IS~夢を追い求める者~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第2章:異分子の排除
第16話「桜の実力」
前書き
桜の実力(本気を出すとは言っていない)。
今回は他の話と比べて結構短いです。
=桜side=
アリーナへ飛び出ると、オルコットは堂々と待ち構えていた。
「最後のチャンスをあげますわ。」
俺が対峙するとすぐにオルコットはそう言いだした。
「...聞くだけ聞いておこうか。」
「私が一方的な勝利を得るのは自明の理。今ここで謝るのなら、許してあげない事もなくってよ?」
「.....はぁ...。」
そういうの、チャンスって言わないぞ...?
「舐められたものだな...。」
「そう...残念ですわね...。それなら....。」
想起が警告を出してくる。
それと同時に、試合開始となる。
「お別れですわね!」
オルコットのレーザーライフル...スターライトmkⅢから弾が飛んでくる。
...それを、体を逸らすようにして避ける。
「っ....!?」
「真正面から撃ってくるなんて、避けてくださいって言ってるようなものだ。」
挑発するようにそう言って放つと、オルコットは分かりやすく反応する。
「っ...なら!踊りなさい!私、セシリア・オルコットとブルーティアーズが奏でる円舞曲で!」
「ほう...なら、踊ってやろうか?」
スカート状の部位から第三世代の特殊武装であるブルー・ティアーズが展開され、それらからレーザーが飛んでくる。
「ほっ、っと、よっ...!」
「なっ....!?」
それらのレーザーを、まるで疾風のように避ける。
「....さて、そろそろ行くか。」
そう言って俺は近接ブレードを一つ展開する。
「っ...!私に対して近接格闘装備など...!」
「おいおい...遠距離に近距離で挑むのが愚策とは言えないぞ?」
再度俺を囲むようにブルー・ティアーズが展開される。
「―――その動きに風を宿し、」
そこから放たれるレーザーを再び疾風の如き動きで避ける。
「っ...!喰らいなさい!」
避けた先をオルコットは予想したのか、スターライトmkⅢで狙撃してくる...が。
「―――その身に土を宿し、」
―――斬ッ!
その攻撃は大地の如く構えた俺に断ち切られる。
「......!」
「くっ....!」
ブルー・ティアーズで乱射してくるが、それらは先程の動きで全て捌き、オルコットを切れる間合い寸前まで迫る。
「っ...かかりましたわね!四基だけではありませんのよ!」
「っ!」
背後にあった二つ筒状のパーツからミサイルが飛んでくる。これは....!
―――ドォオオオオン!!!
「や、やりましたわ....!」
ミサイルが爆発し、煙幕で見えなくなる....が。
「―――その心に水を宿し、」
「なっ....!?」
その煙幕から俺は飛び出し、オルコットの目の前まで迫る。
...そう、さっきのは直撃はせずに、ミサイルとミサイルの間をまさに流水の如くすり抜け、追尾しようとしたミサイル同士が爆発しただけだ。
...ほんの少しだけ爆風でシールドエネルギーが削れてるけどな。
「―――その技に火を宿す。」
「い、インターセp...!」
―――“羅刹”
オルコットが近接用の武器を展開するよりも早く、俺は羅刹の如き連撃を繰り出す。
「きゃぁああああっ!!?」
連撃の最後の一撃で、吹き飛ばす。
...まだシールドエネルギーは残っている...いや、残した。
「俺が戦う時によく使う心得だ。...来い、まだ戦えるだろう?」
「ひっ....!?」
先程の連撃が効いたのか、さっきまでより戦意がごっそりと減っている。
「....一つ教えてやろう。心に水を宿せ。それでお前は化ける。」
「え....?」
突然何かを言い出した俺に、来の抜けた返事を返してくるオルコット。
「オルコット。お前はそのライフルとBT兵器を並行して扱う事ができないようだな。...それではブルー・ティアーズの名が泣くぞ?」
「何を....!」
