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Tales Of The Abyss 〜Another story〜

作者:じーくw
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#28 カイツールを目指して


 そして、その後 3回目にして漸くガイの口から自己紹介も無事に出来た。
 
 何処か珍妙なやり取りだったから、笑顔が絶えなかった。ガイが名乗った後に、アルも手を上げて自己紹介を始めた。

「えっと。うん、そうだね。 どちらかと言えば、この中で 1番判ってないのは、オレだと思うし。オレもちゃんと名乗らないと、ね。オレは アルって言うんだ。よろしく、ガイ!」
「ああ! こちらこそ」

 アルとガイと握手を交わした。
 初対面のルークには、色々と難があったが ガイはどうやら常識? がちゃんとある事は 判っていたから無事に済ませれた。

 でも、次はそうはいかない。

「私はティアよ」

 アルの次に、ティアが自己紹介をしながら、アルの時同様に挨拶である握手をしようとしたその時。

「おっおっおっおっ 女ぁぁぁぁ!!!!!!」

 ティアが、近づいたと殆ど同時。いや、ガイが接近された、と認識した瞬間に、だろう。もの凄い勢いで、後ずさりをして、ティアから、離れていった。10m程。

「……え? あれ?」
「何? どうしたの?」

 行動の意味がよく判らなかったティアとアルは 首を傾げていたが、ルークがガイについて補足、説明をしてくれた。

「ああ……、ガイは女嫌いなんだよ。近づいたら、あんな感じで あっという間に離れていくんだ」

 と言う事らしい。
 俄には信じがたい事だが、実際に目の当たりにしてしまえば、信じるしかないだろう。

「あ…… そうなんだ。なるほど。……って言うかさ。あれじゃ、女嫌いというよりは……」
「女性恐怖症ですね」

 ジェイドとアルが、もうちょっと症状が重そうだからそう付け加えた。拒絶の意志を示す。表情でではなく、身体そのものが反応してしまっているのだから。

「……なら、私のことは女だって思わなくていいわ」

 ティアは、更に一歩近付くと、まるで 反発しているかの様に、真似をしているかの様に、ガイも一歩下がる。

「いっ いや!! 君がどーとか って訳じゃなくて そのっ!!! お、オレにはっっ!」

 身体が反応しているから無理だ、と言う様にガイは言っていた。
 
 ティアは、握手は無理だと判断した様で、差し出した手を下ろした。
 そんなティアの傍にいたアルは、苦笑いをしながら言う。

「んー。でもティアさんを女と思わなくて良い、って それはちょっと無理だと思う、かな?」
「え……? 何故かしら?」

 きょとんとしてティアはそう言っていた。本当に判らない様だ。アルは更に笑いながら続けた。

「何故って……。だって、ティアさんって、すっごく綺麗だよ? 世の中に綺麗な男の人も……、確かにいるとは思うけど、正直ティアさんを、どうやって男って思えるかな? ってオレ、考えても 全然まとまらないからさ」

 アルは、笑顔ながらも 大真面目にそう返していた。臆面もなく、思った事をストレートに。

「なっ 何を!!////」

 ティアは、まさか自分の事をそう言われるとは思ってなかった様で、一気に顔を真っ赤にさせた。不意打ち、の様なものだからダイレクトに入ってきた様だ。

「おやおや ナンパですか? アルも見かけによらず、やりますねぇ」

 訊いていたジェイドはそう言ったが、アルは 逆に首をかしげた。

「え? な、なんぱ? なんで? オレ、別にそんな事は……。それに、思ったことそのまんま言っただけなんだけど………」
「(おやおや、つまりは、これがアルの素、と言う事ですか。 ……これはまた貴重な性格をしてますねぇ、珍しい部類です)」

 ジェイドは何も言わずただ苦笑をしていたのだった。
 アル自身は、何でジェイドが苦笑いをしているのかが、判らず ただただ困惑をしていた。


 そのやり取りを見ていたガイとルーク。

「(……ルーク アルってあんな感じなのか? ティアさんが ああ言っちまうのも、ジェイドの旦那が笑っちまうのも、仕様がないだろう……、あれじゃ)」
「(い いや 初めてみた。ってか、正直 お前もあんな感じなんだぞ? ガイ女嫌いの癖に家のメイドたちの接し方とか)」
「(ええ! マジで!!)」

