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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epico42雪も積もれば戦となる

 
前書き
雪が積もれば戦となる/意:雪が積もることで可能となる遊びは時に戦レベルへと発展する、というたとえ。 

 
†††Sideルシリオン†††

「さむ・・・」

寒さで目を覚ましてしまった。時刻を確認するために身じろぎしようとしたが「ん・・・ぅむ・・・」布団の中から聞こえてきた声の主のおかげで出来なかった。布団の中を覗き込んでみれば案の定「むにゃむにゃ、マイスター・・・えへへ❤」アイリが俺にしがみ付いて寝ていた。

(夏もこうだとちょっと辛いかもな~)

起こさないように気を付けながらアイリの両腕を俺からそっと離してからベッドから降りる。そしてクローゼットからセーターにスキニーパンツを取り出して着替え、部屋の隅に置いてあるハンガーラックから取ったフリースの袖に腕を通して着る。遅れて壁に掛けられた時計を見て「6時か・・・」時刻を確認した。学校は冬休みに入り、局の仕事も休みだからはやてが起きるのはもっと後だろう。

「しかし本当に寒いな~」

カーテンを少し開けて窓の外を確認すると外には雪が積もっていた。

「おいおい、初雪にしては降り過ぎじゃないか・・・?」

地方でもないのに5cmくらい積もっていた。通りで寒いわけだ。チラホラと降る雪を眺めていると、「へくちゅっ!」くしゃみが背後から聞こえた。振り向いて見れば、アイリがもそもそと布団の中で動いていた。しかも俺を捜しているのか手が特に動いている。起きているのなら俺を呼ぶだろうし、起きていないうえで俺を捜しているとなると目を覚ますかもしれない。

(ふふ。仕方ないなぁ)

俺はベッドに戻って布団を被り、アイリの手を握る。するとアイリの寝顔は不安そうなものから安心しきった緩みきった表情へと変わった。そしてまた俺にしがみ付いてきた。まさか起きているんじゃ、と思えるほどに流れる動きだった。試しに頬を突いてみると「んみゅぅ・・・」嫌がるどころか破顔した。少しイタズラ心が生まれてプニプニと突き続けていると、ガブッと人差し指を噛まれた。

「~~~~っ!!」

右手で口を押さえて声が出ないように努める。自業自得の結果だが、これは痛い。しかも歯軋りの要領で上下の前歯をギリギリ動かすからダメージ倍増。なんとかアイリの口を開けさせて指を出す。皮膚が切れて血が滲み出していた。小さく「ごめんな」アイリに謝って、彼女の手を離しながらベッドから出る。向かうは洗面所。まずは傷口を洗おう。

(ラファエルが使えたとしてもこの程度の傷で使うのもなぁ~)

シュヴァリエル、スマウグとの連戦で魔力炉(システム)を酷使した影響で、今の俺は魔術師どころか魔導師としての能力も失っている。特にスマウグには上級の中でも高威力を叩き出す儀式系術式を連発した。相手がスマウグではなくレーゼフェアやフィヨルツェンなら俺は絶対勝っていた。

「(そう思うと俺はかなり勿体ない魔力を使ったよな~・・・)はぁ~~~」

無駄な戦いをした・・・なんて言えないよな。リンドヴルムは次元世界に迷惑をかけまくっていたし、俺が戦わなければ次元世界に戦乱を招きかねなかった。ただ、ただあの場所にレーゼフェアかフィヨルツェンが居れば・・・絶対に救えていたはず。それだけがもう・・・。溜息が全然止まらない。

「救急箱は・・・っと」

氷水のごとき冷たさの水で傷口を洗って、俺の部屋にある救急箱(もう1つははやての部屋)を取りに戻る。アイリは今もベッドの中でぐっすり夢の中。起こさないように気を付けながら勉強デスクの上の棚に乗る救急箱を降ろし、中から傷薬と絆創膏を取り治療を行った。

「んみゅぅ~・・・マイスター・・・?」

布団の中からちょことんと頭だけを出したアイリが俺の名を呼んだ。眠気眼だが俺の姿をしっかり視認しているようで、「起こしたか? ごめんな」と謝る。アイリは「だいじょ~ぶ~」そう言って布団から出て来た。今のアイリはヴィータと同じくらいの身長のヴァクストゥームフォルムで、動物――ウサギの着ぐるみみたいなパジャマ(アニメの影響らしい)を着ている。

