ブロウクン=ハート
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1部分:第一章
第一章
ブロウクン=ハート
「まだか」
「ああ、ちょっとな」
池山慎吾は。暗い顔で親友の田中博次の言葉に応える。
「今はいい」
「もう結構経つけれどな」
博次はその慎吾を見て言う。慎吾は黒い髪を短く刈り強い光を放つ目をしている。顔付きは前を向いている感じで何処か歯を食いしばっている。鼻も細くやや高い。
身体つきは精悍でだ。背も高めだ。その彼を太めで丸眼鏡に七三分けの博次が声をかけているのはいささかアンバランスな組み合わせと言えた。
だが博次はそれでもだ。慎吾に言うのだった。
「あれからな」
「そうだよな。もうな」
「半年か?」
「それ位になるな」
こうだ。慎吾はその顔を苦々しいものにさせて言った。
「振られてからな」
「まあ何ていうかな」
「よくある話だよな」
慎吾は今度は眉を顰めさせて言う。
「男が女に振られるっていうのはな」
「まあそれは」
「よくあることさ」
また言う彼だった。
「けれどな」
「あれはな」
「あんなに騒がれて泣かれてな」
告白した途端にだ。彼は相手にそうされたのだ。
「それで学校中に広まってな」
「随分言われたよな」
「今でも言われてるさ」
慎吾の苦々しい言葉が続く。
「不良は駄目だってな」
「不良っていってもな」
見れば慎吾の格好は普通のブレザーだ。黒いブレザーにグレーのズボン、何処にでもあるような学校の制服だ。左胸に校章がある。ネクタイはえんじ色でブラウスはライトブルーだ。
その制服をラフに着崩している。それだけだ。だがそれでもだった。
「俺は煙草もやらねえし喧嘩だってな」
「自分からは絶対にしないよな」
「万引きもいじめもな」
そうした曲がったことはだ。絶対にしない彼だった。
しかしだ。その相手は。
「不良は嫌かよ」
「それでだったね」
「へっ、今までつるんでた奴等も縁切ってくれてよ」
そうなったのだ。彼が振られ学校中にそのことが広まり笑いものになったのを見てだ。それまで仲間だと思っていた連中もだったのだ。
「お蔭でな。今じゃ」
「何ていうか」
「悪いな、博次」
こうだ。彼は博次に礼と謝罪の言葉を告げた。
「そんな俺にずっとな」
「だってさ」
見れば博次の制服は慎吾と全く同じものだ。違いは彼の方が行儀よく着こなしていること位だ。彼は慎吾の隣にいてだ。そのうえで彼と話しているのだ。横に並べば身長も同じ位だ。
「幼稚園の頃からずっとじゃない」
「高校までな」
「一緒でさ。だから」
「友達だってのか」
「そうだよ」
だからだとだ。彼は慎吾に言うのだ。
「友達だから」
「いてくれるんだな。今の俺と一緒に」
「慎吾は何も悪くないよ」
彼から見ればだ。まさにそうだった。
「あんなに騒いだあの娘とそれを見て囃し立て君を笑う連中の方がね」
「悪いって言ってくれるんだな」
「実際そうだから」
その考えをだ。彼に話すのである。
「だから慎吾は全然ね」
「そう言ってくれることが嬉しいんだよ」
慎吾は俯いて。そのうえで博次に言った。
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