ソードアート・オンライン 『アブソリュート クイーン編』
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第7話『黒の剣士』
第一層ボス攻略日当日。
午前10時に集合した攻略組は、第一層の迷宮区へと向かっていた。
「ねぇ、キリト〜。まだ着かないのー?」
まだ迷宮区にも立ち寄ったことがなかったユウキがまだかまだかとウズウズしている。
「迷宮区の入り口はあの大きな柱のふもとにあるから……後10分くらいってとこかな。」
キリトの答えにブーたれながらも歩くユウキ。
少しずつみんなといる環境にも慣れ、本来の彼女の性格である明るさがにじみ出ていた。
パーティーメンバーのレベルは、
アスナが16。
ディアベルが14。
エギルが15。
キバオウが12。
ユウキが17。
そして、キリトは20だった。
以前に挑んだキリトのレベルは13だったため、当時よりもかなり早く育成できていることになる。
ー…今回のボス攻略は、以前よりも高い成果が得られるはずだ。ー
キリトがそう考えている内に、攻略組は第1層迷宮区《黒鉄宮》に到着した。
「ボスのエリアまでの道は僕が知っている。みんな付いてきてくれ。」
ディアベルがみんなに声をかける。
迷宮区内のモンスターは今の攻略組全体のレベルからして、そこまで苦戦を強いられる相手ではなく、サクサクと進み…あっという間にボスエリアの手前の扉に到着していた。
「聞いてくれ、みんな。俺から言うことはたった一つだ。」
ディアベルがチーム全体の士気をあげるべく声を荒げる。
「勝とうぜ!…行こう。」
ディアベルがボスエリアの扉を開く。
…ついに初のボス戦が始まったのだった。
一同がボスエリアに少し足を踏み入れると、奥の方からけたたましい鳴き声と共に、斧とバックラーを装備した《イルファング・ザ・コボルト・ロード》が姿を現した。
そして、すかさず周囲に《ルイン・コボルト・センチネル》が現れる。
ー…数は…6体か……ー
思った以上の《ルイン・コボルト・センチネル》の数にキリトは少し戸惑った。
「キリト君…やっぱり以前よりも難易度が高く設定されてるみたい……。」
アスナも同じく、少し戸惑っている様子だった。
「大丈夫。もしもアスナにピンチがあっても、必ず俺が守るから。」
「うん…私も必ず君を守るよ…。」
アスナはそう言いながらも、《ルイン・コボルト・センチネル》を退ける。
……攻略組一同はディアベルの的確な指示により、次々とモンスターを倒していった。
「おい、キリト。スイッチいくぞ!」
「任せろ、エギル!」
エギルの戦闘行動を把握しているキリトは、すかさずエギルに合わせて見事な剣さばきをみせる。
キリトが装備している《アニールブレードSSS》は以前使っていた通常の《アニールブレード》よりも遥かに使いやすく、威力も段違いであった。
段々と勢い付いていく攻略組に反して、《イルファング・ザ・コボルト・ロード》のHPバーが削られていく。
「このまま、押し切るんだ!俺たちなら勝てるぞ。」
ディアベルのその言葉に、攻略組全員が勇気付けられ、一気に士気が高まる。
…そしてついにHPバーが赤くなった。
「気をつけろ。敵の装備と攻撃パターンが変わるぞ!」
キリトはそう叫んだ。
…しかし、ディアベルは1人前に出た。
「下がれ!…俺が出る!」
ー…ラストアタックボーナスによるレアアイテムのドロップ……ディアベルは以前もこれを狙い、そして命を落とした。…ー
キリトはそのことを思い出し、ディアベルを守るため前に出た。
ー…以前と同じように武器が《野太刀》に切り替わるのなら、俺でも防ぎきれる。…ー
キリトにはその確信があった。
…が、キリトはディアベルのところへ走る最中、以前との変化に気づいた。
他の攻略組メンバーも本来の情報と全然違う光景に言葉を失っていた。
ー…武器が《タルアール》でも《野太刀》でもなく……《大剣》…だと……しかも二刀流!……。…ー
《イルファング・ザ・コボルト・ロード》は《大剣》の二刀流装備という、異様な姿でプレイヤーたちの目の前に立ち塞がったのだ。
ギリギリディアベルに追いついたキリトは、ディアベルへの猛攻を防ぎにかかる。
ー…くっ!……重すぎる………ー
想像以上の猛攻にキリトの体はフィールド後方に大きく吹き飛ばされた。
「キ、キリト君っっ……!」
アスナの泣きそうな声が響き渡る。
《イルファング・ザ・コボルト・ロード》は二刀流になっていることで、攻撃力だけでなく、スピードも桁違いに上昇していた。
次々に攻略組を吹き飛ばし、陣形を崩す。
…そしてアスナたちの目の前に現れた。
「攻撃を防ぎきるぞ………
…と言うエギルの声が響くと共に、呆気なく吹き飛ばされる。
「うぉぉぉ…!」
大きな声と共にユウキが斬りかかる。
スピードはほぼ互角であったが、力で大きな差があるため、敵の攻撃を防ぎきれず大ダメージを負ってしまった。
ーや、やばいぞ…。奴のゲージが赤くなってからダメージすら与えられなくなってる…。ー
フィールド後方に吹き飛ばされたキリトがそう思いながら、急いで回復ポーションを使う。
