廃水
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8部分:第八章
第八章
「こんなことが実際にあるなんて」
「わしもだ。しかし出て来たのは」
「はい」
紛れも無かった。今目の前に出て来ていた。
「間違いありません」
「その通りだな」
今その水は完全に生ゴミの中に降り立った。そうして床の中に消える。するとそこにあった生ゴミは瞬く間に消えてしまったのであった。
「消えた!?」
「いえ、違いますよ」
学者が工場長に対して告げてきた。
「見て下さい、あそこです」
「あっ、あそこか」
「はい、まだいます」
見れば水は床の隅にまだいた。すぐに別の場所に移っていたのだ。そうしてそこからずるずると壁を這って上にあがり。そのまま天井の方に消えてしまったのだった。
それを見届けてから学者は。工場長に対して言うのだった。
「見ましたよね」
「はっきりとな」
工場長も強張った顔で答える。
「あれか。今まで工員を失踪させていたのは」
「認めたくないですがそうですね」
学者の言葉もまた強張ったものであった。
「あれですよ」
「どうする?」
そして工場長は今度はこう言うのだった。
「あれは。どうするべきだ?」
「それは決まっています」
学者は工場長に対してすぐに答えた。彼等はまた物陰に隠れている。そうしてそのうえでひそひそと話し合っていた。あの廃水をまだ警戒しているかのように。
「倒すしかないです」
「やはりな。それしかないか」
「このままあれを放置していたらどうなります?」
学者は真剣な顔でこのことを問うてきた。
「その場合は。どうなりますか」
「このまままた工場の工員達があの化け物に喰われてしまう」
廃水をこう呼んだ。彼の中では廃水はもう化け物だった。
「またな」
「その通りです。勿論その中には私達もいますし」
「だからこそだな」
工場長もまた同じだった。彼の中でも答えは一つしかなかった。
「退治するしかないな」
「その通りです。まずは工員の人達にまた集まってもらいましょう」
「そうするか」
こうして彼等はまた工場の中にいる面々を集めた。そうしてそのうえで廃水のことを話しどうするべきかということもまた話すのであった。
「まさかとは思いましたけれど」
「化け物だったんですか!?」
「この騒ぎの犯人って」
「そうだ、わしもまだ信じられないがその通りだ」
工場長は暗い顔で工員達に答えた。彼等は今工場の会議室に集まってそのうえで話をしている。やはり廃水を警戒するようにしてだ。
「この目で見た」
「私もです」
工場長だけでなく学者も言う。
「見ました、はっきりと」
「じゃあ間違いないんですね」
「その赤いどろどろとした廃水が俺達をですか」
「一刻も早く何とかしないと次に喰われるのは我々だ」
工場長の言葉には危機が深くあった。
「何とかな。それでどうするかだが」
「まず相手は廃水です」
学者がまたこのことを一同に告げる。
「意志があり動くようですが」
「だからまずいんですよね」
「しかも人を襲って喰うし」
「ですが知能はないようです」
学者はこのことを見抜いていた。
「言うならアメーバと同じです。知能はありません」
「ないんですか?」
「じゃあ本能だけですか」
「知能があればああした形にはなりません」
こう一同に話すのだった。己の考えているところを。
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