 盛大にヒソヒソ、と話をしている。内緒話になっていない。だって、話をしている感じがバレバレだったからだ。

「ちょっと、何こそこそ話してるのさ」

 アルは、ため息を吐きながらそう言う。判らない事だらけ、だし。何より 自分の事についてを言われている様な気がしたから。話の内容までは聞き取れなかったけれど。

「ふふふ………」

 イオンは、ただただ笑っていた。


 どうやらアルは そう言うことにはちょっと疎いのだろう。と一同は理解した。勿論ティア自身も。アルは、自分が褒められたりしたら照れて、恥ずかしくなる。だけど、こっち側? には いまいち判ってない様子だった。

 そう分析をして、大体アルの事が判ったティアだったが、……それでも、暫く顔が赤い状態のままだった。






 まだ若干ティアは赤いし、回りもまだ少し色々と話をしているようだけど、とりあえずジェイドは早く先に進めたかったのか、そんな空気の中でも話を先へと進めた

「ティアも大丈夫のようですし 早く出発した方がいいでしょう」

 ジェイドの言葉に、1番にイオンが反応した。

「アニスから連絡があったのですか?」

 イオンが、ジェイドにアニスについてを訊いた。イオンの表情は、少し嬉しそうだった。アニスとはぐれた事もあって、彼女の事が心配だったのだろう。

「ええ、伝言がありました」

 そう言って一枚の紙をイオンに渡した。イオンはそれを受け取ると、内容を口に出して読んだ。




 ~親愛なるジェイド大佐へ!~
 
『スッゴク怖い思いをしましたけど、第2地点へ何とか辿り着けました! 例の大事なものはちゃんと持ってます! きゃー 褒めて褒めて~♡ アニスのだーい好きな……… わぁー 告白っちゃったよ~♡ ルーク様はご無事ですか?? スッゴーク心配しています! 早くルーク様に会いたいです~♡ ついでにイオン様のこともよろしくー♪           アニスより!』




 イオンは、普通にいつもの感じでその手紙を読むものだから、更におかしい。

「たははは…………」

 宛先? でもあるルークはと言うと、正直なところ、笑顔は笑顔でも大分顔が引きつった笑顔だった。

「おいおい ルークさんよー モテモテじゃねーか!」

 ガイが笑いながらそう言う。

「うるさいな!」

 ルークはそう言い返しているけれど、正直 苦笑いしか出てない様だった。

「はははは……、でも メインはイオンなのに、それをついでって…… なんだかなぁ……」

 アルもまた苦笑いをしていた。守護役だったはずなのに、と。

「まぁー そこはアニスですし?」
「アニス、ですから!」

 イオンとジェイドはなにやら納得していた。この中で 付き合いが長いだけあって、本当にあっさりとしているし、理解もしている。

「(アニスってのは一体どんなコ何だ……? まぁ とりあえず……) んで、その第2地点って言うのはどこなんだ?」

 ガイは、この場にいないアニスの事はひとまずおいといて、今後のプランの事の話をした。

「それは国境線のあるカイツールの軍港のことですよ」

 ジェイドがそう地名だけ説明すると、ガイはもう場所が大体理解できたようだ。

「成る程、っとすると……、フーブラス川を渡った先、って事だな」

 直ぐに頭の中で地形を思い描き、ガイは行先の地名をつぶやく。

 この時少しだけ、だが、アルは違和感があった。

 何故なら、マルクトとキムラスカは今まさに交戦寸前、とまで行きかねない状況。旅行の様に気軽に行き来出来る様な場所でもない。 ガイってルークの使用人、つまりキムラスカ人だろう。なのに、マルクトに詳しく思えたのだ。

 それは、アルだけじゃなく、ジェイドも思ったのだろう。

「おや……、ガイはキムラスカ人のわりに、マルクトに土地勘があるようですね……?」

 その疑問を口に出して言っていた。ジェイドの言い方は、何やら『少し気になる』程度ではなさそうな気がする。

「ん……? あ、 ああ。オレは 卓上旅行が趣味なんだ。それで大体頭の中に入っててな。 それに、 カイツールまで行けばヴァン謡将に会えるぜ? ルーク」

 ガイはそう説明し終えると同時にルークへと話を向けた。何処となく、話を反らせた様に思える。だからこそ、ジェイドの疑念は消えてはいないようだ。視線をガイに向けていたから。