(ルミナ達もアニメやマンガが好きだったよな~)

アイリもこの1ヵ月、時間さえあればテレビ番組を観て多くの趣味を持ち、知識を蓄え・・・そしてよく寝坊するようになった。観たい深夜番組は録画、録画できない裏番組は徹夜してでも観る。まぁ、何百年とレンアオムに閉じ込められていたんだ。これくらいは大目に見ようというのが八神家の総意だ。

「アイリ。見てみろ、雪が積もって銀世界だぞ」

「えっ、ホント!?」

アイリが窓へと駆け寄ってカーテンを開け、「綺麗(シェーン)❤」外を見て目を輝かせた。しかもガラッと窓を開けてそこから出て行こうとするから俺は「ちょっと待て」肩を掴んで制止する。

「???」

「小首を傾げるな。いくら寒さに強くても風邪をひくぞ。あと窓から出るな。それに二度寝しないなら着替えるように」

「はーい!」

パジャマからタートルネックセーターとキュロットパンツとタイツ、お揃いのフリースといった冬服に着替えるアイリ。そして俺はベルカの時と同じように櫛でアイリの髪を梳かし、髪型を整える。この何百年で1人でも出来るようになったそうだが、俺たちと再会し、俺と同室になったことでまたこうして甘えるようになった。

「よし。ほら、いいぞ」

「ありがと、マイスター♪」

トタトタと玄関へと向かうアイリ。俺も新聞紙を取りに行くために続く。靴に履き替えて外に出る。出る言葉はやはり「さむ」だった。アイリは足跡の付いていない綺麗な雪の上をザクザクと歩いている。

「これなら雪合戦やかまくらも作れそうだな~」

「えっ、なにそれ? 合戦? 火満苦裸? なんかすごそうだね~♪」

「・・・絶対に変な想像をしているだろ、アイリ」

雪合戦とかまくらの説明をしてやるとアイリの表情がまた輝いた。そして予感通り「やりたい、やりたい!」と言い出した。俺は庭を見て「無理だなぁ。雪が足らないし、この家の庭だとな~」そう言って諦めさせようとした。

「じゃあさ、今日はアリサの家でパーティなんだよね? あそこの家ってすごく大きいし、出来るんじゃないかな?」

「まぁそこのところは後で訊いてみるよ。ほら、入ろうか。ココアで体を温め――」

ポストからビニールに包まれた新聞紙を取り出して玄関に戻ろうとした時、「えりゃ♪」ボスッと俺の背中に叩き付けられる堅い物。遅れて「冷た!?」服の中に冷たい物――雪が入り込んだ。振り向けばアイリがきゃっきゃ♪はしゃいで雪玉を作っていた。そして・・・

「マイスター、こんな感じなんだよね♪?」

また俺に向かって投げられる雪玉を丸めた新聞紙で打ち砕く。アイリはさらに雪玉を作り始めたため、ヒットした時の冷たさがどんなものかを身を以って教えてやるために俺も雪玉を作り出す、速攻で作り出す、3つと作り出す。

「うりゃ♪」

アイリが投げた雪玉を脇に挟んでいた新聞紙で打ち砕いて、すかさず足元に転がしてある雪玉を取ってアイリに投げる。アイリは「ハズレだよ♪」ひょいっと避けたが、すでに俺はアイリの回避先を予測しての2発目を放り投げた後だ。間髪入れずに、足元を狙われて急ブレーキを掛けたアイリへと向かって雪玉は高速飛来し、「みきゃっ、冷たい!?」太腿に着弾した。

「とまぁ、こんな感じだ。ほら、家の中に戻るぞ」

「は~い!」

家の中に戻って濡れた服や体をタオルで拭き、リビングダイニングの暖房を点けて、それから冷えた体をホットココアで温める。アイリはヘッドフォンでテレビを録画した番組を観、俺は新聞を読んでいると「あら? おはよう、ルシル君、アイリちゃん」シャマルがやって来た。アイリと2人で「おはよう」挨拶を返す。

