八神家の養父切嗣
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二十五話:観戦
生体ポッドに入った素体が光に照らされ不気味に浮かび上がる光景。
明らかに合法の実験を行っているようには見えない異界のようなラボ。
そんなラボの中に二人の男が居た。一人はこのラボの主であるスカリエッティ。
もう一人は終始無表情を貫いている衛宮切嗣である。
特に親しいというわけではないがどういうわけかこの二人は関わることが多い。
それは切嗣が効率を意識するが故にこの科学者以上に有能な人間が居ないことを知っているので完全には無下に扱えないからである。
「それで、僕に何の用だい?」
「なに、リインフォースⅠの検査が済むまでの間に話でもしようと思っただけだよ」
「僕に話すことはない。武器の手入れでもしている方がよほど有意義だ」
アインスはその性質上定期的に検査が必要である。
切嗣が犯罪者でなければわざわざスカリエッティの元に来る必要もないのだが、それは仮定に過ぎない。
今の切嗣が、しかもアインスというロストロギア級の案件を一般の企業に持ち込んでしまえば様々問題が起こることは目に見えている。
それが分かっているために表情は変わらないものの明らかに辟易したような声を出す切嗣。
しかし、スカリエッティはそんなことなど気にも留めない。
彼は自分さえ良ければそれこそ世界を壊すことも許容するのだから。
「くっくっく。安心してくれたまえ、もう少しすれば話の肴は向こうからやってきてくれる」
「……どういうことだ?」
「それは、その時になってのお楽しみだよ。さあ、話す気にはなってくれたかい?」
どこまでも楽しそうで、その実欠片も楽しくないような異形の笑みが向けられる。
その顔に今更足掻いたところでこの男の話からは逃れられないだろうと観念し、切嗣は頷く。
スカリエッティは満足そうにもう一度笑い指を大きく鳴らす。
すると、巨大なスクリーンに山岳地帯を走るモノレールが映し出される。
そしてそれに群がる大量のガジェットドローンの姿。
「まさか、僕にお前の作ったおもちゃの性能実験を見ろとでも言うつもりか?」
「くくくく、それこそまさかだよ。あれは私の作品ではあっても鉄屑と変わらない。勿論、妥協などは一切していないがね」
「じゃあ、なんなんだ?」
「それは……おっと、どうやらタイミング良く来てくれたようだね。機動六課の諸君が」
スクリーンに一機のヘリが映し出される。それを見た瞬間にピクリと切嗣の眉が動く。
彼は設立前から機動六課については詳しく調べ上げていた。
周囲にはいずれ敵対する時の為だと言っていたが本当のところははやてが作った部隊だからである。どれだけ、口で親子関係を否定していても結局心は娘のことが気になっているのだ。
「……レリックの回収とお前のおもちゃの掃除に来たのか」
「もう少し知能を高く設定できれば気取られることもなく回収できるのだがね。量産性を考えると今の性能が限界でね」
「使えないな」
「おや、それは手厳しい」
吐き捨てるように使えないと言われても特に気にした風でもなく笑うスカリエッティ。
彼にとってはガジェットは鉄屑と言っても差し支えないものであり、真に信用し、自信を持っているのは彼の娘達やレリックウェポンと呼ばれる人造魔導士である。
それ故の余裕であり、無関心でもある。
切嗣もそのことは知っているので軽く鼻を鳴らすだけでそれ以上は何も言わない。
「さて、少し賭けでもしないかい。彼らとあのガジェット、どちらが先にレリックを確保するかを」
「なにを賭けるつもりだ?」
「ふむ、そうだね……私が勝った場合は君に一つ頼まれごとを引き受けてもらいたい」
「なら、僕が勝った場合はピースメイカーの設定を解除しろ」
切嗣が簡単に賭けに乗ってきたことに若干驚きながらもスカリエッティは不気味に笑う。
その視線に苛立ちながらも切嗣は何とか喉まで出かかった暴言を飲み込む。
彼のデバイス『トンプソン』にかけられた音声でのロック解除機能。
何度も自らをピースメイカーと称するのはいい加減に辞めたいために気の乗らない賭けを呑んだのである。
「いいだろう。では、君から先に選ぶといい」
「ガジェットが先に確保する方に賭けよう」
「おや、随分と私のおもちゃを評価してくれているようだね」