 ルークは、そのヴァンと言う人に会えるのが嬉しいのだろう。

師匠(せんせい)と!?」

 これまでに無いほどの歓喜の声をあげていた。

「兄さんが………」

 ルークとは対照的に、ティアは不安そうに呟いていた。

「ティアさん………」

 その様子に、アルも心配だったのだろう。つい声が出てしまっていた。
 ティアもアルの声が訊こえていたのだろう、アルの方に視線を向けた。

「私なら大丈夫よ。それと……前から思ってたけど、私に、『さん』はいらないわよ? アル。……と言うより、私にだけ さんを付けのような気がするけど?」

 直ぐに表情を元に戻したティアがそう言った。

「あっ いや、ほら! なんとなく……かな?」
「そう、ならもう さんはいらないから。敬語も普通で良いわ。……だって、歳は同じくらいでしょう?」

 ティアは、『さん』を付けされるの嫌なのだろうか、と一瞬思ったアルだったが、直ぐに考えるのを止めた。

「わかったよ! え、えと……、ティ、ア……」

 やっぱりちょっと照れくさそうだった。アニスの事は置いといたとしても、女の人を呼び捨てにするのには。

「おやおや、ルークだけではなく、アルもですか? ティア?」

 さっきまでガイを見ていた筈なのに、いつの間にか ジェイドがやって来て、妙ににやけている。

「ちょ、ちょっと大佐!!」
「え……???」

 ティアは再び慌て、アルはただただ困惑をしていた。言っている意味が判ってなかったから。

「まぁ……、アルですから、きっと大変ですよ? ティア」
「もう、そんなんじゃないですって!」
「なんだよそれ、大変って。……ジェイド」

 アルは、ちょっと疎い、と言うよりもただの鈍感なだけの様だ。褒められる事については、判ったとしても。アルに好意を向ける相手がいたら、右から左へ受け流してしまいそうだ。

 色々と言ったジェイドだったが、ティアが、今アルに好意を持っているかどうかは、まだ微妙だろう、とジェイドは思っていた。

「ははは! 楽しそうなところなんだけど、そろそろ本当に行こうぜ。カイツールに向かってさ」

 ガイの言葉を最後に、全員は改めて頷き合い、行動を開始したのだった。













~フーブラス川~




 少し大きめの河川。所々で恐らく長い年月をかけて上流から流れてきたのであろう岩が多数転がっていた。足場が悪く、水辺に入ってしまえば足が取られてしまう。つまり、戦闘になってしまったら、非常に危険な場所。
 ……なのに、今目の前には沢山いる。

「……何? この、モンスターの数……」

 アルは、ため息を吐いていた。

 アルの言う様に、今現在 自分達の周囲を囲むかの様に、巨大蛙やら亀やらが団体で現れていた。つまり、足場が悪いとか、そう言うのは関係ない。ここに生息するモンスターにとっては、そんなの全く関係ないので、早速バトル開始だ。

 大きな亀が、その想像に反して、素早い動きで真っ先に襲い掛かってきた。

 だが。

「真空破斬ッ!」

 その巨大亀の倍以上の速度でガイが接近すると、更に素早い剣術でまとめて薙ぎ払った。 
 
 そして、ガイの周囲に群がる巨大蛙には、追撃の譜術。

「仇なす者よ 聖なる刻印を刻め…… 《エクレールラルム》」

 それは、ティアの譜術。生み出した光が十字を描き、その光の壁で攻撃する。光に包まれたモンスター達はまるで蒸発するかの様に、光にかき消された。

「……これは本当に楽できそう」

 これまでの戦闘では、絶対的にモンスターの数に対して、味方の数が少ない。だからこそ、攻撃の回数も増えるし、更に防御も考えなければならない。口に出しては決して言わないが、イオンも守らなければならないから、更に集中しなければならないのだ。
 
 だが、今は違う。ガイも大分戦いなれている様子であり、全くモンスター達は問題にならなかった。

「おい! アル! 後ろだ!!」

 アルの死角から飛びかかってきた蛙を見て、ルークが叫んだ。

 確かに、大分楽になったとは言え、決して油断をしている訳ではない。

「ありがとっ! 大丈夫だよ! ……大地の脈動、《グランド・ウォール》」

 襲いかかってくる蛙だったが、途端に地面そのものがせり上がり、ナイスタイミングだった様で、勢いのままに正面衝突をした。

「はーい、前方不注意、だね」

 頭からぶつかってきて、頭の上に星を作って、のびてる魔物にそう言い棄てた。


「アイツすげぇな………やっぱ」

 ルークは、聞こえない様に小さな声で呟いた。
 これまでの戦闘で、アルの譜術は何度も見てきている。何度も思う事だが、譜術と言うものは、詠唱の最中は無防備と言っていいのに、アルの場合は、まるで隙が無いのだ。要所要所に置いて、種類を変えている、と言う事は判るが、その判断力は驚嘆だった。

