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真田十勇士

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巻ノ二十六 江戸その四

「人も多く入られぬし」
「捨て置かれておるのも道理じゃな」
「見るには見たが」
「聞いた通りじゃ」
 最後に猿飛と穴山が言った。
「廃城同様で人もおらぬ」
「どうにもならぬ城であるな」
「そうであるな、今は」
 幸村は家臣達の後で言った、彼もまた城を見ている。
「しかし場所はよい、だからな」
「改築すればですか」
「よくなる」
「よい城になりますか」
「改築というか築城じゃな」
 そう言うべきだというのだ。
「そうしてな」
「一からですか」
「建てなおして」
「そうして城を築けばですか」
「変わりますか」
「平地にあるが川が多い」
 城の近辺にというのだ。
「堀の多いよき城になるぞ」
「大坂城の様な」
「そうした城になりますな」
「なるであろう、銭が必要じゃがな」
 城を建てなおすにも銭が必要だ、このことは絶対のことだ。
「それも相当な、な」
「しかしその城があれば」
「その時は」
「相当な城が築ける」
 これが幸村の見立てだった。
「そして栄える」
「都の様に」
「あそこまで、ですか」
「大坂も栄えるがここもじゃ」
 江戸もというのだ。
「栄えることが出来る」
「では泰平になれば」
 筧は幸村に確かな顔で幸村に問うた。
「都、大坂、江戸を軸として」
「相当に栄えることになる、本朝はな」
「やはり泰平あってですな」
 清海の今の言葉はしみじみとさえしていた。
「栄えられるのですな」
「そうじゃ、戦の世ではどうしても戦に力を注がざるを得ない」
 それはどうしても避けられない、戦に勝たなければそれで滅んでしまうからだ。それ故に戦国の世では戦に力を注ぐのだ。
「それ故にじゃ」
「天下が泰平になればこの江戸も」
 穴山は周囲を見回している、その何もない平野を。
「家や店が並ぶ場所になりますか」
「政次第でな」
「この何もない場所が」
 海野は幸村に問うた。
「そうなりますか」
「最初は全て何もないではないか」
「確かに。そう言われますと」
 今度は伊佐が言った。
「都も大坂もそうでしたな」
「そうじゃ、どの場所も最初は何もない」
「しかしそこに人が入りですな」
 由利はまだ城を見ていた、その廃城同然の城を。
「栄えますか」
「必ずな」
「この城もどうした城になるか」
 望月も城を見ている、そのうえでの言葉だ。
「大坂城の様になることも有り得ますか」
「そこまでの城が築ける場所だからな」
 幸村は望月にも話した。
「それが適う」
「しかし徳川殿が入られるとは」
 霧隠は僧侶のその言葉を思い出しいぶかしんでいた。 
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