心底嫌そうな声をしながらもガジェットが勝つ方に賭けた切嗣にニヤリと嗤い、追い打ちをかける様にスカリエッティが尋ねてくる。だが、これに関してはすでに予想済みであったために切嗣は反論する隙すら与えずに理由を述べていく。
「勘違いするな。既に内部に侵入している時間的優位性、さらにモノレールに乗り込んでくるのは空戦のできない新人達という経験の少なさ。これらから考えたまでだ」
「なるほど、なるほど、確かにその通りだ。では、私は彼らに賭けさせてもらうよ」
「あくまでも賭けはレリックの確保が早い方だ。逃走中にフェイト・ハラオウンに落とされたとしても関係はないな?」
逃げられないようにワザと賭けが成立したところで条件を付けくわえる切嗣。
実際問題として、どれだけガジェットが強くともなのはとフェイトを相手にして勝つことはできない。
この条件が無ければ本来は勝負にもならないのだ。
これを呑めないのなら適当に理由を述べて賭けをうやむやにさせるだけだ。
しかし、その程度はスカリエッティも理解していたのか笑いながら了承する。
「くふふふ。ああ、それで問題はないよ。あれらでは確かにプロジェクトFの残滓を止めるのは不可能だからね」
そう言ってスカリエッティは切嗣を見るが切嗣は彼を無視して画面を見つめていた。
性格そのものはいつまでたっても変わらないものだと思い、自身も画面に目を戻そうとしたところで切嗣の表情が苦痛で歪むのを目撃した。
何事かと思い、画面に映っている人物を見てみるとそこにはスバルの姿が映っていた。
特にケガをしたわけでも何か目を見張ることをしたわけでもない。
要するに他に何か理由があるということだ。
「おや、彼女がどうかしたのかい? 彼女もまた私の作品の一つだが」
「……ただ、見覚えがあるだけだ」
切嗣は短く答えてすぐに無表情に戻る。
あれから年月が経ち、子供だったスバルも大人びた顔になった。
しかし、切嗣は覚えている。あの火災で救い出してしまった彼女の顔を。
ボロボロになりながらも懸命に生きていてくれたスバルを忘れるはずがない。
あの時は、あの時だけは自分は間違いなく救われたのだから。
今までの行いを否定するような行いの果てに救われてしまったのだから。
「ふふふ、そうかい。しかし、この案件は実に興味深いものがあるね」
二人の間に何かがあると確信するも、ここで出すのは面白みがないと判断するスカリエッティ。
そして新しいデバイスを駆使しながらガジェットを破壊していくスバルに目を向けてその出来栄えを確認するように目を光らせる。
初めは新デバイスである『マッハキャリバー』の出力の大きさにてこずっていたスバル。
しかし、直ぐに感覚を掴み同じく新デバイス『クロスミラージュ』を手に奮闘するティアナと共に走っていく。
「レアスキル、ウィングロード。どうやらしっかりと受け継がれているようだ。まるで魔導士クイントを見ているようだよ」
「それを殺したお前が言うのもおかしな話だがな」
「くくく! なに、あれは不幸な事故だよ。私とて無意味に命を取るつもりはないからね」
それは逆に言えば命を取ることに意味があれば彼は当たり前のように奪い取るということだ。
命という最高の素材をスカリエッティはこの上なく尊敬し、崇拝している。
機械であれば決まりきった答えしか返ってこないが、生命であれば無限の可能性を秘める。
それが何よりも彼を興奮させるために彼は冒涜のような崇拝を生命に行い続ける。
「ところで君はあの子の腕をどう見るかね? 君と同じく珍しい銃型のデバイス持ちだ」
「ティアナ・ランスターか。そんなことを聞いて何の意味になる」
「ただの雑談だよ。それにいずれは私たちの目の前に立ち塞がる敵。なら、ここで戦力分析をしても問題はないだろう?」
切嗣からすればスカリエッティの質問は無視しても何の問題もないものだ。
しかし、言っていることすべてが間違っているわけでもない。
まだ新人だとはいえ、敵である以上は過小評価をするべきではない。
冷徹に分析を行い、確実に仕留められる算段をつけておくべきだ。
そう判断を下して切嗣は口を開く。
「詳しい情報を得られない以上は正確な判断はできないが、彼女は才能があるだろう」
「なるほど、それは素晴らしいことだ。それで理由はどうなんだい?」
「思い切りの良さと、修正能力の高さ、それと的確な判断をすぐに導き出せる点だな」
敵に対して怖気づくことなく向かい、新しいデバイスの扱いもあっという間に慣れる。
戦闘技術が高い魔導士は数多くいるが全員が才能のある者ばかりではない。
