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ロックマンゼロ~救世主達~

作者:setuna
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第26話 エルピス

 
前書き
ロックマンゼロ2完結 

 
凄まじい轟音を聞いたゼロは真上の開かなくなったシャッターをチャージセイバーでシャッターを吹き飛ばしながら部屋に入ると、信じられない光景が映っていた。

辺りに散らばっているエックスの残骸とボロボロになって倒れているルイン、そして異形の怪物。

「オヤ?ゼロジャアリマセンカ…随分ト遅カッタデスネエ」

狂気に満ちた声でやってきたゼロに語りかけるエルピス。

「…っ、この声…エルピスか…何故そんな姿に…」

自分の知る姿からあまりにも変わり果てたエルピスの姿に、流石のゼロも動揺した。

「ダークエルフノ力デスヨ。エックスヲ破壊シ、ダークエルフヲ覚醒サセタノデス。コレデ、私ハ究極ノ存在二…神ニ等シイ存在トナッタノデスヨ」

エックスを破壊した。

その言葉に今まで感じたことのない激情が支配しかけたが、必死にそれを抑えた。

「何故、こんなことをした?こんな馬鹿げたことを」

「馬鹿ゲタコト?勘違イシナイデ欲シイデスネエ。私ハ何モコノ力ヲ悪イコトニ使オウトハ思ッテハイマセン。タダ、コノ力デ新タナル世界ヲ創リ出ソウトシテイルダケデス。レプリロイドダケノ理想郷ヲ…我々ガ幸セニ暮ラセル世界ニ!!」

「エルピス、レプリロイドだけの世界など幻だ。力で創り上げた理想郷などすぐに消えてなくなるぞ」

「黙レエエエエ!!」

エルピスは激情のままにゼロに向けてエネルギー弾を乱射するが、距離が離れていたために容易に回避出来た。

「………」

「全テハ、シエルサンノ為ナンダ!!我々ヲイレギュラー認定シタ、ネオ・アルカディア、ソシテ人間ヲ滅ボセバ世界ハ平和ニナル!!」

人間を滅ぼす。

シエルのためと言いながら、そんなことをすればシエルは悲しむだけだということにエルピスは気付いていない。

「お前はシエルのためと言いながら、シエルのことを何一つ分かっていないようだな。」

攻撃をかわしながらゼロはエルピスがシエルのことを何一つ理解していないことを理解した。
 
「何ダト!?」

「教えてやる、あいつはエックスと同じだ。他人の痛みを、悲しみを自分のことのように受け止める奴だ。だからこそあいつは人間の理想郷であるネオ・アルカディアから飛び出してレジスタンスを結成した。」

時々だが、シエルの姿がエックスと重なる時がある。

他人のために一生懸命になれるシエルの姿がゼロや彼女を姉のように慕うアルエットを含めたレジスタンスはどれだけ心の支えになったか分からない。

彼女と初めて会ったのは、自分が眠っていた忘却の研究所だった。

“ゼロ?助けて、お願い。助けて…”

目が覚めた自分に必死に助けを求めて縋ってきたシエル。

初めて会った、何も知らない人間の少女を自分は助けた。

何故かは分からないが、シエルの必死な姿が朧気な記憶を刺激したからだ。

今なら明確に答えが出せる。

自分は何故シエルを助けたのか?

それはシエルはエックスに似ていたからだ。

エックスに似て、自分よりも他人のために努力する彼女だからこそ、守りたかった。

自分は百年間エックスの傍を離れ、エックスのことを守ってやれなかったからこそ、せめて…シエルを守り、彼女の願いを叶えてやりたかった。

ゼロはZセイバーのチャージをしながらエネルギー弾をかわし、ダッシュジャンプで距離を詰めるとチャージセイバーをエルピスの顔面に叩き込んだ。

「グッ!?」

「俺は前にも言ったはずだ。ネオ・アルカディアを倒してそれで終わりならシエルはそんなに悩んだりはしないとな。シエルはお前みたいに単純な奴じゃない。いつも、平和的な解決法を模索し続け、時に挫けそうになっても必ず立ち上がる強い奴だ。そう、エックスのようにな」

