| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

神の贖罪

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

10部分:第十章


第十章

「約束を破ることはない。ましてや」
「ましてや?」
「この世界を支配するペルシアの王だ」
 ペルシアの王であるということをあえて強調してきた。
「それでどうして約束を違えるか」
「二言はないということか」
「その通りだ」
 断言さえしてきた。
「決してな。ただしだ」
「ただし?」
「あの槍は我が国の宝」
 王はこのことも強調してきた。
「ただでくれてやるわけにはいかぬ」
「ではどうすればいいのだ?」
「力か?技か?」
 三人は王に対して問う。
「それとも詩か。宴か」
「技だな」
 王は三人が掲げた四つの条件の中から技を選んで述べてみせた。
「この場合はな」
「技か」
「力にも関わる。難しい話だぞ」
「難しいか」
「今我がペルシアは魔物に悩まされている」
 王はまた厳しい顔で三人に告げた。
「魔物にな」
「魔物というと」
「兎だ」
 それを聞いただけでは到底恐ろしいものには聞こえなかった。
「兎だ。何もかも食い尽くす兎だ」
「兎が魔物か」
「畑を食い荒らし水を飲み尽くす。恐ろしい数でな」
 こう三人に説明するのだった。
「その魔性の兎達により今ペルシアは存亡の危機に瀕しておる」
「そうだったのか」
「その兎達を全て倒してくれればよい」
 三人に言うのはこのことだった。
「そうすれば槍をやろう」
「わかった」
 ブリアンが王の言葉に三人を代表して答えた。
「それならな。すぐにその兎達を倒そう」
「やってくれるのだな」
「こちらも約束は守る」
 このやり取りの後で三人は子犬を連れて王の都を出た。するとすぐに兎達が見えてきた。彼等はそれを見てすぐに子犬を放つのだった。
 子犬は忽ちのうちに兎を捕らえていく。気付いた時には兎はもう一羽残らず捕らえられてしまっていた。本当にあっという間のことだった。
 その兎の山を王に見せる。王はまずは信じられないといった顔を三人に見せてきた。
「もうか。しかも本当にやったのか」
「何なら見てみればいい」
 三人を代表してブリアンが答える。
「この兎達だな」
「そうだ。これだ」
 王は兎達をまじまじとして見て答える。
「この兎達だ。間違いない」
「そうか。それではだ」
「その通りだ。それでは約束だな」
「槍をくれるのだな」
「言った筈だ。私は王だ」
 ペルシア王として絶対の自信に満ちた言葉であった。
「このことにおいて誓おう。私は槍を諸君等に渡そう」
「そうか。では有り難くな」
「うむ。しかし噂は本当だったか」 
 王は三人をまじまじと見つつ述べた。
「贖罪の為に世界の宝を求める三人の神がいると聞いていたがな」
「それもこれでまた一つ終わった」
 ブリアンが答える。
「あと二つか」
「そうか。もうすぐなのだな」
「そうだ。今度はフィンカーラ島に向かう」
 次の行く咲も決まっているのだった。
「だからだ。これでお別れだ」
「そうか。早いな」
「また会おう」
 こう言い残して踵を返す三人だった。
「縁があればな」
「うむ。その時はだ」
「その時は?どうしたのだ?」
「宴を開くとしよう」
 王は擦れ違う三人に対して述べた。
「その時にな」
「そうか。ではその時まで」
「さらばだ」
 こう言い合い三人と王は別れた。三人は今度はフィンカーラ島を探すことにした。しかしここで三人はまたしても困難に向かい合うことになった。
「それでだ、兄者」
「うむ」
 ブリアンはヨッハルの言葉に応えていた。三人はまた船の中で車座になって話をしている。
「そのフィンカーラ島は何処にあるのだ?」
「フィンカーラ島がか」
「そうだ」
 ヨッハルがいうのはこのことだった。
「あの島は海にも陸にもないというぞ」
「それは聞いている」
「それではだ。どうして次の宝を探すのだ?」
「その通りだ、兄者」
 ヨッハルヴァも長兄に問うてきた。
「一体何処にいるのかわからないというのに」
「どうやって探すのだ」
「何処にあるのかどうかわからないのだぞ」
 二人は兄に対してこのことをしきりに問う。
「それでどうして探し出すのだ」
「考えがあるのか?」
「陸にも海にもないのだな」
 ブリアンが言うのはこのことだった。
「そうだったな」
「そうだ、だからだ」
「何処にあると思っているのだ?わかっているのか?」
「海でも陸でもないのならもう一つの場所だ」
「もう一つだと?」
「そうだ。そこはだ」
 彼は明朗な声で二人に述べた。そこに答えがあると確信している声であった。
「海の底だ」
「海の底だというのか」
「そうだ、フィンカーラ島はそこにある」
 このことを断言するブリアンだった。
「海の底にな」
「そうか。そこにあるというのか」
「では兄者」
「すぐに行くぞ」
 彼は言った。
「すぐにな。しかし海の底には恐ろしい魔物がいる」
「魔物がか」
「そうだ。だからこれを持って行く」
 彼はここで槍を取り出した。ペルシア王から貰い受けたその槍をである。槍の穂先が赤く燃え盛っている。魔性の槍であることがわかる。
「この槍の炎は水の中でも消えることがないからな」
「わかった。では兄者」
「ここは任せるぞ」
「うむ。それではな」
 彼は二人の弟に対して頷くとすぐに海の中に飛び込んだ。そして暫くして彼はあるものをその左手に掲げて出て来た。それは一本の焼き串であった。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