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神への蔑視

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第五章

「そうしたものを飲んでもです」
「面白くとも何ともありません」
「苦痛でしかありません」
「苦痛ばかり味わって何になる」
 ベリアルはその杯に口を付けた、そうしてその中のワインの味を楽しみつつまた言った。
「やがては何処かおかしくなってしまう」
「それは人間達も同じですね」
「あの者達も」
「そうだ、私はあの者達を堕落させるつもりだが」
 快楽、それを教えてだ。
「しかしあの者達があのまま閉塞したままだとだ」
「面白くない」
「だからですね」
「あの様に仕掛けたのだ」
 快楽を教えて、というのだ。
「そしてそれは成功した」
「神は怒っている様ですが」
「天界は」
「怒らせていればいい、そこで雷なり洪水なりか」
 そうしたもので、というのだ。
「あの国を滅ぼすか」
「流石にそれは」
「我等といがみ合う中でそれだけの余力はないでしょう」
「天界にも」
「ですからそれはないかと」
「そうだ、若しそんなことをすれば我等が隙を衝く」
 魔神である彼等がというのだ。
「それだけだ」
「ではあの国はですね」
「神、、天界がどう思おうとも」
「あのまま快楽を楽しみ」
「賑やかになっていくのですね」
「さらにな。あの国から他の国にも拡がっていく」
 その快楽とそこから生じるものが、というのだ。
「そしてやがてはだ」
「人間達の全てに」
「そうなるのですね」
「そうなっていく」
 これからはというのだ。
「いいことだ、そしてだ」
「人は快楽を知り」
「そのうえで」
「文化も育ち」
「賑わっていきますか」
「その通りだ、禁欲なぞ何が面白い」
 それこそとだ、ベリアルは飲みつつ言うのだった。
「快楽があってこそだ、快楽がなくてはだ」
「そうしたものがなくては」
「一向に、ですか」
「我々も面白くない」
 魔界の住人達にとってもというのだ。
「人が栄えずしてだ」
「確かに、言われてみれば」
「我等もです」
「人に何かと出来ません」
「介入も」
「堕落させることも」
「今回はささやかな堕落、しかし堕落は大きくなる」
 ベリアルは笑みさえ浮かべて言った。
「これからな、だが堕落は悪いか」
「神が言うには」
「天界の者達が言うには」
「快楽を求めることは堕落、堕落は罪」
「神の教えに反すると」
「笑顔のない、退屈でしかない息苦しい世界か」
 ベリアルの笑顔が変わった、シニカルなものに。
 そしてそのシニカルな笑顔でだ、こう言ったのだった。
「何が面白いのか、人にとっても」
「まずいビールとパンをただ口にするだけ」
「歌も賛美歌のみ」
「芸術も自由が一切ない」
「それで、ですか」
「何が面白い、自分はどう思っていても人にそうしたものを強いるのか」
 天界の者達はというのだ。
「我々はそんなものは一切強いない、誘いはするがな」
「そして誘った結果ですね」
「人はああなった」
「ならばそれもよし」
「それが大公のお考えですね」
「そういうことだ、これからも人を堕落させてやる」
 ワインをもう一杯出した、そして小姓が差し出した黄金の皿の上のチーズとハムを重ねたものも口に入れて述べた。
「あの者達をさらに楽しませてやろう」
 笑顔で言いつつ自身に誓うのだった、ベリアルは人々に快楽を教えていった。そしてそれが大きなものになっていくのも見て笑うのだった。


神への蔑視   完


                       2015・8・18 
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