挑発染みた感じで言うと、少しは戦意が戻ったようだ。
「ブルー・ティアーズ...日本語に訳せば蒼い涙。つまり、そのISは水の気質を持ち合わせている。ならば、心に水を宿せば本当の力を発揮するはずだ。」
「......。」
俺と束はISには基本的に四つの属性...火と水と風と土の気質のどれか...または複数を持っていると思っている。さっき言っていた心得は俺が戦う時に使う心得なだけで本来はISには用いなかったはずなのだが、気質を持っているのならば、今のようにISでも使える訳だ。
「...水面に落ちる涙の雫。それをイメージしてみろ。今までできなかった事ができるはずだ。」
「なぜ、そのような事を...?」
やはりというべきか、オルコットは俺を訝しんでくる。
「なに、このまま腐っていくのはもったいないからな。俺が言いたいのはさっきも言った通り...“心に水を宿せ”それだけだ。」
「.........。」
少し話す間に冷静になったのか、目を瞑り心を落ち着かせるオルコット。
隙だらけといいたいが、俺は敢えて攻撃をせずに待つ。
「っ.....!」
「...っと!」
ブルー・ティアーズの一基からレーザーが放たれ、俺は先に少し体をずらす。
しかし、そのレーザーが少し曲がったため、さらに俺は体をずらして避けた。
「偏光制御射撃....!?今まで成功しなかったのに...!?」
「...早速これか。...やはり、俺の眼に狂いはなかったか。」
心に水を宿そうとした結果、あっさりとオルコットは今までできなかった事を成功させた。
「これが心に水を宿した結果だ。」
「...なぜ、私に有益な情報を...。」
「さっきも言った通り、腐っていくのがもったいないからだ。」
再び俺は構える。オルコットも戦意を取り戻したようで、戦闘態勢に入る。
「....先程までの無礼、謝罪しますわ。」
「...ほう?」
「先程の一件で、目が覚めました。....全力で行かせてもらいますわ!」
そう言って再度ブルー・ティアーズを展開する。
しかし、今度のはただ俺を狙うだけでなく、包囲するように展開した。
「心に....水を宿す.....!」
「...お?」
ブルー・ティアーズからレーザーが何度も放たれるが、俺はその放ち方に声を上げた。
避けた先を読んでそこへ放つだけではなく、俺の避ける方向を誘導していた。おまけにフレキシブルによる曲線状のレーザーも偶に混じってくるため、非常に避けづらい。
「っ、これっ、はっ....!」
「......っ、ここですわ!」
少し体勢を崩したのを、オルコットは見逃さずにブルー・ティアーズを展開したままスターライトmkⅢで狙撃してきた。
「くっ....!なっ!?」
そのレーザーを斬ろうとした瞬間、その剣にブルー・ティアーズのレーザーが当たり、挙動が少しだけ遅れる。
「(....見事、だ!)」
「なっ!?」
賞賛を送りつつ、武器をレーザーの射線上に展開する。
レーザーはそのまま展開したもう一振りの剣に阻まれ、当たった衝撃で回転した剣を俺はキャッチする。
「ふっ!」
「くぅっ....!」
片方の剣を投げ、オルコットに避けさせる。
まだ未熟だからか、それだけで攻撃が完全に止む。
そして.....。
「今のはよかったぞ。」
「っ、きゃぁああっ!?」
一気に間合いを詰め、連撃を加えてあっという間にシールドを削りきる。
〈勝者、篠咲桜。〉
「お疲れ様です。」
「おう。勝ってきたぞ。」
ピットに戻り、秋十君に労りの言葉を掛けられる。
「それにしても、よかったのですか?彼女をさらに強くしてしまって...。」
「オルコットは女尊男卑の性格さえ何とかなれば普通に良い奴だとは思うがな。....と言うか、この学園の大半は女尊男卑さえ何とかなればいい奴ばかりだと思うな。」
「そうなんですか。」
ユーリちゃんはそれで納得したのか、引き下がる。
「さて、少し時間を取ったら次は秋十君だ。頑張れよ?」
「はい!」
おお、元気のいい返事だ。余程織斑と戦えるのが嬉しいのか?