何度も繰り返し任務に出ることで覚悟やアクシデントへの対処の仕方を覚えていく。
しかし、ティアナに関してはすでにその部分の能力が高い。
魔力量や肉体的な才能は乏しいティアナであるが、彼女の真骨頂はその頭脳と精神性である。
本人は才能がないと悩んではいるがそれは若さゆえに外面的な強さに注視しすぎるからである。
戦闘の強さなどAAAランクの魔法少女を二人纏めて相手にして圧勝するAAランクの老人も存在するぐらいであるので、工夫さえすればどうにでもなる。
本当に身につけるのに苦労するのは寧ろティアナが持っている能力の方である。
「では、戦うとしたら君はてこずるかい?」
「まさか。現段階の強さで単独での戦いなら負けようがない。そもそも、僕が相手をするのなら戦いに入る前に殺しているよ」
「くくく、それもそうだね。君が負けるはずもないか。なんといっても君は正義の味方だからね」
その言葉に憎悪の籠った瞳を向ける切嗣だがスカリエッティは笑うばかりである。
この男はどこまでも人の精神を逆撫でするようなことしか言わない。
それでいて本人以外には賛辞に聞こえるように言うのだから始末に負えない。
契約がなければ今すぐにでも撃ち殺ししてしまいたい。
それがスカリエッティに会ってからの切嗣の素直な心情である。
「おや? 話しているうちに面白い事になってきたようだ」
スカリエッティの言葉につられてモニターに目を戻すとそこにはガジェットの腕に無様に放り投げられ、宙を落下していくエリオの姿が映っていた。
そして、その様子を見て、何もできずに声を上げるキャロの姿も。
「あれは……ガジェットの新型とエリオ・モンディアルか」
「その通り。プロジェクトFの残滓の一部だ。ここで死ぬとすれば惜しいが、それも運命かな」
自らが生み出した技術の生き残りに対しての興味はあるもののそれも価値があればの話である。
力なく死んでいくのであればそれを止めることはしない。
生命とは弱肉強食という絶対の掟からは逃れられないのであるから。
しかし、それに反する願いを抱く者を見るのも彼にとっての楽しみである。
例えば隣にいる世界全てから争いを無くそうとしている愚か者や、死に行く少年を救おうと決死の想いで飛び降りる少女のような者が。
「キャロ・ル・ルシエが飛び降りた? いや、AMFから離れるためか」
「ふむ、やはり閉鎖された空間以外だと逃げ道が簡単に確保されてしまうか。今後に生かさなくては」
キャロが飛び降りていく姿にも二人は特に動揺はしない。
何故なら、キャロには空で戦うための能力が備わっていることを知っているからである。
逆にそれを知らないスバルは自身も飛び降りて助けに行こうとしてティアナとツヴァイに止められていた。
「召喚術、中々に厄介な能力だな」
キャロとエリオ、そしてフリードがピンク色の光に包まれて消える。
光が消えて再び彼らが姿を現した時には、フリードはその姿を巨大な竜に変えていた。
アルザスの竜召喚を得意とするキャロは対人戦を主とする切嗣にとっては気の抜くことのできない相手である。
それ故に新型のガジェットに再び立ち向かっていく姿に鋭い目を向ける。
「ふふふふ、やはり劇にはこういった見せ場が無ければ面白みがない。そうは思わないかい?」
「僕としては任務は何事もなく終わるのが一番だよ。お前ほど狂ってはいないからね」
「やはり、私の美意識は理解されないかい。まあ、いつものことだがね」
「お前を理解できる人間が何人もいる世界など終わっているだろう」
「くはは! それを君が言うかね、衛宮切嗣。君も―――他者に理解されることなどないだろう?」
―――決して理解されない。
その言葉が切嗣の心に重くのしかかった。
ベクトルは違うが切嗣もスカリエッティも他人に理解されることのない願いを抱いている。
欲しくもない共通点がお互いの本質の部分に存在する。
切っても切れない縁があるのは恐らくはその似通った部分のせいなのだろう。
そして、どちらも理解されることがなくとも諦めることをしない。
理解されないのなら、理解される世界に作り替えてしまおうと狂った願いを抱く。
二人が歪んだ人間であることは疑いようがない。
「私達は常々思っている。この世界は間違っているとね。世界を変えるよりも自分を変えろ? そんなものは詭弁に過ぎない! 変えられるものか! 己の本質が、魂の形が変えられるものか! 私達にとっては呼吸のように当たり前のものを変えられるものか! 変わるべきは私達ではない、世界の方だ!!」
