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真田十勇士

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巻ノ三十 昌幸の智略その五

「一人か二人でな」
「徳川家の軍勢を襲う」
「そして敵が来れば逃げる」
「若しくは隠れる」
「そうしていけというのですな」
「無論拙者もそうする」
 幸村は具足も陣羽織も着けていない、普通の旅の侍の姿だ。その姿で家臣達にこれからの戦のことを話すのだ。
「自ら攻める」
「殿もですか」
「自ら忍術を使われて」
「敵を攻めますか」
「そうする、では行くぞ」
 幸村はこう言ってだ、風の様に消えた。そして。
 十人の家臣達も消えた、そうしてだった。
 徳川の軍勢を霧が覆った、その深い霧を見てだった。徳川家の足軽達は周りを見回して口々に言った。
「何だこの霧は」
「急に出て来たぞ」
「これはどういうことだ」
「さっきまで晴れていたというのに」
「何故急に霧が出て来た」
「まさか」
 足軽の一人がこう言ったところでだった、彼等は。
 その深い霧の中、手を伸ばせばその手が見えない様な中でだった。次から次に。
「ぐわっ!」
「がはっ!」 
 断末魔の声が聞こえて来た、このことに徳川の軍勢は余計に浮き足立った。
「敵か!」
「敵襲か!」
「真田が仕掛けて来たか!」
「ではこの霧も!」
 忍術か妖術かと思った、だがそう思ったところでだった。
 生き残っていた者達も次々と断末魔の声をあげて死んでいく、そして。
 川辺にいた者はだ、不意にだった。
 その川からだ。、手裏剣が至るところから飛んできてだった。それぞれ弧を描いて足軽達の急所を突き刺していった。
 同僚達を倒されて浮き足立った足軽達がだ、口々に言った。
「川の中にいるのか!?」
「敵か!」
「何人いる!」
「真田か!」74
「真田の忍か!」 
 誰もが狼狽して川辺から逃げた、だが。
 その彼等の前にだ、編笠を深く被った剣客がいてだった。
 刀を抜いてだ、彼等と擦れ違うと。
 足軽達は全員首筋から血を噴き出した倒れた、その剣客は編笠を上げた。
 根津だった、その根津に川から海野が飛び出て来て言って来た。
「流石じゃな」
「御主もな、水の中から攻めると無敵じゃな」
「いやいや、足軽達ならばな」
 海野は笑みを浮かべて根津に話した。
「何でもないわ」
「ああして水の中から手裏剣を幾つも放ってか」
「そして倒せる」
 楽にというのだ。
「あの様にな」
「そうか」
「それで才蔵の方はどうじゃ」
「呼んだか」
 霧と共にだった、霧隠が出て来て言って来た。
「わしの方も倒してきたぞ」
「そうか、御主もか」
「果たしてきたか」
「うむ、霧を出してな」
 今の様にというのだ。
「そうしてきたわ」
「そうか、ではな」
「この辺りの徳川家の軍勢はもうおらぬか」
「では次の場所に向かうとしよう」
 霧隠は二人に言った。
「そしてまた敵を倒そうぞ」
「うむ、ではな」
「これよりな」
 二人も頷いてだ、そしてだった。 
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