「そして勝った者同士がさらにその後で戦う。...待ってるぞ秋十君。」
「はい!」
...え?織斑が勝つ確率?ゼロではないけど....まぁ、秋十君が余程油断しない限り、勝つ事は無理だろう。
=out side=
「こうも代表候補生をあっさり倒すなんて....。」
管制室で山田先生が驚いている。先程の試合で、ある程度の桜の凄さが分かったのだろう。
「....ふ、さすが。と言うべきか...。」
「織斑先生はこの結果が分かってたのですか?」
さも当然かのように結果を見て呟いた千冬に、山田先生は質問する。
「ああ。言っただろう?訓練機とはいえ、最初から本気で戦った私が引き分けたと。」
「それ以外にも理由はありそうですけど....。」
山田先生はそこまでで言うのを止めた。どうせ答えてくれそうにもないからだ。
「他の理由か....そうだな。強いて言うなら、幼馴染だからか?」
「えっ!?お、幼馴染ですか!?」
まさか答えてくれるとは思わなかったのと、幼馴染という事実に驚く山田先生。
「ああ。世間では死んだ事にされているがな。...他言無用だぞ。」
「分かりましたけど...一応、理由を聞いていいですか?」
山田先生の質問に、千冬は少し顔を顰める。
「あ、えと、言えないのならいいです...。」
「いや....理由の中に束の存在があるからな...。それが嫌なだけだ。」
「は、はぁ....?」
「他言無用の理由か....。無闇にばらすと、アイツが全ISを停止だのさせて世界を混乱に陥れかねん。そう言う事だ。」
「て、停止って....!?」
山田先生は千冬が束と幼馴染なのを知っている。...というか、世界中の大半が知っている。そのため、桜一人の事をばらすだけでそこまでする事に驚いたのだ。
「私と幼馴染であれば、アイツと幼馴染なのは必然だろう?」
「そ、そうですけど....。」
束は基本的に他人に無関心。...そう世間一般では知られている。
故にそこまでするのが理解できなかった。
「...なに、それだけアイツが篠咲兄...桜の事を好いているという事だ。」
「す...!?えっ....!?」
衝撃の事実に言葉に詰まる山田先生。
「も、もしかして....織斑先生も...?」
「.........。」
恐る恐る山田先生が聞くと、千冬は黙り込む。
「山田先生、この話はここまでしよう。いいな?」
「え、でも....。」
「い・い・な?」
「は、はい!」
威圧を込めてそう言った千冬に、山田先生はタジタジだった。
=セシリアside=
「........。」
試合が終わり、私は更衣室で少々放心していた。
「篠咲...桜....。」
代表候補生であるはずの私を圧倒するだけでなく、私をさらなる高みへと導いた男...。
それだけではない、このご時世、男は女性に弱くなっている。男は必要以上に女性に怯え、何でもかんでも弱気になっていて見苦しかった。
かくいう私も女尊男卑という風潮に染まっており、男を貶すような物言いをしてしまった。
それなのに、まるで何ともないように振る舞う彼の姿は、私の“心”も圧倒した。
「っ......。」
いつもお母様に弱気になっていたお父様。
私はずっとそれを見て育ってきた。
だからこそ、男性はここまで強いのかと、彼によって思い知らされた。
「私は...何をしていたのでしょうか...。」
弱気な一面しか知らなかった訳ではない。
しかし、私はずっと男性を見下してきた。
だからこそ、彼の強さを魅せられて目を覚ますような衝撃に襲われた。
「....後で謝罪しなければなりませんね。」
男性だけでなく、あの時は日本そのものを侮辱してしまったのだ。
だから、クラスの方達にも謝らなければ...。
「謝罪だけでなく、感謝もですわね。」
人としての道を踏み外しかけていた私を戻してくれた“桜さん”に....。
後書き
セシリアは心に水を宿す際、川の流れなどをイメージしており、ブルー・ティアーズの操作などもその一連の動作そのものを水の流れと捉える事により、今回の動きを再現させていました。
今回の“動きに風を宿す~”のセリフは、とあるゲームにあったセリフをそのまま使っていましたが、何のゲーム分かった人はいますかね...?
結構あのセリフ、意味と相まって気に入ってるんですよね。戦闘の心構えとしても滅茶苦茶使えますし。
ページ上へ戻る