神への蔑視
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第三章
その美味さを知ってた、修道僧達は言うのだった。
「しかし何と素晴らしい」
「こんないいことはない」
「これまでビールはただ飲んでいるだけで」
「パンも同じだった」
「味付けもなおざりだった」
「胡椒なぞとてもだった」
胡椒は高価ということもありだ。
「それがどうしてだ」
「この美味さは」
「味わうと離れられそうにもない」
「美味さを知ることは快楽だ」
「快楽を味わってはならない」
「神の御教えだが」
「ははは、そこをです」
笑ってだ、ベリアルは笑って話した。その彼等に。
「ほんの少しだけです」
「少し、ですか」
「少しだけ、ですか」
「許してもらうのです」
その神にというのだ。
「許しの言葉を乞い」
「そしてですね」
「この美味を楽しむ」
「これからもですか」
「そうしましょう。ではもう一つあります」
ベリアルがぽん、と手を叩くとだった。ここで。
家臣の一人がハープを手に歌いだした、それは賛美歌ではなく愛や喜びを歌うものだった。
賛美歌とはまた違う調子の歌にだ、修道僧達は目を瞠った。 ベリアルはその目を瞠り聴き惚れている彼等にまた言った。
「如何でしょうか」
「これはまた」
「素晴らしい歌ですね」
「思わず聴き惚れてしまいます」
「良い歌です」
「しかし」
それでもとだ、またここで言った彼等だった。
「これもまた」
「神へのですか」
「はい、快楽なので」
音楽、賛美歌以外のそれを楽しむこともというのだ。
「どうにも」
「しかしです」
「このこともですか」
「少しだけ、ほんの少しだけです」
笑みを浮かべてだ、ベリアルはその彼等に再び言った。
「許してもらうのです」
「神にですね」
「そうしてもらうのですね」
「はい、歌いそして踊り」
今度は踊りにも言及した、さりげなくを装って。
「そして美酒に食事もです」
「どれもですね」
「楽しめばいいのですね」
「そうです、少しだけ」
この『少しだけ』という言葉を調味料にしてだった、ベリアルは修道僧達に囁いてだった。彼等を動かした。
そしてその誘いに乗ってだ、修道僧達は。
美味いビールにパン、ソーセージにだった。他には果物も楽しみだし。
そこから音楽に歌、踊りもだった。賛美歌以外のことも知り楽しむ様になってだった。
歌の歌詞からだ、今度は彼等からだった。
「我々も詩を書くか」
「そうだな、愛の詩をな」
「書こう」
「神に少しだけ許してもらい」
「そのうえでだ」
自分達で言い合い言い聞かせてだった。
彼等は自分達でも動きだした、それは自然と詩だけでなく文学にも至り自分達で様々な料理や歌を生み出すものにもなっていった。
ベリアルはこうしたことをあちこちの修道院で行ってだった。
それは次第に村でも行い町でもする様になった。するとだった。
国中が美酒と美食、そして歌と踊り、文学等の芸術で埋め尽くされるまでになった。これまで信仰と禁欲だけだったこの国は一変していた。
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