サウスポー

第十一章

「嫌です」
　会見の場ではっきりと言い切ったのだった。
「僕はあの球団には行きません」
「えっ、行かない！？」
「一位指名なのにか」
「はい、行きません」
　学生服のまま言い切るのだった。その前には驚く記者達が集まっている。無論そこにはその球団を持っている新聞社の記者も存在している。
「あの球団には」
「いや、しかしだね」
「それは」
　記者達は驚きを隠せないまま彼に対して問う。
「折角一位指名なのに」
「即戦力として期待されてるんだよ？」
「あの球団のことはわかっています」
　淀みのない言葉であった。
「ですから僕は行かないのです」
「ですからって」
「意固地にならなくても」
「意固地じゃないです」
　淀みのない言葉は変わらない。
「野球は皆でするものですよね」
「！？何を言ってるんだ！？」
「そんなことは」
「あの球団にはそれはないです」
　彼はまた言った。その背にかけられているのは今彼がいるその高校の校旗である。それ以外のものは何もかけられてはいないのだった。
「ですから僕は行かないんです」
「それは違う」
　その球団を持っている新聞社の記者の言葉だった。
「あのチームは素晴らしいチームだ」
「どうしてですか？」
「まず球界の盟主だよ」
　彼は胸を張って言い切ってきた。
「そして何度も優勝したし」
「お金積んでですか？」
　だが一三はこの空虚な言葉にこれだけで返した。
「けれど今はあまり優勝していませんよね」
「うっ・・・・・・」
　さらに追い討ちを仕掛けるのだった。
「それに盟主なんて勝手に言ってるだけじゃないですか。テロリストだって自分達を正義だって主張しますよ。それと同じじゃないんですか？」
「あのチームをテロリストだって言うのかい」
「そこまでは言ってません」
　顔を真っ赤にする記者に対して彼はあくまで冷静な顔であった。
「ただ。あのチームはチームプレイがないです」
「うう・・・・・・」
「選手を大切にしないですよね」
　さらに言うのであった。
「僕はそうしたチームには入りません」
「馬鹿な、折角契約金を億単位で用意しているのに」
　なおこの発言は後日この記者の失言、方言として問題になった。その理由はここからの言葉にあった。彼はさらに言ったのである。
「家族や周りの人にも実弾を用意して」
「もう皆には言ってますから」
　その実弾という言葉にも返してきた。