英雄になりたい
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第二章
「そして一方的に悪い奴だと決め付けることもね」
「それでやっつけることもですね」
「よくないからね」
「すぐに悪い奴だってみなすこともですか」
「よくないよ」
「決め付けたら駄目ってことですね」
「うん、そうだよ」
要するにとだ、牧師はサイに話した。
「このことは絶対に気をつけるんだよ」
「酷く痛めつけることと決め付けはですね」
「よくないからね」
このことは強く戒めるのだった、両方共。
「そのことには注意してね」
「わかりました」
サイは牧師の言葉に頷いた、そのうえでヒーローになるべく心身を鍛え続けていた。その彼が選んだ仕事は。
警官ではなかった、友人達はその就職先を聞いて驚いて言った。
「えっ、警官にならないのかい?」
「そして軍人にもならないのか」
「それで探偵でもない」
「その仕事なのかい?」
「そうだよ、僕はもっと勉強してね」
サイは驚く友人達に微笑んで答えた。
「歯科医になるんだ」
「就職じゃなくて進学か」
「それも歯科医になる為に」
「勉強をしてそして」
「歯科医になるのか」
「そう決めたんだ」
微笑んだままでだ、言うのだった。
「僕はね」
「けれどマーシャルアーツもやって」
「強いし」
「体格も立派なのに」
背は一九〇を超えており体重は百キロを超える筋骨隆々の体格だ。引き締まっていて実に強そうである。
「それで歯科医」
「また意外だけれど」
「何でその仕事?」
「歯科医になるんだ?」
「ヒーローになりたいからだよ」
サイの返事はここでも同じだった。
「だから歯科医になりたいんだ」
「ヒーローになりたから?」
「だから歯科医になりたい?」
「何かおかしくないか?」
「そうだよな」
「おかしくないよ、困っている人を助けて悪い奴をやっつける」
そしてさらにだった、サイは友人達に牧師に言われたことを話した。
「相手を酷く痛めつけずに人をすぐに悪い奴と決め付けない」
「まあその二つをしたら」
「ヒーローじゃないけれどな」
「それこそそんなことしたら」
「悪い奴になるよ」
アメリカの漫画やアニメの敵はわかりやすい、しかし現実は違う。スーパーマンやバットマンに出て来る様な悪役の方が少ない位だ。
「その二つは注意して」
「そのうえでか」
「ヒーローになりたい」
「それで歯科医になるのか」
「だからもっともっと勉強してね」
そのうえでというのだ。
「僕は歯科医になるよ」
「ヒーローになる」
「それが歯科医なんだ」
「何かよくわからないな」
「それはまた」
「皆もそのうちわかるよ、とにかくね」
サイだけは笑っていた、そのうえでの言葉だ。
「僕は歯科医になるよ」
「わかった、じゃあな」
「勉強頑張れよ」
「それで歯科医になれよ」
「ヒーローに」
「うん、なるよ」
こう言ってだ、彼は進学してだった。
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