て、自分たちとは違う力を持っていることを感じ取った……それが何なのかは分からなかったが
「空からオオカミが来たクル!!」
「え?そんなの来るわけ……って、本当に何かいるし!?」
キャンディーの言葉に苦笑しつつ、空を見上げたみゆきは、空に人影あることに気付き、驚愕する
「へぇ、狼男か……ん?」
悟飯が狼男を見ていると、狼男は本を取り出した後、右手に持っていた何かを握り潰し、黒い液体を本に塗りつけた。
その瞬間、空間が変わった。
「クル!?」
「えっ!?」
「これは……」
昼から夜に変わり、太陽が満月に変わる。
更に変化はそれだけに留まらない。
「もう、どうでもいい」
「頑張っても報われない」
「なら、生きていても仕方が無い」
「もうだめだぁ、おしまいだぁ」
自分達以外の街の人達が地面に座り込み、その表情は絶望に染まっていた。
「何だ?」
「ウルフルンが、世界をバッドエンドに変えようとしている来る!!」
「バッドエンド?」
「何それ?」.
「悪い未来のことクル!」
「……悪い未来」
キャンディーの言葉に眉をひそめる悟飯。
「あん?」
悟飯達の存在に気づいたウルフルンが、こちらに降りて来た。
「何だ。お前もこの世界に来てやがったのか」
「世界をバッドエンドにしちゃだめクル!!」
「世界は全てバッドエンドになる。頑張っても無駄なだけだよ」
「違うクル!無駄なんて絶対に無いクル!!頑張ったらきっとハッピーになれるクル!!」
「(……無駄なんて絶対に無い、か)」
「(がんばればハッピーに…)」
「ふん!ほざいてろ、どうせテメェにはそれ以外何も出来ねぇ」
キャンディーの言葉に耳を貸さず、キャンディーを捕らえるために、キャンディーを抱えるみゆきに近づいてくウルフルン……だが
「あん?」
「悟飯君」
そんなウルフルンの行く手を遮る様に、悟飯は前に出た。
「何だテメェ?」
「……この街の人達の顔は、笑顔で溢れていた。お前が何故こんな事しているか知らないが、街の人達から笑顔を奪う事は許さないぞ!」
悟飯にとって、この街の人達の笑顔や、みゆきの笑顔は久々に見た何の濁りも無い、心からの笑顔だった。ウルフルンが何故こんな事をしているのか分からなかったが、皆から笑顔を消す事は許せなかった。
「そ、そうだよ!無駄な事なんて無い!どんな事も最後まで頑張り抜くの、そしたら、いつか絶対、ハッピーになれるんだから!!」
「よく言ったぞ。みゆき」
恐怖心からか膝が震え、キャンディーを護るように抱き抱えたみゆきも、ウルフルンの言葉に反論する。
「ちっ、だったら二人まとめてあの世に送ってやるよ…出でよ!アカンベー!!」
ウルフルンは懐から赤い玉を取り出し、叫ぶ。すると、近くにあった家の塀のレンガが赤く光り出し、それを模した6〜7メートル級の巨大な怪物が現れた。
「アカンベー!!」
「何だ!これは!!」
「レンガのお化け!?」
「ウルフフフ、こいつの名はアカンベー。ピエーロ様の御力で、キュアデコルの力をバッドエンドに変えて生み出した怪物だ」
「……キュアデコル」
「なに、言ってるの?」
みゆきはウルフルンが何を言っているかは分からなかったが、一つだけ確かなことがあった。
この怪物が自分達を襲うつもりだと、そして自分など、あの怪物に襲われればひとたまりも無い事を。
だけど、キャンディーを置いて逃げるわけにはいかない。こんな小さな子を置いて、自分達だけ逃げるわけにはいかない、と
「みゆき。君はキャンディーを連れて、安全なところに隠れていてくれこいつは俺が相手をする」
「……悟飯君?」
自分達を護るように前に出た少年に目を向ける。黒髪に山吹色の道着、背中に刺繍された『魔』の文字、後ろ姿からでも分かる鍛え上げられた肉体、自分と同じ歳である彼の背中はとても大きく見えた。
「いけ!アカンベー!」
「アカンベー!!」
ウルフルンがアカンベーに指示を出し、悟飯に向けて右の拳を放つ。あの巨体から繰り出された拳なら人間一人など、簡単に潰せるだろう事は想像に難く無い。
「悟飯君!!」
「クル!?」
バキィ、と周囲に響くほどの轟音がその威力を物語っている。
普通の人間ならば、この一撃で終わっていただろう………普通の人間ならば
「……え?」
しかし、其処にはアカンベーの攻撃を片手で受け止める少年の姿があった
彼は顔だけこちらに向け、笑顔を見せてこう言った
「大丈夫だよ、みゆき。俺は負けない、君達は俺が護るから安心してくれ」
そう言った彼の言葉は不思議と、みゆき安心させた。そして彼女は悟った。
彼は負けない、と
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