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一人でも

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第二章

「天狗山にな」
「それじゃあな」
 平六は与平と共にだった、ごんも連れて。
 その天狗山に入った、与平は背中に鉄砲を担ぎごんを傍に置きながら平六に言った。
「この山の頂上にな」
「仙人様がおられるんだね」
「ああ、そこにだ」
「じゃあおら達もそこにいるんだね」
「そこに行くか」
「うん、仙人様に会いたいよ」
「そう言うと思っていた、じゃあな」
 与平も平六の言葉に頷いてだ、山の栗やあけび、それに茸や他の木の実を採って平六が背負っている籠の中に入れていった。
 自分の籠に入れられていくそうしたものを見てだ、平六は自分も採りながら言った。
「この山いい山だね」
「木の実や茸が多いだろ」
「うん、かなりね」
「それがこの山なんだ」
「そうだ、だからな」
「おらが言ったこと以外にも」
「行っていいと思ったんだ」
 与平自身がというのだ。
「それでこうして入ったんだ」
「そうした訳もあったんだね」
「いいか、山はな」
「危ない場所でもだね」
「いい場所でもあるんだ」
 孫にここでもこう話すのだった。
「こうしてな」
「美味いものも一杯あるんだね」
「熊や狼にしてもな」
 そうした恐ろしい獣でもというのだ。
「鉄砲で撃って倒すだろ」
「そしてその肉をだね」
「食えばいいんだ」
「熊や猪も美味いね」
「そうだろ、だからな」
「そうしたこともなんだ」
「危ないけれどな」
 それでもというのだ。
「美味くもあるんだ」
「そうなんだね」
「そのことはわかっておけよ」
「それでおらが大人になって女房貰って子供出来たら」
「その子供に教えるんだ」
「そのことをだね」
「ああ、いいな」
 ここでも与平にこうしたことを言うのだった、与平は鉄砲とごんは常に意識していた。だが今は何もなくてだ。
 二人とごんは順調に山を登って行った、すると。
 頂上に近付くとだ、急にだった。
 ごんが立ち止まった、平六はそのごんを見て与平に尋ねた。
「ひょっとして」
「ああ、そうだよ」
 その通りだとだ、与平も答えた。
「頂上だからな」
「仙人様がいるんだね」
「そうだ、この山におられるな」
「何かあっさりと来たね」
「そうだな、わしもここまであっさり来られたのはな」
「はじめてなんだ」
「この山は高いんだ」
 それで、というのだ。
「だからな」
「普通はだね」
「こうすいすいとは行けないんだ」
「じゃあおら達運がいいんだね」
「ああ、そうだよ」
 その通りだというのだ。
「この山はな」
「じゃあその運がいいことに感謝して」
 そして、と言てだ、平六は与平に言った。 
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