「ダ、黙レ!ソウヤッテオ前ハ、シエルサンノ理解者ヲ気取ルノカ!?」

「少なくとも、復讐心に駆られ、ネオ・アルカディアと人間達を滅ぼそうとするお前よりはシエルのことを理解しているつもりだ。」

ワープで距離を取られたため、バスターショットを引き抜いてチャージショットをエルピスに当てる。

ネオ・アルカディアとそこに住む人間達が滅ぼされてしまえばシエルが望んでいる人間とレプリロイドの共存の可能性が断たれてしまう。

同時にそれはエックスの夢でもあり、微かに思い出せた記憶の中のエックスはどれ程ハンターとして輝かしい功績を重ねようと、決して戦いを肯定して来なかった。

そんなエックスがこんな残酷な最期を遂げることになるとは思ってもいなかった。

エックスが志半ばで倒れた以上、自分がエックスの意志を継ぎ、シエルを支える。

それがゼロの戦う理由になり、力となる。

「フザケルナア!突然現レ、シエルサンニ見守ラレタ私ノ幸セヲ壊シテオキナガラ!私カラ、シエルサンヲ奪ッタオ前ガアアアアッ!!」

激情に支配されたエルピスがエネルギーの消耗を考えずに攻撃を繰り出すが、狙いが甘いために容易にかわせる。

ワープで移動されても、セイバーとバスターのダブルチャージで対処出来る。

「悪いが俺はまだ死ぬわけにはいかん。エックスが…友が人間とレプリロイドの平等な共存を目指しながらも志半ばで倒れた以上、俺は友の意志を引き継いでいかねばならんのでな」

「黙レ!私ハ、オ前以上ノ存在ニナルンダ。ソシテ、シエルサンヲ取リ戻ス!シエルサンガ私ヲ愛シテクレルナラ、私ハ……私ハ……」

「本当にシエルを想うなら、あいつが悲しむような真似をするな。」

攻撃を掻い潜りながらチェーンロッドを振るい、羽を斬り裂いた。

「ゼ、ゼロオオオオッ!!!」

最後の悪足掻きとばかりに、巨大なエネルギー弾を放つ。

ゼロはロッドの穂先を天井に突き刺して一気に鎖を短くすることで上に回避しながらセイバーにエネルギーをチャージさせた。

「(すまん、シエル…エルピスを救うにはこれしかなさそうだ)」

エルピスを救って欲しいと頼んだシエルの言葉が脳裏を過ぎる。

「これで終わりだエルピス!!」

シエルとの約束を果たすためにセイバーを振り下ろした。

「ギャアアアアアアアッッッ!!!」

ダメージを受けすぎたエルピスは体中から爆発を起こしながら墜落していき、全身から力が抜けていくのを感じながらエルピスは脳裏に彼女の声が過ぎった。

場面はシエルにネオ・アルカディアから持ち出したベビーエルフをシエルに差し出した時の物だ。

“エルピス…このエルフ…凄いわ。こんな小さな身体で強いエネルギーを発し続けている…もしかしたら、このサイバーエルフを解析すればエネルゲン水晶に代わる新しいエネルギー……より安全でクリーンなエネルギーを生み出せるわ”

“期待してますよ。エネルギーはあるに越したことはありませんし、エネルゲン水晶よりも安全でクリーンなエネルギーならより豊かな生活を送れるようになるでしょう”

“ええ。それもあるけど……新エネルギーが開発できれば、ネオ・アルカディアと戦わなくて済むかもしれない。この世界の争いの歴史は、エネルギーを巡る争い。新しいエネルギーが開発出来れば、この争いに終わりが来るはず。”

“シエルさん…”

“エルピス、私は武器の力じゃなくて科学の力で世界を平和にしてみせるわ”

その時に見せたシエルの力強い笑顔。

あの時は笑ってしまったが、彼女に惹かれたのはこの時なのかもしれない。

そして今になってようやく思い知るのだ。

自分がしようとしていることをシエルは望まないことを、そして彼女を笑顔にするどころか悲しませることを。

致命傷を負ったエルピスは意識を取り戻すと、ダークエルフとベビーエルフから解放され、元の姿に戻っていた。

「…ありがとう…ゼロ君…私をよく倒してくれた…君のおかげで…ようやく、正気に戻れたよ。もう少しで…私は…とんでもないことを仕出かすところだった…本当に…すまない…エックスのことも…彼女に何て詫びればいいのか…」

