フランの狂気になりました
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第七話
前書き
よろしくお願いします
レミリアがフランを追いかけて隠し通路を進み約5分、拓けた空間に出た。
石造りの部屋で、天井と床に大きな魔法陣が敷かれていた。
目的のフランは、その部屋の中心に立っていた。
「何なの………此処は……?ねぇ、フラン。………フラン?」
「…………………………」
レミリアは中心で棒立ちしたままのフランに近づきながら話しかけた。だが、フランは何の反応も示さなかった。
「フラン?ちょっと大丈──」
「大丈夫だよ?おねぇ様ー?」
「───っつ!?」
背中をぞわりと何かに逆撫でられた気がした。
とてつもない嫌悪感と、自信の本能から来る恐怖。自信の中のそういった“感情”が隠せなくなる程の不快感な声音であり、自信に親しく、最も近しい者の声だった。
咄嗟にそちらを振り向くと、其処には────
「…………貴女、何者かしら?」
「なぁに言ってるのー?おねぇ様?私は私、フランドールだよー?」
フランの声で、不快な喋り方をする目の前の“フラン”はそう言ってレミリアへ微笑みかけた。
「何を言ってるの?フランなら此処───に……え?」
先程まで居たはずのフランは其処には居なかった。
レミリアは“目の前の何か”の方を向いた。
「おねぇー様?其処には何も居ないよぉ?」
小馬鹿にした様に話す“目の前の何か”はゆっくりと近づこうとして………
「それ以上こちらへ来るな」
レミリアから向けられた一本の槍に行動を止められた。
その槍の名は『グングニル』
北欧神話の主神であり戦争と死の神と呼ばれたオーディンの槍である。
「やめてよおねぇ様………。おねぇ様は“また”私に………。無実の私に“こうげき”するの?」
「っつ!?」
「お父さまとお母さまの時もそう。私は何もしてないのに、知らないのに………私に『親殺し』なんて……“口撃”して……」
“目の前の何か”はまるで自分が本物のフランドールだと言うように、ペラペラとフランしか知らないで有ろう事を話し始めた。
「百年間ずっっっっと!私をあんな地下に閉じ込められて……私は何も無いあの部屋でずっと1人……おねぇ様はなにもしてくれなかった!!何度も、何度もお願いしたのに!!」
「っつ!?………そ、それは……」
レミリアは目に見えて動揺した。
この、“目の前の何か”はフランが幽閉された当時、フランに実際に頼まれたのだ。
『助けてっ!………おねぇ様!』
だが………レミリアはそれを無視した。
いや、実際には両親に何度もお願いしたのだ。だが、父はそれを無視し、母は困ったように笑うだけで何もしてくれなかった。
そして、レミリアには自分で助けると言う選択肢は無かった。
レミリアは、自分ではまだ力不足だと言う事を解っていた、だからこそ自分がフランを助けようとして、もうフランを助けられなくなる事は避けたかった。
だが、誰一人フランを助けてくれる者は現れなかった。
そしてレミリアが考えついたのは、自分が強くなる事だった。
自分が強くなって、堂々とフランをたすけようと、両親を倒してフランを救おうと、そんなヒーロー見たいな、それでもこれが自分が出来る唯一の事だと、レミリアはそう思っていた。
そしてあっという間に百年という年月が経ってしまった。
そして、フランはヲ両親を………お父様、お母さまを殺した。
違う!
