| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

真田十勇士

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

巻ノ二十七 美味な蒲萄その二

「この旅でそのことがわかりました」
「拙者もじゃ」
「多くのものが観られて」
「知ることが出来たな」
「よいものです」
「全くじゃ」
「また機会があればしたい程です」
「拙者もそう思う、まあこの度の様な旅はそうそう出来ぬ」
 幸村は家臣達にこのことは断った。
「政もあれば戦もあるからな」
「ですな、天下は騒がしいです」
「再びそうなっています」
「この甲斐、信濃にしましても」
「徳川家が来ておりますし」
「戦になるやもですな」
「戦の用意、そして戦があればな」
 幸村はまた言った。78
「とてもな」
「旅どころではありませんな」
「戦に勝たねばならぬからこそ」
「それの用意にも戦自体にも」
「まことに忙しくなりますな」
「だからじゃ、この旅は最高の機会であった」
 こうもだ、幸村は言った。
「天下を知り何よりも」
「何よりも?」
「と、いいますと」
「他に何かありますか」
「見識を広める以外にも」
「何よりも御主達を家臣に迎えられた」
 幸村は十人の家臣達にだ、微笑んで言った。
「それが何よりのことじゃ」
「我等を家臣に迎えられた」
「そのことがですか」
「殿にとってですか」
「最高のことですか」
「この旅でな、御主達もそうか」
「はい」
 十人が一斉にだ、幸村に笑顔で答えた。
「それがし達もです」
「まさか殿とお会いしてです」
「家臣になれるとは思っていませんでした」
「殿の様な方と」
「人と人の出会いはわからぬ」
 幸村は遠いものを見る様にして言った。
「しかしこうして御主達と出会えた」
「そのことはですか」
「殿とって非常によいものであったと」
「そう言って頂けますか」
「うむ、このことが「一番じゃ」 
 この旅でというのだ。
「何といってもな」
「この旅はですか」
「殿が我等と出会う為の旅」
「そうでありましたか」
「見聞を広める以上にな。まことによかった」
 しみじみとさえしてだ、幸村は家臣達に述べた。
「この旅は拙者にとって一生の宝になる」
「その宝が我等」
「我等十人なのですな」
「殿にとってこれ以上はない宝」
「そうなのですな」
「そうじゃ、だからよかった」
 しみじみとした口調はそのままだった、そしてだった。
 幸村は蒲萄を一房食べ終えてだ、その彼等に言った。
「では甲斐からな」
「はい、信濃に入り」
「そして上田に戻り」
「そのうえで」
「父上と兄上の前に出てじゃ」
 そして、というのだ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