「暖房を点けておいてくれて助かったわ。でも今日は早いのね、アイリちゃん」

「まあね♪」

それからシャマルと喋りながらはやて達が起きてくるのを待ち、家族みんなが揃ったところでシャマル特製のモーニングセット(トースト・スープ・ベーコンエッグ・サラダ)を頂く。そんな中で・・・

「え? 雪合戦とかまくら?」

「うんっ! やりたい! ねえ、はやて。今晩はアリサの家で今日パーティするんだし、その時間までやりたいの!」

今朝のことをはやてに話すアイリ。ヴィータが「こんなクソ寒い日に雪合戦とかアホか」と一蹴すると、「ヴィータは不戦敗だね。騎士なのに。プフフ」アイリが嘲笑した。するとどうなるか。戦闘狂ではないヴィータだが負けず嫌いの気がある。ゆえに「あ゛?」ギロリとアイリを睨みつけた。

「だって寒いから、なんて言い訳で逃げるなんて騎士の風上にも置けないよね~。不戦敗、不戦敗♪ 鉄槌の騎士の不戦敗~~♪」

「上等だ! あたしも参加してやる! そんで思い知らせてやる! おい、アイリ! テメェは敵側に回れよな! はやて、アリサに連絡よろしく!」

「お、おぉ・・・。りょ、了解や。・・・とりあえず事情だけは伝えておくな」

ヴィータとアイリの視線を受けたはやてはかなり引き気味に了承し、7時半という早朝のため、はやてはメールを送信した。それから朝食を終え、食後のコーヒーブレイク中に「アリサちゃんから返信や。・・・オーケーやって♪」はやてがそう言った。

「決まったな。覚悟しとけよ、アイリ」

「そっちこそ」

そういわけで、夜に開かれるクリスマスパーティまでの間、アリサの家で雪合戦が催されることになった。

†††Sideルシリオン⇒アリサ†††

はやてからもらったメールに対してOKの旨を伝える返信した後、あたしは庭を除雪しないように使用人のみんなに伝える。アイリが雪合戦したいって言うんだから。楽しみにしてやって来たのに除雪して無くなってたらどんなにヘコむか。

「え~と。なのは達も呼ぼうかしらね。シャルなんてルシルと同じで1ヵ月も局の仕事休まされてるし」

ルシルと同じようにシャルも魔導師としての能力が一時的に麻痺してんのよね。ルシルもメールのやり取りでまだ回復してないようだし。2人ともどんな無茶をしたって言うのかしらね。とりあえず送信するメールの内容は、家で雪合戦を開くから良かったら参加するように。んで、返事はすぐに来た。

――雪合戦!? うん、私も参加させてもらうよ♪――

――ルシル達も参加するんでしょ? 行く行く❤ ――

――私とアリシアも参加させてもらうよ――

――うん。ちょうど暇していたし遊びに行かせてもらうね――

全員の参加が決定。すずかもなんとか失恋から立ち直ってくれたし。今はケリオンを思い出に出来るほどにまで遊ばせてやるっきゃないわ。
それから昼食を済ませての午後1時、「こんにちはー!」なのは達がやって来た。そして案内するのは、「見なさい! 雪合戦用ステージ!」庭に作った特製ステージ。両陣営に弾除けに必要な雪壁を作っておいてもらったわ。

「おお、本格的だな!」

「インターネットで公式雪合戦の映像を観たけどホントにそれっぽいね!」

雪合戦開催の原因であるヴィータとアイリの視線の間にバチバチと火花が散る。その2人の様子に事情を知らないなのは達が「え・・・?」あたしやはやて達を見た。早速両陣営に分かれて臨戦態勢に入った2人を眺めつつ、はやてが事情を話した。アイリがヴィータを挑発したことが全ての原因だって。

「それはなんか勿体ないね」

「そやからみんなに協力してもらおう思うて」

はやてからの耳打ちでの提案にあたし達は「オーケーよ」頷き返した。ルシルが「ヴィータ、アイリ。チーム分けするぞ」2人に手招き。そして雪合戦に参戦するメンバーであるあたし、なのは、すずか、フェイト、アリシア、シャル、そしてはやてとルシルとヴィータとアイリの10人は2人1組になってジャンケン。その結果・・・

