神様転生した先のサイバーパンクで忍者になって暴れる話
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シチュエーション・オブ・ソウカイヤ
3話
用事を終えて五車町出たふうまは今、本拠地があるトーキョーキングダムにいた。
彼の足取りはアジトに戻るものではなかった。
とあるバーの中へふうまは入っていく。
照明の光を敢えて抑えていて、お店が適度に暗い。
机の上に置かれたキャンドルの揺らめく炎が、よりいっそう心地のよい空気を作り出していた。
中にいる者たちは、人ではないのも多い。普段は粗暴な者達も、店内の気品あるアトモスフィアに酔う様に、アルコールを静かに楽しんでいる。
ふうまは途中にある机に座ることなく、バーカウンターへと歩みを進める。幾人かバーテンダーがいるが、ある一人の女性の前で止まった。
日の焼けた肌に捻じ曲がった角と、薄い紫色の髪が片目を隠している女性が、バーテンダーとして佇んでいた。その胸は豊満であった。
バーコートを身に着けたベルベットと呼ばれる女性の前にふうまは座る。彼女もふうまに見開いた片目で秋波を送っていた。
「お勧めを一杯貰おうか」
「アイアイ。思いを込めて作らせてもらうね」
他の客達も魅了する優雅な動作で、ベルベットがシェイカーを振る。
白い紙の上に置かれたカクテルグラスに、琥珀色の液体が注ぎ込められる。ベルベット・ハンマーと呼ばれるカクテルを、薄い笑みを浮かべながらふうまは口に含んだ。
(うまい)
感想を口に出すことなく、ベルベットを観察する。
バーテンダーとして、ふうまの敵対組織の者や魔族とも、ベルベットは如才がなく会話していく。
その間にカクテルグラスの下に置かれた紙を、周りに見られないように開く。
その中には超薄型の記憶媒体が入っていた。それも静かに懐へ入れる。
トーキョーキングダムの中でも人気の高いバーを開いているベルベット。彼女もふうまの組織の一員だ。かつてふうまに破れて愛欲の虜となり、組織の一員になった。このバーも組織の情報収集の場となっている。
とはいえ、そんなことは誰にも知られるわけにはいかない。
ふうまも秘密裏に接触している。
だが、そんな事を忘れたくなるほど、ベルベットのバーテンダーとしての腕はよかった。
(今ぐらいはいいか)
仕事のことを忘れて、純粋に酒を楽しもうとしたとき、
「ザッケンナコラー! ベルベット=サン! チャースイテッコラー!」
無粋な客は現れた。
複数のオークがドアを蹴破り音を立てて侵入してくる。
「他のお客さんの迷惑になるだろ。静かにしてもらえないかねぇ」
オークの怒声に怯む事無く、ベルベットが冷静に言葉を紡ぐ。
「ザッケンナコラー! ソマシャッテコラー! スッゾコラー!」
リーダーのオークがヤクザスラングを叫んだ。コワイ!
他のオークが人質を取ろうと、女性の従業員に手を出す。
だが、控えていたオークがその手を取る。
「……困りますよ。お客さん」
ダークスーツに黒いサイバーサイバーサングラス。クローンオークだ。
それを見たリーダーオークが怒声をあげる。
「ダッコラー! テメッコラー! スッゾオラー!」
コワイ!
善良な者であれば失禁するほどであろう!コワイ!
だが、ここでは命とりだ。
「おやり」
ベルベットの冷たい声と共に、控えていた他のクローンオークがにじみ出る。
クローンオークは同時に銃を構え、同時に銃を発砲。
「「ザッケンナコラー!」」
重金属の弾丸は正確に無粋なオーク達に直撃する。
「「アバーッ!」」
誰一人他の客に当たることなく、敵であるオーク達にのみが排除された。
数瞬の沈黙の後、まばらな拍手が店内にコダマする。
客達は見世物としてしか、彼らの結末を見ていない。
この程度、マッポーめいたアトモスフィア漂うトーキョーキングダムではチャメシ・インシデントなのだ。ブッダよ、あなたは今も寝ているのですか!
クローンオーク達が死骸を片付ければ、いつも通りの店内に戻る。
暴力の匂いを嗅ぎ取ったためか、ベルベットの顔が少しばかり紅潮していた。
それを見て取ったふうまがシェリー酒を頼む。
注文を受け取ったベルベットが早速シェリー酒をワイングラスに注ぎ込む。
「はい」
目の前に置かれたシェリー酒を、ふうまはベルベットの方へ押す。まるで彼女に飲んでもらいたい様だった。
「…………ふふ」
嬉しそうにほほ笑むと、そのシェリー酒をベルベットは一気に飲み干した。
瞬間的に視線を交差させる。ふうまは幾らかの金額を置いて店を後にする。
ベルベットも他のバーテンダーに、
「ちょっと疲れたから後は任せるよ」
と言って二階に上がる。
そこは彼女の自室として使っている場所だった。そして、音が漏れないよう防音機能も付けている。
部屋の窓が開いていた。そして、誰もいないはずの部屋に男が一人たたずんでいた。
勿論ふうまである。
「今夜は泊まってけんだよねぇ?」
「ああ」
絡みついてくるベルベット。
ふうまも相手をするように体をまさぐる。
そのまま彼女をベットに押し倒す。そして、
「アタシいま体温何度あるのかなーッ!?」
ベルベットの艶声が響くのだった。
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