 そして、更に言えば一瞬の詠唱で、術を発生させる所が何よりも、凄い、と感じた。

 ジェイドやティアは、詠唱を行う時、僅かながら隙が出来ると言うのに。

「ルーク。考え込んでいる暇があるんですか?」

 ジェイドが、譜術で攻撃しながらルークにくぎを刺した。散漫になっているのがよく判るから。特にルークの場合は より顕著だから。

「っつ! わーってるよ!!」

 ルークも、それ以上考えない様にして、戦闘に集中しだした。
 

 そして、戦闘も無事終了。

「ふぅ……、何とかなったね?」
「ったく、うぜーってーの! ザコは出てくんなよ!」
「随分腕を上げたな? ルーク」

 勝利の掛け合いをして、更に先へと向かっていったのだった。

「そう言えば……、アニスって子はここを1人で通ったんだろ?」
「ええ、合流地点にはここから先に行かなければ辿りつけませんし。」
「うん。みたいだね」

 ガイの疑問に、ジェイドとアルが答えた。ジェイドが言う以上は間違いない事は判るから、アルの場合はただ、相槌を打っただけだけど。

「大丈夫なのか? その子……」

 ガイは、それを訊いて、心配そうにそう訊いていた。先程のモンスターの数を考えて、女の子1人では、危険ではないか? と思えたのだ。それは当然の反応だろう。
 そう、普通の(・・・)……女の子であれば。

「大丈夫ですよ・・・ ≪アニス≫ですし」
「はい。≪アニス≫ですから」
「そうだね。≪アニス≫ならね。まだ、付き合い短いけど分かる気がするよ!」

 ジェイド、イオン、そして アル。その3人が口を揃えてそう言っていた。全く、問題ないと。
 それを訊いて、ガイは思わず目を丸くさせた。

「アニスって一体何者なんだ……?」

 ガイは顔を引きつらせた。正直 会うのが不安になってきた様子だ。
 そんなガイを見て、アルは 笑いながら話した。

「ははは…… あってみれば分かるよ。……多分、ね」
「って、多分かよ!」

 最後には、みんなが笑っていた。きっと、アニスはくしゃみをしている事だろう。



 その後も、何度も何度もモンスターに遭遇した。
 水棲モンスターが多く、水辺は非常に動きづらいけれど、このメンバーなら大丈夫だった。
 前衛にルークとガイ 譜術も接近戦も出来るから、後衛でも前衛でも、どっちでものジェイドとアル 主に回復術を中心とした譜術を使ってくれる後衛のティア。
 5人も戦闘要員がいれば本当に楽だ。
 
 何よりも、皆がここのモンスター達を圧倒する程強いと言う所にあった。
 これであれば、あのチーグルの森で戦った、《ライガ・クイーン》の様な、敵が出たとしても、問題ない、と思える。
 