「はぁ!? あたしとアイリが一緒になっちまたら意味なくね!?」

「うん、意味ないよね!」

ヴィータとアイリが不満を漏らす。もちろん偶然じゃない。はやての提案通りにするために、2人を同チームにしたうえで協力せざるを得ない状況に追い込む。そのための2人1組でのジャンケンなんだもの。上手く2人を同チームにしてやれたわ。で、その2人と一緒に追い込まれ役になるのは・・・

「わたしと・・・」

「わたしに・・・」

「あたしかーい・・・」

アリシアとシャル、そしてあたしだった。なんか泣きそう。向こうは身体能力がチーム海鳴で1、2位のルシルとすずか。それだけでも厄介なのに3位のフェイト、そしてなのはとはやて。負け戦確定のメンバー分けだった。しかも・・・

「足引っ張んなよな」

「ヴィータこそアイリの邪魔しないでよね」

5人中2人がいがみ合ってんだけど・・・。そんな中であたし達は両陣営に散る。雪玉から身を護る壁は各陣営に3つ、ジグザグに立てられてる。一度に2人までならしゃがめば全身が隠れる感じね。

「審判のリインと・・・」

「シャマルです♪」

「ルール説明です!」

「勝敗を決める方法は2つ。5人全員が被弾するか、もしくは両陣営の一番奥に立つフラッグを敵チームが奪取することで決まりま~す。味方の雪玉に当たってもアウトなのであしからず。あと、魔法・スキル・デバイスの使用は当然不可です。使ったらペナルティとしてその場で即失格・次戦にも参戦できなくなるので注意してくださいね~」

シャマル先生から改めてルールの説明が入る。とりあえずは向こうのチームが全力でこちらを追いこむって計画だけど。こっちが本気を出しても勝てないわコレ。ムスッとしてるヴィータとアイリを眺めてると、「おーい、2人とも~」ルシルが大手を振って「俺に勝ったら何でも言うことを聞いてやる!」そう宣言した。

「なんでも!?」

「嘘はねぇんだな、ルシル?」

「男に二言はない! はやてからも許可は貰っているから食事関係でも何でもござれだ! ふっふっふ。出来るものなら俺に雪玉を当ててみな」

計画その2。ヴィータとアイリに、2人が協力することによって利益が発生することを教える。2人は案の定表情を輝かせてる。さぁ、後は負けを繰り返して協力させてしまえば解決よ。

(ていうか、ここまでしなくても良いんじゃないかしらね~・・・)

もっと別の解決方法があるような気もするんだけど。ま、とにかく雪合戦の開戦ね。リインがホイッスルを吹いて開戦を知らせる。まずやるべきことは「雪玉の大量生産よ!」からね。玉数を切らさないようにしないと攻め込まれるわ。

「投げる班と作る班に分かれるのよ」

「じゃあアイリが投げる班!」

「あたしもだ!」

「(あ、これお互いを邪魔するパターンだわ)あたしとシャルとアリシアで玉作りよ」

「「ラジャー!」」

3人でせっせと雪玉を作って「しっかり当てなさいよ!」あたしはヴィータに、「頑張って!」アリシアはアイリに雪玉を渡す。で、シャルは雪玉を作りつつ2人のサポートとして投げる方も担当して、さらにこっちの陣地に侵入者が来ないかの監視の1人3役。

「おらおら、出てこいやルシル!」

「アイリが当てるんだもんね!」

向こうからの雪玉が盛大に降ってくる中、ヴィータとアイリも負けじと投げ続けられる。でも突然、向こうからの攻撃が止んだ。バトル中の作戦は決めてない。作戦によってはあたし達でも勝てるようになってるんだけど・・・。チラッと雪壁から頭を出して様子を見てみる。それでもやっぱり攻撃は来ないし、こっちに侵入もして来ない。

「「ルシル!!」」

数秒間の沈黙の後、ルシルが真ん中の雪壁から大きく身を乗り出して雪玉の投擲体勢に入った。それと同時にヴィータとアイリが同時に雪玉を投げたんだけど、向こう陣地の一番手前の雪壁からなのはとはやてが出て来て、「のわっ!?」ヴィータと「ばふっ!?」アイリの顔面に雪玉をヒットさせた。

