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見よう見真似で

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1部分:第一章


第一章

                        見よう見真似で
 矢吹大次郎はだ。中学で野球をしている。
 彼のポジションはピッチャーだ。そして憧れている選手はというと。
「あんたその選手好きねえ」
「全くだな」
 両親が呆れた顔で言う。彼は今家の中でその選手の投球フォームを真似ているのだ。その選手はというと。
「もう引退したじゃない」
「野茂か」
「そうだよ。引退してもね」
 それでもだとだ。彼は身体を思いきり捻った投球フォームをしながらだ。そのうえで自分の親に話すのである。
「好きだよ」
「好きだから?」
「それで投球フォームもか」
「そうだよ。第二の野茂さんになるんだ」
 彼は強い声で言った。
「絶対にね」
「やれやれね」
「じゃあ将来は大リーガーか」
「そうなるよ。本当にね」
 その夢も話すのだった。その彼はだ。
 小学校から野球をしていてリトルリーグでもピッチャーだった。そして今の中学校では野球部という訳だ。とにかく野球一筋である。
 それと共に野茂一筋なのだ。とにかく彼は野茂が好きだった。
「いや、本当に凄いピッチャーだったよね」
「ああなりたいよね」
 こうだ。クラスメイトや部員達にも笑顔で話すのだった。勿論投球フォームはトルネードである。それで投げる球はどうかというとだ。
「速いな」
 顧問の先生もだ。真顔で認めることだった。
「そのボールはいい」
「有り難うございます」
「後はコントロールだ」 
 それも何とかしろというのもだ。先生は言い忘れていなかった。
「いいな、コントロールもだ」
「それでもなんですね」
「御前の投球フォームだとそれが難しい」
 フォームが大きくしかも顔がキャッチャーから離れやすい。それでコントロールを定めにくいのだ。トルネード投法の欠点と言われている。
「それも何とかしろ」
「わかりました」
 彼は先生の言葉に素直に頷いた。その彼にだ。
 先生はだ。こう話した。
「野茂だってな」
「野茂さんもですか」
「最初はとんでもないコントロールだった」
 それでだ。あまりにも有名だった。
「けれどそれが次第にだ」
「よくなっていったんですね」
「だからだ。頼むぞ」
 こう大次郎に話した。
「コントロールもな」
「わかりました。それじゃあ」
「スピードとコントロールは両立させないと駄目だ」
 ピッチャーとしてだ。よく言われていることだった。
「さもないと何にもならない」
「ですね。それは本当に」
「そうした意味で野茂になるんだ」
 コントロールも含めてだというのだ。
「完成された野茂にな」
「完成ですか?」
「そうだ、完成だ」
 あくまでだ。それだというのである。
「ただ物真似をしているわけじゃないだろう?御前も」
「はい、そうです」 
 それはだ。まさにその通りだった。
 彼もただ野茂の真似をしているだけではないのだ。野茂が素晴らしいピッチャーだと思っているからこそ、彼の様になりたいと思っているからこそだ。
 そのピッチングフォームで投げているのだ。ピッチャーとしてだ。
「凄いピッチャーですから」
「じゃあ御前も凄くなれ」
 先生は確かな声で彼に告げた。
「いいな」
「ええ、それじゃあ」
 こうしてだった。彼はスピードに加えてコントロールも身に着けていった。彼は忽ちのうちに中学生では知らぬ者のない程のピッチャーになった。
 
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