喧嘩
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6部分:第六章
第六章
「だから。信じていいから」
「騙されたと思って来てみて」
実際に騙すつもりではあるがそれは内緒だ。
「早くね、屋上にね」
「こっちよ」
こうして美奈の手を引くようにして何とか屋上に誘い入れた。そうしてその時に調度良美も下駄箱でクラスの男組に囲まれそのうえで誘われていたのだった。
「なあ、だからな」
「早く屋上に行こうぜ」
こう彼に対して言っていた。
「そこで待ってる奴いるからよ」
「なあ」
「気分悪いんだけれどよ」
彼もまた不機嫌そのものの顔であった。
「だから早く帰りたいんだけれどな」
「そこはそう言わないでな」
「ちょっとだけでいいから」
「だから来てくれって」
彼等も彼等で必死に言っていた。
「ちょっとだけでいいから」
「屋上にな」
「ちょっとだけなんだな」
むっとした顔のままだったがそれでも反応を見せてきてはいた。
「ちょっとだけでいいんだな」
「ああ、そうだよ」
「ほんのちょっとだけな」
彼等もまた焦っている顔で良美を誘っていた。
「行こうな。いいな」
「少しだけな」
「わかったよ」
良美は仕方ないな、といった顔で応えるのだった。こうして彼も何とか屋上に向かうことになった。屋上に向かいながら男組の一人がそっと携帯を取り出しメールを打つのだった。そうして返信を見て満足そうに頷くのだった。
「よし、これでいいな」
そうして良美に気付かれないようにして携帯を収める。そのうえで彼を屋上に案内する。彼が屋上に入ると彼等は自分達はそそくさとその場を後にするのだった。
「あれっ!?あいつ等」
何処に行ったと思って周囲を見回す。しかしそこには彼等はいなかった。
だがそこには一人いた。それは。
「何で御前がここにいるんだよ」
「それはこっちの台詞よ」
そこにいたのは美奈だった。二人は顔を見合わせると早速言い争いをはじめた。
「何であんたがここにいるのよ」
「そうか」
「そうだったのね」
そして二人は同時に気付いたのだった。
「あいつ等、それでか」
「それで私達を屋上に」
真相はわかった。しかしそれで話は終わりではなかった。それどころか激化してしまった。
「全くよ。大きなお世話だよ」
「そうよ、あんたなんかと一緒にいたくないわよ」
早速二人は本格的に言い争いをはじめたのだった。
「あの時あんた何言ったか覚えてるわね」
「それはこっちの台詞だ」
良美はむっとした顔で言い返す。
「御前あの時な」
「何よ、まだ言うの?」
「ああ、言ってやるよ」
完全に売り言葉に買い言葉だった。
「何度でもな。御前はあの時俺のクレープ取ったよな」
「一つ位いいじゃない」
美奈は居直ってきた。彼氏の顔を見上げて。
「一つだけよ、取ったの」
「最後の一つだったよな、その一つが」
「そんなのでガタガタ言わないの」
しかも居直るだけで済まなかった。
「あんただってこの前私が読んでた漫画勝手に借りたじゃない」
「後ですぐに返しただよ」
「読んだ後でストーリーまで言って」
「そんなの読んだらわかるだろうがよ」
「それを読むのが楽しみでしょ。違う?」
お世辞にもレベルが高いとは言えない言い争いは続いていく。
「あんたのせいでその楽しみがね」
「クレープ一個と比べたら安いだろうがよ」
「安いわけないでしょ」
こんな言い争いだった。しかし外からは聞こえない。皆屋上の扉の裏側でその話を聞いていた。しかしぎゃあぎゃあと五月蝿い彼等の言葉は聞こえてもその内容までは把握できなかった。要するに何を言っているのかまではわからなかったのである。
「何て言ってるんだろ」
「さあ」
皆話がわからず首を傾げていた。
「何か凄い勢いで言い争ってるのはわかるけれど」
「内容まではな」
「わからないわ」
そうなのだった。
「それにしても物凄い言い争いだけれど」
「こりゃ仲直りできないかもね」
「そうかもな」
もう話の内容は置いておいてそのうえでこのことを考え合うのだった。
「この有様じゃね。とても」
「仲直りどころじゃないかも」
「確かに」
一か八かだったがそれは失敗に終わるのではと思ったのだった。
「喧嘩激しくなってるし」
「破局かなあ」
「これはな」
遂には最悪の事態まで考えられるのだった。
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