「まず・・・! すずかとルシルが突貫!」

シャルからの警告。あたしとアリシアは雪玉を両手に持って、フラッグに突進してくるすずかとルシルに向かって緩急を付けて雪玉を投げつける。でも2人の身体能力は魔力強化なしでもモンスター級。当たるわけもなく・・・

「きゃん!?」「ひゃん!?」

アリシアと揃って胸に雪玉を貰って撃墜。残るはシャル1人。で、向こうは5人のフルメンバー。勝敗は決したわ。

「にょわぁぁぁぁぁ~~~~~!」

はい、シャルもルシルとすずかの至近距離での一発で撃墜。あたしが「少しは手加減しなさいよ!」って怒鳴ると、どういうわけか「手加減ってなんだ?」味方のアイリが、変なポーズを取りながら声を太くしてそう返してきた。

「はいはい、ブ○リー、○ロリー」

「似てた♪?」

「どんなアニメキャラのモノマネか判る程度にはね」

†††Sideアリサ⇒イリス†††

「はーい。第2戦行くですよ~」

リインのホイッスルが高らかに鳴り響く。さっきと同じように雪玉のストックを作りながらわたしはなのは達の陣地を監視。前半は第1戦と同じ雪玉の投げ合いが続いた。問題は・・・

「アイリ、そこ邪魔だ!」

「はあ!? ヴィータこそアイリの邪魔してるんだけどね!」

ヴィータとアイリの言い争いによるこちらの攻撃比率の低下。その隙を突いてのあちらの猛攻。戦力差が違い過ぎる。いくらあの2人の為とは言えちょこっと惨めだよ~。

「「ぎゃ~す!」」

ヒートアップして立ち上がったことでただの的と化したヴィータとアイリが被弾。どうしてそこまで邪魔し合うのか。ルシル1人を倒すだけで良いのに、どっちが当てるかで揉めて・・・。

「とりあえず! アリサ、アリシア、援護よろしく!」

わたしは両手に雪玉を1つずつ手にして、フラッグの側から向こうの陣地へ突撃する。はやてかルシル、どっちか指揮してるか判らないけど統制の取れた攻撃でわたしの動きを制してくる。

「せめて1人でも倒す!」

それでもわたしはアリサとアリシアの援護の下に紙一重で雪玉の弾幕をの中を突っ切り、前衛のすずかとフェイトが隠れる手前の雪壁に最接近、右から回り込む。2人はその場に留まるか逃げるかで一瞬躊躇。

(後退すればアリサ達の攻撃に晒される。なのは達はわたしとすずか達の距離からして同士撃ちを警戒して攻撃できない。で、すずかはわたしとの間にフェイトが居るから雪玉が投げられない。つまりこの瞬間だけは、わたしとフェイトの一騎打ち・・・!)

「わわっ・・・!」

「別に勝っても良いんでしょう?」

フェイトが投げた雪玉が顔面に迫るから首を逸らして回避。狙うなら胴体の方だったよねフェイト。ま、雪玉1つ消費して防ぐつもりだったけどね。左の雪玉を「きゃっ!」フェイトの顔面にお見舞い。
次はすずかを狙う。アリサとアリシアで後衛のなのはとはやてとルシルを押さえ込んでくれてるし、すずかだけはここで仕留めておきたい。フェイトの体がお互いにとって壁になってる。だから・・・

「ちょっとごめんね、フェイト」

「へ?」

フェイトをすずかの方に向かって押した。突然のことに踏ん張りが効かなかったこともあって、すずかに向かって倒れ込んだ。すずかは、というかチーム海鳴はみんな優しい。だからすずかはフェイトを抱き止めた。

(勝った・・・!)