例えばの話をしよう。
盗みも、暴力も侵さない清廉潔白な善人とそれを平然と行う悪人。
百人に聞けば百人が前者の方が正しく生きるべき人間だと言うだろう。
だが、この二人の住む国が、世界が、大飢饉に見舞われたとしよう。
二人も例外に漏れず飢えに苦しみ、後一日何も食べなければ死んでしまう状況となる。
そんな時に二人の前に食料を持った人間が現れる。
当然二人は食料を分けてくれるように頼む。しかし、その人間はこれは自分の分だと断った。
善人は善人であるがゆえにそれを受け入れ次の日に餓死した。
しかし悪人は悪人であるがゆえに食料を力づくで奪い取り生き延びた。
正しいのは善人だ。だが、結局生き延びたのは悪人だけ。
真に正しい者が死に、悪をなしたものだけが世界で生き続ける。
そんなことがこの世界では絶えず起こっている。
こんなものが、こんな世界が本当に正しい世界だというのか。
そもそも衛宮切嗣という男の生き方自体が自分以外の人間の死を加速させる悪だ。
だというのに善人を殺して悪人である衛宮切嗣はのうのうと生きている。
こんなものが正しいはずがない。生きるべきは、報われるべきは真に正しい者であるべきだ。
しかし、世界が生き残らせるのはいつだって悪人だ。
そんなことしか起こらない、起こせない世界ならば―――壊してしまった方が余程マシだ。
「この世界で誰もが幸せになれないのなら誰もが幸せになれる世界を創ってしまえばいい。君もそう思ったからこそ今私に手を貸してくれているのだろう?」
「……僕は犠牲になってきた者全てが報われる世界が欲しいだけだ」
「そう! 君は誰よりも美しい願いを抱いているが故に理解されない。だが、私は知っている。その願いこそが真に世界を救うものだとね。だからこそ、私は肯定しよう―――」
興奮で息が上がりながらも一切休むことなく喋り続けるスカリエッティだったがここにきて溜めを作る。
その目はあり得ないほどの狂気と光に満ち溢れ人間のそれとは到底思えなかった。
「―――衛宮切嗣には望む世界を創り出す権利があると」
その言葉にも切嗣は何も言うことなくジッとスカリエッティに視線を返すだけである。
しかし、スカリエッティの方はそれだけで何かを感じ取れたのか満足気に嗤う。
不気味なまでの沈黙と歪んだ空気。その状況が永劫のように続くかと思われたところでウーノから通信が入る。
「ドクター、刻印ナンバー9が護送体制に移されました。いかがなされますか?」
「おっと、つい話に夢中になっていて気づかなかったよ。これで賭けは私に勝ちだね。頼まれごとに関しては今度また話そう」
「ちっ……分かった」
すっかり忘れていたとばかりに目を見開きながら自身の価値を宣言するスカリエッティ。
切嗣はそれに苛立ちを隠すこともなく舌打ちをするが約束を破ることはなかった。
そんなやり取りをしている二人にウーノは呆れることも、怒ることもなく指示を促す。
「ドクター」
「ん、すまないねウーノ。そうだね、何もすることはないよ。これは出来レースだからね」
「出来レース……ですか?」
「そう、戦略的目標はガジェットとあの子達が争う前から既に達成されているのだよ」
何故、衛宮切嗣とスカリエッティがのんびりと賭けに興じることができたのか。
それはひとえに自分たちの勝利が既に約束されていたからである。
レリックはロストロギアであり、それは管理局中央で厳しくに管理される。
それは逆に言えば、一度管理されてしまえばそれを目にすることのできる人間はほとんどいなくなってしまうということでもある。
つまり、研究名目で貸し出して行方不明になったところで―――誰も気づけないのである。
「もう用はないな。アインスと一緒に帰らせてもらうよ」
「ああ、またいつでも来てくれたまえ。それと私達のスポンサーによろしく頼むよ」
レリックはガジェットが回収すれば直にスカリエッティの元に送られる。
機動六課に回収されれば中央のラボに保管された後で、最高評議会によってスカリエッティの元に送られる。
何故なら最高評議会もまた―――望む世界を創り出したいからである。
おまけ~イノセントに切嗣が居たら~
どんな争いも原因というものはいつも下らなく、単純なものだ。
歴史は繰り返し、人は何も学ばない。
それは何も戦争という巨大な舞台だけでなく日常でも同じこと。
―――どっちの娘の方が可愛い?