レミリアは頭を振った。あれはお父様とお母さまが死んだのは飽くまで危害を加えられた、フランの防衛だ。フランは何も………何も悪くない。
「本当にそう思ってるの?」
“フラン”が言った。
「別に殺す必要は無かったんじゃ………?殺されそうになった?“まだ”殺されて無かったじゃないか………そう思ってるんじゃ無いの?」
「そ……そんな事はっ……!!」
「無い?本当に言える?」
レミリアは押し黙った。
返す言葉さえ見つからない。
「……やっぱりか??侵害だなー?私はお父様もお母さまも殺して無いって言ってるのに……」
“フラン”はそう言ってレミリアに近づいた。
レミリアには彼女を払い除ける程の気力はなく、しかもその手からグングニルがこぼれ落ちた。
「フフッ………お父様とお母さまは私の中のもう1人がやったの……私が幽閉されてから暫くして出てきた………もう一つの人格?それが私を乗っ取って……」
“フラン”は握りこぶしを作り、悲しそうな顔を“造り”ながら
「……だから───私を助けて……おねぇ様……」
「っあ──────フラ───」
レミリアが手を伸ばした……刹那、目の前の“フラン”が、焼き切れた。
「………何なの……?」
その声も、さっきまで会話をしていた声。
「フランっ!?」
「そうよ?おねぇ様。正真正銘、私よ」
直感的に解った、彼女は間違いなく本物だ。
だが、何故だろう?目の前の彼女はやたら不機嫌そうだった。
それに気が付けば部屋の天井と床に大きな亀裂が走っており、魔法陣が完全に破壊されていた。
何があったんだろうか………?
「おねぇ様、あっち見て」
そう言って指刺されたのは私達が入ってきた方とは別の通路。
「この先は外に繋がってたの。多分脱出路か何かだと思うけど……お父さまもお母さまも、こんな道を作る様な性格じゃ無かったし多分、それより前……もっと昔の道だと思うよ」
フランは部屋を見回しながら続ける。
「多分、この部屋はもしもこの道が逆手に取られてここから侵入された時の……『罠』かな?」
そう、フランは淡々と説明した。
何故か物凄く機嫌の悪そうな声音で喋るものだから、ビクビクしてしまう自分が居る。
「フ………フラン?何かあったの?」
「何かって………何が?」
睨むように私を見据えるフランはかなり怖い。
「………………おねぇ様」
突然フランが話しかけてきた。
どことなく真剣なその声音は不思議と背筋を正させる様な気がした。
「私が……………お父さまとお母さまを殺したの?」
「……………フラン。私も聞きたい事が有るの───」
「───────貴女の中に、別の………っつ!?」
レミリアが言いかけた瞬間、レミリアの首筋に何かが近づけられた。
それは歪な形をした杖の様なもの、それは火花を出していて、今にも燃え上がりそうな雰囲気を出していた。
「何?それを知ってどうするの?大方私の偽者にでも『助けてー』何て言われたんでしょ?」
フランは間髪入れずに言った。
「でも………お父様とお母さまを殺したのは………」
「そんなの知ってる。私ね、ついさっきまでその事覚えてなかったの、だけどおねぇ様の偽物に全部聞いたよ…………私の中に居るのは、私の命の恩人なの!おねぇ様が何を聞いたのか知らないけど、手を出そうとしないで!!」
「何………なのよ……それ……」
レミリアは手を力一杯握り、歯を食いしばる。
「貴女こそ!貴女にとってお父様もお母さまも貴方に危害を加えた“だけ”じゃ無い!!殺す必要は無かった!“殺されても”無かったのに!!………っあ……」
レミリアはそこまで言って気が付いた、この言い方では…………
「………つまり……私が黙って死んでれば良かったって言いたいのね………。私も、最初はそのつもりだったわ………だけど!!あいつは!『月華』は私を助けてくれたの!!おねぇ様が私が死ねば良かったって思うなら私はずっと生き続ける!月華がくれたこの生を存分に楽しんで、あんたの死に顔を見てから死んでやる!!」
フランはそう言い切ると、元の道を戻って行った。
取り残された私は呆然とその背中を見続けるだけだった。
フランの背中が消えた後、天井を見上げた。
壊れた魔法陣が目に映る。
何て事をまた言ってしまったんだろう………?
天井を見上げたまま、私は暫く放心していた………。
後書き
|´-`)ジンセイヲカンガエテミヨウ
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