 次に、襲いかかってきたのは、これまでとは違うタイプ。
 土中から這い出てきた複数のゾンビが襲ってきたのだ。

「び、びっくりした! もうっ 危ないなぁ! 《ファイア・ボルト》!」

 突然の出現で驚いたが、動き自体は遅いから、不意打ちを受ける事はなく、アルは即座に反応して、炎と雷の融合した譜術を発動させた。

 ゾンビは炎に弱く、動きを止めた上で 雷でトドメをさした。丁度固まっていた為、ゾンビの群れを一掃させた。

「ひゅう♪ サンキュ アル!」

 ガイも、突然の出現に、慌てて迎撃体制を取ったのだが 杞憂だったと判断し、刀を鞘に収めた。

「いやいや。ガイにはさっき助けられたしね、お互い様だよ」

 アルは笑って親指を立てた。
 そんな間に、ミュウがアルの周りに飛んできた。

「凄いですの!! 火と…、それに雷なんて、ミュウ初めてみたですの!!」
「あはは!」

 アルの胸にめがけて飛び込んできたから、アルはミュウを抱きとめた。

「ほんとね…… そんな譜術まで使えるなんて。本当に感服するわ」

 ティアもやってきた。
 本当に感心してくれていた様だ。穏やかにティアは笑っている。 

「……え、えと……、あ、ありがと。照れるから……その………//」

 ティアにそう言われて、これまでは普通に話をしていたアルがあっという間に変わった。そんなアルを見ていたガイはと言うと。

「なぁ? ルーク。アルって、他人に言うのはOKなのに、自分が突っ込まれるのは、大分弱いんだな?」
「はぁ、みてーだな」

 ルークも、こればかりは流石に呆れた様子だった。譜術は驚愕するけれど。ガイとは違った反応だ。

「そういえば アル」

 イオンが、アルに話しかけた。

「ん? どうしたの? イオン」

 アルは、足を止めてイオンの方に振り返る。

「その、以前話してくれた幻聴は、大丈夫なのですか? アルを見ていたら、時折顔を歪ましているように見えましたので」

 イオンは、皆が戦っている間も、ずっと心配をして見てくれていた。それはアルだけではなく、全員を。そんな中で、アルは 戦闘中。全く攻撃を受けていないと言うのに、時折顔を歪めているのが、何度かあったから。
 
「……ありがとう。イオン 心配してくれて」

 アルは、イオンにお礼を言った。そして イオンは笑っていた。

「僕はお役に立てませんし」
「そんな事ないよ。……だって、イオン。君のおかげでオレの故郷の、……アクゼリュスを救えるかもしれないんだから。だから、オレにとっては、恩人には違いないんだよ。後、幻聴の事だけど…… うん まだ、ちょこちょこ聞えてくるよ。でも、大丈夫。ただただ ちょっと戦闘中はやめてほしいなぁ、って思って、それがきっと、顔に出ちゃったんだね」

 アルは、そう言って苦笑いをしていた。

「……アル。お前はどういう風に聞えてくるんだ?」

 気になったのだろう、ルークが聞いてきた。
 同じ症状が出ているのだから当然興味はあるのだから。

「ん? ああ……、大した事じゃないけどね。時折……、 戦闘の経験に合わせて色々指南してくれてる、みたいなんだ。 戦ってる最中に話しかけられるのは、ちょっと迷惑なんだけど……ね。ん、詳細は 頭の中に知らない詠唱文とか図形とか出て、それの意味とかね。あ、でも 直接的な言葉はないよ? ただただ 詳細、説明文っぽいものだけ、かな」
「なんだそりゃ……。 でも、いーなー それ。俺なんか頭痛がするだけで意味がまったくねーってのに」

 それを聴き終えると、ルークは 再び歩き始めた。

「しかし……、それは本当に何なのですかね? そう言う幻聴…の類は聞いた事のある症状ですが…… それが譜術を教えてくれるとなると…不思議を通り越して不自然ですね」

 ジェイドのそれは、基本的にずっと思ってきた事だった。 
 そう、あのエンゲーブの村の夜に言われた時から考えていた事だった。気になるのも当然だった。自分の知識の中ででも、そのような事例は他に聴いたことないのだから。

「あははは……、 オレが思ってる事そのまんまだよジェイド。 ……オレだってこんな不自然で得体の知れない力を使うなんて嫌だって思ってたけど。 ……でも、まあ仕方ないじゃん? 結果として、皆の力にだってなれてるんだしさ?」

 アルはそう言って、拳を握った。
 記憶もなく、ただただ何も出来ないよりは何倍も良い。故郷(アクゼリュス)の為に、出来る事があるのだから。
 
「そうですか…」
「ふふふ」

 アルの言葉を訊いたジェイドとティアは笑っていた。

「ん……? そこ、笑う所なの??」

 当然ながら、アルは、笑われる意味が判らなかったから、頭を傾げていたのだった。

「(やれやれ、本当に同じ記憶喪失者なのにえらい違いようですね…)」
「(まったくです……)」

 それは、とある2人を見て感じた、ティアとジェイドの密談である。

「(そう言ってやんなって2人とも、 ルークの場合の記憶喪失って言うのは全部忘れて生まれたばかりの赤ん坊みたいな状態だったんだぜ?)」

 2人の言いたいことも判るけれど、身内だからこそ判る所もある、とガイが加わり、苦笑いをするのだった。



  
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