「と、勝利を確信した時が一番隙だらけ」

「ルシ――・・・ひゃぁぁん!? つめ、つめた、冷たい! 入った、服の中に入った!」

背後からルシルの声がしたと思ったら背中に雪玉をぶつけられた。これで2対4。そして結局、この第2戦も負けた。

「くっそ~。いつの間に・・・!」

「なのはとはやてが頑張ってアリサとアリシアを押さえ込んでくれたからな。もしヴィータとアイリがまだ生き残っていたら、俺はフォローに入れずフェイトだけじゃなくすずかも墜とされていただろうな。ま、次の戦いは1戦目と同じように完勝してやるさ」

「「っ!」」

ルシルが自軍の陣地に戻る際にヴィータとアイリをチラッと見て・・・鼻で笑った。応援することでまた張り切らせて競わせることにならないよう、2人を挑発することで協力させようとした。
そして第3戦の開始・・・、その直前。2人がお互いを見て、「ここは一旦・・・」頷き合った。

「少しは冷静になれた? 2人とも」

アリシアがそう訊くと、「おう」ヴィータと、「まあね」アイリが頷く。ようやく目的が経緯から結果へ変更したみたい。どっちがルシルを倒すかの経緯じゃなく、ルシルを倒して好きな命令を下せるという結果のための協力だ。

「よしっ。じゃあ改めて勝ちに行くよ!」

「「「「おう!」」」」

円陣を組んで意志を高める。

「雪がそろそろ無くなってきたのでこの第3戦で終わりで~す」

「では、第3戦・・・スタートです!」

リインのホイッスルが鳴る。残り僅かになった雪をかき集めて雪玉を作りまくる。そしてある程度の備蓄が整えば本番の雪玉の投げ合いが開始。ヴィータとアイリも連携して投げるようになってくれたから早々撃墜されることはなくなった。

(それでも向こうに押されてるか・・・?)

すずかとルシルの弾速がとんでもない。投げ終えたフォームを見てからの回避じゃギリギリ間に合わない。あの2人に集中すれば今度はなのは達からの攻撃が脅威になる。だからまずは攻撃の数を減らすために攻撃頻度の少ないはやてから墜とす。ヴィータはちょっと躊躇ったけど、あくまでゲームだからってことで納得してもらった・・・んだけど、「ルシルうざぁ~・・・!」アリサが唸る。

「ルシルの迎撃能力が半端じゃないよ~」

アリシアが言うようにルシルがとことんウザい。はやて狙いだってことがバレてるみたいで、はやてに当たりそうになる雪玉に雪玉をぶつけて迎撃してくる。さっきみたいに至近距離での特攻を仕掛けるしかないかな。すずかとルシルを足止めしてもらえればなんとかなりそうだし。はやては後回しにしよう。

「みんな、援護よろしく。特攻を仕掛ける・・・!」

フラッグを取れば勝ちっていうけど、それはなんだか卑怯というか納得のいかない勝利。だから純粋な雪合戦で勝ちたい。雪玉を持ってまた突撃を敢行したら、「すずか・・・!?」も同じように特攻を仕掛けて来た。

「よろしくねシャルちゃん♪」

「誰の指示これ・・・!」

すずかと対峙して、ステップを踏み合いながらお互いに隙を探る。すずかは「はやてちゃんだけど・・・?」そう教えてくれながらも雪玉を持つ右手を繰り出して来た。投げるんじゃなくて直接雪玉をぶつけてくるわけか。付き合うよ。わたしも両手に持った雪玉を拳に見立ててコンビネーションパンチ。すずかと繰り出し合っていると・・・

「ちょっ、フェイトとルシルまで!?」

わたしとすずかの両脇を通って2人がこちらの陣地へ攻め込んで来た。すずかとの攻防の最中で立ち位置がグルグル変わる中、自軍陣地を見るとヴィータとフェイト、アリサとルシルが1対1で攻防を繰り広げてた。

(急になんで特攻を仕掛けて来たわけ? フラッグ奪取しないのは嬉しいんだけど・・・)

向こう陣地を見る。なのはとはやてが居るはずなんだけど隠れてるみたいで姿は見えない。アリシアとアイリは雪玉を持ってフォローに入れる体勢なのに、なのはとはやては雪玉を投げる気配すらない。となれば、考えられるのは・・・

(誘いか、それとも雪玉が無い・・・?)

