水の国の王は転生者
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第三話 王太子と貴族
先日、オレの五歳の誕生パーティー催され数多くの貴族たちが参加した。
さすが王太子の誕生パーティーといったところでパーティーは盛大に執り行われてオレもスピーチをさせられ、『ちょっと背伸びをした子供』の演技でスピーチしたらやたらと大きな歓声を上げられた。
『王太子殿下万歳!』
『トリステイン王国万歳!』
そのときのオレの心はどんよりとして今にも雨が降りそうだった。
原因は分かる、先日の魔法の授業で水と風の属性を発現した事と、それからわずか数週間でメキメキと力をつけ五歳児ながらドットからラインに届こうかということが王城内どころか全国に広まったからだ。
この情報で今までそれなりに敬意を払いつつも、よそよそしかった連中が我先にとおべっかを使い始めた。
『殿下! 今日は言い天気ですね』
『殿下! 今日はどちらへ?』
『殿下! 王立図書館へ行くのでしたら、私めがお供いたしましょう!』
『いや! 私が』
『是非、小生をお供に』
『私が!』『私が!』『私が!』『私が!』『私が!』『私が!』
・・・うぜぇ。
『息つく暇も無い』とはこの事であろう、自室から廊下へ一歩でも外に出ると愛想笑いをした宮廷貴族が最低でも必ず二人は現れる、情報収集と勉強のために王立図書館に行こうとすると護衛と称して5、6人の宮廷貴族がぞろぞろと着いてくるのだ、こうも四六時中監視されてるとでストレスやその他諸々の悪感情でめまいが覚える始末だった。
数日後オレは父さんの私室を訪ねた。
「よろしいでしょうか父上」
「どうした? マクシミリアン、少し顔色が悪いぞ」
「ここ最近多くの貴族の人たちが事あるごとに僕の後についてきて大変困っているのです、これではろくに勉強できません何とかならないでしょうか?」
ついに我慢しきれずに父さんに泣きついた。
「そうか辛かっただろう、もう大丈夫だよマクシミリアン」
「ありがとうございます父上」
「私が皆によく言っておくから、しっかりと勉強しておくように」
「はい、父上」
父さんが何らかの命令をしたのか、数日後潮がサーっと引くようにおべっか使いや自称護衛などが現れなくなったがどこからか視線を感じる時がある、遠くから監視されているのだろう。
完全にストーカー被害は無くなったわけではないが、オレの心の中に貴族連中に対する強烈な警戒心が残った。
(あいつら実はオレの演技に気づいていて、おべっかのためにわざと気づいていないフリをしているんじゃないか?)
(それともオレに取り入って権勢を振るうつもりか? その手は食うかよ!)
(そもそも誰が味方で誰が敵なんだ?)
(トリステインに巣食う寄生虫どもめ)
(裏で散々私腹を肥やしてるんだろうがそうは行かないぞ)
(汚物は消毒だ!)
疑心暗鬼と悪感情のスパイラル・・・というべきか。
下手に精神が大人なものだから常軌を逸した監視や接触には耐えられないんだろう。まぁ、子供でもこいつは耐えられんかもしれんが。
しかしこの一件はオレにひとつの決意をさせた。
(王太子とはいえ、たかが五歳児の権力なんて微々たるもんだ、今は力を蓄える!)
(
(それと信頼できる仲間、トリステイン再生の戦略、他にもやる事はあるだろうが出来るところからやっていこう、徹底的に!)
