サポーター
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第五章
「あなたが応援する前に」
「それがないんだよ」
「ずっと弱いままなの」
「そうなんだよ、出来てからな」
「三十年以上も前から」
「それこそもう気が遠くなる位な」
彼が生まれる前からだというのだ。
「最下位ばかりなんだよ」
「だから人気もないのね」
「弱いからな」
まさにそれが理由だった。
「それでだよ」
「聞いていて暗くなるわね」
「言うなよ、ゲームでもいつも弱いからな」
それも最弱である、ダントツの。
「俺がプレイしても優勝するのが難しい位だ」
「それがあなたがゲーム下手ってことじゃ」
「違うんだよ、それが」
「あなたゲームは上手なのね」
「勝負してみるか?しかし本当にな」
缶の中の一口を一気に飲み終えてだ、彼は言った。
「そんなチームに惚れて三十年、俺もよくやるよ」
「そのことについては呆れながらも認めてあげるわ」
「そう言ってくれるか?」
「ええ、まあとにかく今はね」
「酒はこれで止めてな」
「他の楽しいことしましょう」
「シャワー浴びるか」
とりあえずはとだ、シャルルは言った。
「そうしようか」
「ええ、それでね」
「ベッドに入るか」
「ベッドの中で待ってるわね」
「ああ、そういうことでな」
夜の話もしてだ、とりあえずシャルルは愛するチームの有様から心を放した。そうして実際にシャワーを浴びてベッドに向かった。
そうした日々を過ごしていてだ、彼は子供が出来てその子供も成人してだ。
もう六十になったがだ、それでもだった。
チームのユニフォームを着て家の壁にチームフラッグを飾っていた。その彼に今も彼の妻であるミレデイーは言った。
「もう六十になったけれど」
「ああ、それでもだよ」
「応援は続けるのね」
「この通りな」
まさにというのだ。
「俺は俺さ」
「子供の頃から応援していて」
「今もってことだ」
「子供達も呆れてたわね」
「ははは、今は孫達もな」
笑って言うシャルルだった。
「呆れてるな」
「そのチームばかりって」
「弱いし人気がないのにって言ってな」
「それでもずっと応援してるわね」
「だからこのチームは俺にとってはな」
「もう離れられないものっていうのね」
「パンだな」
主食を出すのだった、ここで。
「俺にとっては」
「つまりいつも食べているものってことね」
「ああ、俺にとってあのチームはパンなんだよ」
「もう生活の一部ってことね」
「そういうことだよ」
「そういうことね」
「確かに弱いさ」
彼が物心ついて応援をはじめた時から変わらない、このことは。
「万年最下位だよ」
「そのことはね」
ミレディーも否定しない、もっと言えば事実なので否定出来なかった。
「確かにね」
「今年も最下位だったしな」
「それで新聞でも定位置って書いてあったわね」
「いつものことさ、優勝も一度もないけれどな」
チーム創設以来だ。
「俺は応援していくさ」
「これからもずっと」
「死ぬまでな、じゃあ今日もファンサイトの運営やるか」
「そっちはどうなの?」
「皆相変わらずさ、また最下位になったからな」
「落ち込んでるの?」
「諦めて開き直ってるさ」
最下位も一年や二年なら絶望する、しかしそれが毎年となるともう開き直ってそしてもうそれで諦めてしまうのだ。
それでだ、彼のサイトに来るチームのファン達もというのだ。
「どうしようもないからな」
「それも凄いわね」
「そういうことも踏まえて応援していくさ」
こう言ってだった、彼はパソコンに向かった。諦観はしていてもだ。それでも愛情を持って応援を続けるのだった。
サポーター 完
2015・10・15
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