きっかけはそんな下らない問いかけだった。
プレシアは笑った。切嗣も笑った。
下らないと。そんなことは議論するだけ無駄だと。
理由? 簡単なことだ。どっちの娘が一番可愛いかなんて―――
『うちの娘が一番可愛い!』
―――親馬鹿の中では決まりきっていることなのだから。
「あら、何を言っているのかしら? 確かになのはちゃんもはやてちゃんも可愛いわ。でも一番可愛いのはアリシアとフェイトよ」
「それは間違いだな。一番可愛いのは家のはやて以外にあり得ない」
『…………』
張り詰めた空気、飛び交う火花。そこは紛うことなき戦場。
何人たりともこの空気を壊すことはできない。
「どうやら、譲り合えないみたいね」
「なら、正々堂々と娘の可愛い部分について語って勝敗を決するというのは?」
二人は顔には笑顔を張り付けた状態で平和的解決を模索する。
内心ではどう相手を屈服させるかしか考えていないが。
「じゃあ、最初は私から行かせてもらうわ。アリシアとフェイト、一言でいえば―――天使!
アリシアはその活発な性格で誰にでも笑顔を振りまいてくれる上にその小さな体がとってもキュート!! もう連れ去ってしまいたいくらいの可愛さなのよッ!!」
そこまで言い切り、一旦息を整え次はフェイトの魅力について語り始めるプレシア。
「フェイトの方は少し大人しいけどそこがまた可愛くて! 最近は独り立ちしたように見えて、ホラー映画なんかを見てしまった後は上目遣いで『お母さん一緒に寝てくれない?』なんて言ってきてくれて……ああ、思い出しただけでご飯三杯はいけるわ!!」
娘の愛らしい姿を思い出したのか軽いトリップ状態に陥るプレシア。
だが、それを見ても相手は一切怯むことなどなかった。
「確かに可愛らしいです。しかし、はやてはそれ以上の可愛さを持っている!」
ここで負ければ死ぬという覚悟の籠った目で切嗣は睨み返す。
「わずか十歳にして大学卒業、そして八神堂の店主。これだけ聞けば近寄りがたい才女を意識する。だが、そんなもははやての本質じゃない! はやての本質は守ってあげたいという可愛らしさだ! 普段は大人びているがふとした瞬間に甘えてくる姿は女神だとしか思えない!!」
普段はダメ親父であったとしても父であることに変わりはない。
まだまだ甘えてきてくれるのだ。
「寂しくなったら布団に僕の布団に潜り込んで来たり、疲れたと言っておんぶをせがんで来たり……ああ、他にも言葉では言い表せない次元の可愛さだよ」
基本的に親馬鹿であるが故に両者共に譲らない。
しかし、このままでは埒が明かない。そう思い始めてきた時だった。
「プーレーシーアー…! 仕事を放置して何をやっているの?」
「リンディ!? ま、待ってまだどっちの子どもが可愛いかの決着が!」
「そんな下らないことで時間を取らないの。だって―――」
プレシアを連れ戻しに来たリンディによって勝負は終わった。
―――かのように見えたが。
「―――一番可愛いのはクロノよ」
『っ!?』
戦いはまだ始まったばかりであった。
~おわり~
後書き
早いとこ進ませて書きたいところまで行きたい。
主人公なのにケリィが完全にボスキャラだから序盤では出せないというジレンマ。
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