冬虫夏花
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6部分:第六章
第六章
「行ってもいいかしら」
「助かったよ。実は一緒に行く奴に急用ができてな」
「それで私なの」
「御前が空いてなかったら一人で行くつもりだったんだよ。けれど一人でカラオケ行っても全然面白いものじゃないだろ」
「確かにね」
「だからなんだよ」
それが理由だった。彼には彼の理由があったのである。
「それはな」
「理由はわかったわ」
「嫌ならいいけれどな。無理強いはしないしな」
「いいわ。暑いのなら」
それでいいというのが彼女だった。
「とにかく寒くて寒くて仕方ないし」
「今日そんなに寒いか?」
「私には寒いのよ」
このやり取りはクラスメイトの女の子達と一緒だった。
「だから。それでいいのよ」
「そうか。じゃあ酒もあるからな」
「それを飲んであったまってね」
「制服は隠せよ」
このことは流石に言う。やはり制服で酒を飲むことはできなかった。
「いいな、それはな」
「このままでいけるから」
こう返す彼女だった。
「大丈夫よ」
「まあそうだな。っていうか制服全然見えないしな」
何もかもがコートにスパッツにマフラーで隠れている。これで女子高生という方が遥かに無理があった。シルエットを見れば達磨である。
「御前はそれでいけるよな」
「あんたは服あるの?」
「コート着れば終わりだしな」
笑いながら言う彼だった。
「俺にしてもな。マフラーもあるしな」
「じゃあそれでいいわね」
「ああ、じゃあ行こうか」
「ええ、それでね」
こうして二人はカラオケボックスに行ってそこで歌って飲むことになった。暗い部屋の中は柔らかいソファーと木とプラスチックのテーブルがある。そしてテレビの画面もだ。
その部屋に入って二人でどんどん歌っていく。制服を脱いで隠してそのうえで酒を注文してそのうえで飲む。真紀が頼む酒といえば。
「泡盛なんだな」
「これしかないじゃない」
飲みながらこう返すのだった。
「沖縄人はこれを飲んで育つのよ」
「暑いのにそんなに強い酒飲むんだな」
「余計に暑くなっていいのよ」
こう言うのである。
「だから飲むのよ。わかる?」
「今一つわからない理屈だな」
篤はビールを飲んでいる。それを飲みながらの言葉だ。二人の前には酒以外にピザやソーセージといったものが置かれている。
「そんなものか」
「そんなものよ。とにかくね」
「泡盛なんだな」
「そうよ。いつもこれ飲んでるのよ」
彼女はその泡盛をごくごくと飲みながら話す。
「お家でもね」
「俺はビールだけれどな」
「ビールは乳酸溜まりやすいから注意した方がいいわよ」
「けれどあまり強い酒飲めないんだよ」
こう言って顔を顰めさせる篤だった。
「実際のところな」
「ワインとかはいける?」
「それはいけるけれどな」
「じゃあそっちにした方がいいわよ」
「それが身体の為か」
「そうよ。泡盛だってね」
真紀はその飲んでいる泡盛のことも話す。
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