負の感情から解き放たれたエルピスはようやくゼロに対して素直になれた。

ルインの目の前でエックスを破壊したことに対しても申し訳ない表情をする。

「………」

「う…っ…」

するとルインが気絶から目を覚ました。

「ルイン…」

「あ…ゼロ……っ!エルピス!!」

エルピスの姿を認識すると普段の彼女からは考えられない程の憎悪に満ちた視線と共にZXバスターを向ける。

エルピスは殺されても仕方ないことをしたと、抵抗する素振りも見せなかった。

「エックスの…エックスの仇!!」

エルピスに向けてチャージショットを放つが、ゼロがエルピスの前に立ち、シールドブーメランで受け止めた。

「…っ」

自分を庇ったゼロにエルピスは微かに目を見開いた。

「何で…?何で邪魔するのゼロ!?こいつはエックスを殺したんだよ!?それなのに…っ…何でこんな奴を庇うの…!?」

止め処なく涙を流しながら叫ぶルインに対して、ゼロは静かに口を開いた。

「今更エルピスを倒しても…エックスのボディが元に戻る訳じゃない…。」

「っ…」

その言葉にルインは唇を噛み締めた。

「恐らくエックスも…お前が自分のために復讐するのを望まないはずだ」

「でも…でも…っ!!」

ゼロに論されたルインは行き場のない怒りをどこに向ければいいのか分からなくなり、何度も地面を殴りつけた。

「ゼロ君…ルインさん…本当にすまなかった。今までのことも…エックスのことも…全ては…私の…私の…弱い心のせいだ…。」

自分の心が弱かったためにベビーエルフに付け込まれ、このようなことになってしまった。

「…自分の過ちを認めるのは勇気のいること…でも…これで…少しは強くなれただろうか…これで…お別れだ…ゼロ…君…本当に…すまなかった…ルイン…さん…そして……さよなら…シエル…さん」

その時であった。

ダークエルフに変化が起こり、ダークエルフの禍々しい輝きが神々しい輝きに変わったのだ。

「ミ…?ミーーーーーーッ!!」

ベビーエルフ達がダークエルフの神々しい輝きに怯えるように去っていき、ダークエルフはエルピスに神々しい光を降り注いだ。

「あぁ…暖かい…あぁ…」

エルピスの体が消えていくが、体が消滅した瞬間にサイバーエルフへと姿を変えていく。

「彼女は…どうやら…私を救ってくれたようだ…。彼女は…本当は…邪悪な…存在などでは…ないのかも…しれない…ありがとう…ゼロ…君…ルイン…さん…さよう…なら…」

ダークエルフの力で、サイバーエルフに生まれ変わったエルピスは飛び去っていく。

そしてダークエルフの輝きが神々しい物から再び禍々しい物に変わっていく。

「ゼ……ゼ……ロ……」

「「!?」」

聞き間違えでなければダークエルフは確かにゼロの名前を言った。

驚く二人を残してダークエルフはこの場を去っていき、そして、今となっては戻るボディを失ったサイバーエルフのエックスが現れた。

「二人共…」

「エックス!…ごめん!!ごめんねえ…」

ルインはエックスの胸に飛び込み、何度も謝罪を繰り返す。

「いいんだよ。君が僕のために頑張ってくれた…それだけで僕は嬉しかったよ…」

「エックス…」

エックスはゼロとルインにダークエルフのある事実を伝える。

「彼女は昔からダークエルフと呼ばれていた訳ではない…。彼女は昔…世界を救うために生み出された。その時は、別の名前だった…。しかし…彼女の力が世界を滅ぼしそうになってから…彼女の名前は、ダークエルフと呼ばれるようになった…。Dr.バイルに呪いをかけられてからね…」

「Dr.バイル…?」

「そう…妖精戦争と呼ばれている悲劇の元凶となった…人間」

「人間?どういうこと?」

ネオ・アルカディアの歴史では、エックスが一人で戦争を終結させた英雄であり、人間至上主義の政府にとって人間であるDr.バイルが戦争の元凶などとは知られてはならない情報だったことを伝える。

エックスもゼロもルインも知る由もないが、エルピスは偶然それを知ってしまい、口封じのためにイレギュラー認定を受けてしまったのだ。

「……それにしても…俺は…あいつのことを知っていた気が…する。ダークエルフ…か………。」

三人は天井から射し込む夕陽の光に目を細めた。
こうして、また1つの物語が幕を閉じたのであった。 
 

 
後書き
エックスのオリジナルボディはやっぱり壊されました。

しかし、この小説では原作よりエックスを幸せにする予定なので、ゼロ3で消えさせるつもりはありません。

 
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