「もう…あれを使うしかないのか……」
そう呟いた矢先、キリトの目に《イルファング・ザ・コボルト・ロード》がアスナに向かって《大剣》を振り下ろす姿が映った。
ー…や、やめろぉぉぉ…ー
キリトが素早くアスナの元に駆けつけるため、全速力で走る。
アスナは《イルファング・ザ・コボルト・ロード》の猛攻を避けソードスキルを発動させたが、運悪く敵のかなり厚みのある《大剣》に当たり、装備していたレイピア(細剣)が折れてしまった。
自分を守る術を失ったアスナに《大剣》が襲いかかる……。
アスナのHPバーは既に赤色に差し掛かかっていた。
ー…もう…ダメなのかな…。…助けて………キリト君……ー
死を覚悟したアスナの目には、大粒の涙がこぼれ落ちていた。
《イルファング・ザ・コボルト・ロード》の最後の一撃がアスナに向けて振り下ろされる。
「とどけぇぇぇ……!」
アスナを守りたい一心でそう叫び、全速力でアスナの元に駆けつけたキリトが敵の一撃を見事に防ぎきる。
その手には《アニールブレードSSS》が2本握られていた。
「キリト君……ぐす……うぅ……。」
「アスナは何があっても、死なせやしない。」
死を覚悟したアスナにとって、キリトが助けてくれた事実は何よりも嬉しいことだった。
「まだ二刀流は覚えれていない。だから、ソードスキルは発動できないけど……。やってやる!二刀流には二刀流だ。」
以前に培った、二刀流の技術を駆使して敵の攻撃に対抗する。
もはや、キリトのスピードは《イルファング・ザ・コボルト・ロード》のスピードを圧倒していた。
全然ダメージを与えれないことに苛立ったのか、《イルファング・ザ・コボルト・ロード》がソードスキルを発動させる。
「させるかぁぁぁ…!」
すかさずキリトが斬りかかる。
ー…二刀流ソードスキル《スターバースト・ストリーム》!ー
今のキリトには二刀流のソードスキルは使えない。
そのため、完全に見様見真似だったが俊足の
16連撃の猛攻が《イルファング・ザ・コボルト・ロード》に襲いかかる。
「おいおい…なんだあの剣さばきは…。」
呆気にとられたエギルが呟く。
ソードスキルとして発動したわけではないため、ダメージは本来のものよりかなり落ちている。
それでも、敵のHPバーが残り僅かだったため、削るのには十分だった。
『グォォォォォォォ……』
《イルファング・ザ・コボルト・ロード》の悲痛な叫びが辺りに響き渡り、HPゲージが0になった。
《イルファング・ザ・コボルト・ロード》がポリゴン化し、粉々に砕け散る。
-Congratulations‼︎-
「やった…やったぞぉぉぉ!」
周囲のプレイヤーたちが歓声を上げる。
キリトの画面にはラストアタックボーナスにより《コートオブミッドナイト》を入手したとの文字が表示される。
ー…俺は…この世界でも十分に戦える…。ー
その気持ちから早くも《コートオブミッドナイト》を装備した。
それとほぼ同時にアスナが駆け寄り、キリトを抱きしめる。
「よかった…よかった……キリト君が無事で…。」
「何言ってるんだ…アスナ…。アスナの方が危なかったじゃないか…。……………新しいレイピア一緒に探そうな。」
「うん…ありがとう……キリト君。」
周りから拍手や歓声と共に、ヒューヒューと冷やかしの声が上がる。
…しかしその中でふいにキバオウが大声を出した。
「な、なんでや…キリトはん…なんでや…!」
ー…どういうことだ。今回はギリギリながらも誰も死なずにボス攻略に成功したのに…。ー
以前はディアベルの死により、キバオウを筆頭に攻略組の気持ちがバラバラになりかけたところを、キリトが悪役をかって出たことにより、1つにまとまったのであった。
しかし、今回の攻略はキリトの中にも失敗と言える部分はなかったのではないか…という自信があった。
「キリトはん…あんたβテスターやろ…?なんでわいに教えてくれやんかったんや…。あんたカッコよすぎるで……。」
アスナに抱きしめられながら、キリトがキバオウの方を向くと感激のあまり涙を流すキバオウの姿が見えた。
「いよ!黒の剣士!あんたは攻略組の中でも素晴らしい才能の持ち主やで。」
キバオウのその言葉に周囲からも、“黒の剣士”コールが湧き上がる。
キリトが《コートオブミッドナイト》を装備したことで、見た目が黒ずくめに近い形になったため、“黒の剣士”と命名したようだ。
「みんな、ありがとう。…でも、この勝利は俺の力だけでは達成できなかった。…そしてこの先も…みんなの力がなければ攻略できないと思う。…これからもみんなで力を合わせて、このデスゲームを終わらせよう!」
キリトの言葉にみんなが盛り上がる。
「さぁ、第2層の転移門のアクティベートに急ごう。」
キリトの声に全員が動いた。
…っと思ったのだが、たった1人だけ納得していない者がいた。
…《ディアベル》だった。
「僕は第2層には行かないよ。…この第1層で軍備を強化する。…僕の目的は他にある!」
そう言い放つと、ディアベルは元来た道に戻り始めた。
「待ってくれ…ディアベル……!」
キリトの呼びかけは届かず、ディアベルは最前線の場から身を隠したのだった。
第8話に続く
ページ上へ戻る