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ミーデル

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第四章

 ふとだ、裕行は信彦にこんなことを言った。
「期待してるか?」
「コンダクターさんの言葉だからな」
 信彦はいぶかし気味の裕行にこう返した。
「一応はな」
「そうか、まあ俺もな」
「期待してるんだな」
「一応な」
 彼もと言うのだった。
「美味いだろうってな」
「そうか、期待してるんだな」
「御前と一緒だな、時計も買ったしな」
「彼女へのプレゼントか?」
「それと親な」
 両親達にもとだ、裕行は答えた。
「親にもな」
「時計買ったのか」
「三つな、安いのか」
「そうか、俺は四つだよ」
「彼女と両親と」
「妹にな」
「ああ、御前妹さんいたな」
 ここで裕行も思い出した。
「そういえば」
「あいつの為にも買ったんだよ」
「いい兄貴だな」
「こうしたのは買わないとな」
 妹に対してもというのだ。
「悪いだろ」
「そう言って買うのがいいんだよ」
「そんなものか」
「ああ、俺だったら可愛くなかったら買わないな」
 これが裕行の考えだった。
「一人っ子だけれどな」
「御前はそういう奴だな」
「可愛い妹じゃないとな」
 それこそというのだ。
「買わないと意味ないだろ」
「そう言うのかよ」
「ああ、俺はな」
「やれやれだな」
 いささか呆れた信彦だった、裕行のそうした言葉に。
 しかしそうした話をしている時にだ、二人のところに。
 小柄で丸い栗色の目の女の子が来た、髪の毛は奇麗なブロンドでふわふわとしたそれをツインテールにしている。 
 はっきり言って可愛い、だがそれだけでなく。
 胸の前で紐を締め上げた紫のベスト上の服にだった、肘までの袖が膨らんでいてその端が締まっている白のブラウスに。
 膝を覆った長さの藤色のスカートと白いエプロン、頭には向日葵の様に大きな頭全体を包む感じの紫のカチューシャがある。
 その少女を見てだ、二人は息を飲んだ。
 そしてだ、そのたどたどしい日本語を聞いた。
「今から」
「はい、今から」
「フォンデュを」
「用意します」
 ドイツ語訛りの強い日本語で言ってきてだった。
 そのフォンデュの用意をした、その女の子をだ。
 二人はフォンデュよりも見た、そしてだった。
 食べ終わってだ、それからだった。
 二人でだ、ホテルに戻ってロビーで言ったのだった。
「レストランの娘可愛かったな」
「ああ、あの娘な」
 信彦は裕行のその言葉に同意して頷いた。
「確かに可愛かったな」
「あんな娘が妹だったらな」 
 それこそという口調でだ、裕行は言った。 
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