一ヵ月後、オレは水と風のラインに上がった、だがまだ通過点だ驕らずにもっと精進しないと。
『ガリア王国のシャルル王子のようだ!』
『いや! それすらも凌駕する!』
『トリステイン王国万歳!!』
相変わらず外野はうるさいが、気にしないようにする。
自室でくつろいでいると、ノックとともに両親が入ってきた。
「マクシミリアン入っていいかい?」
もう入ってるだろうに。
「どうしました? 父上、母上」
「実はだなマクシミリアン、来週、ヴァリエール公爵の誕生パーティーが催されることになってな」
「誕生パーティーですか」
「マクシミリアンももう五歳だからな家族そろって行こうという事になったのだ」
国王一家ご来訪ってやつか? そのヴァリエール公爵って今頃すごい気合入れて準備してるんじゃなかろうか
「そのヴァリエール公爵の次女の子はあなたの婚約者なのよ」
「婚約者ですか?」
「ええ、でもその子は生まれつき体が弱くて、国中の腕のよい水メイジを頼んで治してもらってるのよ」
「なにかの病気なんですか?」
「詳しいことは分からないけど。でも、マクシミリアンが会って励ましてあげればきっと良くなるわ」
「そうですか。分かりました、元気になれるよう励ましてみます」
転生後初の旅行だ、トリスタニアどころか王城の敷地内から出たことが無いからから商業地や農地など見て回れたらいいんだが、それに婚約者はどんな娘なんだろうか、可愛い娘だといいな、あと病気だと聞いたけど早く良くなるといいけど、励ますったってどういう風に励まそうか。
また一ヵ月後、ヴァリエール公爵領へ出立の日。
オレの目の前にユニコーンが繋がれた8頭立てのやたらでかくて豪華な馬車があった。ユニコーンって男は駄目なんじゃなかったっけ? 調教したのか?
そんでこんなキラキラしたヤツで行くのか? もっと他に金の使い道があるだろうに。でもまぁ、王家ってのは大勢に見られてナンボか。
すると後ろから父さんの声が聞こえた。
「おはよう、マクシミリアン昨日は良く眠れたい?」
「おはようございます、父上いつも通りに眠れたと思います」
「そうか、父さんは初めての旅行の前日はぜんぜん眠れなかった覚えがあるぞ」
「そうなんですか」
「そろそろ母さんも来るころだ。いいかい? マクシミリアン、御婦人、つまりは女の子というものは大抵遅れてくるものだ。だから婚約者の娘が遅刻したりしてもあまり怒ってはいけないよ?」
いきなり何を言い出すかと思えば。
「分かりました、父上」
「うんうん」
「宮廷とベッドの上でも女の子には『やさしく』ですね?」
「う、いったいどこでそんな言葉を」
「たしか、ストーキン男爵が言ってました」
「む、そうか、マクシミリアン、その言葉は下品だ二度と使わないようにしなさい」
「はい、父上」
ちなみにストーキン男爵ってのはオレを頻繁にストーキングしていたヤツの事だ、もっとも男爵はそんな言葉は一言も言ってない。おかげでオレの心は久々に晴れ上がった。
「お待たせしました~」
ようやく、母さんがやって来た。後から大きなカバンをいくつも持ったメイドや執事が手馴れた感じでついてくる。
「マクシミアン、母さんの荷物が積み終わったら出発するから、馬車に入ってなさい」
「はい、父上」
トテトテと、馬車に近づくと白髪の執事が子供用の足場を置いてくれた。
「どうぞ、殿下」
「ありがとう」
足場を使って車内へ入る。
内装は豪華なソファが二つ向かい合うようにして置いてあり、内壁や天井には王家の紋章である白百合か描かれていて、簡易のワインセラーも付いてる。
こんな豪華な旅が出来るなんて感動だ。最近ストーキングされて少し鬱ぎみだったけどやっぱり王家って半端ない。
窓から外を見ると父さんが魔法衛士隊の隊長らしき人になにやら指示した後、母さんを伴って車内に入ってきた。
「そろそろ出発だ」
御者側のソファに父さん、反対側のソファにオレと母さんが座る。
しばらくするとトランペットらしき金管楽器の演奏が王城中に響き渡る・・・あ、今、音程外した。
「外したな」
「外したわね」
両親も気づいたらしい。何気にこの一家、演技をはじめ芸術方面でチートだったりする。
「陛下、出発いたします」
「うむ」
白髪の執事が馬車のドアを閉めると御者席に飛び乗った、御者席には御者の人と執事の二人が座っている。
やがて馬車はゆっくりと進み始めた。
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