誘いという罠なら厄介だけど、雪玉を乱発できるほどの量を作れない状態となっていたら・・・。

「(懸けてみるか)アリシア、アイリ! ルシルは後! 向こう陣地に特攻! なのはとはやてを討って!」

こうなったらこっちも1対1のガチンコを仕掛けてやる。アイリは雪玉を数個と抱きかかえる運び屋に徹し、アリシアは両手に1個ずつ携えて投擲を担当。そして・・・

「アリサちゃん、アウト!」

アリサがルシルに撃墜されて・・・

「フェイトちゃん、アウト!」

フェイトがヴィータに撃墜されて・・・

「っしゃぁぁぁぁぁーーーー!!」

「すずかちゃん、アウト!」

わたしがすずかを撃墜。わたしはすぐさま反転して、駆け出しながら足元の雪を掬って雪玉を作り「ヴィータ!」と一緒に、雪玉1つだけしか持っていないルシルに挑むんだけど・・・。

(下手に投げてヴィータに当てるような無様は出来ない)

しかルシルはわたしとヴィータが常に対角線上に並ぶように立ち位置を調整してくる。だから直接「叩き込む・・・!」ために右手に持つ雪玉を繰り出す。ヴィータも両手に持つ雪玉をルシルに繰り出すと・・・

「「っ!」」

ルシルが消えた・・・んじゃない、高速で屈んだだけ。前後はわたしとヴィータに挟まれてる。頭上からのわたし達の攻撃を避けるには左右のどちらかに跳ぶしかない。ならそれに備えておけば・・・。

「甘い!」

「ひゃあ!?」

目の前を通り過ぎるのはルシルが放り上げた雪玉。上半身を反ることで回避したけど、「のわっ!」体を起こす途中でヴィータがそんな声を上げた。シャマル先生が「ヴィータちゃん、アウト!」宣言した。ルシルが持ってたのはわたすに投げた雪玉1つだけのはず。

「これで終わりだ・・・!」

体勢を元に戻し終えたときにはルシルは小さいながらも雪玉を作って手にしていた。わたしはジャンプして雪壁の上に昇って、「はやてちゃん、なのはちゃん、アリシアちゃん、アウト!」の宣言を背中に聞きながらルシルと対峙。
そして「行っけぇー!」ルシルに向かって雪玉を投げつける。1発目はルシルの足元。投擲体勢に入っていたルシルはそのままで一足飛び後退して回避。わたしは1発目を投げたと同時にジャンプして、回避し終えた直後のルシルへ向かって最後の1発を投擲。

「まだ足りないな!」

ルシル横っ飛びしてわたしの投げた雪玉を回避。そして着地したばかりのわたしに向かって雪玉を投げた。わたしはここまでだ。でもこれで終わりにするわけにはいかない。わたしは仰向けに後ろへ体を傾けた。それで避けられたら儲けもの。たとえアウトになっても・・・

(あの子が居る!)

そして雪玉は、わたしの胸スレスレを通過して行った。そしてわたしは冷たい雪の上に仰向けに倒れ込む。ルシルはわたしが起き上がるまでに追撃しようと雪壁の上に上がったけど、それと同時に「のわっ!?」ルシルに4つの雪玉が直撃。

「・・・や、やったね! アイリの勝ちだよ、勝ち~~~~~♪」

わたしの頭のすぐ上に居るアイリから勝ち鬨が上がった。アイリが生き残ってる。それだけを考えて雪壁に上ることでルシルの視線をわたしに集中させた。その間にアイリがなんとかしてくれると信じた。そして、アイリは見事にルシルを撃墜。

「みんな勝ったよ~♪」

「やるじゃない、アイリ!」

「最後はお前に良いところを全部持ってかれちまったな!」

「ルシルの虚を突くなんてすごいことだよ!」

アイリとアリサとヴィータとアリシアがルシル撃墜だけでなくチームとして勝利したことに喜び合ってる。なのは達やシャマル先生たちも「おめでとー!」って拍手を送ってる。

「ねえ、ルシル」

「ん~?」

「ひょっとしてわざと負けたりした?」

「いんや。避ける自信はあった。雪壁の左右のどちらから行こうが、上から行こうが、な。けどまさか一足飛びで避けられる範囲すべてに雪玉が飛んでくるとは思わなかった」

そう言ってルシルは笑って「俺の負けだ! なんでも命令していいぞ!」ってヴィータとアイリに拍手を送った。 
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