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第三章

「この子のことも教会のこともな」
「それじゃあな」
「ああ、そういうことでな」 
 こうしてその子供、琢也が二人の子供になった。二人は教会長とその妻として毎日働きながら琢也を育てた。琢也は幼いが利発な子で。
 二人の言うことをよく聞いて明るく育っていった。幼稚園に入り小学校にも進んだ。
 二人は初老になっていたが琢也を頑張って育てていた。琢也は二人を父、母と呼んでよく友達を教会に連れて来た。
 そしてだ、よく友達に二人をこう紹介した。
「僕のお父さんとお母さんだよ」
「そうなんだ、この人達がなんだ」
「拓哉のお父さんとお母さんなんだ」
「そうだよ」
 こう笑顔でだ、友人達に話すのだった。
「凄く優しいんだよ」 
 こうしたことをだ、琢也はいつも言っていた。友達と楽しく遊んでその時にも二人のことを親として皆に話していた。
 その話を聞いてだ、一郎は美代子に教会の中で仕事をしている時に言った。
「俺達はな」
「ええ、琢也のね」
「親なんだな」
「拓哉はそう言ってるわね」
「そうなってるか?」
 果たしてとだ、彼は微妙な顔で妻に問うた。
「俺達は」
「拓哉にとって」
「ああ、どうだろうな」
「どうかしら」
 首を傾げさせてだ、美代子は夫に答えた。
「そのことは」
「自信がないな」
「だってね」
「俺達はな」
「実の親子じゃないから」
 血のつながった、だ。二人はこのことを誰よりも自覚していた。それも深く。
「だから」
「その俺達が拓哉の親になっているのか」
「なれているのか」
「自信がないわね」
「とてもな」
「はっきり言うけれど」
 美代子は顔を曇らせて夫に言った。
「多分ね」
「ああ、拓哉の親にはな」
「なれていないわ」
「そうだな、とてもな」
「拓哉には悪いけれど」
「本当にな」
 二人は自分達が拓哉の親になっているとは思えなかった、それで拓哉には見せなかったが二人だけになった時はよくこう話していた、しかし。
 拓哉はあくまで周りに二人を自分の親だと言っていた。そうして成長していってだ。
 小学校から中学校、そして高校生になった。高校は地元の高校だったが大学は一郎が教鞭を取っていた高校の上にある大学だった。県外だったがかろうじて通学出来る距離だったので教会である実家から通うことになった。
 その大学生になった彼を見てだ、二人は話した。
「聞くか」
「そうね、拓哉本人にね」
 すっかり髪が白くなった二人で話すのだった。
「私達のことを」
「親になれているかどうか」
「聞きましょう」
「拓哉はそう言っているけれどな」
 自分達を親とだ、実際に二人をお父さんお母さんと呼び続けている。 
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