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真田十勇士

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巻ノ二十五 小田原城その七

「義を貫いて生きたいです」
「そして死にたいと」
「そう考えています」
「そのお心はわかりました。ただ」
「ただ、とは」
「義といっても色々ですな」
 風魔は幸村に顔を向けて彼にその義の話をした。
「仁義、礼儀、信義、忠義、悌義。孝義と」
「ですな、儒学の教えにです」
「かなり当てはまります」
「それこそ智以外の全てに」
「貴殿はどの義を大事にされたいのでしょうか」
「全ての義です」
 すぐに、そしてはっきりとだ。幸村は風魔に答えた。
「どの義かでなく」
「全ての義ですか」
「はい、仁義にしても礼儀にしても」
「そして忠義にしても」
「人は意気に感ずともいいますが」
 唐の太宗の名臣の一人魏徴の言葉もだ、幸村は出した。
「拙者もです」
「意気、自身を認めた方に対して」
「忠義を尽くし」
 そして、というのだ。
「父、兄への孝にです」
「人としての悌」
「家臣、民への仁と信」
「誰に対しても礼ですか」
「全てを守りたいです」
「そうですか、その全ての義をですか」
「拙者は貫きたいです」
 絶対にというのだ。
「死ぬその時まで」
「大きいですな」
「そう言われますか」
「はい、義を貫くということも」
「拙者も思います、ですから」
「その大きなものをですか」
「拙者は望んでおります」
 こう風魔に言うのだった。
「そうです」
「そうですか、ではこれからも」
「進んでいきます」
 こう話してだ、そしてだった。
 幸村は風魔にだ、あらためてこう言った。
「それでなのですが」
「それでとは」
「はい、貴殿はどうして拙者に尋ねられたのでしょうか」
「その目を見まして」
「それがしのですか」
「はい、貴殿の目は澄んでいます」
 その通りだった、幸村の目は清らかに澄み切っている。その目の輝きは非常に強いものでもある。風魔の言う通りに。
「その目を見まして」
「聞かれたのですか」
「大望のある方をお見受けしましたので」
「左様でしたか」
「しかし。貴殿がそう思われるのなら」
 義を貫いて生きたいというのならとだ、風魔も言うのだった。
「そうされて下さい」
「はい、死すその時まで」
「さすればそれも適いましょう」
「必ずですな」
「まず思うことです」
「重いそして動けば」
「それが出来ます」
 こう言うのだった、幸村に。
「ですから」
「そうさせて頂きます」
 幸村も応える、そうしたことを話したのだった。
 風魔はここまで話してだ、席を立って幸村に言った。
「では」
「旅にですか」
「出ます、拙者も」
「それではまた縁があれば」
「お会いしましょう」
 こう話してだ、そしてだった。
 風魔は幸村と別れた、そうして。
 己の屋敷に戻ってだ、変装を解いたうえで言った。 
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