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真田十勇士

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巻ノ二十 三河入りその三

「羽柴殿の様に天下を巡って戦い天下を治めることはない、主従ではあるが友でもある」
「我等は殿の友」
「家臣であると共にですか」
「そうした間柄でもありますな」
「確かに」
「共に義兄弟の間柄となったな」
 幸村は十人にこのことも告げた。
「そういうことじゃ」
「家臣であり友であり兄弟でもある」
「それが我等ですか」
「そうした意味で羽柴殿とは違うのじゃ」
 その主従がというのだ。
「だから拙者達はよい、しかしな」
「羽柴殿はそうはいかぬ」
「そこが、ですな」
「違う」
「そうなのですな」
「そこも弱みじゃ。譜代ならば多くはその家から離れぬ」
 その家に代々仕えている、まさに生死を共にする間柄だというのだ。
「羽柴殿、いや羽柴家にはまだそうした家臣がおられぬのじゃ」
「それが羽柴殿にどうなるか」
「羽柴殿の後は」
「それが問題ですか」
「拙者はそう思う」
 こう言うのだった。
「後継と譜代、一門のこと。それに」
「それに、ですか」
「まだありますか」
「羽柴殿の弱みは」
「ではその弱みは一体」
「何でしょうか」
「羽柴殿は何であられるか」 
 突き付けた様な言葉だった、秀吉自身のそのことを。
「あの方は」
「?と、いいますと」
「殿、それは一体」
「どういうことですか?」
「だからじゃ。羽柴殿はどうしてここまでなられた」
 幸村が十人に問うたのはこのことだった。
「百姓からな」
「はい、織田家に入ってです」
「一介の足軽からのし上がり」
「城持ちにまで取り立てられ」
「万を数える軍勢も任される様になり」
「今は」
「そこじゃ、羽柴殿は織田家の家臣であられた」
 幸村はこのことをだ、確かな声で話した。
「紛れもなくな」
「しかし今は、ですな」
「ご自身が天下を目指されていますな」
「実際に天下人になろうとされている」
「ということは」
「本来は織田家を盛り立てるものじゃ」
 織田家の家臣だからである、幸村は秀吉のそのことを言うのだ。
「清洲でのお話でもそうなっていた」
「織田家の主は三法師殿でしたな」
「二条城で倒れられた信忠殿のご嫡男の」
「あの方が信雄殿の後見の下主となられる」
「と、いうことはですな」
「三法師殿、そして後見の信雄殿の家臣でなければならぬ」
 それが筋だというのだ。
「天下人を目指すのではなくな」
「では羽柴殿は」
「簒奪、ですか」
「織田家を乗っ取った」
「そうした方ですか」
「殆どの者が言わぬがそうじゃ」
 まさに簒奪者だとだ、幸村は指摘したのだ。
「あの方は簒奪者、つまりな」
「そこにもですか」
「羽柴殿の弱みがあると」
「そのことにも」
「正統かどうかというとな」
 秀吉、ひいては羽柴家の天下それはというのだ。 
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