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浪速のど根性

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4部分:第四章


第四章

「それやな」
「ほな。行って来い」
「一撃で決めるで」
 完全に立ち相手に身体を向けてから言った。
「一撃でな」
「ああ、やってみい」
「御前の言う通りな」
「フィニッシュ=ブローってやつや」
 言いながらゴングを待つ。
「それは一発でええんや」
 こう呟きつつゴングを聞いた。そうして相手との最後の三分に入る。最後の三分に入ってから二分半が過ぎた。その時だった。
「くっ!」
 相手がそのリーチを活かし右のストレートを放ってきた。フットワークを活かして攻撃をかわし続ける守に苛立っての攻撃だった。これで決めるつもりだったのだ。
 ところがだった。彼はこの攻撃をかわした。左に流れるように動いたのだ。
「またかい!」
「そや!けれどな!」
 相手に対して叫ぶ。
「俺はこの時を待ってたんや!」
「何!」
「隙だらけや!」
 技を放ちつつ叫ぶ。
「右手が伸びきっとるで!焦ったな!」
「くっ!」
「最後の最後!これで終わりや!」
 言いながらアッパーに入る。
「おらよ!」
「ぐぶっ!」
 アッパーが攻撃を放ちそのまま隙を生み出してしまっていた相手の顎に当たる。既にスタミナをかなり消耗してしまっていた彼はこれで倒れた。本当に一撃だった。
「これで終わりや」
「ああ、勝ったな」
「またな」
 勝って腕を掲げられてからコーナーに戻ってきた守に部員達が声をかける。
「けれどまた最終ラウンドやったな」
「時間がかかるな」
「それはしゃあない」
 これはいいとする守だった。
「相手も本気や。そう上手いこといくかい」
「そらそうやけれどな」
「新聞部はまた書くぞ」
「あいつ等が何てや?」
 丁度今何かを書いているその新聞部の面々を見つつ彼等に問う。
「またギリチョンの勝ちやってな」
「相変わらずギリギリやてな」
「そうか。けれど勝ちは勝ちや」
 だがこれについては案外気にしていないようだった。
「負けでも引き分けでもあらへん。だからええ」
「そうなんか。それは変わらんな」
「何があっても正面から勝つ」
 部員に対して言い切ったのだった。
「それが俺や」
「登坂守ちゅうことかい」
「そや、俺の辞書に卑怯とか姑息っていう字はあらへん」
 こうもさえ言う。
「どっかの出来損ないの猿親子とちゃうで」
「まああれはな」
「ただの馬鹿親子やし」
 ボクシング部員としてそれには頷く一同だった。同じ大阪人としてもあの親子は到底認められないというのが彼等の考えでもある。
「あんなんとは流石にちゃうわ」
「御前でもな」
「何か褒められてる気がせんのやけれどな」
「褒めとるんじゃ」
「勝ったやろが」
「ああ」
 今度の言葉には頷くことができた。
「だからや。ようやった」
「後で祝勝会やな」
「ああ。インタヴューもあるしな」
 ここでまた新聞部員をちらりと見た。
「全く。いつも好き放題書いてくれるわ」
「そう言うな」
「それも仕事のうちや」
 そんな話をしつつ勝利を噛み締めていた。彼は強かった。その強さを保つ為にトレーニングも欠かさない。勝ったその日も家に帰るとランニングだった。
「よお続くわ、ホンマ」
「ボクシングとお店のことだけは熱心やな」
「当たり前じゃ、アホ」
 弟と妹達に対して言葉を返す。
「この二つだけは止めんで」
「まあ家の仕事は止めたら飯抜きやしな」
「それは当然としてや」
「ボクシングかい」
 ランニング帰りの汗を流した顔で彼等に応えた。
「これは俺の二つの生きがいのうちの一つや」
「もう一つあるんかい」
「言うとくが勉強とちゃうぞ」
「ああ、それはわかっとるから」
 弟がこう返す。
「兄ちゃんが勉強してんの見たとこないしな」
「それだけはうちもわかるわ」
 妹も続く。
「兄ちゃんがアホやってことはな」
「だから僕等は勉強も頑張るんや」
「兄ちゃんみたいになりたないからな」
「俺は反面教師か」
 弟達にじかに言われて流石に気分が悪い。だからここで彼等の名前を出して怒った。
「こら譲、沙耶」
「何や?」
「アホは薬でもなおらんで」
「そんなん言うてるんちゃうわ」
 とりあえずそれは強引に押さえつけた。
 
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