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チビで悪いか!

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3部分:第三章


第三章

「何だよ、今日もかよ」
「今日もって何よ」
 次の日は下校中に会った。どういうわけか毎日登下校のどちらかか両方で絶対に彼に会っているような気がする。それがまた彼女を不機嫌にさせるのであった。
「だからよ。小さいなって」
「小さくて悪いの!?」
「いや、別に」
 意外にもそれは悪くないというのだ。
「そんなこと言ってる?俺が」
「言ってるわよ」
 むっとした顔で彼に言い返した。
「毎日毎日。小さい小さいって」
「事実じゃないか」
 彼は咲菜を見下ろして平然と言ってきた。
「小さいのはさ」
「だからそれよっ」
 そこに突っ込みを入れる。
「毎日言って。気にしてるのよ」
「気にしたって仕方ないだろ」
 菊次郎がまた言ってきた。
「小さいのはどうしようもないからな」
「どうしようもないって」
「小さいのはどうしようもないんだよ」
 菊次郎は笑いながら咲菜に声をかけてきた。
「外見のことはな」
「どうしようもないって」
「それに」
「それに?」
 ここで彼はさらに言うのだった。
「気にしても仕方ないしな。考えても」
「じゃあどうしろっていうのよ」
「受け入れるしかないじゃないか」
 彼の言葉は平然としていた。
「俺だって背は高いんだし顔はいいし」
「顔はどうかしら」
 あんまりにも彼が平気で自慢を続けるのでそこを指摘するのだった。
「あんまり自慢が過ぎると嫌味よ」
「本当のことを言っただけだけれどな」
「それが自慢なのよ」
 また咲菜は突っ込みを入れた。
「本当のことって。自慢ばかりする男は嫌われるわよ」
「別に嫌われたっていいさ」
 そう言われてもやはり平気な様子であった。
「幾らでも周りに嫌われても」
「嫌われても?」
「一人に好かれてたらいいさ」
 これが彼の考えであるらしかった。何故かいつも話す時は咲菜に顔を向けて話すのだが何故かこの時は彼女に顔を向けず正面を見ているだけであった。
「それだけでな」
「いいの」
「そうだよ。だから気にしないんだよ」
 さらに言葉を付け加えてきた。
「一人に嫌われてたら絶対に嫌だけれど」
「変なの」
 咲菜はそれを聞いて首を傾げてから呟いた。
「普通皆に好かれたいと思うのに」
「それはそうだけれどね」
 これは菊次郎もそのようだった。やはり皆に好かれれば気持ちがいい。これは誰だってそうであるし菊次郎もそうであった。
「けれどそれよりも」
「その一人ってこと?」
「そうだよ。それだけでいいからさ」
「ふうん。まあそれならそれでいいんじゃない?」
 咲菜はここまで聞いてこう述べるのだった。
「あんたがそれでいいのなら」
「ああ、そうさせてもらうよ」
「私としてはあれだけれど」
 ここで菊次郎に対して注文した。
「背のことだけは言わないでね」
「さあ」
 ところがこの質問にはとぼけてきたのだった。
「それはどうかな」
「そんなのだったらその一人にも嫌われるわよ」
「えっ!?」
 そう咲菜に言われると何故か声を強張らせるのだった。
「そうなんだ」
「そうなんだって。何よ」 
 強張った声になった菊次郎に対して問うた。
「急に固まって。んっ!?」
「あっ、いや」
 見れば菊次郎は強張ったままだ。咲菜はそんな彼を見ながら顔を顰めさせる。彼女は何故彼がそうなったのか不思議で仕方なかった。
「何でもないよ」
「何でもないの?本当?」
「ああ、だから」
 今度は声を震えさせていた。いつもの飄々とした様子が完全に消えていた。
 
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